Scene41, -乱戦⑥-
無数の死者と失神者がよこたわる人の山の中で
【路傍雪菜】は無表情のまま涙をポロポロとこぼす。
「ごめんなさい。」
「私が汚れてるせいで。」
「私に触れた人はみんなこうなるの。」
「私のせい・・。」
対峙する架神は冷や汗をひとつ流しながら
路傍に語り掛ける。
「・・君はさっきから何に対して謝ってるんだい?」
「君が殺したこいつらに・・っていう感じでもなさそうだよね。」
その問いに路傍は答える。
「私はね。汚れてるの。」
「身も心も。」
「だから、そんな私は人から愛される資格なんてない。」
「・・わかってたのに。」
「わかってたのに私は、人から愛される事を夢見てしまってた。」
「幸せになりたいと願ってしまった。」
「そんな。許されない罪を犯してしまった。」
「だから私は魔人になったの。」
「【償いの尽ぐな日】。この能力は私への罰。」
「愛される資格のない私が愛されたいと願ってしまった罪深い私への罰なの。」
路傍の言葉に、架神は眉をひそめる。
「汚れている自分が愛されたいと願った罰か・・。」
「ずいぶん重いものを背負ってるんだね。」
「・・君の過去がどんなものかはわからない。」
「でも、君に愛される資格があるかないかなんて」
「それを君自身が決めつける事もまた罪なことじゃないのかな?」
架神の言葉に路傍が続ける。
「・・人の愛を踏みにじり」
「私自身も踏みつけられ、汚れ歪んでしまった。」
「汚れてしまった心はもう二度と元には戻れないんだよ?」
「人の愛を汚し、自分の愛も汚してしまった私が。」
「また”純粋な愛”を求めるなんてむしがよ良ぎませんか?」
「それに。」
「それすらも私の間違いで。」
「私は本当は罪がないとしても」
「この能力のせいで私はもう愛する人と体を重ねる事も許されない。」
「それは覆らない事実。」
「だから。ごめんなさい。」
「なにをどう言われようと。」
「私は二度と人から愛される事のないこの人生を生きていかなければならないの。」
「それが私の償いだから。」
その言葉に。
架神は身構えるのをやめ、自然体の姿勢で話を続けた。
「・・・人の愛を汚し。か。」
「それはぼくも同じさ。」
「ぼくはこれまで、たくさんの愛を軽んじ、汚し。」
「時には誰かの”真実の愛”さえも傷つけてきたと思う。」
「その事に気付いたのはついさっきの事さ。」
「・・もし。」
「汚れてしまった身を洗う事ができないというならば」
「ぼくもまた同じなんだろうな。」
「それでも。」
「ぼくは”真実の愛”とやらが本当にあるのならそれを追い求めてみたい。」
「それが仮にこの先永遠に手にできないものだとしても」
「ぼくはこの先の人生のすべてを賭けてもそれを見つけてみたい。」
「まさにさっき。ぼくはそう思ったところさ。」
「それがぼくの考える。汚れたぼく自身への償いだ。」
架神の言葉に、路傍は涙を止め。
冷たい目で架神を睨みつける。
「・・ごめんなさい。」
「それこそ虫の良すぎる話だと思うわ。」
「これまでたくさんの人を傷つけたから、これからは一途になるからそれが償いって事?」
「・・それは償いではないわ。」
「人の愛を傷つけてきたならば、誰からも愛されない事が償い。」
「”一途な本当の愛”を手にする事ができるのは」
「一途に本当の愛を探し、守って来た人だけよ。」
「そうでなければ。」
「この世界が正直者がバカを見るだけの世界って事じゃない。」
「犯した罪は消えない。」
「気付つけてしまった人の傷は永遠に消えない。」
「なのに罪人は罰を受けないの?」
「そんな世界バカげてる。」
路傍の言葉に架神は悲しそうな表情で返す。
「君は・・」
「君は自分が罪を犯したと感じている。」
「それがどんな罪なのか。」
「本当に罪なのかはわからない。」
「もしかしたら君の言う通り。」
「君のせいで深く傷つき永遠に消えない痛みを感じてる人がいるのかもしれない。」
「だから君も永遠に償い続けるというのか?」
「君の、幸せになる資格はもう二度と戻らないというのか?」
路傍は言う。
「戻らない。」
「戻ってはいけないの。」
「じゃないと・・」
「傷付いた人が泣くだけのあまりに悲しい世界じゃない。」
架神が続ける。
「じゃあ君は!」
「君は傷付いていないのか!?」
「罪を感じ、償うためだけに生きる。」
「二度と誰からも愛されない。幸せになれない。」
「それこそあんまりな話じゃないか!」
路傍が叫ぶ。
「なにを言われても!!」
「私はこの能力がある限り誰とも愛し合えないの!!」
その子言葉が言い終わるその前に。
架神は路傍の元へ走り寄り、
路傍を強く抱きしめた。
突然の状況に路傍は固まり声すらも出せなかった。
架神は、うう・・と小さくうめき。
意識がとびそうになるのを必死にこらえる。
「・・・君は。」
「男に・・抱きしめられた事は・・」
「ある・・かい・・?」
「忘れ・・ない、で・・」
「これが・・愛・・さ・・。」
架神は。
路傍を抱きしめたまま意識を失い
2人まとめてその場に崩れ落ちた。
強く抱きしめる架神の腕の力はゆるまない。
でもそれ以上に。
路傍は抵抗する事すらも忘れ
何も考えられないままに黙ってそのまま横たわった。
架神の体温が、心臓の鼓動が自分の体と重なり
まるで自分自身の体と一体になったような感覚。
そして気付く。
架神のものだと思っていた、体中に響く鼓動音が
路傍自身のものだという事に。
「これが・・愛・・?」
それは路傍にとって初めての経験だった。
言葉ではない。
言葉をも押しのけて、肌と肌を合わせる行為。
それがこんなにも心を乱し。そして癒すものだという事に。
路傍は。架神に抱きしめられるまま静かに目を閉じた。




