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Scene40, -乱闘⑤-


遠ざかっていく坂井の背中を見つめ。

腐れ(クサレバナ)はボロボロと涙を流し

うめくようにつぶやく。


「みんな・・みんな私から離れていく。」

「私を残していなくなっちゃうんだ・・・。」


そして恨めしそうな表情で布坐を睨んだ。


「よくも・・」

「よくも私と坂井くんの愛をジャマしてくれたわね・・!!」


そんな腐れ花に布坐は叫ぶように答える。


「ふざけんな!!」

「お前今、坂井のやつを殺そうとしてただろうが!」

「なにが愛だ!そんなもんが愛なんて言える訳ねえだろうが!!」


しかし腐れ花は。

涙でぐちゃぐちゃになった顔に、ふへへと笑いを浮かべて返した。


「愛する人とずっと一緒にいたいと思うのは当然の事でしょ・・?」


「でも。」

「みんなちょっと目を離した隙に私の思いから離れてどこかへ消えてしまう。」

「私の心を裏切って。」


「だったら!」

「私のものにするしかないじゃない!!」


「人は生きてる限りいずれ私の愛を裏切る!」

「だから!殺して私だけの彼にしてやるの!!」


腐れ花の破れた制服から覗く

彼女の体と同化した男たちの顔が、ううぅと呻きながら涙を流す。


布坐はそんな彼女の体から顔をそらし、続けた。


「愛する人とずっと一緒にいたい・・その気持ちはもちろんわかるよ。」


「でもな。」

「愛する人だからこそ、信じあえる相手だからこそ。」

「その人の気持ちを大切にしたいっていう愛もあるんじゃねえか・・?」


「俺は今の彼女・・。ゆみちゃんと付き合い始めたのはつい最近なんだけどよう。」

「このダンゲロスの前日に初めてケンカしたんだよ。」


「・・俺が。親友だと思ってた坂井と意見がぶつかって。」

「あいつの言ってる事が理解できなくてケンカしちまってよ。」


「俺はあろう事か。」

「坂井に裏切られたような気持ちすら持っちまった。」


「そんでふてくされてたらさ。」

「ゆみちゃんにおもっきし怒られてよ。」


「坂井も俺も。人間なんだから考えの違いなんてあって当たり前だって。」

「本当に坂井のやつが大切な友達なら」

「たとえ自分の考えと違っててもあいつのやろうとしてる事を応援してやれって。」

「そんでやっぱりあいつが間違えてたってなったらその時に思いっきりケンカしろってさ。」


「てめえの考えの押し付けで、相手のやりたい事もやらせてやんねえで」

「相手の考えも思いも尊重しねえで、何が友達かって。」


「はじめは俺もふてくされて言い返したりもしちまったけどさ。」

「でも最後に思ったよ。」


「俺はゆみちゃんのその言葉に。」

「俺とは考えが違っていたゆみちゃんに救われたってね。」


「・・それがゆみちゃんとの初めてのケンカさ。」


布坐は腐れ花を強く睨み続けた。


「みんながみんな。おんなじ事考えて。」

「おんなじ価値観持って。」

「おんなじ、人の愛し方してたらよう。」


「たしかに今より傷付く人間は減るかもしんねえけどさ。」

「違う考えを持ってる相手に救われる事もあんだよ!」


「自分とは違う価値観を持ってる」

「そいつの考えを、思いを信じる事。」

「それもまた”愛”ってやつなんじゃねえのか?!」


気迫のある彼の物言いに少したじろぐ腐れ花。

しかし彼女もまた叫ぶように言い返す。


「でも・・!」

「だから・・!」

「その人の好きなように考えさせたらみんな私から離れていくの!!」

「みんな私の”愛”は尊重してくれないのよ!!」


「相手の気持ちを考えろ??」

「じゃあ私の気持ちは!」

「私の気持ちは誰が受け入れてくれるの!!??」


ハアハアと息を荒げながら

腐れ花は足元の包丁を拾い、身構える。


「あんたら他人の”愛し方”が人を信用する事だとしても。」

「もしそれが本当の間としても、それは私の”愛”じゃない・・!」

「私の”愛”は私が守るしかないの・・。」


「私の”愛”は!!殺して一緒になる事!!」

「私は!私の愛され方で愛されなきゃ意味がないんだよぉぉぉぉ!!!」


腐れ花は勢いよく布坐の元へ走り出し

包丁を持った手を大きく振り上げた。


布坐は思わず手でそれを制しながら目をつぶってしまう。


・・・・


その数秒後。

布坐が目を開けたその時。


目に映ったのは

倒れる腐れ花の腕を抑え込み馬乗りになる時早矢先生の姿だった。


ほんの数秒の間に、遠く離れていたはずの時早矢先生が

突然目の前に現れ、腐れ花を抑え込んでいる。

布坐も、腐れ花も突然現れた時早矢先生の姿に驚き戸惑うだけだった。


腐れ花の手からゴトリと包丁が落ちると、時早矢先生が怒鳴った。


「刃物を人に向けるんじゃありません!」

「ケガしたらどうするの!!」


・・少しズレた時早矢先生の言葉に2人ともぽかんと口を開ける。


「それに!」

「女の子が人前で肌をあらわにするなんて良くありませんよ!」


先生は自分の着ていたコートを脱ぎ、腐ればに羽織らせた。


「それとね・・。」

「あなたはさっきから、愛する人が自分から離れて行ったって。」

「それを悲しい事みたいに言ってるけど。」

「なんでもっとその人の事を信じてあげないの?」


「たとえ今はその時は遠くに離れてしまったとしても。」

「またいつか戻ってきてくれる。」

「そう損じる事はできなかったの?」


先生の問いに腐れ花は、静かに涙をこぼしながら答えた。


「・・あの人たちが私の事を本当に愛してくれてたなら。」

「ずっと一緒にいたいっていう私の気持ちも大切にしてたはずです。」


「私は。私はぁ。」

「愛した人とほんのひとときでも離れるなんて耐えられない。」

「耐えられなかったんですよぅ・・。」


先生は優しく。でも悲しそうな目で彼女を見つめ。

そして話を続けた。


「わかるわ。あなたの気持ち。」


「でもね。」

「あなたに経験あるかしら。」

「ある日、目をつぶって。そして次に目を開いたときに。」

「自分の愛する人が死んでいた。」

「自分が眠っているその間に。」

「愛する人の人生がもう終わっていて。」

「そして二度と戻らない。」

「もう二度と会う事も話す事もできない。」

「そんな経験。」


「・・私にはあるの。」

「昔。ある事故に巻き込まれて」

「私は意識不明の重体。彼はその時に。」


「・・目が覚めてすぐはね。」

「不思議と悲しむ事すらできなかった。」

「あまりにも突然の事だったし。」


「私の記憶の中では、ほんの数秒前まで一緒にいて。」

「楽しくおしゃべりをしてて。」

「突然の事故で目の前が真っ暗になって。」

「次に目を開いた時には「もうあの人はいません。二度と会えません。」だよ?」

「そんなのすぐに受け入れられないよ。」


「少しずつ現実を受け入れられるようになって。」

「そういえば事故の前あんな話してたなあとか。」

「あの時、なんであんな言い方しちゃったんだろうとか。」

「もっとこんな話もしたかったなとか。」

「そんな事ばっかり考えて。」

「考えても考えても、もうあの人はいないの。」

「どれだけ待っても、もう、二度と会いに来てくれない。」

「おしゃべりもケンカもできないの。」


「愛する人が離れていくって。」

「そういう事なんだよ。」


「・・あなたは。愛する人をたくさん殺して来たって言ってたよね。」

「自分の目の届かない場所に行かないようにって。」


「でもね。」

「たとえその人が本当に自分の元から離れていってて」

「もう二度と戻って来ないとしても。」

「生きていてくれてるなら。」

「もしかしたらまた自分を愛しに戻ってきてくれるかもしれない。」

「またあの頃のようにおしゃべりできるかもしれない。」

「もし戻って来なくても、どこかで幸せに生きてくれてるなら・・」


「自分の大切な人が生きて、幸せになってくれてるなら」

「それってすごく幸せな事なんだよ。」


時早矢先生は優しい笑顔を向けながら

目から大粒の涙をボロボロとこぼす。


腐れ花がつぶやく。


「愛する人が自分から離れて行っても・・」

「その人が幸せなら・・自分も幸せ・・。」


「・・考えた事なかったです。」

「そんな”愛し方”も、あるんですね・・。」


腐れ花はすっかりと覇気を失い

少しだけ、ゆるりとした沈黙が流れた。


時早矢先生が、思い出したように布坐の方へ振り向き言った。


「あ。健二くんごめん。」

「実はわたし。魔人なんだ!」


「健二くんが目をつぶって、この子がまばたきをした時。」

「”誰も見てない”ところで時間を早送りしたの。」

「【一炊の夢間に(イッスイノユメマニ)】っていう能力なんだ。」

「これテストに出すからねw」


ニカッと笑ってみせる時早矢先生の笑顔は

いつも見せていたあの無邪気な顔そのままだった。


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