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Scene39, -乱闘④-


三人の死闘を取り囲み

周りで見ていた番長グループの一人が

背後からひとりの男が静かにやって来るのに気付いた。


メガネをかけた勤勉そうな男。

体の線は細く、とても武闘派には見えない。


「そこのお前!それ以上近付くんじゃねえぞ・・!」

「お前も転校生?ってやつか?」

「それ以上近付いたらてめえも痛い目に・・」


吠えかかる男たちの言葉を遮るように、男がつぶやく。


「なあ。」


「・・愛って・・なんだ?」


その言葉が耳に届いた群衆たちは

みな、衝撃をうけたような表情で固まり

持っていた凶器を手からこぼれ落とした。


「愛って・・愛ってなんだ・・?」


群衆はみな口々にその言葉を繰り返し。

ある者は頭を抱えしゃがみ込み、ある者は涙を流し宙を見上げる。


そんな中で、数名の女子が手に武器を持ったまま立ち

怯えながらも男に向けて武器を構えていた。


そんな少女たちを見て男は続ける。


「・・君たちは、愛がなにかを、知ってるんだね。」


「・・かわいそうに。」


男はそばにあった気によりかかり空を見つめながら続ける。


「君たちの愛する人っていうのは・・」

「ここにいる番長グループの誰かかい?」


男の言葉に一人の少女がこくりとうなづく。


「そうか・・。」

「番長グループの一員と言えば」

「学校の規則にも、社会のルールにも反する野蛮な人間が多い。」

「普通の少年少女なら彼らに近付く事すら避けるのに・・」

「君たちが愛した人はそういう人種ではないよいう事かな・・?」


男の言葉に、少女が声を振り絞り答える。


「わ、私の彼は!」

「確かに、不良って呼ばれるし、悪い事もたくさんしてるみたい。」

「でも。私は知ってる!」

「あの人は本当は優しい一面もあって!」

「みんなは誤解してるけど!自分の意志を持ったかっこいい人なの!」


ハアハアと息を切らしながら訴えるように叫ぶ少女に

男は優しく微笑みかけながら続ける。


「・・・自分の意志を持って。」

「それと、不良になる事と関係はあるのかな?」

「学校の規則。社会のルール。」

「それは、人に迷惑をかけず。人が人の中で生きるために作られたものだ。」

「それに反するという事は、人を傷つけているという事。」

「・・それが、”本当は優しい人”がする事なのかい?」


「私だけは知っている?」

「本当にそう思うのかい?」

「自分だけは知っていて、他の人はみんなわかっていない。」

「私だけが正しくて、世界中のみんなが間違ってる。」

「・・本当にそんな事があると思う?」


「違うよ。」

「世界中の誰もが知っている事を、君が知らないだけなんだ。」


「たしかにその彼氏くんには、優しい一面もあるのかもしれない。」

「それは、身近な人間であれば誰もが知っている事だろう。」

「知ったうえで、その小さな優しさでは補いきれない卑劣さ。」

「近付いてはならない人間。危険な人間。」

「そう知っているから誰もがその彼氏くんを避けているんだよ。」


「君にとっての”愛”はそれかい?」

「そんな彼氏くんが本当を信じる事が君の愛なのか?」

「ひとときの小さな優しさだけに目を向け。」

「多くの人間に迷惑をかけ、傷つけているその身勝手さを。」

「君の”信じたい”というその気持ちだけで許し、野放しにする事。」


「それが君たちの・・・愛?」


男はゆっくりと少女たちに近付く。


「・・もう一度聞くよ。」

「愛って・・なんだ?」


その言葉に、残った少女たちも手から武器をこぼす。

こうして。みな一様に「愛ってなんだ?」を繰り返しつぶやき

その場の群衆はみな戦意喪失した。


それが転校生、【何故側門堂(ナゼガワモンドウ)】の魔人能力【無知知らずの(ムチシラズノチ)】であった。



範馬(ハンマ)】と【口舌院(クゼツイン)】が、二手に分かれたもう一つの集団側と合流した時

そこは完全な混乱状態へと陥っていた。


結束したはずの番長グループ、生徒会グループ。

それらが各々、肩を並べていた同志と仲違いし言い合いをしていたのだ。


「てめえ!俺にメンチきりやがったな!!」

「上等だやってやらあ!!」

「てめえなに俺様と肩並べてんだ殺すぞコラァ!!」

「ぼくが目にもの見せてやる!!」


すでに取っ組み合いのケンカになってしまっている者もいる。

範馬たちは仲裁に入ろうとするが、もはや声も届いている様子がなく混乱は収まりそうもない。


そんな中で、範馬たちと同じように

突然の事態に戸惑い、きょろきょろと辺りを見渡す集団と合流できた。


「こいつら!もう俺たちの声も耳に入んねえみてえだ”」

「間違いねえ。これは。転校生の能力!」


その時。

少し離れた場所から奇妙な音がゆっくりと近づいてきた。

カチッカチッという音を立てながら、ゆっくりと歩いてくる男。


男の腰には刀を収める鞘が下げられていて

男は刀の柄を握り、さやから少しだけ刀身を見せてはまた収めるという動作をしている。

その柄と鞘が当たる音がカチカチと音を鳴らしていたのだ。


鞘からほんの少し見える刀身は、輝いているかのように真っ白で。

その刀身を見ていると心を忘れそうなほど魅了されてしまいそうだった。


その不穏さに気付いた範馬が叫ぶ。


「てめえら!あの刀を見るんじゃねえ!目をそらせ!!」


しかしその言葉は一足遅かった。


今まで、一緒に混乱していたまともだった人々が

みな、隣に立つ者と口論をし始めた。


「くそっ!こいつぁおそらく・・」

「人との絆とか繋がりみたいなものを絶ち切る能力か!」

「えげつねえ能力だ・・!」


範馬のその言葉に、男は手を止め立ち止まり、静かに答えた。


「・・人との縁を切る能力・・。」

「違うな。」


「俺は自分の能力をこう考えている。」

「人の縁を、切れない能力だと。」


男の言葉の意味がわからない。

範馬と口舌院は黙って男の次の言葉を待った。


「・・本当の縁。」

「真実の愛とか。本当の友情だとか。そんな固い絆を。」

「俺なんかが切れる訳ないじゃないか。」


「・・俺なんかが切れる、そんな細い絆なら。」

「初めからない方がマシさ。」


男の言葉に口舌院が返す。


「ない方がマシな絆?なに言ってんだい?ぜんぜんわかんないよ!」


彼女の言葉に男は、悲しそうな表情で答えた。


「・・例えばさ。」

「運命の相手ってやつ。君は信じるかい?」


「・・自分の事を心から愛してくれて。」

「自分もその相手を本気で愛せて。」

「一生を添い遂げるべく生まれた運命の相手。」


「俺は信じるよ。」

「それは誰にでもいる。」

「おそらく君も、ひょっとしたらもう出会ってるかもね。」

「・・そして。もう去っているかもしれない。」


「例えばさ。」

「君の事を本気で愛して、本気で君の幸せを願ってくれる、そんな運命の人が」

「君と出会った時、君に、恋人がいたらその人はどうするかな。」


「君の幸せを本気で願うような運命の相手だ。」

「きっと。君の幸せを願って身を引くだろうね。」


「・・あの頃からこの学園に広がった恋愛ブーム。」

「その恋愛ブームに触発されて、学園内の誰もがすぐに恋人を作った。」

「そのカップルの中に、本気で愛し愛される運命の相手と結ばれた人がどれだけいたのかな。」


「・・運命の相手が、たまたま今この時に、同じ学園内にいて結ばれた。」

「そんな奇跡って、どれだけあっただろう。」

「勝手な想像をしてしまっては申し訳ないけどね。」

「でもおそらく。」

「その場の雰囲気で軽々に結ばれてしまった縁も少なくないだろう。」

「そうして結ばれた細い絆が」

「いずれ現れるだろう本当の運命の相手を傷付け、遠ざける事も考えずにね。」


「だから。」

「ぼくはそんな絆はすべて断ち切るべきだと思うんだよ。」

「この俺。【赤糸色枷牢(アカシシカセロウ】の能力【快刀"愛"乱麻(カイトウアイランマ)】でな。」


男の話を黙って聞いてた範馬が男に答える。


「・・まあな。お前さんの話はよおくわかったよ。」

「お前のその考え。嫌いじゃないぜ。」


「でもな。今この場にある縁だの絆だのが」

「本当の縁か違うのか。運命の相手かそうじゃねえのか。」

「そんな事考えてたらよ。」

「誰とも付き合えなくなっちまわねえか?」


「これは本当の絆じゃない。だからそんなもんいらない。」

「そんな事言ってたらほれ。お前。信じられるダチとかいるんか?」


「だがよう!」

「お前が通したい意志っつうもんはわかったからよ!」

「ここはいっちょそいつで勝負してやろうじゃねえか!」


「やってみろよ!」

「その刀で!俺とこいつの縁ってやつを切ってみな!!」


範馬の啖呵に、口舌院も黙ってうなずき

2人は赤糸色に対して身構える。


「おもしろい。」

「見せてくれよ。君たちの縁が。本物かどうか・・。」


そう言うと赤糸色は、鞘からほんの少し刀身を覗かせ

カチンッ!と音を響かせる。


・・・その場の空気は凍り付き。

範馬と口舌院は何も言葉を発する事無くそのまま立ち尽くしていた。


赤糸色はゆっくりと範馬に近付く。


「・・悲しいな。」

「自分の心を信じての啖呵だったのだろうけど、結局、人の縁なんて・・」


その言葉の終わりを待たず

範馬の拳が赤糸色を襲う。

それを咄嗟に避ける赤糸色だったが

避けた先では待ち構えていたかのように口舌院の蹴りが襲い掛かる。

範馬と口舌院の連携攻撃だった。


その蹴りを腕で防ぎ、大きく後ずさりをする赤糸色。


「くっ・・」

「まさか。切れなかったのか・・お前たちの縁・・」


その言葉に範馬が答える。


「・・いや。お前の能力すげえよ。」

「あれだけ好いとったこいつへの気持ちが嘘のように消えとる。」

「今の俺にとってこいつは赤の他人も同然だ。」


「だがな。」

「それが赤の他人だろうとも。」

「俺は俺の隣に立つやつを信じる。」

「俺は。誰の愛だろうとも信じ受け入れるつもりだ!」


さらに口舌院が続ける。


「私にとってもこの人は。」

「もう好きな人でもなんでもありません。」

「でも。」

「この人はいつも自分が正しいと思った事のためなら自分を曲げない。」

「そして。自分の意志を貫くためなら誰でも味方にしてしまう。そんな人。」

「だから私もこの人を信じたの。」


2人の声が合わさる。


「たとえ縁が切れても俺はこいつを信じる。」

「たとえ縁がなくなっても私はこの人を信じる。」


2人は肩を並べ、赤糸色に迎え立つ。


そんな2人を見て。

赤糸色はフハッと笑った。


「おもしろいよ君たち。」

「縁も絆も関係なく。」

「ぼくを敵とみなして手を取り合ったか!」


「やっと。やっと出会えたよ。君たちのような人間に!」


赤糸色が構えの体制で柄を握る。

「ぼくが・・本気を出して戦うに値する人間にね・・!」


赤糸色がゆっくりと鞘から刀を抜く。

柄が鞘から離れていき、刀身がその全身を表す時に。

範馬と口舌院は確かに目にした。


もちろんそれは錯覚なのだろうけど。

赤糸色の体をまとう無数の糸。

何故だかわかる。

それらは、縁。絆。愛。感情。心。


それらの糸が、空気のようにふわりと絶ち切られていく光景。


刀が完全に抜かれ、赤糸色が刀身を2人に向けた時。

赤糸色の目からは光が消え。

無表情のままアアアアと呻くような声を絞り出していた。

それはもう、人間の声ではなかった。


「・・こいつ。心も、感情も。」

「すべてを捨てて討ち合うつもりかい。」


範馬が叫ぶ。


「おもしれえ!とことん付き合ってやるぜ!!」

「さあ!愛し合うぜええ!!!」


こうして、範馬と口舌院、赤糸色の3人の死闘が開始された。


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