scene37 -乱戦②-
範馬さん。口舌院さん。架神さん。
それに、生存者のみんな。
みんなが身を挺して、ぼく達の行く道を開いてくれる。
ぼく達は決して立ち止まってはいけないんだ。
まっすぐ、体育館へ。
転校生のリーダー、ナナトが待つであろうその場へ向かって駆ける。
体育館は目前。
そこ正面から駆け寄って来る少女。
・・あの人だ。
【腐れ花詩音】さん。
「坂井くぅぅぅん!!会いたかったよぉぉぉ!!」
両手に包丁を持って、まっすぐぼくに向かってくる。
番長さんや賽仰寺さんが。
彼女めがけて拳と刀を振るうが
サッと素早くしゃがみそれらを難なく潜り抜けて。
そのままの勢いでぼくは腐れ花さんにのしかかられ
馬乗りになった腐れ花さんの下で
彼女の両手をしっかりとつかむ。
包丁がギリギリとぼくの胸元にせまってくる。
番長さんと賽仰寺さんが叫ぶ。
「坂井!!!」
ぼくは2人に叫び返した。
「ぼくの事はかまわず!」
「2人は先に行ってください!」
「ぼくも必ず駆けつけます!!」
ぼくのその言葉に、少しだけ躊躇を見せた賽仰寺さんだったが。
番長さんはそんな賽仰寺さんの肩をワシッとつかむと
真剣な目で彼女を見つめた。
「男が女の元に駆けつけるには、つけにゃあならんケジメもある。」
「・・我らは先に行くぞ!」
その言葉に賽仰寺さんも真剣な目でうなずき、
2人はまっすぐと体育館へと向かって行った。
腐れ花さんが叫ぶ。
「坂井くん!坂井くん!坂井くん!」
「あなたも私を裏切った!!」
「あなたも私から離れていく!!!」
「みんなそうよ!!」
「どんなに大切に思っている人も!」
「人である限り私だけのものにはなってくれない!」
「私のものにしなければみんないなくなる!」
「それならば!」
「あなたを殺して私の物にしてあげるんだからぁぁぁ!!」
そう言うと腐れ花さんは突然。
自分の持つ包丁を自分自身の胸元へ向け、来ていた服を切り裂き始めた。
破れた衣服がはだけて露わになった彼女の裸体には・・
いくつもの男の顔が浮かんでいた。
おぞましい顔でゥゥゥと呻く顔たち。
「安心してぇ。あなた死んでもぉ。」
「あなたが触れてくれた私の手にはあなたが刻まれる・・・。」
「私の【死面瘡化】で。あなたは私の一部になって生き続けるんだからぁぁぁ。」
彼女はふたたび包丁をぼくに向ける。
目に飛び込んで来た彼女の体。そのあまりの光景に。
ぼくは瞬間判断が遅れた。
ぼくの胸元に包丁が振り下ろされ、
ぼくは自分の胸元を手で守るので精一杯だった。
やられる・・!
そう思った次の瞬間。
「坂井!パスだーーー!!」
聞き覚えのある声が届いた。
ぼくは胸元の手を上に向け手のひらを開いた。
包丁がその手のひらに突き刺さるその直前。
ぼくの手の中にすっぽりと収まるサッカーボール。
腐れ花さんの包丁はサッカーボールに突き刺さり、
パンッ!と弾けるサッカーボールの勢いに彼女がひるんだ。
その隙にぼくは彼女の拘束から逃れる。
遠く。そこに立っていたのは・・
ぼくの親友【布坐健二】だった。
腐れ花さんが叫ぶ。
「なによ!!」
「どいつもこいつも私の愛のジャマをしてぇぇぇ!」
「ちくしょぉぉぉぉ!!」
腐れ花さんが、左手の包丁を右手に持ち替え、またぼくを狙って身構える。
布坐が、自分の後方に呼びかける。
「ゆみちゃん!パスだ!」
布坐の遥か後方。物陰では、大きな袋を引きずり隠れる【時早矢ゆみ(トキハヤユミ)】先生がいた。
布坐の声に、うんとうなずき、袋からサッカーボールを取り出し布坐へ向かって投げる。
ヘロヘロと飛ぶサッカーボールは、わずか1メートルほどの位置でボンッと跳ね。
そして吸い込まれるように布坐の足元へと滑り込む。
ぼくの目前まで迫って来る腐れ花さん。
布坐はその腐れ花さんに向けてサッカーボールを蹴る。
「ほれ!パスだぜ腐れ花!!」
ボールは腐れ花さんに向かってまっすぐ宙を飛び
そのまま腐れ花さんが手に持つ包丁を弾き飛ばす。
布坐の、なにがあっても絶対に成功するパス。
ぼくのよく知るあいつの魔人能力。
【極振りパスゲージ(キョクフリパスゲージ)】だ。
腐れ花さんが、悔しそうに涙をボロボロとこぼし布坐をにらむ。
布坐がぼくたちの元に駆けつけ。
そして叫んだ。
「お前の相手は俺たちが代わってやるよ!!」
「あいにく。坂井はお前の相手をしてるほどヒマじゃないみたいなんでね!!」
布坐がぼくと腐れ花さんの間を遮るように立つ。
「布坐・・お前・・来てたのか。」
ぼくの言葉に、布坐は振り向く事なく答える。
「へへ。ずっとお前を探してたんだけどな。」
「やっと会えたかと思ったらお前。」
「番長さんや架神さんなんかと親し気にしゃべってるじゃねえか。」
「声かけづらくてたまったもんじゃなかったぜ?w」
そして。続ける。
「正直よう。」
「俺。あの日お前が言ってたノロイダとか転校生とかの話。」
「まだぜんっぜん理解できねえんだ。」
「お前か俺。どっちが正しいのかなんてわっかんねえけどさ。」
「でも。」
「お前がやりたいと思ってることに間違いなんてねえよ。」
「それも俺は知ってんだ。」
布坐がぼくの方をちらりと振り返りニヤッと笑う。
「行けよ坂井!」
「お前にはやんなきゃならねえ事があるんだろ!?」
「ここは。」
「俺とゆみちゃんが死んでも守ってやるからよ!!」
ぼくは。
こくんとうなずき。布坐の元から駆け出す。
「死んでもなんてバカ言ってんじゃねえ!」
「死んでも死ぬなよ!」
「生きて!また会おう!!!」
ぼくの言葉に布坐も嬉しそうに答える。
「おう!」
「お前のやる事が片付いたら!その時にまたケンカすっからな!!」
「忘れんじゃねえぞ!!」
布坐の声が背中の先で遠ざかっていく。
布坐の声だけじゃない。
この場で戦うすべての人たち。
その喧騒。怒号。悲鳴。
それらの声たちを背中に残して。
ぼくは、体育館へと入っていった。




