chapter5
とりあえずは血に塗れた木の棒を投げ捨てる。散々ガウルの目玉を抉ってきた棒とはここでおさらばである。何故捨てたかは推して知るべし。
木の枝が森の方角へ消えていったのを確認すると、再び街の門に向き直る。
想像以上に規模の大きい街だ。【始まりの街】なんだからもっと質素でも良いんじゃないかと思う。石造りの立派な塀の石は隙間無く並べられ、その塀の高さでは隠し切れないかのように幾つかの建物が塀の外からでも確認できる。塀の外周もココから見る限りでは相当長い。
なんか本物の街みたいだ。いや、異世界だから本物なんだけど。ログアウトできないけど。
街の様子を外から見たところ、石製のものが多い。時代設定は中世あたりの時代がモチーフだろう。説明書にはイラストとかが無かったからどんな街か分からなかったけど、王道のRPGが何たるかを良く分かっていらっしゃるスタッフさんが働いていたようです。
ドラ○エの街を思い浮かべて欲しい。大体そんな感じだ。
とりあえず突っ立ってても仕方が無いので門番さんに声をかける。
「すいません。」
「ん?どうした坊主。迷子か?」
「坊主って・・・まぁ良いです。【始まりの街】ってここですか?」
「そうだ。ココが(村長曰く)冒険者の登竜門の街【ハジマリ】だ。」
村長曰くって・・・・・
街の名前は【ハジマリ】に変わってるんだな。
「そうですか。冒険者志望なんですが、どうすれば?」
「んなもん“冒険者ギルド”に行って来い。知らなかったのか?」
「田舎出身な者でしてね。ありがとうございました。」
「いや、そんな感謝されるようなことはしてないんだが・・・まぁせいぜい頑張りな。ちっさい冒険者さん。」
「ちっさいって言わないでください・・・」
とりあえず冒険者ギルドとやらの場所を教えて貰い、その場を離れる。ごっつい体格の割にはいい人だったので良かった。
街の中はやはり石造りの建物が並んでいる。どれもが一、二階建てで三階建て以上の建物は点々とあるだけだ。道には屋台も並んでいて、人通りはかなり多い。
しかし、道行く人々の容姿には目を見張る。猫耳や犬耳オプションはもちろんのこと、尻尾や鉤爪、鱗に角まで、ありとあらあゆる異種族のオンパレードだった。エルフ耳は見れなかったのが少し不満ではあるが、とりあえずはここがVR、いや異世界ってことを改めて認識する。
いや、人間のほうが圧倒的に多いんだけどね。
「えっと、確かここを左に・・・あっ、あれか!?」
見つけた。周囲の建物より一回り大きい二階建ての建造物。
“冒険者ギルド”
壁に取り付けられた看板らしき木製の板には、鋭利な両刃の剣といかにも魔法が使えそうな杖が煌びやかな盾を背景に交差している。見事な看板なことで。
半開きになっている扉を開けて中に入っていく。
中の構造は至ってシンプル。壁など何も無い開放感抜群の大広間。その大広間の奥には受付があり、そのさらに奥にある壁を隔てた場所の窓からは従業員の人が忙しなく動いているのが見える。
受付の横の壁には依頼書が目測で・・・五千枚超ほどずらっと並んでいる。しかも無造作に張ってあるので見ていて気持ち悪い。
とりあえず、二組ほどの冒険者が賑わっている大広間のテーブルを横目に、受付まで辿り着く。途中で手に触れた尻尾の感触を記憶に焼け付ける作業は忘れずに。
「すいません。冒険者志望なんですけど・・・」
一人で寂しくカウンターに頬杖を付く女の人に声をかける。黒く長い髪をストレートに降ろしていて、顔も美女の部類に入るぐらいに整っている。
こちらに気づくと背筋を正して業務用スマイル全開で応対してくれる。収まれ俺の心臓。
「新規登録の方ですね。冒険者登録については知っていますか?」
「いえ、全く知りません。」
「分かりました。でしたらこのパンフレットをお読みになってください。」
俺の前にパンフレットを置く。三百は優に超えるページ数の其れを。
彼女の顔は限りなく笑顔だった。




