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ESQUISSE  作者: 2k43
第一章-出会いと別れ-
2/6

出会いの季節

「え……?(うち)で面倒見るって言ったか?この子を?」

「うん……」

 なんで家で……?それよりも、一体どこから狛仁(ごうれん)を連れてきたんだ……?ハ……ッ!もしやペットショップから盗んできたんじゃ……!いや、流石にそれはないか。

「ーーとりあえず、どういうことか説明してくれ」

 話を聞くためにリビングへ移動。

挿絵(By みてみん)

「それで、どういうことなんだ」

 俺の対面に座る未桜に再度問いかける。

「今日ね、お店にこの子を引き取って欲しいっていう女の人が来てね、もちろん引き取りのサービスなんて全国どこのペットショップもやってないから、お断りしたの。それで、話を詳しく聞こうと思ったらね、その人がこの子をお願いって、この子を置いてお店から出て行っちゃたの。もちろん追いかけようと思って、私も店の外に出たんだけど、人通りが多くて見失っちゃった……。その後、お店に戻って店長にその出来事を話したの。そしたら、その女の人が見つかるまでのしばらくの間、店長がこの子を預かるって話になって……。でも、女の人を見失ったのは私の責任だから……。だからね!その女の人が見つかるまででいいから、家で面倒見れない?」

「ちょっとまて、店長が預かるって話はどこ行ったんだ?」

「あ……、それは、ね、……私がこの子を気に入っちゃって。責任感じてるし……」

 こっそり連れて帰ってきてないよな……?

「店長はこの事、知ってるのか?」

「もちろん!ちゃんと話したよ!何回もお願いしたら了承してくれたよ!」

 何回もお願い……。俺に相談も無しで……。

「まぁ、知ってるならいいか」

「だから、ね、お願い!!」

 飼い主が見つかるまでなら……、まぁ、いいか。

 未桜もペットショップでアルバイトしてることだし、知識もあるだろう。

「飼い主が見つかるまでな」

「やった!ありがとう!お兄ちゃん!」

 店長もこの押しに負けたんだろうな……。

 もし、飼い主が見つかったとして、この子はその後どうなるんだろうか。……俺が考えることではないか。

「それで、この子の名前は何て言うんだ?」

 未桜の隣で俯いて座っている狛仁(ごうれん)を見ながら問いかける。

「それがね、わからないの。女の人も何も話さずに行っちゃったし、この子に聞いても教えてくれないの」

 一応、俺からも訊いてみるか。名前を尋ねる時は、まずは自分からだな。

「俺の名前は桃渓 春。こいつは妹の未桜。君の名前は?」

 怖がらせないように優しく話しかける。

「……」

 ……答えてくれないか。しつこく話しかけると尋問みたいで、怖がらせちゃいそうだな……。

 ……

「弥生……」

 !

「そうか、弥生って言うのか」

「お兄ちゃんすごい!私がいくら話しかけてもダメだったのに!」

 とりあえず話せるみたいで良かった。

「そういえば、弥生のご飯とかってあるのか?」

 多感な時期かもしれないから呼び捨てで。

「うん、店長からもらってきたよ。今晩と明日の朝のご飯、それとお試し用の狛仁(ごうれん)用シャンプー。それと……」

 店長、ありがとうございます。それと、うちの妹がすみません……。

「……そんなもんかな」

 しばらく預かるなら、いろいろ買い揃えなきゃいけないな。

「ーー明日、いろいろ買い揃えに行くか」

「そうだね~。あ、私服見た~い!」

「お前の買い物しに行くんじゃないんだぞ」

「わかってるよ、弥生ちゃんの服!それくらいわかるでしょ~」

「……」

「私、弥生ちゃんとお風呂に入ってくるね!せっかく狛仁(ごうれん)用シャンプーもらってきたし!じゃあ行ってくるね!」

 返事をする間もなく行ってしまった。

 それにしても、弥生の飼い主はどうして弥生を……。どうしても飼えなくなるような、やむを得ない事情があるんだろうけど……、家族や友人には頼まなかったんだろうか……。


 ◇


「どう?気持ちいい?」

 鏡越しに見えるシャンプーハットを被った弥生。ギュッと目を閉じてて可愛らしい。

「……ねぇ、弥生ちゃん。うちの店に一緒に来た人のこと、訊いてもいい?」

 さっきまで力んでいた瞼や肩から力が抜けるのがわかった。

「……皐月ちゃん」

「皐月さんって言うんだね」

 弥生ちゃんは小さく頷いた。

「皐月さんって、どんな人なの?」

「いつも明るくて、優しくて、よく頭撫でてくれて……」

「ちょっと頭流すね、目しっかり閉じてて~」

 シャワーのお湯でシャンプーが排水溝に流れていく。

「それでそれで?」

「でも最近は暗い表情してることが多くて……、どうしたの?って訊いても頭撫でてくれるだけで……」

「……」

「今日久しぶりにお散歩行くって言ってくれて、嬉しくて……。でも皐月ちゃん、私を置いてどこか行っちゃった……。皐月ちゃんに会いたいよぉ……。お家に帰りたいよぉ……」

「……!」

 静かに涙を流す弥生ちゃんを、優しく抱きしめる。

「そっか、ごめんね……。会いたいよね……」

 明日、皐月さんと弥生ちゃんの家に行ってみよう。

 皐月さん、いるといいけど……

 ……

 …………

 ………………


 ◇


「しゅっぱ~つ!」

「……」

「ほら、弥生ちゃん、出発って言ったら、進行って返さなきゃ」

「しゅっぱ~つ!!」

「し、しんこ~ぅ……」

 朝からテンション高いな……。

 昨日、風呂から上がってから少し仲良くなってたし……。

「ーーそれで、どこから行くんだ?」

「まずは、弥生ちゃん家!」

 飼い主がいるかもしれないしな。

「ーー場所は、わかるのか?」

「公園が弥生ちゃんの散歩コースみたいだから、公園に行けばわかるんじゃないかな」

「じゃあ、公園に向かうか」

「しゅっぱ~つ!」

「しんこ~ぅ……!」


 到着。

「ここが弥生ちゃん家か」

 着いた所は公園を挟んで(うち)とは反対側で、閑静な住宅地にあるアパートだった。

「ここの202号室か」

 アパートの中は少し動物臭がするが、外見はとてもきれいだ。

 階段を上り、202号室のドアの前で立ち止まる。

「ここが皐月さんの……」

「ん?皐月さん?」

 ガチャガチャガチャ!

 弥生ちゃんがドアノブを必死に下げようとするが、鍵が掛かっているためドアは開かない。

 ドン!ドン!ドン!

「皐月ちゃん!開けて……!」

 ガチャガチャガチャガチャ!

 皐月さんっていうのは弥生の飼い主の名前か。

「とりあえずインターホン押してみよう、な?」

 そう言うと弥生は、ドアノブからゆっくりと手を放した。

 これだけガチャガチャやっていれば、気づいて出てきそうだが……。

 ピンポ~ン

 家の中からも微かにインターホンの音が聞こえてくる。

 ……

「出て……こない、ね」

「そうみたいだな」

 弥生は俯いたまま微動だにしない。

「一旦出直すか。昨日言った物を買い揃えて、その後またここに戻ってこよう」

「弥生ちゃん、また後で来よう?ね?」

 ここに残るって言うかもしれないと思ったが、弥生は小さくだが頷いた。

 未桜のおかげ……かな。


「いらっしゃいませ~」

 ペットショップに到着。

「店長~、来たよ~」

「あら~ん、未桜ちゃんいらっしゃい、そ・れ・に、春ちゃんも♡いらっしゃい♡」

 ペットショップ埴原の店長、埴原(はにはら) 慎吾(しんご)さん。前にも言ったが、母の親友だ。そしてオネエだ。

「こんにちは店長、昨日は未桜が迷惑をかけたみたいで、どうもすみません」

 俺が頭を下げると

「いいのよん♡そ・れ・に、昨日はちょ~っぴり忙しかったから、未桜ちゃんが面倒見るって言ってくれて、正直助かってたのよん♡それで今日はその子に必要な物を買いにきたのね。ゆ~っくり見てってちょ~だい♡」

 このように寛大な心の持ち主だ。だが怒ると、ものすごく恐い。

 今は店長のことより弥生のことだな。

「ーー未桜、何が必要なんだ?」

「ご飯と、服、それにシャンプー、あとは歯ブラシとかかな」

「おっけ」

 未桜と弥生と一緒に中を見て回る。結構いい値段するな……。こんな物まで?!などと思っている中、未桜が商品をぽんぽんとカゴに入れる。

「弥生ちゃんは何色が好き?」

 俯いてずっと無言でついて来ていた弥生に未桜が話しかけた。

「赤……」

「赤色ね、おっけ~」

 未桜が弥生に似合いそうな服を見繕う。おいおい、買いすぎじゃないか……。

 ……

 買い物を終え、一度皐月さんの家に戻ってみたのだが、まだ留守のようだった。なのでまた出直すことに。

 それで時間をつぶす……じゃなくて、弥生と仲良くなるため公園へ移動。

 公園で元気に遊ぶ……とも行かず、ベンチで休憩。全員。

「なぁ、せっかく公園に来たんだし、何かしようよ」

「荷物持ち疲れたから、ちょっと休憩~」

「荷物持ってたの全部俺だろ!未桜はリード握ってただけじゃないか!弥生も何か言ってやってくれよ~」

「……」

 朝から弥生は俯きっぱなしだ。

「皐月さんと会ったとき、弥生の暗い顔見たらきっと落ち込むぞ。だから、笑顔」

 弥生に俺の顔が見えるようしゃがみ、に~っと歯を見せて笑ってみせる。

「くすっ……」

「そうだ、辛い時こそ笑え」

「うん……」

 もう1度、歯を見せて笑ってみせる。

「なにそれ、お兄ちゃん、変な顔~」

 あははと笑う未桜。それに釣られて弥生も笑う。

「あはは!」

「あはははは!!」

「ふふっ」

「なんだか楽しそうじゃん、私たちも混ぜて~」

 声のする方を見ると、長谷川先輩とフローラちゃん、ルナちゃんが立っていた。

「昨日ぶりだね、春くん」

「そうですね、こんにちは長谷川先輩、フローラちゃん、ルナちゃん」

「その子は彼女?」

 長谷川先輩の視線の先は……。

「違いますよ!妹です!」

「どうもこんにちは、妹の未桜です」

「なんだ、妹ちゃんか~、どうも初めまして、長谷川 莉乃です。春くんの彼女です♪」

 長谷川先輩がパチッとウィンク。

「ちょっ!長谷川先輩!」

「冗談よ~、本当は春くんの1個上の先輩よ。耳まで真っ赤にしちゃって可愛い~」

「私たちも自己紹介する~!フローラです!」

「ルナです……」

「2人合わせてーー」

「「フロルナです」」

 なにそれ……。

「なにそれ……」

 長谷川先輩も?!

「1度言ってみたかったんだ~、ふたりで考えたんだよ」

「うん……。ふたりで考えた……」

「そうなんだ……。それで、その子は?」

「この子は弥生です。……事情があって今、預かってる……って感じです」

 長谷川先輩が俺の顔をじっと見つめ、顎に手を当て考える動作をする。

「……未桜ちゃん、いきなりで悪いんだけど、弥生ちゃんと一緒にうちの子たちと遊んでもらってもいい?」

「え、長谷川先輩……?」

「……はい!いいですよ!」

「ありがとう、未桜ちゃん」

「弥生ちゃん、フローラちゃん、ルナちゃん、向こうで一緒に遊ぼうか」

「え~!はじめも遊ぼうよ~!昨日約束したじゃん!」

「フローラ、春くんは今から私と大事な話があるの。後で合流するから、ね」

「わかった……。じゃあ後でね!」

「ごめんね、未桜ちゃん。お願いね」

「任せてください!」

 未桜は弥生たちの手を引いて広場の方へ。

「春くんもごめんね、……でも何か困ってるんでしょう?なんだか、言いづらそうにしてたし。私でよければ、話してくれない?」

「……はい」

 俺は長谷川先輩に弥生のことを話した。

 ……

「そういうことね。……それでもし飼い主の方……その皐月さんが見つからなかったら、春くんはどうするの?」

「どうしましょうね……」

「どうしましょうね、じゃないでしょ!最悪、殺されちゃうかもしれないのよ!」

「……」

「そりゃ、ペットを飼うってことは、命を預かるという責任が伴うことよ!簡単に飼えとは言わない!でも今こうやって面倒を見て、飼い主が見つからなかったら、はいさようなら?それは弥生ちゃんが可哀そうでしょ!真剣に向き合って考えてみて!」

 そうだよな……、あまりにも無責任すぎだったよな……。

「……わかりました」

「困ったことがあったら相談に乗るから、ね?」

「ありがとうございます……、長谷川先輩」

 よく揶揄(からか)ってくるけど、ずっと面倒を見てくれる……。

 長谷川先輩には、頭が上がらないな……。

「真剣に向き合って、考えてみます」

「よし、じゃあ遊びに混ざりに行こうか」

「はい!」


 ◇


 公園で遊び、長谷川先輩たちと別れた後、皐月さんの家へ再び行くが、まだ留守のようだったため、帰宅。

「少し遅くなっちゃったな」

「急いでご飯作っちゃうから、お兄ちゃん弥生ちゃんと先にお風呂入っちゃって」

「おう、って、はぁ?!」

「シャンプーとかは今日買ったやつ使ってね」

「ちょっ!ちょっと待て!」

 さすがにまずい気がする。いくら狛仁(ごうれん)とはいえ、体は……。

「あ、パジャマ?それも袋に入ってるから。……ハッ!もしかしてお兄ちゃん、ロリコ……」

「入ってきます!!」

 俺は弥生を連れ脱衣所へ。

 ……

「よし、入るか」

「うん……」

 ブラシで髪をとかし、服を脱ぎ風呂場に入る。体はあんまり見ないようにしなきゃな。

「……なに、これ?」

 俺の股間を指さしながら。

「よっし!まずは頭洗ってやるからな!シャワーかけるから目閉じろ~」

 何も聞こえなかったな!よし!

 頭をシャンプー。わしゃわしゃ。尻尾もシャンプー。わしゃわしゃ。

「よし、じゃあ流すからな~」

 ……

 次は体か……。

「前の方は自分で洗えるよな?背中は洗ってやるから」

 ごしごし。背中、小さいな……。

 皐月さんに会えたとしても、弥生は……。

「よし、流すぞ~」

「次は俺が洗う番だから、弥生は湯舟に浸かっててな」

 湯舟に弥生を入れる。

 頭を流し、シャンプーしながら弥生に話しかける。

「今日楽しかったか?」

「うん」

「みんなで何して遊んでたんだ?」

「だるまさんがころんだ」

「上手く止まれたか?」

「うん。フローラちゃんがね、すぐ動いちゃうから」

「ハハッ!鬼ばかりやってたのか!」

「うん。くすっ」

 弥生と、こんなに話せたのは初めてだな。こうやって普通に笑えるのか。もう、あんな寂しそうな顔はさせたくないな……。

「また明日、弥生の家に行ってみような」

「うん」

 ……

 …………

 ………………

「あれ?お兄ちゃん、弥生ちゃんのシャンプーで頭洗ったでしょ~」

 え、まじ?くんくん……。

「しまった、間違えた~!!!」

 夜空の星が輝く下で、皆の笑いがこだまする。弥生も楽しそうに笑ってるし、まぁいいか。


 ◇


 次の日、未桜はアルバイトのため、弥生とふたりで皐月さんの家へ。

「今日は会えるといいな」

「うん!」


 アパートの前にはパトカーが数台止まっていた。何かあったのかなと思いつつアパートの階段を上り2階へ。202号室のドアの前に警察官が立っていて、声をかけられた。

「ここの部屋の人のお知り合いの方ですか?」

「あ、いえ、でもここの部屋の……、皐月さんのペットを預かってて……」

「そうですか……、昨夜、皐月さんのご遺体が川で発見され……」

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