六人
クイトたち一行は神竜の巣穴にやってきた。ここでもドーナ人が出迎えてくれた。
「クイト様御一行ですね」髪が紫のドーナ人はちょっと戸惑った。「あの、四人パーティーのはずでは?」
「飛び入りで二人参加することになったの。ルール上は問題ないはずよ」
「はい。参加資格を満たしていれば大丈夫です」
ドーナ人はモノクルを掛けた。女の方は一目見てパスしたが、機械の方はジロジロ見た。
「重火器は取り外してある。レギュレーションは大丈夫なはずだ」
機械にせっつかれたが、ドーナ人は細かくチェックした。
「はい。大丈夫です。では入場料をいただきます」
クイトたちは入場料を払って巣穴に入った。
「なんだ、あの受付の態度は」
「そんなもの着てたら当然だよ」
応急修理した装甲強化服を着たハムバの不満を、アイリーンは一蹴した。
一応、誤解がとけた二人は、クイトたちに同行するといってきかなかった。ハムバは「まだ完全に信用したわけじゃない」と言った。アイリーンは「クソ妹でも身内が疑われてるのは気色が悪いからな」と言った。
もちろんクイトたちとしては断りたかった。神竜の巣穴は達人以上でないと挑戦できない。これを理由に断ろうとした。ハムバはレベル十九の狩人で、これに引っ掛かった。だが装甲強化服を着てレベルを底上げし、なんとかレベル二十五に達した。
全員が意外だったのはアイリーンだった。アイリーンはレベルニ十五で、ぎりぎり条件を満たしていた。だが職業が盗賊だとわかると、なんとなく納得できた。
六人の中で自分が最下位だと知ったハムバはショックを受けた。マリエルの特務課で主任を務めることに、それなりの自負があった。そのプライドが粉々に砕かれた。クイトたちに全く歯が立たなかっただけでもショックだったが、数値で大差を見せつけられると、愕然とした。装甲強化服を着て、なんとか同行させてもらっているというのは、みじめだった。だがマリエルの特務課員としては、ついていかざるを得なかった。クイトはそんなハムバを左の前衛に配置した。六人になったパーティーは、前衛・後衛が共に二人から三人になった。装甲強化服は盾としては役に立つだろうし、弱点の背中を敵にさらさずにすむ。
アイリーンはハムバ以上の爆弾だった。とにかくキョーコとの相性が悪い。亀甲縛りにされたこともそうだが、少々アブノーマル気味らしい趣味のキョーコにどんな身体検査をされたのか、クイトには想像がつかなかったし、想像したくもなかった。アーンリの性格がエルフの平均なら、アイリーンも同等かそれ以上かもしれない。クイトはキョーコの後ろにアイリーンを立たせるのは危険だと判断し、キョーコを右の前衛、アイリーンをハムバの後衛に配置した。言うまでもないが、戦闘では全く役に立ちそうもない。
二つもお荷物を抱えたクイトは、頭が痛かった。
「先輩、訊こうと思っていたんですが……」
「今は作戦行動中だ。私語はつつしめ」
キョーコの質問をハムバがさえぎった。
「質問を許可する」
クイトは一見無駄に見える会話が、実はときどき役に立つことを知っていた。だが知らないハムバは装甲強化服の中でクイトをにらんだ。
「ここは巣穴だ。私たちは冒険者だ。従って今の先任は私だ」
レベル四十九のクイトにそう言われると、装甲強化服でもレベル二十五、素だとレベルが十九しかないハムバは反論できなかった。
「人身売買のこと、なぜアタシたちに黙っていたんですか?」
「簡単。リーダーは自分たちに経験値稼ぎに専念して欲しかったから」
イリリが代わりに答えた。確かにその通りだが、なぜこのタイミングで口を出すのか? クイトは自分の両側の人物たちが不機嫌になるのを、嫌になるほど感じた。少しはハムバの顔も立てておこう。
「ハムバ、マリエル出張所のデーターベースからこの巣穴の情報を引き出せるか?」
「今やっている……ん? セキュリティレベルが変更されている。課長クラスでないとアクセスできないように変更されているぞ」
「課長クラス?」やはりアイリーンが反応した。「それは課長ならできるってこと?」
「課長以上なら上司の許可なしでできる」
「ちっ」
クソ呼ばわりしても、妹が疑われるのは嫌らしい。
「いつからだ?」
クイトが確認をとろうとした。
「正確には判らないが、つい最近だ」
「今朝よりは最近か?」
「そうだが、それが?」
「私たちは今朝から全面的に遮断されている。ゲスト権限だが」
質問したクイトまで不機嫌になりそうになった。
「つまり、俺が参加したから、セキュリティレベルを変更した、というわけか」
ハムバもきな臭さをいっそう感じた。アイリーンの方はハムバが一人称を使ったことに不快感を覚えた。自分が無視されたように感じたからだ。だが態度には出さなかった。自分がデーターベースのセキュリティに影響を与えないことはわきまえていたし、苦労人であるがゆえ、忍耐と柔軟性の必要さを学んでいた。
「リスクが高そうだ。撤退するか?」
ハムバの確認に、クイトは首を横に振った。
「いや、撤退はしない。時間が経ってもリスクは小さくならない。むしろ大きくなる」
「そう考える根拠は?」
「敵は大あわてでセキュリティレベルを変更した。つまり、今のデータベースには正しい情報が載っている。だが明日もそうとは限らない。敵に時間を与えれば、不確実性はさらに増す。データーベースが当てにならない以上、実地見聞で情報を集めるしかない」
「威力偵察か。リスクは高いが、確かにそれが確実だな」
感心するハムバにクイトは念をを押した。
「全体験記録装置は回しているか?」
「もちろん……ん?」
全員がいやな予感を覚えた。
「故障している。システムダウンしたときの記録の損傷の自動復旧が終わる前に、記録を上書きしたのが原因らしい」
こいつも役に立たなさそうだ。最初の四人はそう思った。
「冗長化してないの?」
クイトの代わりにイリリが質問してくれたが、だからといって返事が変わるはずもなかった。
「してない。何しろ古いモデルだからな。最新のFA2SかFC3系でも導入してくれれば有り難いんだが……」
ハムバは語尾をにごした。課長がケチだとは、さすがに言えなかった。
「出張所に戻って修理するか?」
「それには及ばない」
クイトはそう言うと、異空間からストレージを取り出した。小型で吸盤で体に張り付けるタイプだ。
「私のマイクロマシンのデータを記録する。記録の粒度は悪くなるが、役には立つだろう」
「クイト、いい物を持っているな」
「あいにくだが一個しかない」
「いや、ポケットの方だ。色々な物が簡単に出し入れできるな。どういう構造なんだ?」
「四次元ポケットなんだ」
一行は巣穴の最初の戦闘に勝利した。
「雑魚がトロールキングって、あり得ませんよ」
「ここをどこだと思っている? 最難関のSSSの神竜の巣穴だぞ」
自分はほとんど役に立たなかったくせに。トロールキング二体を倒したキョーコは、心の中でハムバに悪態をついた。
「雑魚がこれじゃ、ラスボスは相当強いんでしょうね。お宝は神竜だけに、ドラゴンボールぐらいでないと割に合いません」
そのネタ、俺にしかわからないぞ。クイトはそう思ったが、意外な反応があった。
「竜珠を知っているの?」
「竜珠?」
キョーコはアイリーンにオウム返しで訊いた。
「なんだ、やっぱり知らないの」
「教えてくれないかしら?」
クイトは興味を覚えた。なにか手がかりが得られるかもしれない。
「エルフ族に伝わる神話の、ドラゴン族の至宝よ。最高位のドラゴンが管理している。今の最高位は神竜よ」
「その竜珠を七つ集めると、なんでも願いごとがかなうの?」
「七つもないし、願いごとなんかかなわないわよ。そんなデマ、どこで仕入れたの?」
アイリーンはキョーコをうさん臭そうな目で見た。
「アタシらの世界の伝説」
「ふーん。アンタの世界にもドラゴンがいるの」
誤解を招いたようだが、それを解消するのは容易ではない。『ドラゴンボール』を教えたら、ハナナが飛びつくかもしれない。クイトは話を本筋に戻すことを優先した。
「それで、エルフの神話の竜珠はどんなものなの?」
「太古のマリエルに高度な文明を築いた種族がいたのは知っているでしょう。彼らから託されたもので、別の世界への道を開くらしいわ。その世界については、いくつも説がある。来世や前世、天国、地獄、過去、未来、エトセトラ、エトセトラ。数えたらきりがないと思うわ」
全員がその話の重要性に気づいた。
「なぜそれを早く言わない!」
ハムバがかみついた。
「だって神話よ、し・ん・わ! どんな世界に繋がっているかもわからないなんて、信憑性がないじゃない」
クイトたちは気づいた。八世界の人間種族のほとんどは常設の異世界門しか知らない。目的地を自由に選べる異世界門が存在するとは、夢にも思っていないらしい。ハムバは協会の職員なので例外だ。
「とんでもない容疑者が現れたな」
クイトはさらに頭が痛くなった。犯人が巣穴を利用しているだけなら、神竜の巣穴を攻略する必要はない。利用している連中を摘発するだけでいい。だが新たな容疑者に会うためには、攻略が必要不可欠になった。
しかし戦力が足りない。期限が設けられたのだ。日本出張所に増援を頼んでも無理だろう。アーンリも容疑者のままだ。協力など頼めない。現在の人員でなんとかするしかない。これまでの三人も戦闘力強化が必要だし、お荷物の二人もなんとか戦力に育てないといけない。しかも利用できる巣穴はここだけ。クイトは戦略の練り直しを迫られた。
無駄に見えた会話は、確かに大いに役に立った。




