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初級

 四人パーティーはDランクの水竜の巣穴にやってきた。


「いらっしゃいませ」


 ここでもドーナ人が出迎えてくれた。今度は赤、黒、金髪の縞模様だった。クイトは今度は「ドイツ」と名付けた。

 モノクルを着けたドイツは、フランスと同じ反応をした。


「あの、ここは初級者用なんですが」


 クイトはフランスのときと同じ言い訳をした。ドイツの方は首をかしげながらも、入場料を受け取った。

 クイトは小竜の巣穴で拾ったアイテムをまだ処分していないことに気づいた。


「コンビニに寄ろう。昨日のアイテムを処分しておこう」


 コンビニでもドーナ人が出迎えてくれた。今度は緑、白、赤の縞模様だった。クイトは今度は「イタリア」と名付けた。


「いらっしゃいませ。お買い物ですか? 買い取りですか?」

「両方だ。まずは買い取って欲しい物がある」

「しばらくお待ちください。店長、買い取りのお客様です」


 店のバックヤードからマリエル人が現れた。マリエル人は八世界の中で、もっとも地球人に近い人間種族(ヒューマンズ)だった。だが鉤鼻、高い頬骨、大きな顎という特徴があるので、人相ですぐにマリエル人だとわかった。


「いらっしゃいませ。買い取りの品物はなんでしょう?」


 クイトはアイテム袋を取り出すと、昨日拾った石を見せた。


「軟玉(ネフライト)だ。宝石の硬玉(ヒスイ)ではないが、治癒系のアイテムの材料になるはずだ」


 店長はクイトを値踏みした。素人ならヒスイと勘違いして持ち込むが、ネフライトと見抜いたうえに、使用方法まで知っている。店長はモノクルを着けていなかったが、クイトはベテランだと見抜いた。こういう客は、ドラゴンの巣穴で高価なアイテムを回収できる確率が高い。下手に値切って機嫌を損ねたら、他の店に移ってしまう。店長は正直な値段をつけることにした。


「少しお待ちください」


 店長は天秤(てんびん)を用意して、ネフライトの重さを計った。次にそろばんを取り出して計算した。


「今の相場ですと……」

「その値段は妥当だな」


 クイトはそろばんの数字を読んで先回りをした。店長はまだクイトを過小評価していることに気づいた。ネフライトの重さや相場まで調べている。冒険者だが、商人にもなれそうな人物だ。


「ではこの価格で買い取らさせていただきます。他にはありませんか?」

「いや、今はこれだけだ」

「それでは代金をお支払いします」


 クイトは硬貨を受け取ると、店長に言った。


「ではこの店で買い物をさせてもらう」

「ありがとうございます。ごゆっくり商品をごらんください」


 店長にそう言われたが、クイトは脇目もふらず、必要な物だけ買って、さっさと店を出た。これはなかなかの難敵だと店長は思ったが、将来の重要顧客に逃げられなかったので、これでよしと思った。


「ありがとうございました」


 店を出て行くクイトたちに、イタリアは挨拶をした。



 クイトたちは巣穴に入った。やはりキョーコとハナナはキョロキョロした。


「昨日の巣穴と同じですね」

「これが標準仕様だからな」

「『ヒョージュンシヨウ』って何?」


 ハナナには難しい言葉だったようだ。


「追加料金無しで作れる、という意味だ。迷宮を作るのもタダじゃない。ドラゴンの中には迷宮の装飾にこだわる者もいる。そういう場合はバーガー商会に追加料金を払って、自分好みの迷宮を作らせるんだ。だがランクが低い巣穴は予算が乏しい場合が多い。だから今日と昨日の迷宮は同じ装飾になっているんだ」

「なぜランクが低いとお金がないの?」

「ランクが低い巣穴は初級者向けだ。初級者の冒険者は、お金が乏しい。冒険でそんなに稼げないからな。だから入場料を安くしないと、挑戦者が集まらない」

「先輩みたいな上級者は、挑戦しないんですか?」

「俺たちは例外だ。初級者用の巣穴では、金も経験値もあまり稼げない。だから効率が悪いんだ。上級者の巣穴に挑戦した方が、リスクは高くなるが、たくさん稼げるんだ。ハイリスク・ハイリターンというやつだ」

「なるほど。確かに初級者じゃ、高いリスクはとれないですね」

「しっ!」


 クイトに制止されて、パーティー一同は黙った。耳をすますと、迷宮の奥から足音が聞こえてきた。一同は緊張して、足音の主が現れるのを待った。やがて一匹の魔物がのそのそと現れた。


「先輩、アレは何ですか?」

「見てわからないか? オオアリクイだ」

「オオアリクイ! この世界の迷宮にもいるんですね。スライムみたいに怖いんですか?」

「対応を間違えると怖い」


 オオアリクイはパーティーの手前に来ると、くんくんと匂いをかぎ、回れ右をして、のそのそと迷宮の奥に引き返し始めた。


「のろいし、襲ってこないね?」

「オオアリクイはシロアリを中心に昆虫を食べている動物だ。図体のわりに摂取カロリーが低い。だから新陳代謝が低い。体温も三十二度代しかない。省エネな生活をしているんだ。理由もなしに冒険者を襲ったりしない。無駄にエネルギーを使うからな」

「ということは、やっぱり雑魚(ザコ)ですか?」

「まあ、雑魚といえば雑魚だな」


 キョーコはオオアリクイに触ってみた。


「本当に体温が低いんですね」


 急にオオアリクイの動きがすばやくなった。オオアリクイは体の向きを反転させ、両前足を振りあげ、二本の後ろ足だけで立ち上がった。そのときの身長は一・二メートルほどになった。そして両前足の鉤爪(かぎづめ)で、キョーコを襲った。


「きゃっ!」


 キョーコは体格に似合わない声を出して、あわてて飛びのいた。だが鉤爪でよろいが傷ついた。オオアリクイはさらに立ち上がって、鉤爪で襲おうとしたが、クイトが剣を抜いて、鉤爪を受け止めた。


「何やってる。早く剣を抜け!」


 クイトに言われてキョーコは剣を抜き、オオアリクイの腹に斬りつけた。弱点の腹を斬られたオオアリクイは、仰向けに倒れ、動かなくなった。

 心拍数が急上昇したキョーコに、クイトは説教をした。


「対応を間違えると怖いと言ったろ! オオアリクイは立派な猛獣だ。蟻塚を簡単に壊せる鉤爪は、熊の爪以上の立派な凶器だ。オオアリクイに殺された人間もいるんだ」

「省エネだから、人間を襲わないんじゃないんですか?」

「身の危険を感じたら話は別だ」

「当然。思慮が足りない」


 クイトに説教されるのは納得できたが、イリリに言われるのは、キョーコにはやや納得できなかった。少しむっとしたキョーコに、イリリは言った。


「リーダーの配慮に感謝すべき」


 キョーコはイリリの言葉を一瞬理解できなかったが、経験値分配のルールを思い出した。キョーコは自分のステータスを確認した。


「経験値が五上がりました」

「俺は二」

「私は一」

「同じく」


 キョーコは自分に経験値を稼がせてくれたことはありがたいと思ったが、素直には喜べなかった。


「防御力が一下がりました」


 キョーコは傷ついた自分のよろいを見下ろした。


「新しいよろいを買うときに下取りに出したら、買いたたかれるでしょうね」

「よろいというのはそういう物だ。安物に手を出してはいけないが、防具は消耗品だと割り切った方が良い。よろいなしで鉤爪で胸を切り裂かれるのと、どちらがいい?」

「……下取り価格より、胸の方が大事です」

「どんな矛でも防げる盾なんてない」

「あったら矛盾ですね。ロ○のよろいなんて、現実にはないんですね」


 ハナナとイリリは、二人の会話の最後の部分にはついていけなかった。



 水竜の巣穴の管制室では、トルリ人たちが、やや緊張してクイトらのパーティーを監視カメラで見張っていた。


「手配書の通りだ。昨日、小竜の巣穴に現れた連中だ」

「どうする? 商会からのスケジュールだと、今日はサクラの予定はない。あの勇者がその気になれば、制覇(クリア)されるぞ。この巣穴は大損だ!」


 トルリ人たちは深刻な顔を寄せ合った。この巣穴の経営は楽ではない。巣穴に大損を与えれば、彼らはクビになるだろう。ドラゴンに給料を支払う財力がなくなるからだ。当然、彼らの評判も悪くなる。バーガー商会のあっせん──バーガー商会は人材派遣業も行っていた──でも再就職は難しいだろう。せっかく今の職を得たのに、給料が安い肉体労働に戻りたくはなかった。


「日雇いになんかなりたくないぞ!」


 一人がそう言うと、そーだそーだ、と周囲が同調した。


「今でも特定派遣で、時間外手当もボーナスもなし。しかも契約社員で一ヶ月ごとに雇用契約の見直しを迫られる。充分不安定で劣悪な労働環境だ!」

「これより低い地位に落とされてたまるか!」

「特定派遣業務の完全裁量労働制を認めたマリエルの労働基準法が悪い!」

「種族に関係なく、同一労働・同一賃金にすべきだ! 正社員のマリエル人の横暴を許すな!」

「労働組合をつくろう! 団体交渉だ!」


 彼らは口々に勇ましいことを言ったが、実現できないことは全員がわかっていた。とりあえず、目の前のプレッシャーから逃避した。だがいつまでも逃避し続けることはできない、それもわかっていた。


「どうする? 小竜の巣穴では百匹単位の魔物を送ったが、歯が立たなかったらしい」

「この巣穴のランクの魔物でも、結果は同じだろう」

「勇者の目的はメンバーの経験値稼ぎらしい。大勢の魔物を送って稼がせてやれば、帰るかもしれない」

「そんな保証はないぞ。とんでもない博打(ばくち)だ!」

「なら、他に方法があるのか?」

「いや、ここは我々のホームグラウンドだ。相手はアウェーだ。方法ならあるぞ。罠(トラップ)だ!」


 周囲の同僚たちが、おおーっ!、と賛成の声を上げた。



 クイトたちのパーティーは、やはり百匹単位の魔物の大軍に襲われた。


「先輩、きりがないっすよ。これで二十回目ですよ」

「正確には十九回目」


 キョーコは、またイリリにツッコミを入れられて、わずかに不快感を覚えた。


「どうやら無限ループにおちいったみたいだな」

「無限ループ?」


キョーコとハナナには、クイトの言葉の意味がわからなかった。


「マリエル出張所のデーターベースにアクセスしてみればわかる」


 イリリに言われて、キョーコとハナナは、アクセスしてみた。


「えーっと……あれ? ここがどこかわからないですよ?」

「本当だ。データーベースの地図と実際の巣穴が違っている?」

「どうやら、俺たちを制覇(クリア)させないため、あわてて改築したようだな。この巣穴は、そうとう優秀な土木技術者を雇っているみたいだな」


 クイトたちの会話は、トルリ人たちも監視カメラにつけたマイクで聞いていた。これは彼らのプライドをくすぐったが、再就職の推薦状としては役に立ちそうにはなかった。


「そんなことができるんですか?」

「それがもっともあり得る説明だ」

「それは違う。データーベースが改ざんされた可能性がある」


 イリリの反論にクイトは答えた。


「確かにその可能性はあるな。だがデーターベースを改ざんできるハッキング能力が、この世界の人間にある可能性は、かなり小さい。情報機器は八世界では完全なオーバーテクノロジーだからな」

「実行者がこの世界の人間とは限らない」

「ふむ、それは完全には否定できないな。だが『オッカムの剃刀(かみそり)』を知っているか?」

「『物事を説明するのに必要以上の仮説を持ち込んではいけない』、しかしこの場合は当てはまらない。ハッキング能力を持った人間は実在する。実行したのは、この世界の人間とは限らない」

「では百歩譲って、ハッカーがいたと仮定しよう。そいつの動機は? 俺たちを妨害する理由は?」

「……不明。可能性としては、失踪事件の犯人が考えられる。このパーティーの捜査の妨害が目的と考えられる」

「この巣穴で仕掛けてくるかな? データーベースが改ざんされたとすると、この巣穴はもともとこういう状態だった、ということになる。この巣穴のランクはDだ。道に迷っても攻略の時間が延びるだけで、脱出は充分可能だろう。俺たちを葬りたいのなら、もっと高いランクで仕掛けてくるはずだ」

「例えば、主任が行方不明になったSSS(トリプルS)ですか?」

「もし犯人がいればの話だが、俺が犯人ならそうする。成功する見込みのない巣穴では絶対に仕掛けてこない。この一連の遭難は事故ではなく人為的な犯罪だということ、自分たちがデーターベースの改ざんという手札を持っていることを、みすみす俺たちに教えるようなものだ」


 珍しく、イリリが折れた。


「その反論には、強力な説得力があることは認める」

「じゃあ、『はっかー』はいないの?」


 ハナナはハッカーが具体的にどのような者か知らなかった。ハナナにとっても、情報機器はオーバーテクノロジーだ。


「そいつはわからない。だがいると考える根拠がまだないんだ」

「じゃあデーターベースの地図が間違っている理由は?」


 キョーコが質問した。


「大急ぎで巣穴を改造したんだろう。俺たちをドラゴンの居間に入れたくないらしい。財宝をぶんどられたくないんだろう」

「今日はサクラじゃないんですか?」

「今日は違う。二日続けてサクラをやると、冒険者たちから不自然に思われる」

「それでドラゴンは必死で妨害しているんですね」

「じゃあどうするの? このまま巣穴の中で迷い続けるの?」


 ハナナに問われて、クイトは考えた。


「イリリ、透視(シースルー)か音響(エコー)の魔法が使えるか?」


 イリリはうなずいた。


「どちらも可能」

「では、まず突き当たりまで行こう」


 パーティー一同は、突き当たりに着いた。


「イリリ、この壁の向こうに空洞があるか調べてくれ」


 イリリは壁に右手を当てて、(実際は長いのだが)短く呪文を唱えた。イリリの手の周りに魔方陣が現れて、すぐに消えた。


「空洞がある。かなり広い。壁の厚さはおよそ五十センチ」


 クイトは周囲を見回した。突き当たりの左右は通路になっている。


「左右の壁も調べてくれ」


 その後、イリリは十ヶ所ほど調べた。壁だけではなく床も。


「結果はどれも同じ。厚さ五十センチの壁または床で仕切られている。その向こうは空洞になっている」


 クイトはかぶとを脱いで頭をかいた。


「やっぱりそうか。この巣穴はプレハブだな」


 残りの三人は、クイトの言葉の意味を理解できなかった。キョーコは「巣穴はプレハブ」が理解できなかったし、ハナナとイリリは「プレハブ」という言葉を知らなかった。クイトは三人のけげんな表情に気づいた。


「この巣穴はもともと広い穴になっているんだ。そこに壁や床や天井を取り付けるための、格子の骨組みを埋め込んでいる。骨組みに壁や床を取り付けて、迷路を作っている。だから壁や床の付け外しだけで、迷路を簡単に変えることができるんだ」


 クイトは三人の表情を見た。だが誰もピンとこないらしい。そこで仮想空間にイメージを作って、三人に見せた。


『なるほど! 方眼紙に迷路を描くのと同じ要領ですね。最初にフロア全体を掘ってあるから、壁の移動だけで、道を変えられるんすね』

『うん、これならわかる』

『納得』


 仮想空間でそう言ったあと、三人は次の疑問に気づいた。キョーコがまっさきに質問した。


『このあと、どうするんですか?』

『もちろん、ドラゴンの居間を目指す』

『でも、ドラゴンの居間に通じていない迷路になっているはずだよ』

『強行突破だ。これまでの移動の記録から、現在位置はわかっている』


 クイトは巣穴の中の移動経路を示した。データーベースでは、現在位置は巣穴の外の地中になっている。


『ドラゴンの居間は、簡単には移動できないはずだ。だからデーターベースの座標は信用できる』


 クイトは仮想空間で、ドラゴンの居間の座標を示した。


『壁をぶち壊して、最短距離でドラゴンの居間を目指す』


 有言実行。かぶとを被り直したクイトは、本当に魔法で壁をぶち壊して前進した。高級品の壁なら耐魔法処理が施されているが、標準仕様では施されていない。三人は、さすがにこれはまずいのではないかと思いつつ、クイトについて行った。六枚目の壁を壊したら、魔物が現れた。一匹のオオアリクイだ。


「警告! 警告! 警告!」オオアリクイは叫んだ。「巣穴の破壊はルール違反! 商会に通報する。ただちに引き返せ!」


 だがクイトの方はしれっとしていた。


「ドラゴンの居間に通じていない迷路もルール違反だ。それに迷路の変更は、あらかじめ商会に申告する必要がある。申告したのか?」


 オオアリクイは沈黙した。データーベースの地図と実物が食い違っているのだから、申告していないのは明らかだった。オオアリクイの向こうの人物は、クイトたちがそれを商会に証明できるのか、判断に困っていた。下手に商会に通報したら、墓穴を掘るかもしれない。


『事前に申告が必要なんですか?』


 オオアリクイに聞かれないよう、キョーコが仮想空間で質問した。


『遭難事故が発生した場合に備えて、商会がすみやかに救助できるように、迷路をあらかじめ商会に明らかにするルールになっているんだ』

『そうなんだ。でもこれまで遭難した人たちは、なぜ救助できなかったの?』


 今度はハナナが質問を出した。


『その話は後回しだ。今はオオアリクイを操っているやつとの交渉を優先する』


 オオアリクイの方は、気のせいか、困っているような表情に見えた。


「妥協案を出そう」クイトはそう言ったあと、先を続けた。「私たちはこの巣穴から引き上げる。そちらのルール違反も見逃そう。その代わり、そちらも壁を壊したのを見逃せ」


 気のせいか、オオアリクイは考え込んでいるように見えた。クイトは畳みかけた。


「私たちの目的は経験値稼ぎだ、財宝ではない。経験値の方は、すでに稼がせてもらった。今すぐ引き上げても問題ない。それとも、そちらは問題にするのか?」


 オオアリクイがようやく答えた。


「それで妥協しよう。迷路はいますぐ元に戻す。その代わり、すぐに引き上げてくれ」

「わかった。急いでやってくれ」


 クイトたちは、十五分ほど待たされた。


「迷路は元に戻した。帰ってくれ」


 パーティー一同は、オオアリクイに見送られて、巣穴の出口に向かった。



「おかえりなさいませ」巣穴の出口で、ドイツが出迎えてくれた。「首尾はどうでした?」

「少々不満だな」クイトはそう言って、メンバーを振り返った。キョーコの姿に目を止めた。「手に入れたアイテムは早々に処分して、買い物をしよう」


 パーティーはクイトに連れられて、コンビニに入った。


「いらっしゃいませ」


 今度は店長が出迎えてくれた。クイトはすぐに本題に入った。


「買い取ってもらいたい物がある」


 そう言うと、クイトは六個の大きなアイテム袋を、買取のカウンターにのせた。


「量が多いですね」

「だが単価が安いものばかりだ。魔物の数が、予想よりはるかに多かった。ドラゴンの居間の手前で回復薬(ポーション)が無くなった。それで引き返してきた」

「それは惜しかったですね」

「そうだな。この店にとってもな」


 店長は再び正直な値段をつけた。


「その金額でいい」クイトはそう言ったあと、キョーコに視線を向けた。「彼女のために新しいよろいを用意したい。在庫を見せてくれるか?」

「もちろんです」店主はそう言うと、バックヤードに声をかけた。「ホーマー、レジを頼む」


 バックヤードからイタリアが姿を見せた。イタリアの正しい名前は、ホーマーらしい。店主はクイトたちをバックヤードに案内した。

 コンビニのバックヤードは思ったより広かった。よろいだけで二十着以上あった。


「品揃えが充実してますね」


 キョーコは感心した。


「お客様のあらゆるニーズにおこたえするためです」店主はそう言うと、キョーコの体格に合いそうなよろいをひとつみつくろった。「これなどいかがでしょう」


 キョーコはマイクロマシンのモノクル機能をオンにした。市販品にはない、武具の鑑定機能を使った。防御力や対魔法耐性、属性の相性などを確認した。


「今のよろいより、ちょい上ですね」

「せっかくの機会だ。サイズが合うよろいを全部見せてもらおう」


 クイトの提案で、いくつものよろいを鑑定した。よさそうな物がいくつか見つかったが、キョーコは値札が気になった。


「先輩、予算はいくらですか?」

「さっきの買取りで二一〇マールが手に入った。それプラス一五〇マールだな。それ以上使うと、次の冒険で必要なアイテムを削らないといけなくなる」

「三六〇ですか」このときキョーコの頭に、ある記憶がよみがえった。「今のよろいを下取りに出せますか?」

「それは無理です。その傷では商品価値がありません。よければ無料で処分させていただきます」

「やっぱり……」


 キョーコはあきらめたが、クイトはそうではなかった。


「いや、処分はこちらでする。予算を上げよう。その三九八マールのよろいにしよう」

「ありがたいけど、いいんですか?」

「毎度、ありがとうごさいます」

「ただし」クイトが注文をつけた。「よろいを仕入れている工房を紹介してくれ」

「工房ですか?」


 店長にとっては予想外の要求だった。だがクイトの意図は読めた。工房との契約で、このチェーン店がよろいの独占販売をしている。クイトたちが工房から直接買うことはできない。だが逆はできる。工房に直接持ち込めば、分解して、無傷の部分を中古パーツとして売ることができる。そのパーツの買取価格は四〇マールぐらいになると計算したのだろう。食えない客だ、店長は改めてそう思った。だが高い買い物をしてくれるのだから、邪険にはできない。


「わかりました。地図と紹介状を書きます」


 クイトたちは工房を訪ねて、キョーコの古いよろいを四二マールで売ることができた。

 パーティー一同は一日の冒険を終えて、ステータスの確認を行った。


「経験値が千も上がりました! レベルが一つ上がってます。攻撃力と防御力、敏捷性が上がりました」

「経験値が八百に上がった! レベルも一つ上がって、MPと知性が上がった」

「経験値が二千九百に上昇、あと百でレベルが上がる」


 三人の報告を聞いて、クイトは微笑を浮かべた。


「悪くないペースだ。あしたはCランクに行くぞ」

時間が思うようにとれないので、不定期更新になります。ご理解ください。

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