建造
やまと改の建造が始まった。驚いたことに、鷹野はやまとの設計図をほとんど暗記していた。鷹野の記憶を元に、やまとの設計図が書き起こされた。それに現在の主機と動力炉、武装に合わせた設計変更が行われた。慣性制御システムは鷹野が引退した後に開発されたので、慣性制御システムをコピーすることはできなかった。もちろん協会には慣性制御システムを造れる技術はあったが、協会本部の判断でオーバーテクノロジーとされ、使用は認められなかった。この世界の重力制御システムで造らなければならなかった。武器や動力炉も同じだった。
艦体は民間船とは違い過ぎるので、協会本部にある量子レベルで製作できる3Dプリンターで製作された。武器や動力炉、主機は現地で調達し、協会本部に持ち込まれ、艦体への組み込みが行われた。
鷹野は建造中も、許される範囲で設計変更を行った。シミュレーションを繰り返して、戦術を練り直し、勝算を計算し、製作スタッフを説得して回った。その活動は、七十歳の女性とは思えなかった。鷹野を未開人と馬鹿にしていた協会本部の技術者も、鷹野の鋭い指摘と、豊かなアイディアに感心した。鷹野はいつの間にか、彼らから一目置かれるようになった。
ハードウェアと同時にソフトウェアの開発も行われた。コンピューターはオーバーテクノロジーが使えないので、その世界の物が使われた。だがソフトウェアは、オーバーテクノロジーを使うことができた。リソースが限定されているので、全てが使えたわけではなかったが、かなり高性能なものができた。ソフトウェアは、外部からの刺激や、一定時間の経過などがトリガーとなって、自分自身を消去するように作られた。ソフトウェアの消去はハードウェアの消去より簡単なのだ。だからオーバーテクノロジーの使用が認められたのだ。
最大の難問は設計思想だった。主機と動力炉が大幅に小型化されたので、艦内に余裕ができた。その余裕を何に使うか、激しい議論が行われた。主機の複数化による運動性能の向上と、半重力アクティブアーマーの強化。武装の追加による攻撃力のアップ。やまとにはなかった兵器の搭載による新戦術。いずれも戦術に依存する変更だった。
あかぎを足止めする手段は決まっていたが、どうやってそれを行うかが問題だった。性能ではかなり見劣りするやまと改には、その性能差を埋めるための戦術が必要だった。だから鷹野は何度もシミュレーションを繰り返した。やまとの処女航海のときは、圧倒的な性能差で敵を駆逐できたが、今度は立場が逆転した。
鷹野は技術者で、軍人ではない。軍事に関しては素人だと自覚しており、専門家に相談した。しかし前例がないケースで、明確なアドバイスをできる人物はいなかった。結局、膨大な情報処理能力を使ったAIによるシミュレーションに頼るしかなかった。協会の量子コンピューターは、その世界では実現したばかりのそれより、天文学的な桁違いの性能があった。そのコンピューターが結論を出した。それを見た鷹野は言った。
「成功確率五十二パーセントか、悪くないわね。これで行きましょう」
特務課のメンバーたちも、クイトと同じ感想を抱いた。微妙な数字だ。それでも、それが最善の数字だった。元々猫の首にどうやって鈴を着けるかを相談しているネズミのような立場だ。対案はない。戦術は決定した。それを元に艤装が進められた。
主砲は時代遅れの電磁投射砲に代わって、反重力砲が採用された。電磁投射砲は発射したときにジュール熱が発生する。エネルギーロスが発生するし、発射したことを敵に簡単に探知される。だが自由落下で発射される反重力砲なら熱は出ない。砲弾にステルス性能を持たせれば、命中率はかなり上がる。妥当な選択だが、慣性制御のあかぎには徹甲弾は通用しない。そこでオーバーテクノロジーにならない範囲で、新たな砲弾が開発された。
あかぎは護衛艦の母艦であると同時に、戦闘攻撃機の母艦でもある。艦載機は六十機もある。やまと改にも艦載機が搭載されたが、その数は八機しかない。その差を埋めるために、艦載機のうち七機を改造した。艦載機のAIは一新された。あかぎの艦載機には搭乗者がいない。AIに操縦させるはずだ。それはやまと改も同じだ。パイロットを訓練する時間はない。コクピットと乗員の生命維持装置を取り外し、コンピューターを一段性能を上げた物に変更した。更にAIを新しいアルゴリズムに変え、高性能の量子コンピューターで膨大な量の機械学習をさせた。また通信機能を強化して、編隊戦闘の能力向上に努めた。これでやまと改の艦載機のAIは、あかぎの艦載機の上を行くはずだ。また対空装備の副砲は二門から八門に増やされた。
主機と動力炉も、やまとより向上させ、艦首プラズマ砲の威力と運動性能、反重力アクティブアーマーの防御力を高めた。これらを活かすAIも、艦載機と同じように強化した。AIの強化だけで、やまと改の性能を二十パーセント底上げできた。
だが犠牲にした物もあった。やまと改は対あかぎ用に造られた。一度しか使わないという前提で設計された。艦の寿命は考慮されず、メンテナンスの容易さも無視された。
初代やまとは建造に二年かかったが、やまと改は二週間で建造できた。それと同時に作戦で使用するナノマシンも完成した。
やまと改の乗員配置も決まった。艦長は鷹野、副長はやまと改の艦載AI、先任は紫音、その他のメンバーはダメージコントロールと白兵戦の要員に決まった。設計者とはいえ、部外者の鷹野を艦長にすることには、協会の中でも異論があった。特に本部からの反対の声が大きかった。そこで紫音が提案をした。複数の候補者の間でシミュレーションによる戦闘を行い、最も成績がよかった者を艦長にするというものだった。これには反対する者はいなかった。紫音の予想通り、鷹野は圧勝した。AIの判断も、鷹野と比べると他の者を艦長にすると、作戦成功率は十ポイント以上も下がるという結論を出した。これには誰も口出しできなかった。
こうして作戦の準備は整った。
密かに関係者だけで、やまと改の進宙式が行われた。初代にして最後、唯一の艦長の鷹野は、やまと改の艦体に艦番号を書き込んだ。「301+」だった。




