一日目、終了
その後、俺はアリハナに回復魔法をかけてもらいなんとか生きていた。
「それにしてもこの十年、お前は攻撃力にステータス振り続けてたのか?魔法職でこの攻撃力はすさまじいな。」
「ううん、私がステータスを上げ続けたのはほとんど魔力だよ?攻撃力はレベルアップで自然に上がった分だけ。」
「レベルアップって……。どれだけ上げれば魔法職でそこまでいくんだよ?十年前とはいえ、俺だってそれなりにステータスは高かったはずだぞ?」
「十年前って言ったらレベルの上限も100とかでしょ?今は999だよ?それにレベルが上がるにつれてステータスの上昇幅もどんどん大きくなっていくの。」
どうやら俺が思っていた以上に途方もないインフレをしていたようだ。
「そうだ。ねぇ、剣出してみて?」
アリハナがなにやらニヤつきながら俺に言ってくる。
「な、なんだよいきなり?」
先ほどの平手打ちのトラウマか、なんだかいやな予感が頭をよぎった。
「いいから。」
結局、俺はアリハナに押しきられる形で理由も分からず剣を手元に召喚する。
「うん、じゃあ構えて。しっかり握ってね?」
「……あぁ。」
もうどうせ俺が何を言っても止まらないのだろうと、諦めのような気持ちで剣を構える。アリハナに言われた通り強めに柄を握って。
するとアリハナは杖をこちらに向ける。
「リジェレ。」
魔法がかかると俺の身体は硬直し、指一本動かせなくなってしまう。
「お、おい!なんのつもりだ?」
俺の言葉を無視してアリハナは一歩ずつ俺に近づいてきて、俺が構えた剣の切っ先が喉元に届きそうなところで一度、立ち止まる。
「面白いの見せてあげるよ。」
そう言うとアリハナはなんのためらいもなく切っ先を喉元に押し付け、再び歩を進める。
「おい!なにして……。」
アリハナの行動に驚くのも束の間、今度はアリハナが涼しい顔をして前進し続ける姿に驚愕した。
俺の剣はアリハナの喉を貫くどころか、剣と一緒に俺の身体がジリジリと後退している。
「ふふ、驚いてる。じゃあ魔法を解くから思い切り突いてみてよ。」
そう言ってアリハナが指を鳴らすとかかっていた拘束の魔法が解け、身体が自由になる。
「さ、思い切りやってみてよ。」
喉元に剣を突き立てたまま、両手を広げて余裕そうなアリハナ。
「だ、大丈夫なのか?」
聞いてはみたものの、頭の中ではなんとなく分かっていた。俺のステータスと武器では、アリハナに傷一つつけることもできないのだろう。
「うん、遠慮はいらないよ。」
「……わかった。お前が言うんなら大丈夫なんだな?」
俺は右足と剣を引き、溜めを作る。
「いくぞ?」
そして覚悟を決め、アリハナの喉元めがけて思い切り剣を突き出す。
渾身の突きだった。
だがアリハナは微動だにしない。剣ももうピクリとも動かない。
剣がアリハナの喉を貫かなくて少し安心したが、それと同じくらいショックもあった。
「ふふん。どう?すごいでしょ?」
「あぁ。まさか十年の差がここまでとはな。アリハナ、お前も強くなったんだな。」
アリハナの喉元から剣を外し、無意識のうちにアリハナの頭をポンと叩く。
完全に当時の妹分のアリハナに接する感覚でやっていた。会社でこんなことしたらセクハラだなんだと言われかねないというのに。
アリハナだってもう大人なんだ、さすがに軽率だったか。
「あ、悪い。」
アリハナは頭を押さえ少し照れくさそうにしている。
「別にいいけど……。」
照れると唇をとがらせ、目をそらす様子は昔から変わっていなかった。
唇をとがらせながらボソリとアリハナがなにか言う。
「……次やったら燃やすかも。」
……いや、昔はそんなこと言わなかった。
「やめてくれ。」
少しの間のあと、二人で目を見合せハハハと笑い合う。インフレしようが何をしようがこれが俺たちのアスクロだ。
ひとしきり笑うとアリハナがなにかに気付いたように言う。
「そういえば、もう結構な時間じゃない?eRavnは社会人なんでしょ?明日も仕事だよね?」
社会人、仕事というワードで一気に現実に引き戻された気がした。
だが、確かにログインしてからずいぶんプレイしたと思う。やはりゲームというのは時間を忘れさせるものだ。
俺はUIを開き時間を確認する。
「え!?もう一時過ぎてるのか!」
さすがに予想以上だった。
「悪い、今日はここまでだな。アリハナも仕事とかあるだろ?」
それを聞くとアリハナは困ったような笑顔を作って答える。
「ううん、私は大丈夫。久し振りに楽しかったよ。」
「あぁ、アリハナがいてくれて助かったし久し振りに会えて良かったよ。また明日もいいか?」
「……本当に?」
「ん?」
俺には一瞬、アリハナの言葉の意味がわからなかった。
「本当に明日も会えるの?一緒にプレイしてくれるの?」
あぁ、そうか。本当にアリハナは十年間、独りで待っててくれたんだな。
「もちろん。サービス終了の瞬間まで遊び倒そうな。」
「うん。じゃあまた明日。」
「おう。」
そうして二人はそれぞれログアウトし、ゲームを終了した。




