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ログインするのは、終わる世界  作者: 出水 光希


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束の間、社会人

 翌日の朝、やはりどこか寝不足というか、身体の調子はいつも通りではない感じがした。

 

 あの後結局、ログアウトしてから夕飯を食べ、シャワーを浴びると寝るのは夜中の二時を過ぎてしまった。


 普段、二十二時には寝て朝は六時に起きる生活を繰り返している俺にとっては異例の夜更かしだった。


 もう三十歳。まだまだ若いつもりではいるが、二時まで起きていたツケはしっかり翌朝に回ってきた。


 昨夜のアスクロを思い出し、気だるいあくびをしながらいつもの電車に揺られている。


 シャチ兄は来ないんだろうか。


 会いたいな。俺があのゲームにどっぷりハマれたのも、ギルドのみんなに出会えたのもシャチ兄のおかげと言っても過言ではない。


 俺はスマホをポケットから取り出し、連絡アプリでシャチ兄の連絡先を探す。


 十年以上連絡をとっていなかったため簡単には見つからなかったが、トーク履歴のずっと下の方にシャチ兄とのトークが残っていた。


『シャチ兄、久し振り。年内でアスクロ終わっちゃうみたいなんだけど久し振りに一緒にやらないか?アリハナがめちゃくちゃ強くなっててウケるぜ。』


 メッセージを送信する。


 しばらく既読のつかない自分のメッセージを見つめたが、自分の降りる駅が近づいてきたのに気付き、スマホをポケットにしまう。


 その日の仕事はなかなか手に付かなかった。


 今日はアスクロで何をしようか、アリハナに何を教えてもらおうか。そんなことばかり考えていた。


 たまにキーボードを打つ手を止めてはスマホを開いてシャチ兄からの返信がないか確認したが結局、仕事が終わるまで返信はおろか、既読が付くことすらなかった。


 まぁ、当時のプレイヤー名も『社畜orca』なんてつけるぐらいだ。十年以上たった今、社畜が高じてきっとさぞかし忙しいのだろう。


 そう考えながら、手につかないなりにその日の仕事をこなすと定時五分前には帰る準備は万端で時計とにらめっこを始める。


 心の中で残り時間をカウントダウンし、十七時ちょうどに席を立つ。


 会社を後にすると、不思議と気だるさは消え去っていた。


 駅まで歩きながらシャチ兄とのトークを確認するがやっぱり既読はつかない。


 気長に待つとしよう。


 シャチ兄だけじゃない。他のメンバーは何をしているのだろうか。


 ゲーム内のチャットで事足りていたため、リアルの連絡先を知っているのはシャチ兄だけだった。こんなことならギルドのグループトークを作っておくんだったな。


 駅に着くと、仕事帰りのサラリーマンでごった返していた。


 ホームの列に並ぶと電車はすぐに来た。


 あとはこのぎゅうぎゅうの電車に揺られるだけ。


 車内で流れる広告を眺めながら改めてギルドメンバーのことを考えた。


 俺を含めて六人。


 アリハナにシャチ兄、のりすけ、Yuko。


 ……あとはデルタΔ。


 いろんなことをしたし、いろいろあった。


 一瞬ではあるがギルドバトルの国内ランクで首位に立ったこともあったっけ。


『銀翼の烏』といえばそれなりに有名だったと思う。


 まさかこんなに愛着のあるギルドになるとはまったく思ってなかったな。


 最初はシャチ兄とノリで作ったギルドだった。


 どうせなら楽しく。ギルド参加条件は東京近郊に在住していることのみ。オフ会でみんなに会えるから絶対それが良いとシャチ兄が決めたルールだ。


 結局オフ会をしたのは一回だけ。それが最初で最後だったっけな。


 念願が叶ったとシャチ兄は大喜びだったが。


 気がつくと電車が俺の降りる駅で止まった。


 よし、今日はちゃんと夕飯を食べて、シャワーを浴びてからゲームを始めるかな。

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