クエスト、開始
転送されたのは鬱蒼とした森林地帯のベースキャンプ。
かつて各フィールドのベースキャンプはプレイヤーでごった返していたが今となっては数名程度だ。
「どう?懐かしいでしょ?」
アリハナは先に転送されたらしくまたもや俺の背後から声をかけてくる。
「あ、あぁ……。たしかに懐かしいは懐かしいけどこのクエストに特別何かあるってわけでは……。」
「ふーん。まクエスト終わるまでに思い出してくれればいいや。ほら、行くよ!」
そう言うと杖の先で俺の尻を小突く。
「なんだよ、教えてくれないのかよぉ。」
結局アリハナのペースに巻き込まれてクエストが始まった。
まぁいい、緑翠竜の攻略なら何度もしてきた。
この森林地帯を抜けたところにある小高い丘のてっぺん。そこに緑翠竜の巣がある。
アリハナには悪いがここでの思い出を思い出せる気もしないからサクッとクリアしてしまおう。
そうして俺は丘を目指してまっすぐに歩く。
アリハナは俺の後ろからただ着いてきた。
「ねぇ、武器出しとかなくていいの?言っとくけど思い出してくれるまで私は手出さないからね?」
なんてこった。思いのほか徹底している。
まぁ、でもこの程度のクエストなら俺一人でもどうとでもなる。
だがさすがに武器ぐらいは出しておこう。
「剣よ。」
小さい声で呟くように言い、手を前に出す。
すると目の前の空間に紅い刀身の剣が現れ、俺はそれを握る。
剣士として腰に剣をぶら下げていてもいいのだがあまりにも鬱陶しくて俺はこのスタイルが好きだった。
「おぉ、これこれ!久しぶりだなぁ、この感じ。」
上級フィールド、煉獄の淵に生息するドラゴンを何度も周回してやっと作った剣。
これを持っただけで煉獄の淵の周回に付き合わされたギルドメンバー達の嫌そうな顔が次々に思い浮かんでくる。
俺は手に持った剣を舐め回すようにいろんな角度から眺める。
それを見たアリハナが呆れたように一つため息をつく。
「はぁ。あんまりよそ見すると危ないよ?」
「大丈夫だっ……。」
俺の言葉を遮るように突然目の前の景色が右側に吹っ飛んでいく。
いや、吹っ飛んだのは風景じゃない、俺だ。
気がつくと俺は木の根本に横たわっており視界の右側がうすら赤くなっていた。
「な、なんだ!?アリハナ!?」
「もう、だから言ったのに!」
アリハナの声の方を見るとそこには小型の熊型のモンスターがいた。
俺はこいつに攻撃されたのか?
こんなザコモンスターが生意気に。
少しイラッとして立ち上がり剣を振りかぶってモンスターの方へ走る。
「おらぁっ!」
そのまま力のままに一刀両断した。
「ビックリしたなぁ。」
「でも今のでちょっと分かったこともあるんじゃないの?」
「あぁ、攻撃を受けたのに痛みを感じなかったな……。」
当時は攻撃を受けたらそれなりのリアルな痛みを感じていた気がするが、今は全くなかった。
そのせいで攻撃を受けたことにすぐ気付くことができなかった。
「それね、五年くらい前かな?新規プレイヤーが増えないからって、痛覚情報を完全にカットするアップデートが入ったんだよ」
「はぁ?なんだそれ?」
この手のゲームは痛みがあるおかげで上達するし、一つの醍醐味のようなものだと思っていたが。
俺のリアクションを見てアリハナはケタケタ笑っている。
「ね!おかしいよね!このアップデートで新規プレイヤーどころか既存のプレイヤーまで減っちゃって、アスクロのオワコン化が一気に加速したんだよね。一部ではアスクロ史上最悪のアップデートって言われてるんだよ。」
俺の知らないところでアスクロはずいぶん変わっていたらしい。
きっとこの変化だって俺の知らないアスクロの一部に過ぎないんだろう。
胸の奥底にわずかな寂しさのようなものを感じた。




