なんか、違う?
「……ま、しょうがないな。慎重に進むしかない。」
アリハナは再び、呆れたように大きくため息をつく。
「はぁ。昔もそうやって何度もトラップに引っかかってたよね?ほんと慎重にだからね?」
アリハナに釘を刺され、辺りをキョロキョロと見渡しながら二人で並んで奥へと進む。
遺跡内には俺たちの足音や声以外の音がしなかった。
真っ直ぐ進んで五つ目の松明。ここにはトラップがあると記憶している。しかし、困ったことにトラップのトリガーや解除方法が分からない。
アリハナもトラップの記憶があるらしく五つ目の松明の手前で二人同時に止まった。
「ここ、トラップあったよな?」
「うん。でも解除方法分かんないでしょ?」
距離にしたら入り口から五十メートルほど。既に行き詰りの香りがプンプンとしてきた。
「どんなトラップだっけか?序盤だからそんなハードなの来ないよな?」
「まさか突っ込もうとしてる?」
「…………あぁ。突っ切れたら突っ切れたでラッキー。通れなくても何かの足しにはなるだろ?シーフがいないとクリアできないダンジョンなんてゲームの設定的にどうかと思うしな。」
俺はそれ以上アリハナの言葉は聞かず、五つ目の松明の間を勢いよく通り抜けた。
一瞬、全身クモの巣にでも引っかかったような気持ち悪さを感じた。
「あつっ!!」
次の瞬間、俺がいたのは先程までいた砂漠だった。目の前にはまたインシディアエ遺跡がそびえる。
初っ端に転移トラップだったっけか?記憶はあやふやだが、何にしても遺跡の入り口まで戻される程度のもので助かった。
『ピロン』
通知音がなり、通知を開くとアリハナからのメッセージだった。
『アリハナ:どこまで飛ばされた?』
『eRavn:遺跡の外まで。すぐ戻る。』
戻ったらアリハナに怒られるんだろうな。
『eRavn!何度言ったら分かるんだ!僕がトラップの解析するのを終えるまで僕より前には出ないでくれ!』
きっとデルタΔだったらこんな風に言うんだろうな。記憶の中のデルタΔも俺に説教をしている気がした。
俺は再び遺跡の中へ足を踏み入れアリハナと合流する。腕組みをして不機嫌そうなアリハナが俺を迎えてくれた。
「で、反省は?」
「してます……。」
「あんな無茶してなんか収穫はあったの?」
俺は顎に手を当て、転移時のことを思い返す。
「あ、ヒントになるか分かんないけど、なんかクモの巣に引っかかったような感じしたな。」
それを聞いてアリハナはブツブツ何か呟きながら考え始める。
「クモの巣……。転移……。…………あ。」
何かに気づいたアリハナは松明の方へ振り返ると杖を前方に構える。そして魔力をこめ始める。
「危ないからそこにいてね。えいっ!」
その声の直後、一瞬にしてアリハナの前方一帯が深紅の炎に包まれる。距離をとって見ていても溶けてしまいそうなほど熱く、激しい炎だ。
すると天井から何かがぼとりと落ちてくる。それは真っ黒に焦げたクモのようだった。
「……クモ?それがトラップに関係してたのか?」
「迷子蜘蛛だよ。目には見えない巣を張って、少しずつ魔力を奪いながら対象を転移させる魔物だよ。」
迷子蜘蛛……どうにもピンとこない名前だった。それに、このダンジョンの最初のトラップがこんなトラップだったかもいまいち記憶と合致しない気がする。
「迷子蜘蛛なんて昔からいたか?どうにも俺の記憶にはないんだけど。」
「なに言ってんの?こんなの昔から……。」
アリハナが一瞬固まった。
「……いないかも。そんなに新しいモンスターでもないけど七、八年ぐらい前に登場したモンスターだったかもしれない……。」
もう俺にはその言葉の意味が分かってしまった。
「もしかして、このダンジョンもアップデートされてるのか?」
俺たちは静かに顔を見合わせた。




