インシディアエ遺跡、開始
俺は街で回復アイテムやサポートアイテムを揃えて待ち合わせ場所へ戻った。ドローンを買ってすっからかんになっていた俺の財布だったが、アイテムボックスの中の宝を売ったらまとまったお金ができたのだ。
このお金があれば武器だって防具だって今よりずっと強いのが買える。あれだけ苦労して作った装備一式も今では武器屋で買える装備よりも弱い。悲しいがこれが時の流れなのだろう。しかし、俺はあえて今の装備のままで挑みたい。ダンジョンの難易度は昔のままなのに俺だけ今の基準に合わせてしまったらダンジョンに申し訳が立たない。
なんてのは詭弁だが、今の装備でどうにかなるうちは使い慣れた今の装備がいい。それだけだ。
噴水広場に約束の時間ちょうどに着くともう既にアリハナがいた。
「悪い、待ったか?」
「ううん、よく考えれば別に今さらインシディアエ遺跡程度で揃えなきゃいけない準備なんてないと思ってここにいたの。」
なんとも頼もしいことだ。たしかに今のアリハナなら十年も前のダンジョンぐらい余裕なのだろうな。
「よし、じゃあ行くか!インシディアエ遺跡まで……移動魔法!」
俺とアリハナは光に包まれ、視界が真っ白になった。
——次の瞬間にはオーブントースターの中にでも放り込まれたようだった。
空気は渇き、太陽が骨の髄までその熱を伝え、一面の広大な砂漠は反射鏡のように熱を跳ね返し、足下からジリジリと身体を灼いた。
振り向けば、石造りの荘厳な佇まいでインシディアエ遺跡が「来るなら来い」とでも言わんばかりに堂々と立ちはだかる。
「ねぇ、早く入ろうよ。こんなとこ暑くていつまでもいらんないよ。」
アリハナは帽子を脱いでパタパタと扇いでいる。着いたばかりだというのにもう暑さで辛そうだった。
「あぁ、久しぶりのこの暑さはさすがに堪えるな。移動魔法が使えてよかったよ。この砂漠を横切るのはもう考えたくもないな。」
実際、まだ移動魔法が使えなかった時にはこの暑さのなか、地図を頼りに砂漠を横切ってここまで来たものだ。楽しい冒険の裏には辛い時間も同じだけあるということだ。
俺とアリハナは遺跡の中へ歩を進める。さっきまでの石畳の地面とのギャップもあり、砂の地面は異様に歩きづらく感じた。
遺跡に入ると外の暑さからは想像できないほどひんやりしており、微かにカビやら苔のような臭いが漂う。
そして入るとすぐ、終わりの見えない真っ直ぐな道が壁の松明によってうっすら照らされていた。松明があっても薄暗く、視界良好とは言えなかった。
「懐かしいな……。」
「灯りを出す魔法。」
アリハナの杖の先が光り、辺りが明るくなる。
「あのなぁ、人が懐かしさに心を打たれてる時に風情のないやつだなぁ。」
「当時もこうやって私が照らしてたでしょ?むしろ懐かしむべきはこうやって照らされた遺跡と、献身的にこの明かりに魔力を使い続けてる私じゃないの?」
たしかに、言われてみれば当時もアリハナがこうやって明るくしてくれていた……気がする。きっと当時の俺はダンジョンに夢中でそこまで見えていなかったのだろうな。
「悪い悪い。照らしてもらって助かるよ。」
俺はアリハナの肩をポンと叩き目の前の真っ直ぐの道に足を踏み入れる。
「待って!」
それを止めたのはアリハナだった。いきなり大声を出して俺を制止する。
「な、なんだよ、いきなり……。」
「eRavn、あなたシーフのスキル持ってる?」
その言葉で衝撃が走ったようだった。
このトラップだらけのダンジョンでトラップを探しだし、無効化できるのはシーフだけだ。無論、剣士の俺は罠探索も罠破りもスキルを持っていない。
「も、持ってない……。」
はぁとアリハナは頭を抱えた。
「ごめん、私も持ってない。こういうときはデルタΔに頼りっきりだったもんね。」




