4 大人
その重たく息苦しい雰囲気の中、口火を切ったのはアリスだった。
「先程、ソフィアさんには名乗らせていただきましたが、私は宇宙連盟共同軍・探査部・第2軍隊所属のアリス・ステラ・オービットです。宇宙、というのは空ほぼ同じだと考えてもらってかまいません。この宇宙にはこの惑星を除いて主要惑星が37、それらの惑星に属する準惑星が207あり、合わせて244の惑星全てが宇宙上の秩序を守ること目的とした<37惑星宇宙同盟>に加盟しています。私はその<37惑星宇宙同盟>が所有する共同軍所属で、主に宇宙の探査を行っています。本日は乗っていた機体がこの惑星に墜落したところに少年と出会い、話をするうちに<37惑星宇宙同盟>を知らないと聞きました。いきなり質問をしてしまい申し訳ないのですがそれは本当でしょうか。」
アリスの質問にミハイルとソフィアは軽く目を合わせた。そして、ソフィアが緩く横に首を振った。
「<37惑星宇宙同盟>?聞いたこともないわ。そもそも、私たちは宇宙って言葉の意味自体あまり知らないの。あの子が先生に教わったみたいで言葉を聞いたことあるだけなのよ。ねえ、ミハイルさん。」
ミハイルはしかめ面で頷くだけであった。
「やはりそうですか・・・。おそらくここは同盟が未発見の惑星だと思われます。まだ、同盟が見つけていない惑星があっただなんて信じられません。ところで、先生とはいったい何者なのでしょうか。宇宙を知っているということは同盟のことも知っているのではないかと思うのですが。」
「先生?それが私たちにもよくわからないのよ。少し前にあの子が突然拾ったっていって丸い機械を持ってきて、そしたらその機械がしゃべるの!そのあともずっとあの子その機械にいろいろと教わっていたようだけど、突然なにも喋らなくなったんですって。おそらく、毎日あの子が隠し持っているから明日聞いてみましょうか。ごめんなさいね、あんまりお役に立てなくて。」
ソフィアはもとから下がった眉をさらに下げ、心から申し訳なさそうな顔をした。その顔を見てアリスが慌てる。
「いえ!重要な情報ばかりでした。先生については少年に明日聞いてみますし、泊まらせていただくだけでもありがたいのに、夕食までもらってしまって。急な質問にも快く答えてくださり、本当にありがとうございます。」
アリスはそう言ったあと、少し顔を曇らせてさらに口を開いた。
「ですが、この惑星が同盟に加盟していない以上私はおそらく宇宙に戻る手段がありません。質問ばかりで申し訳ないのですがこの惑星に町などはありますか?物を売れる場所もあると嬉しいのですが。」
その問いに答えたのは今まで一言も言葉を発さなかったミハイルであった。
「そんなものはありはしない。町どころかこの惑星にある建物はこの家だけだ。」
それを聞いてアリスはぎょっと目を見開いた。
「この家以外、建物がない・・・?それはどういうこと、でしょうか・・・。」
「家どころか人ももういない。この惑星にいるのはここの家の住人だけだ。」
「この惑星に3人しか住んでないということですか・・・?もしかして、あなたがたも私と同じようにどこかからやってきたのですか・・・?」
アリスは顔に困惑を隠しきれなかった。少年とともに少し惑星を歩いたが、それだけでも3人で住むような小ささではないことがわかったからだ。食事をみるにも、食糧難にあえいでいる様子もなく、あまりに信じがたいことだった。そんなアリスの顔を真剣なまなざしで正面から見つめながらミハイルが言った。
「<夕暮れの逆風>だ。」
「<夕暮れの逆風>?それはどういったものなのでしょうか。」
「・・・。かつてこの惑星は、数々の町があり多くの人がくらしていた。だが、あるときの夕暮れ、普段の風とは真逆の方向に風が吹き荒れた。そして、その風が吹いたあとに地面から黒い粘液が噴き出し、それがあたりの人も、建物もすべて飲み込んでいったんだ。無事だったのはプログーの森とその横にあるこのあたりの草原だけだ。いまだにこの惑星はほとんど住める状態じゃない。<夕暮れの逆風>は伝承としてはあったがここまでのものとはだれも思っていなかったさ。」
「ミハイルさんが無事だったのはこの森の番人で元からここに住んでいたからなのよ。私はミハイルさんに庭で取れた木の実をおすそ分けしようと思って、孫であるあの子とこっちに向かっていたの。今でも夢にみるわ。珍しく逆風が吹いたと思ったら、抱いていたあの子に肩をたたかれて後ろを振り返ったの。そしたら、黒いどろっとしたものが人も建物も全てをのみこんで・・・!そのあとはこの子だけでも守らなくちゃって思って必死に走ったけれど、本当に守れてよかった・・・!」
ソフィアは少し興奮した様子で目にうっすらと浮かんだ涙をぬぐうと、少し立ち上がって座り直し、今までとは一変した固い表情でアリスのほうを向いて言った。
「アリスさん、さっき言っていた話したいこととはこのことが関係しているわ。聞いてくれる?」
アリスは真剣なまなざしでソフィアと目を合わせるとゆっくりとうなずいた。それを見て、ソフィアは嬉しそうに、そして、覚悟が決まったような笑みを浮かべると、口を開いた。
「もしも、もしもだけれど、いつかあなたが宇宙に帰れる日が来たら、あの子を一緒に別の惑星に連れて行ってくれないかしら。」




