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オンリープラネッツ  作者: 星塚もぐら
第1章 新惑星
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4 ソフィアとミハイル


「<夕暮れの逆風>?」


アリスは先程の疑問だらけの様子を一変させ、何か納得のいく説明がわかるのだと、ミハイルの真剣なまなざしに同じようなまなざしを返した。


「・・・。かつてこの惑星は、数々の町があり多くの人がくらしていた。だが、あるときの夕暮れ、普段の風とは真逆の方向に風が吹き荒れた。そして、その風が吹いたあとに地面から黒い粘液が噴き出し、それがあたりの人も、建物もすべて飲み込んでいったんだ。無事だったのはプログーの森とその横にあるこのあたりの草原だけだ。いまだにこの惑星はほとんど住める状態じゃない。<夕暮れの逆風>は伝承としてはあったがここまでのものとはだれも思っていなかったさ。」


かみしめるようにミハイルが語る。その言葉をソフィアが引き継いで、さらに当時について語り始めた。


「ミハイルさんが無事だったのはこの森の番人で元からここに住んでいたからなのよ。私はミハイルさんに庭で取れた木の実をおすそ分けしようと思って、孫であるあの子とこっちに向かっていたの。今でも夢にみるわ。珍しく逆風が吹いたと思ったら、抱いていたあの子に肩をたたかれて後ろを振り返ったの。そしたら、黒いどろっとしたものが人も建物も全てをのみこんで・・・!そのあとはこの子だけでも守らなくちゃって思って必死に走ったけれど、本当に守れてよかった・・・!」


ソフィアは少し興奮した様子で、目にうっすらと浮かんだ涙をぬぐう。泣いたことをうっすら恥じらうように少し立ち上がって座り直し、今までとは一変した固い表情でアリスのほうを向いて言った。


「アリスさん、さっき言っていた話したいこととはこのことが関係しているわ。聞いてくれる?」


アリスは先程まではミハイルに向けていた真剣なまなざしでソフィアと目を合わせるとゆっくりとうなずいた。それを見て、ソフィアは嬉しそうに、そして、覚悟が決まったような笑みを浮かべると、口を開いた。


「もしも、もしもだけれど、いつかあなたが宇宙に帰れる日が来たら、あの子を一緒に別の惑星に連れて行ってくれないかしら。」



ソフィアはアリスの様子を伺いながらさらに言葉を続ける。


「今の話から分かるとは思うけど、もうこの惑星に将来はないわ。新しい人間の命が誕生することもないし、私たちももう長くない。私たちが死んだら、あの子は死ぬまでこの広大な惑星で独りぼっち。あなたには本当に悪いけれど、私はあなたが来て心の底から安心した。あの子が独りぼっちになるまでの期間が長くなったと。でも、私はあの子にはいろんなことを見てほしい。いろんな人と出会い、別れ、成長していってほしい。そのためにはこの惑星からあの子がでていくしかないの。あなたが来る前から考えてた。あなたが言うようにもう宇宙に帰る手段はないのかもしれないけれど、もし、もし宇宙に行けるのであれば、あの子と一緒に行ってちょうだい・・・!」


最後のほうはかろうじてでたような声であった。ソフィアが言葉を言い終えるとあたりは静寂に包まれた。言葉を返すべき人物であるアリスは何も言わなかった、いや、あまりの重さに何も言えなかったが正しいだろう。自身でさえ帰れないかもしれない身で軽々しく何か言えるような話ではない。しかし、本人の性格であろうか。長い沈黙と期待するような眼差しに耐え切れず、すぐにゆっくりと口を開いた。


「その話については、私個人がおいそれとは簡単にうなずける話ではありません。しかし、この惑星の存在を私が軍に報告すれば、この星は同盟の管理下におかれ、住民は宇宙上における自由が確立されます。その時に本人の望むのであればこの惑星外に居住することも可能と思われます。そして、私もその時が来れば、できるかぎり彼の力になることを約束いたします。」


ソフィアの言葉にうなずくことはアリスにとって軽いことではない。悪しきようにいえば、アリスがヒューという重荷を背負うということだ。だが、アリスは今、完全にではないが頷いた。アリスはソフィアはその言葉を聞いて今までこらえてきたものが噴き出すかのようにわっと泣き崩れた。ソフィアもこの願いが軽いものではないとわかっていたのだ。


「ありがとう・・・!その言葉だけで十分よ・・・!」


ソフィアは涙をぬぐった。そして、何事もなかったようにまたアリスに話し掛ける。


「ごめんなさいね、急に取り乱してしまって。さっきの言葉を聞けて安心してしまったの。先程の宿の話はアリスさんは泊まるところを探しているのよね?だったら、私たちの家に住んではどうかしら。ミハイルさんもいろいろとアリスさんと今の宇宙について話したくてたまらないでしょう?まあ!でもよくよく考えればこの建物以外今はないのだからしばらくは住むしか選択肢がないわね。」

「それはありがたいのですが・・・、今の宇宙について話したいとは?あなたがたは宇宙を知らないのでは?」


アリスは2人を疑うような顔で見た。もしかしたら、自分は騙されているのかと疑ったのだ。騙されているなら宇宙に帰ることができるのではないかという少しの期待もあった。しかし、その淡い期待を裏切るようにその質問にミハイルが答えた。


「宇宙について知らないのは確かだ。・・・。お前さんはさっきこの惑星に墜落してきたのか、と聞いたな?それは少しだけ正しい。落ちてきたのは私だけだ。42年前にな。」

「42年前?そのときは同盟すらなかった・・・。そしたら、なぜ?この惑星にたどりつくことに?宇宙探査はまだきちんと行われていないはずです!あの帝国すらまだできるまえで・・・。まさか!」


アリスがはっと驚いた顔をする。1つだけ思い浮かぶ方法があったのだ。しかし、その思いついたことは自分で思いついたにも関わらず信じがたいことであった。違うといってほしそうなアリスの目を見ながらミハイルはまたもその期待を裏切る。


「ああ、そのまさかだ。当時宇宙、いやあの時は宙海(ちゅうかい)と呼んでいたが、そこに行くにはおそらくお前さんが思っている一つしか方法がなかった。」


それを聞いてアリスは納得しているようで怪訝そうな顔を見せる。ただ、好奇心を抑えられないといわんばかりにミハイルに質問する。


「やはり<氷刑(ひょうけい)>ですか・・・。確かに、当時の帝国成立前のあの国では多くの<氷刑>がなされたとは聞きましたが、まさか惑星に生きてにたどり着くことがあるとは。・・・不躾な質問ですがあなたは当時やんごとない身分だったのでは?<氷刑>は人を全身凍らし、単独ポットにいれて宇宙に流す性質上、はっきり死刑にできない方々に行われていたはずです。」


ミハイルは惑星を襲った災害を語った時と同じように少し遠くを見つめ、何かを思い出すような表情をした。その顔はアリスには安堵しているようにも、後悔しているようにも見えた。アリスが好奇心があふれる目でミハイルを見つめると、少し観念したかのように口を開いた。


「・・・。大した身分でもなかったさ。ただ、少し事情が複雑だっただけだ。」


その言葉からはそれだけでないこと明確だった。しかし、ミハイルが積極的に話さない以上これ以上深く聞くのはよくないだろうと思ったアリスは名残惜しそうにミハイルの過去から話をそらした。


「・・・そうですか。だからですね。先程から全自動翻訳システムにあまり齟齬が感じられなかったのは。あなた方の言語にとっておそらく初めてでるであろう言葉を多く使ったのに今回は翻訳の異常というか、なんというか、気持ち悪さがありませんでしたし、ソフィアさんがほかの惑星の存在を知っていたような口ぶりでしたので、少し違和感を感じていたところではありました。ソフィアさんも少年もあなたがかつて使っていた言葉に少し引っ張られていたんですね。」

「今はそんなものがあるなんて便利なものだな。まあ、私がここへ来る以前から似た言語ではあったようだから何かそこには関係があるのかもしれないな。・・・そうか、帝国はできたのか。お前さんにいくつか聞きたいことがある。いくつか聞いてもいいか。」

「もちろんです。わたしこそ当時について聞きたいことがたくさんあります。ミハイルさんは先程の少年に別の惑星から来たことを言ってないのですね?それで~」


それからはどこか夜特有の何かにじみ出るような温かさの中で話が続いた。2人は多くのことを質問しあい、ときどきそれにソフィアが加わった。ミハイルは過去をほとんど話さなかったが、ときどきアリスがミハイルの過去と関係ない昔のことを聞き、ミハイルもそれに答えた。そして、あまりに時間がたち、全員に眠気が襲ったことで3人の話し合いはお開きになった。ソフィアはアリスを部屋に案内し、アリスはその部屋にあった温かみのある小さなベッドに横になった。そのときには、もうアリスには不時着したばかりの時の恐怖や焦りがほとんどなくなっていた。悲しみはまだ残っていたが、希望はまだある。アリスは穏やかで安心する気持ちに包まれて夢の中に旅立っていった。


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