3 来訪
「もう、長い間帰ってこないから何かあったのかと思って心配したのよ。そして、うちゅうじん?まあ、また先生から習った新しい言葉ね。よくわからないけど客人ってことでいいのかしら。」
「あ!そうだった。宇宙って言葉自体僕と先生しか知らないんだった。たぶんお客さんであってるよ!この人、あ、えと、アリスさん、空から降ってきた物体から出てきたんだ。なんか、大人の人と話したいんだって!」
「あらあら!ついにりゅうせい?が起こったのかしら。もう、先生にあってからしょっちゅう見たい!見たい!って言っていたものね。」
そして、ソフィアは一目で働き者だとわかる手で家の扉を開いて、柔らかな笑みを浮かべ、アリスのほうに体ごと向けて、また、口を開いた。
「お嬢さん、私はソフィアといいます。お話したいことがあるんでしょう?もうすぐ夜になってしまうから、どうぞおあがりなさい。大したものではないけど、食事もだせるわ。いるかしら?」
アリスはさきほどのヒューの叫びから2人の会話までを、少し呆然として聞いていたが、ソフィアに話しかけられ、はっとした後、元から吊り上げられたように延びた背筋をさらに吊り上げ、張りのある声をあたりに響かせた。
「なんと!しばらく食事をとることができていなかったのでいただけると嬉しいです。歓迎に感謝いたします。私は宇宙連盟共同軍・探査部・第2軍隊所属、アリス・ステラ・オービットです。流星でも宇宙人でもないのですが、宇宙空間、いえ、空中を飛んでいたところ、不慮の事故により、この惑星に緊急着陸いたしました。いくつかお尋ねしたいことがあるのですがお尋ねしてよろしいでしょうか。」
「もちろんよ、私たち三人以外の人をみるのは久しぶりだもの。私たちが答えられることならいくらでも答えるわ。家にはもう一人いるのよ。不愛想でわかりにくいけどきっと来客を喜ぶはずだわ。」
こうして、ソフィア、アリス、ヒューは並んで扉をくぐり、家の奥の部屋へと進んだ。そこには、ソフィアの手入れした狩りの道具を真剣なまなざしで見つめるミハイルがいた。ミハイルは来客に気づくとゆっくりと顔を上げ、鋭い眼差しでこちらをみた。
「ミハイルさん、こちら空からいらっしゃったアリスさんよ。私たちになにか聞きたいことがあるそうで。今日はもう夜遅いしうちに泊めるわね。」
「ああ、それはかまわない。だが、なぜ、そちらの客人は思いつめたような顔をしているんだ。」
そうミハイルがアリスに尋ねると、アリスは少し言いづらそうにに答えた。
「今日泊まらせてもらえるのは嬉しいのですが、これからどうしようかと思っていました。おそらく、私には空に帰る方法がありません。今後について思案していたのが顔に出てしまっていましたか。私もまだまだですね。」
その少しおどけるような返答にミハイルはかすかに目を細めるだけで、また、狩りの道具に目線を向け始めた。それから漂う妙な緊張感を無理やり、追い払うかのようにソフィアが普段より明るい声で声を出した。
「まあまあ、それらのことはアリスさんが質問したいことを聞くときに聞きましょう。アリスさん、おなかがすいているでしょう?すぐに持ってくるからそこに座っていてね。」
そうしてソフィアが手前の部屋に行こうとしたそのとき、今まで座って静かに3人の話を聞きながら目が閉じかかってたヒューが立ち上がり目を開いて叫んだ。
「ソフィアさんのご飯はめちゃくちゃおいしいんだよ!」
しかし、よほど眠かったのであろう。すぐに座り込み、皆の視線の中、すやすやと夢の世界へ旅立っていった。その姿を見てミハエルはゆっくりと立ち上がると、ヒューを抱きかかえて寝室がある二階へのぼっていった。
「あらあら、よっぽどアリスさんに会えて嬉しかったのね。今日は今までに見たことないくらい興奮していたもの。アリスさん、よければ明日この子と会話してくれないかしら。たぶん、いろいろ聞きたいことがあると思うの。」
「少年ともそう約束しましたし、もちろんです。こちらこそ、今日はいろいろとありがとうございます。」
「これくらいいいのよ!じゃあすぐに持ってくるわ。あと、ミハイルさんが下りてきたら私たちも話したいことがあるの。あなたが質問するときに話すわね。」
そうして、ソフィアが手前の部屋から奥の部屋へ食事を持ってきて、アリスは食事を始めた。2人の間にはさっきと打って変わって穏やかな空気が流れていたが、2人はこれから話すことの核心にせまるような話は一切しなかった。それは、互いにこれからの話が自分たちの運命を変えるものだとうっすらわかっていたからかもしれない。そして、その話の始まりを告げる足音が聞こえたのはアリスの食事のソフィアが後片付けを終わらせて少し経ったときだった。そのままミハエルはソフィアの隣でも、正面でもない位置、端的に言えば、アリスの正面の位置へと座り、自身の大きな手を机の上へと置いた。すると、先ほどの穏やかな空気が噓のように、3人の周りには再度、重たく息苦しい空気が漂い始めた。




