37 大公
「ふむ。うまくいったようだな。」
アレクサンドル・デ・ゴルーチェ、貴族大国<アリスト>史上初の大公となった男は満足げに笑っている。横からかつかつという音とともに女が歩いてきた。
「おめでとう、アレクサンドル。祝いにどうかしら。」
女の手には2つのグラスと赤ワインのボトルが握られていた。
「せっかくだからいただこう。ノルノワンネ夫人。」
「あらやだ。もう忘れたの?私は今日からゴルーチェよ。」
「そうだったな。すまない。頭では分かっていたんだが・・・。」
「ふふ、、ひどい人ね。せっかく私が嫌いな赤ワインでお祝いしてあげようと思ってるのに。」
たおやかな手でグラスに赤ワインを注いでいく。
「何に乾杯するのか決めてくれる?」
「そうだな・・・。ここはおとなしく。<アパテイア>の滅亡に乾杯。」
カンっという子気味良い音とともに2人は赤ワインをあおる。
「おとなしくと言いながらずいぶん大きいことに乾杯したわね。どうせなら貴族大国<アリスト>初の大公となったことに乾杯すればよかったのに。」
「まあ、かつてこの国にも国王がいたからな。大公ごときで乾杯するのもどうかと思ってな。」
ノルノワン夫人、もといゴルーチェ夫人はグラスのふちについた口紅をなんてことないようにぬぐうと、退屈そうにつぶやいた。
「でも、この計画に成功以外ありえないでしょう?どれだけこの計画にあなたが時間をかけていたのか知らないわけじゃないわよ。」
「それはそうだが、今回はイレギュラーが多くてな。あの<未踏の天才>やらライオネルトやら、やはり全て計算通りとはいかないものだ。」
「当たり前でしょう?でもそのイレギュラーを全てものにしてしまったじゃない。」
「ふん、同盟はやはりおろかだ。英雄を切り捨てるのがどれだけ愚策だったのかも分かっていないようだしな。しばらくおとなしいだろう。」
大公はグラスに自分で赤ワインをなみなみ注いでいく。
「あの子ね・・・。私結構好きだったのだけど。」
「まあ、さすがに同盟も役職はく奪だけなようだが。」
「同盟内の誰かに陥れられたってことね。」
「そうだろうな。やはり何事も大きすぎるのはよくない。」
「あら?そう?」
ゴルーチェ夫人が蠱惑的に大公を見つめる。
「あなたの意見は違うのか?」
「うーん、そうねえ。まあ、大きくなりすぎた後の儚さは好きよ。ふふ、なんだか矛盾してることを言っているようだわ。ところで、噂の天才君はどうするの?あまり派手な活躍していないようだけど。」
「天才はひとまず様子見だ。アリスの後ろ盾も消えたあいつにできることは少ない。」
「ライオネルトとアナスタシアは?」
「ライオネルトはあのまま軍のトップまで上り詰めてもらう。アナスタシアはいい旦那をさがすさ。」
「そう・・・。」
その時ノック音が聞こえた。
「大公。少しよろしいでしょうか。」
「ん?その声は・・・。入れ。」
「は、一つお尋ねしたいことがあるのですが<アパテイア>の住民は皆殺しじゃなくてよろしいんでしょうか。指示通り各地域にある程度の人口を残しましたが・・・。」
「それだけか?」
「はい。」
「そうか。その指示は間違えていない。」
「了解いたしました。失礼いたします。」
大公の補佐はきびきびと帰っていった。
「いいの?生き残りなんて作ってしまって。」
「いいのさ。それがこの惑星のためになる。どうせ内乱するばかりさ。」
「本当に?もしかしたら帝王のような人物が現れるかもしれないわよ。」
「それならそれで。もし帝国がまたできかけたらもう一度潰すさ。」
「ふふ、ひどいわね。」
「この星のためさ。」




