33 対照的
「失礼いたしました!」
「ご苦労、それでは。」
ライオネルトは部屋に入ってくる。そのまま椅子に座るが、椅子の横にはクマのような男と少し神経質そうな細身の男が立っていた。
「さすがですね。下々の者の気持ちもよくわかるようで。優しい上司をもってあいつらも嬉しいでしょう。」
クマのような男がライオネルトに向かって嫌味たらしく話し掛ける。それを横に立っている細身の男がいさめた。
「やめろ、イワノフ少佐。不敬だ。我々の立場が何なのか忘れたのか。」
細身の男がクマのような大男、イワノフをいさめる。そんなザンダーを見てイワノフは不遜気にふんと鼻を鳴らした。
「補佐でしょう。分かっておりますともザンダー大佐。でもよお、正直どう思ってんです?ライオネルト少将。こんな立派な船までもらっちゃって少しばかり気が重たいんじゃないですか?」
「貴様!これ以上いらん口を利くなら上に報告するぞ!」
ライオネルトがゆっくりと目をイワノフの方に向ける。
「イワノフ。俺の気持ちが聞きたいのか?それなら教えてやろう。」
そして、立ち上がるとイワノフの目の前まで近づいた。
「光栄、の一言だ。お前もよく励め。ザンダー大佐、のようにな。」
「承知、いたしました・・・!」
イワノフが悔し気に口をかみ敬礼する。この言葉はイワノフにとって屈辱であった。軍人としてザンダーの能力が有能であることは認めるもののイワノフの能力も負けず劣らずの自信があった。しかし、イワノフが少佐から上に行けないのは貴族の血が薄すぎることが原因である。励もうと変えられない部分であった。
ライオネルトが満足げに座る。
「もう2人とも去っていい。一斉攻撃まで休息をとれ。」
ライオネルトが振り返らずに言い放つ。
「しかし・・・。ライオネルト少将も休まれてはいかがでしょうか?」
気を使ってザンダーがライオネルトに声をかける。
「俺はいい。」
「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
そのままザンダーが出ていくと後に続くようにイワノフがライオネルトを睨みながら部屋を出て行った。2人は廊下を歩きながら喋りだす。
「イワノフ。煙草いるか?」
「ああ、くれ。ザンダー。」
2人は年齢差があるように見えて学園が軍人を輩出する要素を担う前に存在した共同軍人養成学校の同期であった。イワノフが煙草に火をつけながら苦々し気につぶやく。
「あの小僧・・・。俺を馬鹿にしやがって。」
「まず挑発したのはお前の方じゃないか。やりすぎると私はかばわないぞ。」
ザンダーも火をつけてつぶやく。
「ま、それはそうだけどよ。ただやっぱむかつくじゃねえか。ほとんどのやつがさ同盟での共同軍の役職か国の軍の役職のまま今回の特殊軍の役職に就いたっていうのに、あいつはいきなり少将だぜ?俺たちの上を行きやがった。どうせ今後この特殊軍がこの国の正規軍になるんだろ?」
「それはそうだが、仕方がないだろう。公爵、いやもう大公か?まあそれはいい。その大公様の命だ。俺たちもあいつもどうこうできる立場じゃないんだ。」
「それは分かってるけどよ。学園卒業したら二等兵からだろ?しかも、この一斉攻撃ときたら内部工作もすんで失敗なんて考えようがない。それでこの成功をもってさらに上の役職に行くんだろ?はー!羨ましいぜ。」
イワノフが煙をくゆらせながら悔しげに言う。対照的にザンダーの瞳は少しライオネルトに同情的であった。
「そうか?小さい頃に親を亡くし、悲劇の一族の生き残りとして周りに恐れられ、大公の駒になるなんて死んでもごめんだけどな。どうせ、大公はこのまま飼い殺しにするだけだろ。」
「まあな・・・。」
「というか、少将の言葉に悔しがってたが、お前の役職が上がらないのはそういうところだろ。想像力は足りないわ、上に嫌味言うわ、年下にも大人げないわでいくら能力あってもな・・・。もしかして、普通に能力も私にまけてるんじゃないか?」
ザンダーがもう一本煙草を取りだしながら皮肉気にイワノフを笑う。
「なに!?そんなわけないだろ。前半はいいとしても後半の言葉は許せん!どうせ時間あるんだ、今から戦略ゲームやるぞ!お前の部屋でいいか?」
「よく言うわ。ほとんど負けてるくせに。いいよ、私の部屋に来い。」
「それは酔っぱらってる時だけだ!素面の時は俺の方が勝率が高い!」
「どうだか。」
そのまま2人は部屋に消えていった。
一方、食堂では。
「俺、この戦いが終わったら彼女に告白するんだ・・・!」
「おい、やめろフラグ立てんのwww」
にぎやかな笑いに包まれていた、今から一斉攻撃をするとは思えない雰囲気である。
「まあ、この攻撃が失敗しないわけないじゃん。気楽にいこうぜ。」
「でもよ、この攻撃終わったら俺たちどうなるんだ?さすがにこのまま同盟に戻るなんてことできないだろ?ちゃんと給料は出るよな?」
「さすがにそれは当たり前だろ。」
「ま、それもそうか。というか、三大公爵の二つが合体して大公誕生とかさすがにありえないと思ってたわ。」
「まじそれ。でも沈黙の公爵はその名の通り、沈黙したまんまだな。」
もう一方、元大帝国<アパテイア>、最も人が集まる駅にて。
「どうして!同盟に連絡が取れない!」
「私の家族もよ!出稼ぎに行ってたの!もうこの時間はとっくに帰ってる時間なのに!」
大混乱に陥っていた。どうやらありとあらゆる連絡網が使えないようである。
「おい!国の軍は何をやってるんだ!」
「あいつらはずっと内戦やってて役に何か経たないわよ!」
「でも、あの空を見ればさすがに動くだろ!」
「そうよね!そうに決まってる。」
空には見たことのない無数の艦隊が浮かんでいた。そして、今その横を見覚えのある自国の宇宙船が通り過ぎようとする。そこにいる全員が黙ってその様子を見守った。
しかし、無残にもその宇宙船は艦隊の攻撃によりなすすべなく爆破された。駅は一瞬にしてしずまり返る。少しの物音もせず、まるでそこにだれも居ないかのようであった。そして、一気に駅が人の波と声で飲まれる。
「嫌あああああ!」
「あの軍の宇宙船逃げようとしてなかったか?」
「今そんなことはどうでもいいでしょ!早く逃げないと!」
「お願いします・・・。この子だけでもどうか・・・。」
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
この瞬間、今までゆがみながらもかろうじて動いていた歯車たちははっきりとずれ始めたのであった。




