27 グレイ
「姉ちゃん!姉ちゃん!」
「何?どうかした?もう寝る時間でしょ?」
灰色の髪を持つ少女にさらに幼い少年が話し掛ける。年はそれぞれ15歳と8歳あたりといったところか。あたりはかろうじて建物の艇を保っているものの窓は割れ、壁は崩れ落ち、満身創痍といった状況であった。
「そうだけど!姉ちゃんは働きに行くの?」
「そうだよ。お前らのために働くのさ。このお姉さまに感謝しろよ?」
「ありがとお!姉ちゃん!」
「素直でかわいい奴め!おりゃ!」
「きゃあ!」
少女は少年の頭をぐりぐりすると少年は嬉しそうに声を上げた。あたりの悲惨さとは別に二人の姿は悲観的ではなかった。
「ほら、もうみんなと一緒に寝てこい。お化けが出で食べられちゃうぞ!」
「またそれ言う。そんなん言ったらお姉ちゃんも食べられちゃうでしょ。」
「私はお化けに食べられないんだよ。なんてったって帝王の娘だからな。」
「そんなわけないよ!帝王に子供はいないでしょ!」
少年が楽しそうに笑う。それを見て少女も緩く笑う。
「どうかな?本当かもしれないぞ。シスターが心配するぞ。ほら早く戻れ。」
「えー、分かったよ・・・。姉ちゃんも食べられないように気を付けてね。」
「分かった、分かった。」
少年の手を握って少女は隣の部屋に移った。そこは先程の場所よりかはいくらかましではあるがひどいありさまだった。しかし、2人がそれを気にも留めないということは昔からそうなのであろう。部屋には他にも多くの少年少女が寝ている。
「ほら、寝かしつけてやるから。」
「いらない。僕一人で寝れるもん。姉ちゃんは早くいって。」
「一緒にここまで来てやったお姉さまに対してなんて言い草だ。まあでもその心意気だけ買ってやる。本当に一人で寝れるな?」
「うん、寝れる。」
「分かった。お姉さまはもう行くからいい子でな。」
そういって少女は先程の部屋に戻り外に出て行った。あたりは暗く、静かな不気味さが漂っていた。遠くの方では何か光るものが見える。そして、ドーンという音もかすかに聞こえてくる。
「相変わらずだ。」
そう言って少女が建物の前から立ち去ろうとすると近くにポツンとした光が現れた。それはどんどん近づいてくる。
「グレイ。」
「あ、シスター。ここら辺根っこがでて危ないから歩くならだれか1人つけてからにしてくださいよ。しかも、たかが働きに行くだけなんだから見送りなんかいいのに。さっきすれ違わなかったってことはどうせまたこんな遅くまで私たちのために何かしてくれてたんでしょう。」
シスターはどうやら盲目のようで杖をもってそれを頼りに少女、グレイのもとに向かう。グレイは慌ててシスターのほうに駆け寄った。
「まあまあ、行くのが一人じゃ寂しいでしょう?本当は私が働きに行けるのがいいんだけど。」
「仕方がないですよ。適材適所ってやつです。」
「いつもありがとう。」
「大丈夫ですって。今あいつらにも宇宙共通語教えてるんでもうすぐしたらあいつらも自分らで稼げるようになります。そうしたら、もっと楽になるんで。」
「そうね。あの子たちの成長が楽しみだわ。」
「あいつらが働いてお金貯めれたらみんなでこの国を出ましょう。」
シスターは何も言わなかった。グレイもシスターを黙って見つめる。2人の間には穏やかな風が吹き抜けた。
「シスター。部屋に送りますよ。」
「もうあなたは仕事でしょう?いいのよ。慣れてるから一人で帰れるわ。」
グレイは考える。仕事に遅れそうなのは事実であった。そして、シスターのいうことを信じることにした。
「わかりました。シスター、信じますよ。本当に気を付けてくださいね。」
「わかってるわよ。」
「あと、ひとり多分怖くてぐずってるやついるんで慰めといてください。」
「分かったわ、もう、本当にいかなきゃ間に合わないわよ。」
「・・・。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
シスターが手を振る。グレイは気恥ずかしそうに少し手を振ると走って駆けだした。だいぶ走った先、ひときわ明るい場所が突然現れる。その店の群れの一つに急いで飛び込んだ。
「お、グレイじゃん。お疲れー。まだ支配人来てないからセーフだよ。良かったね。」
グレイは息を切らしながら膝に手をついた。しばらくして息を整えると話し掛けてきた同じ年くらいの少女を見上げる。
「やあ、メリー。良かった、遅刻じゃなくて」
「またちびがぐずついてたの?」
「まあね、メリーののところこそ大丈夫なの。」
「まあ、お母さんに預けてるからね。」
「そう。」
「てか、聞いた?」
「何を?」
グレイはメリーが好きそうなビッグニュースが思い当たらなかった。考えても分からないので別の方を向いていた顔をメリーに向けるとメリーは普段のゴシップ好きの顔ではなく真剣そうな顔をしていた。
「なに?そんなやばいこと?」
「ほんとにやばいことよ。いま支配人がいないのもそのせいじゃないかって。」
「え、なにがあったの?」
「なんと今日から、このかつて栄華を誇った大帝国<アパテイア>、船着き場封鎖じゃないかって。」
「何だって?え?嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。今日その証拠に一つも船飛んでなかったよ。」
「なんでそんなことに?そしたらやばいじゃん。ここのあたりの店も一気につぶれるよね?」
「そうだよ、だから言ったんでしょ。」
2人は顔を見合わせる。確かにあたりの会話盗み聞けば話題はその話一色である。
「メリーはもしそれが本当だったらどうする気。」
「うーん、どうしようもないから歩いて首都に行くかも。」
「首都に?嘘でしょ、ほら外を見なよ。」
グレイは窓の外を指さす。
「あんなになるくらいまだ戦ってんだよ?さすがに首都は無理でしょ。」
「でも、仕事を探すには首都に行くしかなくない?グレイは?もっとちびいるでしょ。」
「シスターと帰って相談する。ただ、どうだろう。シスターのかすかな伝手を頼るか・・・。」
「それはないも同然でしょ。ん?みんな、支配人来るよ!」
途端にあたりが静まり返った。皆がなんでもなかったかのように支配人を迎え仕事を始める。しかし、皆の頭を占めるのは今の仕事がどうなるかだけであった。仕事が終わって支配人が何か言いだすかと思ったが何も言わなかった。グレイとメリーは外に出て道を歩きながら話す。
「何も言われなかったね。」
「うん、でも確かに。今日は人も少なかったし。来てるお客さんの雰囲気もなんか違ったね。」
「それ、思った!何が起こるんだろ。今から。」
「ね、帝王がなくなってからだいぶたったから落ち着いてくれればいいのに。」
「ほんとに、帝王がなくなる前を知らないから何とも言えないけどこんな風になるんだったら惑星統一して一つの国になんてしない方が良かったんじゃない?」
「そうかも。ねえ、メリー。あなた夢ある?」
「夢?どうだろう。・・・大層なことじゃないけどお母さんと私のかわいい子供と一緒におなか一杯になって笑いあいたいかな。」
「それは私もそうかも。あとは・・・学園に行ってみたいかも。一回くらい労働から離れて気ままに過ごしてみたい。」
「いいね。それ、私もよく思うもん。すべての責任から逃げ出したいって。」
「ね。」
「じゃあ私こっちだから、じゃあね。また明日。船着き場の様子見とくね。」
「お願いする。じゃあまた明日。」
そういい終えるとグレイはまた走り出した。あたりはうっすらと明るくなっている。帰って何をするか、少し仮眠をとったあとみんなに宇宙共通語でも教えてやろうかと考えていた時、グレイは違和感に気が付いた。あたりから異臭がするのだ。
(なんだ?この異臭。何かあったのか?こんな何もないところに?もしかしてあいつらに何か・・・。)
さらに速度を上げて走る。そうして夜更けにシスターと話した場所に着いた。そこには黒く焼け焦げた跡とあまたの黒く焦げた物体が落ちていた。
「は・・・・。」
グレイは自分が見ている景色が信じられなかった。嘘だといってほしかった。
「ど、ういう、ことだ・・・。」
グレイはしばらく呆然と立ち尽くしていた。少しでも望みが欲しかった。しかし、黒い塊を数えれば先程まで寝ていたであろう子供の数と同じであった。涙すら出てこなかった。何が起きたのかもわからない。しかし、グレイは突如思い出した。
「シスター、シスターは!」
いつもシスターが子供のために早朝から水を汲みに行く場所へ向かった。ここから少し離れたところにある。もしかしたら、シスターは奇跡的にこの惨状から逃れられているんじゃないかと思った。しかし、この選択はのちにグレイの大きな分岐点となった。もしかしたら、グレイにとってはここでシスターを探しに行かずに子供たちの謎の死をなげいていた方が幸せなったかもしれない。ただ、グレイがその選択を選ばなかった以上、だれももしもの話は分からない。グレイは走ってその場所へ向かった。
(頼む、シスターだけでも!!)
そこにいたのは2人の知らない男とシスターの無残な死体であった。
グレイは絶句した。ただ、それが皮肉にもグレイの命を助けることとなった。2人の男はしゃべりだす。
「任務完了っと。」
「てか、国も酷なことを命じるよな。」
「な。今別に機能してない宗教組織のせん滅なんて。子供ばっかりで見てられなかったわ。」
「まあ、歴史を見れば結構宗教組織って過去にいろんなこと起こしてるからじゃね。」
「どうだろ、俺らはそれに従うだけだし、はあ、しかも、宗教組織だけじゃなくて少ししたら船着き場あたりも焦土にするんだろ?いやだな、無抵抗の人々を殺すの。」
「まあな。でも命令だし。なんでだろうな。そんな殺すような大きい出来事あったっけ?」
「下っ端にはわからんよ。」
そこにひときわ大きい男がもう一人現れた。グレイは隠れたまま3人の会話を聞く。
「おい、お前ら。」
「あ、上官、お疲れ様です。」
「何がお疲れ様です、だ。作戦内容をそう簡単にべらべら喋るな。」
「大丈夫ですって、この地域、スラムに近いから宇宙共通語すら理解できる人少ないんだから俺たちの言葉を理解できる人なんていないですって。」
「まあ、それはそうだが。一旦船着き場の封鎖を解除するらしいから自国に帰還して数日後に空からやるぞ。早く船に戻れ。」
「死体は?」
「どうせそこら辺の野良犬が食うだろ、どうせ数日後には焦土だ。ほおっておけ。」
「はーい。上官帰ったら飲みましょうね~。」
3人が去っていく。3人が去るまでグレイは息をひそめて隠れていた。
(あの言語は貴族大国のやつらだ。どうして?)
グレイは陰から出てくる。目の前にはこと切れたシスターの体があった。その無残な姿からグレイは目をそらしたかったが、自分の中にいる何かがそれを許さなかった。先程まで流れなかった涙があふれてくる。そこからのグレイの動きは早かった。シスターを含め孤児院の全員の小さな墓のようなものを作り、シスターとともにいつかのために隠していたお金を少し遠くから掘り出す。それをもって先程まで働いていた町に戻ろうとする。そして一度かつて孤児院があった場所を振り返った。
「シスター、弟、妹たち。私が仇を取るからゆっくり眠ってね。」
そして町に向かって再度歩き始める。そこからグレイが振り返ることはなかった。
町へ降りる。夜とは違い、どこか閑散としていた。迷わずにエリーの家へ向かう。スラムの中腹にあるぼろきれのようなメリーの家に向かうと、メリーが赤子を抱いて座っていた。
「あれ?グレイ。どうかしたの?」
グレイはメリーのもとに向かい乱暴に手を取ると、風が吹けば飛びそうな家に入った。そこにはメリーの母が眠っている。
「いい、よく聞いて。数日後にこの町は他国からの襲撃にあう。孤児院はもう私以外誰もいなくなった。もうすぐ船着き場がの出入りが可能になるから有り金もって急いで他国へ逃げて。こんな田舎を襲うならほかの都市もどうなるかわからない。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうこと。」
「信じないなら信じないでいい。今までありがとう、メリーのお母さんにも行っといて。」
「信じる、信じるけど。あなたは?今からどうするの?私たちと一緒に!」
「行けない。」
グレイの目には涙があふれていた。メリーはそれを見て何も言えなくなる。
「ごめんね。ありがとう。もし、また、会えたら、2人でおなか一杯食べてわらいあおうね。」
最後の方は絞り出したような声であった。メリーが腕に抱えた赤子が泣き出す。グレイはメリーの家を振り返ることなく出て行った。あたりには赤子の泣き声が響く。グレイ姿はそのまま見えなくなった。
第3章が始まりました。ここからストーリーが一気に動き出します。
そして、第1章の5、6話あたりについて、人工知能に関する事項をだいぶ変更いたしました。
新型→汎用人工知能。オフラインでも使え、何の分野でも対応可能。自分で物事を考え人間のように動く。
旧型→今私たちが利用している人工知能のようなもの。
ハイブリット型→自分で物事を考えることができるが発展の上限が設定され、それぞれ一分野のみの発展しか許されない。
また、学園は<ステーメイ>ではなく、人工惑星にあることに変更しております。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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これからもよろしくお願いいたします。




