19 アナスタシア
列車内には他に客はおらず、運転手の姿も見えない。どうやら、自動で運転されているようである。列車は3人が乗り込んだのを見ると滑らかに滑り出した。車内は静寂に包まれている。しかし、アランとエマの目線はしっかりとヒューにくぎ付けであった。
「2人とも、じゅ、授業なにとってるの?」
顔は真っ赤のままでその声は裏返っていた。アランはにやにやと、エマは微笑ましそうでどこか憐憫をたたえてヒューの顔を見つめる。その目を受けてヒューは少しうつむいた。
「なんだよ、ふたりとも。」
アランが肘でヒューをつつく。
「一目ぼれだろ。一目ぼれ。」
「ヒュー。恋は自由よ!あのお方はとんでもなく手の届かない方ではあるけど、そこから結婚した例だって歴史には腐るほどあるんだから!」
2人の言葉を聞いてヒューはもじもじと指を動かす。顔は少し赤みが引いたとはいえ、普段の顔から2回りくらいとろけていた。気恥ずかしそうな声で2人に反論する。
「違うよ!あの、えっと、素敵な人だなって。僕もあんな感じでかっこよくなってみたいって思っただけだよ!恋なんてそんな・・・。」
「そんな顔でよく言うぜ。いくらお前が女性に慣れてないからって言っても、エマと会った時と反応がまったくちがうじゃねえか。隠すなよ。些細なことしかできないけど協力するぜ。まあだいぶむずいけどな。」
アランは口を開けて大きく笑う。その横でエマが真剣なまなざしでヒューを見つめる。
「どんな小説より浪漫にあふれてるわ。爵位授与式の時の服装は任せて。飛び切り素敵なのを探しといてあげる。あのアレクサンドル・デ・ゴルーチェ公爵の名の下で開かれるんだもの、最上級のものでぴったりなはず!そこで話し掛けるのよ!アナスタシア様に!学園で話し掛けるのは正直難しいわ。防犯上の理由でめったに顔を出さないの。だからそこで文通しませんかって誘ってみるの!今はやりなんだから、手間がかかっていいって。」
エマは興奮したようにヒューにまくしたてる。先程のヒューの出身惑星であるアぺイロンへの興味はいったん吹き飛んだようだった。腕につけている端末を操作し、いろいろな人に連絡を取っているようだった。
「あの、えと、うん。ありがとう。アラン、エマ。この思いが恋なのかアナスタシア様のこともよく知らないし、もう少しいろいろと考えてみる。」
はにかんだ笑顔でそう2人に笑いかける。その笑みを見てアランとエマは目を合わせるとにんまりと笑いかけた。
「任せなさいよ!この隣のこいつよりすんばらしく役に立つんだから、私!」
「はあ?なんだよ、それ。俺のほうが人と話すのうまいだろうが。」
この時、3人は同時に互いに確かな友情を築いたと思った。短い時間ではあったが、気の合う仲間であると確実に思ったのである。そして、この友情が長く続き、それぞれの旅路を動かしていくような不思議な期待感も持ち合わせていた。
「エマはその腕の機械を使いこなしているんだね。僕の惑星ではこういう機械はなかったから、全然使い慣れないや。」
ふと思い出したようにヒューが笑うのをやめ口を開いた。それにアランが答える。
「話そらしただろ、まあいいけど。この機会はここの生徒、いっちゃあヒュー以外のやつは小さいときから使ってきてるからな。俺とエマとか改造しまくってるし。学園の規制があると一族の商売の手伝いとかやりにくいんだよな。」
「え?そんなことしてるの。」
エマが再び腕の端末に目を落としたまま頷く。
「まあ、グレーゾーンっちゃ、グレーゾーンだけど。やってる生徒も多いのよ。改造してはいけないっていう明確な規則はないし。ヒューも改造したかったら言ってね。手伝うわ。」
ヒューがその言葉を聞いて頭に思い浮かべたのは先生だった。ヒューは首を横に振る。
「いや、いいかな。使いこなせる気もしないし。最低限使いこなせるようになりたいからその手伝いだけよろしく。」
アランが腕を頭に組みながらのんびり口を開く。
「それぐらいお安い御用だ。てか、早くなんの科目とってるか見てくれよ。もうじきつくぞ。」
ヒューは慌てて手元の端末を触りだす。
「あ、これかな。こんな感じ。」
エマも端末から顔を上げアランとともに横からのぞき込む。
「私と結構かぶってるじゃん。よろしくね!いろいろ教えるわ!」
「逆に俺はあんまりかぶってないな。戦術とか武術とかかな、かぶってるのは。暇なとき会おうぜ。なんかあったらエマに伝言頼んどくから。」
列車が学園・本館に着き、3人は軽やかに降りて教室へと歩みを進める。
「さっき急いで科目見た割に今日は教室でいろいろデータもらったらおわりよね?ヒュー、あんたは放課後どうするの?なにか用事あるの?」
「うん!僕の後見人が学園にきてくれるんだって。2人を紹介するね。あ、エマ。僕がここに来るまでの経緯知らないよね。えっと・・・。」
エマはその口を手を挙げて制す。
「あまりにあなたのことが気になりすぎて、いろいろな伝手を使って、どういう経緯で来たか情報を集めたから大丈夫。後でゆっくり教えて。でも、その集めた情報の中に唯一後見人がだれか書いてなかったのよね。一緒にあなたの惑星から帰還した人とは書いてあったんだけど。聞いてもいい?」
「え?そうなの?別に口留めされていないし大丈夫なはず。僕の後見人はね・・・、」
エマは息をのむ。先程名前だけ聞いていたアランは飄々としていた。
「アリス・ステラ・オービット。同盟の共同軍の軍人なんだ。」
それを聞いたエマは目を見開き、飄々としていたアランも思わずといった様子でヒューをぎょっとみる。
「え・・・。え?」
「ここで出てくるのも大物じゃねえか。」
ヒューは2人の反応がわけのわからないとでもいうように反応を返す。
「そんなすごい人なの?同盟に滞在している間、誰からも何も言われなかったよ。」
エマが思わずといった様子で叫ぶ。
「同盟とはちょっといろいろあるのよ!それでもアリス・ステラ・オービットといえばみんな口をそろえてこの宇宙の英雄と呼ぶすごい人なの!」
お休みから復帰しました。
よろしくお願いいたします。




