18 エマ
少女は頬を紅潮させたまま、ヒューに近い距離まで顔を近づけた。思わずヒューが少し顔を引くほどであった。
「ねえ!あなた!あの新惑星アぺイロンから来たんでしょ?どんな惑星なの?はあ!あの同盟の終了宣言を覆すなんてことがあるなんて!ねえ、名前なんていうの?私はエマ・イーグル。そこのアランとはいとこなの。よろしくね!」
「あ、うん、分かった、よろしく。僕はヒュー。よろしく。あの、えと、少し距離が近い、かな?」
その言葉を聞いて、少女は慌てる。わたわたと不思議な動作を繰り返すとヒューから少し離れて恥ずかしそうにうつむいた。
「ごめんなさい。私そういう宇宙の地理とか歴史が大好きで。新しい惑星が見つかって、しかもその出身の子がこの学園に来るって聞いてずっと話してみたかったの。」
それを見てアランが呑気そうに口を開く。
「そんな距離近かったか?まあ、普段より近いけどそこまで言うほどか?」
エマがアランに向かって怒りの表情を向ける。
「あのねえ、惑星によって多少は文化も違うんだから、距離感も違うのよ!ヒューのところの人同士の距離感も男女の距離感もあんた知らないでしょ!」
アランが怒るエマを見て呑気そうに笑う。
「ははっ、そうだった。悪い悪い。ごめんな、ヒュー。無神経だったわ。」
その言葉にヒューは目をぱちくりさせると慌てる。
「いや、違うんだ!僕の惑星、若い女性いなかったから。恥ずかしくて。ごめんね。こっちこそ。」
「え!そうなの!全然気にしないで、悪いと思うなら後で惑星についていろいろ教えて。あと私彼氏いるんだ。そこんとこよろしく!」
2人が互いに申し訳なさそうな雰囲気を出す中、また呑気にアランが喋りだす。
「へえ、ここに来るまでについては聞いたけど惑星については聞いてなかったもんな。そんな惑星あるんだな。てか、ちょっと話変わるけど、エマ。こいつ今度何か爵位もらうらしくて後見人の返答次第だけどそれにいい感じの衣装見ててくんね?俺も見とくけど。何パターンか見ておきたい。」
エマは世界が止まったかのように動きを止める。そして、ブリキのおもちゃのような動きで動き出すとゆっくりとヒューの全身を見まわす。
「しゃくい?」
「あ、うん、なんか、くれるらしい。白髪でオールバックの人がくれるって。部下の人が来ていろいろ説明してくれたけどよくわかんない。アリスさん、あ、僕の後見人しか詳細理解してない。」
エマはそれを聞いてふらっとした後にヒューに喋りかけた。
「本部で?」
「うん。」
さらにエマはショック受けたようにゆらゆらと動いている。それを見て笑いながらアランがヒューに話し掛ける。
「ヒュー、それたぶん。今この宇宙で一番偉いといっても過言ではない貴族大国<アリスト>の唯一の侯爵だぜ?」
「へえ、すごい人なんだね?でも娘が学園にいるからいろいろ聞けってよ。」
「それはたぶん社交辞令だって。」
あたりに軽やかな鈴の音が響いた。3人があたりを見渡すと先程までの学園列車とは違う列車がやってくる。
「アラン、エマ、あれ何?柄違うけど。」
「あわわわわわわ。」
「まじかよ、あれはさっき言ってた公爵の1人娘の専用列車だ。防犯目的で乗ることを許される人は少ない。しかも、間違いなくこっちに向かってるな。」
列車が3人の目の前に止まる。そこから現れたのは、金髪のあまりに美しい男。男が列車から降り、手を差し出すと、長い銀髪の美しい女性が現れた。2人はその少しの動作だけでも格の違いを見せつけるような優雅な動きだった。女性が先導に立ち、ゆっくりを近づいてくる。その斜め後ろに男がつき、まるで一枚の絵画のようだった。女性がヒューの目の前にたどり着くと、エマとアランはしゃがんで頭を垂れた。それを見たヒューが慌てて同じようにしようとすると女性が鈴のなるような声で話し始めた。
「おやめなさい。ヒュー様。おふたかたも。ここにおりましたのね。はじめまして。わたくしはアナスタシア。お父様には本部で合われたようですね。この学園で何かありましたらわたくしのところへいらっしゃい。力になりますわ。短い間ですけど、ここで失礼いたします。用事がありますの。またお会いしましょう。」
「え、あ、はい!ありがとうございます!」
アナスタシアは優雅に列車に乗り込みこの場を去っていった。列車がゆっくり動き、先程と同じ軽やかな鈴の音を鳴らしながら見えなくなった。
「いやー、やっぱあの2人は間近で見ると迫力が違うな。」
エマが頷く。
「本当にやばいわ。あの2人がここまで来るなんて。衣装を半端にできない。」
「そこかよ!?まあ、確かに大事だけどさ。てか、ヒュー。お前何顔赤くしてんだよ。」
ヒューは顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くしていた。それをからかうようにアランが口を開く。
「おいおい、そんな緊張したのか?まさか恋したのか?あのアナスタシア様に。」
ヒューはうんともすんとも言わない。ただ、さらに赤くなっていく頬が答えを如実に語っていた。
「え!まじかよ。お前、高根の花だぞ~、爵位持ってても。まあ、今のうちにあきらめたほうが楽だぜ。」
「アラン!そんなひどいこと言わないの!恋するのはヒューの勝手でしょ!」
2人がそのままグダグダと言い争いを始める。その横でヒューの胸の中では恋という言葉が反芻していて、2人の声が途中から聞こえなくなっていた。すると、アリスが叫ぶ。
「このままじゃ、遅刻しちゃう!とりあえず列車に乗るわよ!。」
こうしてそのまま3人はなし崩しにわけのわからないまま学園列車に慌てて乗り込んだ。列車に乗った後もヒューの頬は真っ赤に染まったままであった。




