16 元帝国
「私は現在役職を停止されておりますが、宇宙連盟共同軍・探査部・第2軍隊所属のアリス・ステラ・オービット。最初の完全クローンとして知っている方も多いかもしれませんね。軍の任務で単独で宇宙を走行していた際に煙に包まれ、エンジンとナビが破損。目視できた近くの惑星に緊急着陸したところ、その惑星は同盟に加入していないことがわかりました。」
眼鏡の女がつぶやく。
「煙?どういう成分なのかしら。その煙に目くらましの効果があったということ?」
それを聞いてオールバックの男は眼鏡の女をにらんだ。
「今その話は必要あるのかね?アリス殿、続けてくれ。」
「承知いたしました。その惑星は自然災害によりかなりの損害を受けており、人口は3人にまで減り、多くの技術が失われた状況でした。帰還困難と判断し、惑星に滞在していたとこと隣の現地の少年、ヒューが墜落した機体を使用し、同盟に信号を送る機械を開発いたしました。ヒューをこちらにすぐ連れてきたのは、彼のその頭脳を同盟に生かすべきだと思ったからです。その惑星はすでに老齢を理由に2人ともなくなっており、現在は私が後見人についております。
その言葉を聞いて5人はそれぞれの反応をする。
「まあ、なんと素晴らしい頭脳でしょう。」
「ふむ・・・。なるほど。」
「まあ、うちの国にほしいわ。」
「それは私のセリフかもしれません。はっはっは。」
「なんと、まさかそんなことが可能なのですね。」
その反応を横目にヒューは思った。アリスの話はおかしい、と。ここまでの経緯を語るまでに先生を欠かすことはできない。しかし、アリスは先生に関して言及していない。まるで、意図して先生の存在を隠蔽しているように。ヒューはそのことを察することができないほど愚鈍ではなかった。
「ヒュー様、先程アリス様が言われたことは本当でしょうか。」
ぼやっとしていた頭でその言葉を聞き、ヒューは慌てて答えた。
「え!あ!はい!10年前にアリスさんが落ちてきて、それで信号を作りました!」
眼鏡の女性が手元の紙をめくり、眼鏡のふちを少し上げて目線は紙に向けたまましゃべりだした。
「報告書を見ても矛盾はないみたいね。あなたたちは今後どうするつもりなのかしら。」
「私は今の宇宙について学んでから身の振り方を考えようかと。ヒューは?」
「え?あ!僕は、その、行けるならアリスさんが言ってた学園で宇宙について学びたいです。」
眼鏡の女性は目線を上げるとにやりと笑った。
「なるほどね。ヒュー君はセンスがいいわ。私もその学園の出身なのよ。まあすべての若者が集まる場所だから年寄りでもない限りみんな学園の卒業生なんだけどね。ヒュー君が今から学園に入るなら2年からの編入生だわ。私が手続しとくからあとでアリスさんに詳細を送っておくから。」
「あ!ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
「でもその前に宇宙の事情についてしっかり学んでね。私たち<ステーメイ>はいつでもあなたたちを歓迎するわ。」
その様子を見ていた恰幅のいい男が口を開く。
「うちもぜひご贔屓に!我々も歓迎いたします。」
それにオールバックの老人、少女と続く。
「学園にはうちの娘もいる。困ったらいろいろと聞くといい。あと、ヒュー殿、君に爵位を渡すことになると思うからよろしく頼んだぞ。」
「まあ!爵位を与えるのですか?大きな贈り物ですね。私の国も歓迎いたしますのでいつでもいらしてください。我々はもう退席いたしますね。先程のファンに案内を頼むので、この部屋で待っていてください。」
そういうと5人はさっそうと部屋から出ていったように思えたが、その中の一人、黒髪を持つ青年が入り口で立ち止まった。そして後ろを振り向き口を開いた。
「われらの国はあなた方を歓迎する余力がありません。申し訳ないですがほかの国を頼ってくださいね。」
「待て、われらの国とは?帝王の国ではないのか?」
それを聞いて背年は少しやつれ、ぼおっとした顔でその問いに答える。
「ああ、そうか。10年前はまだ帝国があったのか。帝国は数年前の帝王の失踪によって国が安定しません。現在は民主主義で政治を行っていますが、利権争いで武力衝突が激しいので。私は忙しいのでこれで失礼します。」
そうしてぱたぱたと去っていった。それとすれ違うようにファンが部屋に入ってきた。
「先程ぶりですね。アリス様、ヒュー様。おふたかたにはこれから別の部屋に移り、アリス様は1週間、ヒュー様は1か月の学習プログラムを受けていただきます。滞在中は宇宙船を一つ貸出いたしますので自由時間は好きに移動していただいてかまいません。ただし、しばらく調査を行うため先程の惑星にはもどらないでください。長期調査となるとききましたが、調査が終わり次第連絡します。それでは参りましょう。」




