11 10年
どこか遠くから声が聞こえる。
「アリスさーん。アリスさーん。おーい。」
その声を聞いたのは家の外でプログーと戦っていたアリスだった。
「ん?なにかあったのか?ヒュー!」
ヒューはアリスのもとへ走ってくる。10年前とあまり変化がないアリスとは違い、その姿は成長し、少年というよりも青年と呼ぶほうがふさわしい姿になっていた。かつての髪色と優し気な相貌はそのままに、背丈はアリスの背をこし、体つきもすっかりたくましくなっていた。
「なにかあったどころじゃないよ!ついに宇宙ビーコンが起動できたんだ!これでやっと同盟に信号が送れるよ!」
「なに!本当か!」
ヒューの横で浮いていた先生が答える。
「ああ!本当だぜ。ついにヒューがやったんだ。ここまで長かったな~、まさか8年で充電が終わっても、起動できないなんてことが起きるとは。」
「アリスさん僕、ミハイルさんに言ってくる!」
そういうとヒューは家の中に飛び込んでいった。
「どうやって起動したんだ?先生。」
「ヒミツ~。」
「・・・。」
「嘘だよ!あとちょっとで充電が切れちゃうんだよ!急いで言うから聞けよ。なんか起動するにはやっぱエネルギー関係をなんかいろいろしなきゃいけなくて、それをヒューがあの<夕暮れの逆風>の残りをいろいろいじくってどうにかした。手伝ったとはいえ俺ができなかったことを成し遂げたあいつ天才だぜ。まあ、その天才を育てた俺はもっとてんさーーーー。」
アリスはため息をつきながら先生を抱えるとヒューの後を追いかけていった。奥の部屋に入るとミハイルと興奮したヒューの姿が見えた。ミハエルはかつての眼光はそのままに筋肉が落ち、一回りどころか二回り小さくなっているようだった。
「ーーーでさ!だから宇宙に行けるんだよ!ミハイルさん!今から信号送っていい?」
「もうちょっと落ち着け、ヒュー。今信号を送るのはだめだ。お前が興奮しすぎているし、他にもいろいろと宇宙に行くなら準備しなくてはならないことがあるだろう。そうだな・・・。一か月後ならいいだろう。ソフィアさんの命日だ。ソフィアさんの墓に参ってから信号を送るといい。」
「わかった!ソフィアさんにも報告したいし、ソフィアさんの墓によってからプログーと狩りしてくる!昨日喧嘩があったらしいから早くいかないとなんかあるかも!でも、あんまり遅くならないと思う!」
ヒューはバタバタと出て行った。
「全く。あいつはどうしてああもせわしないんだ。」
「・・・ミハイルさん、体調は大丈夫なのですか。ヒューには隠しているのでしょう。何度も言っていますが、同盟が来たら治療できるのですよ。あなたが罪人であろうが関係ありません。あなた一人くらいは私がどうにかして見せます。今はどうなっているかわからないとはいえ、私の軍での立場はそれほど低いものではありません。どうか考え直していただけないでしょうか。今なら間に合いますが一か月後では・・・。」
ミハイルはしっかりとアリスの目を見て首を振った。
「そういう問題じゃないんだ、アリス。かつて終わったと思った人生がもう一度始まって、最期まで一緒にいたいと思う人ができて、孫のような存在が2人もできた。もう満足なんだ。ヒューもでかくなって頼れるお前さんのような存在ができて、これ以上生きようと思わない。ソフィアさんももう数年前にいってしまった。彼女の隣に眠りたい。重荷かもしれないが、ヒューを頼んだ。」
「・・・。任されました。」
アリスの目には涙が浮かんでいた。そんなアリスを見てミハイルが少し雰囲気をやわらげたかと思うと、口を開いた。
「私が死んだら、ヒューは泣いてソフィアさんの命日より長くとどまりたがると思うが予定通りに信号を押してくれ。新しい出会いがあれば、少しは悲しみも薄まるだろう。それと、ヒューにこれを。」
ミハイルは手のひらを差し出した。そこには球体のパーツがついたネックレスと四つ折りに折りたたまれた紙があった。
「このネックレスは?」
「見たものが見ればわかるようになっている。ヒューを少しは困難から守ってくれるだろう。お前さんも私がいなくなったら大したものはないがこの家のものを好きに持って行ってくれ。」
「・・・。はい、ありがとうございます。そして、必ずこの2つはあなたがいなくなったらヒューにお渡しします。」
「もう、この話は終わりだ。使ってばかりで悪いが、ヒューを追いかけてきてくれ。もう大きくなったヒューがプログーに負けるとは思わないが、あいつとプログーだけで狩りをするとはしゃぎすぎてなかなか帰ってこないからな。」
「ふふ、それはそうですね。それではヒューを追いかけていきます。」
アリスはそういって家の外に出て行った。家の中には充電中の先生とミハイルだけ残された。
「俺、あのネックレスに見覚えあるなあ。まあ、ほとんどの人があのネックレス見ても意味が分からないだろうけど。あんたの正体当てていいか?」
「・・・。だめだ。もう黙れ。」
「はーい。」




