10 本部
「こちらが本部です。」
黒髪の男、ファンが建物の前で止まった<ヤマト>の中で2人の方向を向いた。2人の目線の先にある<37惑星宇宙同盟>の本部の特出すべき点はその大きさと黒さであった。<ヤマト>の3倍あるであろう大きさに、どこまでも飲み込みそうな漆黒。ヒューはあまりの迫力に息をのみ、アリスは10年における技術の進歩に恐怖を覚えた。
「すごい・・・。」
「ああ、以前の本部とは似てもつかない・・・。」
そんな2人を見てファンが歩き始めた赤子を見たかのように微笑ましい顔で笑った。
「この建物は<宇宙探査終了宣言>を記念して建てられたのですよ。以前の本部は手狭でしたので。あまりに黒く大きいので<黒箱>と呼ばれています。まあ、この愛称はあまりに組織が多いゆえに誰も全て把握できていないことも揶揄しているんですが。入りましょうか。」
ファンはそういって言葉を放った。
「先程この惑星に着陸した<ヤマト>に搭乗していた共同軍所属、医療・救助部のファン・シンユー。横は未知の惑星の住人ヒューと10年前まで共同軍に所属されていたアリス・ステラ・オービット。不審な信号を確認するという任務、達成いたしました。案内願います。」
「・・・了解いたしました。ファン様。任務完了お疲れ様です。まずは詳細を伺いますので、<ヤマト>から3人とも降りて本部にに入ってください。案内人を送ります。」
「わかりました。ありがとうございます。」
3人が<ヤマト>内から多くの人の視線を受けながら降りると、3人のもとにガタイのいい男が近づいてきた。
「案内のケインだ。部屋に案内する。着いてこい。」
ケインはそれだけ告げるとさっそうと歩きだした。3人は黙ってケインに着いていき、本部に入っていく。
「お2方には、部屋につき次第信号を送った経緯について幹部の皆様の前でお話願います。よろしいでしょうか。」
「もちろんだ。」
「あ、はい!」
「話を聞き終わったのちに、アリス様の軍の権限を復活する手続きを行いますね。」
「助かる。役職はそのままか?」
「いえ、いったん仮軍人として登録し、基礎権限は付与いたしますが、役職はアリス様が現在の宇宙について学習したのちに役職とそれに付随する権限を復活いたします。」
「了解した。」
「部屋に着いたぞ。」
ケインが後ろを振り向く。3人が部屋に入るとそこにいたのは左から羊の角のようなものが生えた白く長い髪を持ち、全身白い服をまとった少女に白髪に太いふちのオレンジの眼鏡をつけた老齢の女性、同じく白髪を後ろにきっちりとなでつけた老齢の男、恰幅のいい腹を持つ優し気だが油断できない雰囲気を持つ黒髪の男、同じく黒髪を持つ若い男が横一列に座ってたいた。その5人を見てファンは深々と頭を下げた。
「<ヤマト>内からの連絡の通りヒュー、アリス、両名連れてまいりました。」
それを聞いて中央にいる老齢の男が渋い声で話し始めた。
「報告には聞いていたが、ご苦労だったな。ファン殿はいつもいい仕事をする。これからも精進してくれ。」
「もったいないお言葉です。ありがとうございます。」
その言葉を聞いて眼鏡が特徴的な女性も話し出す。
「謙遜しなくていいのよ。あなたは余計な私情を挟まなくて本当に助かっているわ。この仕事を長く続けて頂戴ね。」
「そのような言葉をいただけて嬉しい限りです。できる限り仕事は続けていこうと思っております。」
「ははっ!ファン殿からそのような言葉を聞けるとは嬉しい限りです。イライザ殿もそう思うでしょう?」
恰幅のいい腹を揺らしながら朗らかに男が羊のような角を持つ少女、イライザに話し掛けた。
「ええ、本当に。ファン様は素敵な方ですもの。」
イライザは鈴のようでありながら凛と張り詰めた声でそれに答えた。その声を聞いて眼鏡の女とオールバックの男が少し鋭い目で少女を見つめる。その視線をものともせずににイライザはさらに口を開く。
「ファン様、わたくしたちが後はお2人に話を聞きますから、もう下がってよろしいですわ。」
「了解いたしました。それでは失礼いたします。」
ファンははっきりとした声でそう答えるとさらに深々とお辞儀をして去っていった。ファンが部屋から完全に出ると、鋭い目線でイライザを見つめたまま眼鏡の女はアリスに向かって声をかける。
「お2人はどういう経緯であの信号を?是非聞かせてくれないかしら。」
アリスは軽く一礼をして顔を上げた。それを見てヒューも軽く一礼して顔を上げる。アリスが視線を5人の方向へしっかりと向けはっきりした声で語りだした。
「はい。ただいまより私のほうから説明させていただきます。」
「私は現在役職を停止されておりますが、宇宙連盟共同軍・探査部・第2軍隊所属のアリス・ステラ・オービット。最初の完全クローンとして知っている方も多いかもしれませんね。軍の任務で単独で宇宙を走行していた際に煙に包まれ、エンジンとナビが破損。目視できた近くの惑星に緊急着陸したところ、その惑星は同盟に加入していないことがわかりました。」
眼鏡の女がつぶやく。
「煙?どういう成分なのかしら。その煙に目くらましの効果があったということ?」
それを聞いてオールバックの男は眼鏡の女をにらんだ。
「今その話は必要あるのかね?アリス殿、続けてくれ。」
「承知いたしました。その惑星は自然災害によりかなりの損害を受けており、人口は3人にまで減り、多くの技術が失われた状況でした。帰還困難と判断し、惑星に滞在していたとこと隣の現地の少年、ヒューが墜落した機体を使用し、同盟に信号を送る機械を開発いたしました。ヒューをこちらにすぐ連れてきたのは、彼のその頭脳を同盟に生かすべきだと思ったからです。その惑星はすでに老齢を理由に2人ともなくなっており、現在は私が後見人についております。
その言葉を聞いて5人はそれぞれの反応をする。
「まあ、なんと素晴らしい頭脳でしょう。」
「ふむ・・・。なるほど。」
「まあ、うちの国にほしいわ。」
「それは私のセリフかもしれません。はっはっは。」
「なんと、まさかそんなことが可能なのですね。」
その反応を横目にヒューは思った。アリスの話はおかしい、と。ここまでの経緯を語るまでに先生を欠かすことはできない。しかし、アリスは先生に関して言及していない。まるで、意図して先生の存在を隠蔽しているように。ヒューはそのことを察することができないほど愚鈍ではなかった。
「ヒュー様、先程アリス様が言われたことは本当でしょうか。」
ぼやっとしていた頭でその言葉を聞き、ヒューは慌てて答えた。
「え!あ!はい!10年前にアリスさんが落ちてきて、それで信号を作りました!」
眼鏡の女性が手元の紙をめくり、眼鏡のふちを少し上げて目線は紙に向けたまましゃべりだした。
「報告書を見ても矛盾はないみたいね。あなたたちは今後どうするつもりなのかしら。」
「私は今の宇宙について学んでから身の振り方を考えようかと。ヒューは?」
「え?あ!僕は、その、行けるならアリスさんが言ってた学園で宇宙について学びたいです。」
眼鏡の女性は目線を上げるとにやりと笑った。
「なるほどね。ヒュー君はセンスがいいわ。私もその学園の出身なのよ。まあすべての若者が集まる場所だから年寄りでもない限りみんな学園の卒業生なんだけどね。ヒュー君が今から学園に入るなら2年からの編入生だわ。私が手続しとくからあとでアリスさんに詳細を送っておくから。」
「あ!ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
「でもその前に宇宙の事情についてしっかり学んでね。私たち<ステーメイ>はいつでもあなたたちを歓迎するわ。」
その様子を見ていた恰幅のいい男が口を開く。
「うちもぜひご贔屓に!我々も歓迎いたします。」
それにオールバックの老人、少女と続く。
「学園にはうちの娘もいる。困ったらいろいろと聞くといい。あと、ヒュー殿、君に爵位を渡すことになると思うからよろしく頼んだぞ。」
「まあ!爵位を与えるのですか?大きな贈り物ですね。私の国も歓迎いたしますのでいつでもいらしてください。我々はもう退席いたしますね。先程のファンに案内を頼むので、この部屋で待っていてください。」
そういうと5人はさっそうと部屋から出ていったように思えたが、その中の一人、黒髪を持つ青年が入り口で立ち止まった。そして後ろを振り向き口を開いた。
「われらの国はあなた方を歓迎する余力がありません。申し訳ないですがほかの国を頼ってくださいね。」
「待て、われらの国とは?帝王の国ではないのか?」
それを聞いて背年は少しやつれ、ぼおっとした顔でその問いに答える。
「ああ、そうか。10年前はまだ帝国があったのか。帝国は数年前の帝王の失踪によって現在、国が安定しておりません。現在は民主主義で政治を行っていますが、利権争いで武力衝突が激しいのです。私は忙しいのでこれで失礼します。」
そうしてぱたぱたと去っていった。それとすれ違うようにファンが部屋に入ってきた。
「先程ぶりですね。アリス様、ヒュー様。おふたかたにはこれから別の部屋に移り、アリス様は1週間、ヒュー様は1か月の学習プログラムを受けていただきます。滞在中は宇宙船を一つ貸出いたしますので自由時間は好きに移動していただいてかまいません。ただし、しばらく調査を行うため先程の惑星にはもどらないでください。長期調査となるとききましたが、調査が終わり次第連絡します。それでは参りましょう。」




