第二話:「技術ロマンを経営の言葉に翻訳するにゃ」
そこへ、「う、胃が痛いにゃ……」という低い呻き声と共に、書類の束を抱えた「課長猫」が影から這い出てきた。上層部への説明ストレスで毛並みが完全にパサついている。
「火消しさん、助けてくれにゃ……。常務猫のところへ稟議書を持っていったら、『ネタとしてはヨシ、提出物としてはヨシではない』って突き返されたにゃ。変態くんの書いた『超時空分散型コンセンサスアルゴリズムによる障害耐性の極大化』なんて専門用語、役員にどう翻訳すればいいにゃ……」
火消し猫が書類を覗き込もうとしたとき、その横から、成長の兆しを見せる係長候補猫がぐっと一歩前に踏み出した。
「課長! そこはボクに少し書き換えさせにゃ! 役員が知りたいのは技術の凄さじゃなくて、このシステムを入れれば、万が一の障害のときでも、会社の損失をこれだけトリアージ(選別)できるという『経営の言葉』に翻訳してみせるにゃ!」
係長候補猫はペンを握り、稟議書の難解な技術用語を「リスク回避の費用対効果」と「段階的導入による安全マージン」という言葉へ、ガリガリとリファクタリングしていった。
それを見た火消し猫は、静かにカフェオレを掲げた。
「ヨシ。将来の表主人公候補として、いい『界面』になってきたにゃ」
数日後、係長候補猫の翻訳によって稟議は無事に承認され、変態技術者猫の新システムは、一気の本番投入ではなく、まずはステージング(検証)環境へデプロイされることとなった。破滅の直行便は、現場の分業によって一歩手前で食い止められたのである。




