42日目:ちらし寿司って特別感ある
なんやかんや、教会を出たのは夕方になっていた。
思ったより時間かかったね。
気絶したルーアさんを放置もできないし、とりあえず目覚めるまで待ってちゃんと説明して……とやったんだけど、まあ混乱がすごくてですね。
もっとこう、「わあいスペルシアさんありがとう!」で終わってくれたら嬉しかったよ。無理なのもわかるんだけれども。最終的にはネックレスを拝みだしそうなルーアさんを説得して、とにかく結婚式には身につけてね! と言い聞かせるのに時間を要しました。
下手すると家宝にして一生家から出さない勢いだった。でも、身につけないとスペルシアさん悲しんじゃうと思うからね……!
「疲れたねえ……」
とかしみじみ言いつつ教会を出ると、ステータス画面を確認していたイオくんが「報酬入ってるぞ」と教えてくれる。
「司祭を見つけるクエストをクリアしたから、例の『時の欠片』が5つになった」
「あ! 5個集めると何かあるやつ!」
イオくんが5個集まったということは、僕も集まっているはず。如月くんは僕たちより数が少ないから、一足お先に何が起こるかを確認しよう。
えーと、インベントリから取り出して……。あ、光り始めた。切り分けたケーキみたいな形だった欠片が5つ揃って、円を作った。ドーナツくらいの大きさの円形プレート。<心眼>さんで見てみると名称が変わってて、時の円盤になっている。えーと、効果は……。
「PP振りなおし用のアイテムだ!」
「お、便利なやつ」
なんと、すでにステータスに振り分けたPPを5まで振りなおしできる便利アイテムだった! 任意のステータスを5ポイント減らして、好きなステータスに5ポイント振れるやつ。
それを聞いた如月くんが「えっ、いいな!」と即座に食いついてくる。イオくんと如月くんはヒューマンだから、どうしても自動振り分けが好みじゃないところにいっちゃうんだよね。このアイテムを使えば、5PPだけだけど好きなところに振り分け直せるんだ。これは欲しいだろうねえ。
「これ、使用制限ってある?」
「特に書いてないな。ナツいらないならもらえるとありがたい」
「いいよー。僕は思い通りに振り分けてるし」
「サンキュ、10振り直せるのはデカいぞ」
実質ヒューマン用救済アイテムなのかもしれない。時限クエスト見つけるのはちょっと難しいかもしれないけど、あればあるだけ欲しいでしょう。さくっとイオくんにアイテムを渡すと、如月くんが羨ましそうにこちらを見ている。
「如月くんあと何個?」
「あと1個です。めちゃくちゃありがたいアイテムなので正直無限に欲しいです」
「わかる」
わかり合うヒューマン組なのであった。僕はそういうの煩わしいからランダム振り分けって聞いた瞬間、ヒューマンは選択肢から外したんだけれども。
「PPの振り直しって他で出来ないんだっけ?」
「一応、クルムで1つ前の職に戻すロールバックができるので、そのときに振ったPPが全部還元されるらしいんですけど……」
「自分で振ったPPだけな。自動振り分けの分は戻ってこない」
「あー」
ヒューマンはあんまり恩恵受けられないやつか。ヒューマン的には振り直したいのは自動振り分けされる方だもんねえ。しかも職のロールバックにゲーム内通貨がめっちゃかかるらしく、まだ手を出しづらいシステムらしい。
今後、もっとお金を稼いだらいずれやりたいかも? って感じか。まあ僕には縁がなさそうだけど。
とりあえずイオくんは一旦アイテムをキープすることにしたらしい。どこかのタイミングで絶対に必要になるから、とのこと。僕だったらすぐ使っちゃいそうだから、こういう時思いとどまれるのってえらいなあと思うよ。
計画性がある。……徐々に見習って行きたいところです!
「取り敢えず今日は早めに夕飯食べて、夜ちょっと<夜目>鍛えに行きたいかも。SPが無くてですね……」
「あ、そういや俺も取ったんだった。如月はどうする? スキルとってるか?」
「<夜目>って使います? 【ダークアイ】あれば同じだと思ってとってないですけど」
「魔法は切れるタイミングあるから腐らないって話をナツともしたな」
「あー、なるほど。MP消費量も少ないしと思ってましたけど、戦闘中に切れたらまずいですよね」
「僕がSPないから、気軽に育てられて腐らないスキルってことで取得しました!」
「俺も取ります!」
ちなみに如月くん、今SP余ってる? あ、丁度3SPですか……。<夜目>一緒に育てよう、取得した分よりは多くしないと。
さて、とりあえずは夕飯だ。なんか気力を持っていかれたから、すごくお腹が空いている気がする。
「プリンさんにショップカード貰った、ちらし寿司のお店行く?」
「いいですね!」
「酢飯食いたい。気分がさっぱりするかもしれん」
すめしなあにー?
「甘酸っぱいご飯……? テトはお魚食べようね」
おさかなー♪
えーと、ショップカードを確認すると、ちらし寿司のお店「強羅亭」……当て字じゃん!! この世界にもヤンキー語録みたいなのあるんだろうか。「ごうらてい」って読むのか、「ゴーラてい」でいいのかもちょっと気になる。
「すごい店名ですね」
「ねー、このセンスよ……」
こんな店、リアルにあったら見に行きたくなっちゃうじゃん。えーと場所は……パスタの店、アクアガーデンと同じ通りだね。あのおしゃれな店のある通り……どんな店構えなのかめっちゃ気になる。思いっきり和風な店構えで鬼人さんの店主だったら、めちゃめちゃ好きかもしれない。
わくわくしながら歩いていると、イオくんに「浮かれてんなあ」と笑われました。浮かれてるよ! ちらし寿司だもん!
「ちなみに僕の家では、ちらし寿司は春のイメージ! なぜならいつもひな祭りの日にお母さんが作ってたから!」
「お前一人っ子じゃなかったか?」
「うちのお母さんのための日なんだよ」
「なるほど」
本来は女児の健やかな成長を願う日なので、女児という年齢ではないうちのお母さんには関係ないのかもしれないけど。でもお母さんが「今日は私の日だから夕飯豪華なの!」と毎年言ってたので、そういうものだと思っておくのだ。
深く突っ込んではいけない。
さて、そんな話をしながらたどり着いた「強羅亭」。家の素材は他の家と同じだけれど、作りは結構和風に見える。ゴーラで人気のばばーん! と1階を開け放ったお店なんだけど、その開け放たれた扉にかかっている布! あれは暖簾! 暖簾です!
好きな感じのお店な感じがする。早足でお店に近づいて中に入ると、やっぱり鬼人さんたちのお店だ。お店はそんなに大きくないけど、すでにちらほらお客さんも入り始めているので、もう少しすると満席になると見た。人気店だね、きっと。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
と声をかけられたので、そのまま店の奥へ。残念ながらソファ席がないので、テトさんには横で待っていてもらって……と思ったら店員さんがにこにこで座布団を持ってきてくれた。「猫ちゃんにどうぞ」だそうです。
テトは自分のために用意された座布団にぱあっと顔を輝かせて、「ありがとー!」と店員さんにすり寄っていた。座布団をもらえたということは、椅子の上OKということである。いそいそと椅子の上に乗ったテトさんはお座りおすましポーズを決めてご機嫌である。かわいいね。
「海鮮丼は食べたけど、ちらし寿司はまた別なので楽しみだなー!」
「どっちかっていうとちらし寿司のほうが子供向けのイメージある」
「確かに、子供の頃から好きだったかも!」
子供の頃は、ちらし寿司って特定の日にしか食べられないものって感じだったから、特別感があったんだよね。今は一人暮らしだし、ちらし寿司の素とか売ってるから、いつでも作れるんだけど……。でも金糸卵が乗ってるちらし寿司はやっぱり特別な日の料理って気がする。僕、錦糸卵作れないし。
「イオくん錦糸卵作れる?」
「薄く焼くだけだろうが」
「その薄く焼くのが難しいんだよー」
あとその薄く焼いたやつを、どうすれば破かずに細切れにできるのかわかんないんだよねー。世の中の主婦のみなさんはどうやっているんだろう、技術だねえ。
「錦糸卵、切ったあとのやつもスーパーに売ってますよ」
「如月くんから有益情報来たあ!」
「普通に卵焼いたほうが安いんだがなあ……?」
イオくん、値段もそりゃあ大事だけど、技術や手間ひまを買うんだよ、こういうのは。
そして「強羅亭」のメニューだけど、これまた超シンプル。
「ちらし寿司の松・竹・梅の3種類のみか……」
「シンプルに値段が違うね。梅なら1,000Gで食べられるけど、竹が2,500Gで、松が5,000G!」
「素材の豪華さとかですかね? こうなると松が気になりますけど」
「「松一択」」
「……イオさんとナツさんはほんとに気が合いますね。じゃあ松3つで!」
まーつー?
「一番良いものって意味だよテト」
そっかー。
期待に目を輝かせるテトさんである。テト用にはお刺身少し買えるかどうか聞いてみよう。アナトラのお店は結構こういうの対応してくれるから、お願いすればOK出そう。
というわけで、注文を取りに来た店員さんに聞いてみた。イオくんが。やっぱこういう時同じこと考えて行動してくれる僕の親友、頼もしい。無事に小皿にお刺身を売ってもらえる事になったので、テトは大喜びである。
メニュー3種類なので、持ってくるのも早い。回転率も良さそうかな?
「おまたせしました!」
と鬼人のお姉さんが持ってきてくれた松のトレイは、器からして豪華だった。お重に入ったちらし寿司にたっぷりの錦糸卵、ほうれん草のおひたしみたいなやつ、お吸い物用のお椀。あとは小皿の料理が2品。味の想像がつかないけど、まあこのビジュアルなら美味しいやつでしょう!
テトの前にもお刺身の乗ったお皿が置かれて、全員の料理が届いた。
「美味しそう! いただきます!」
いただくのー♪
僕とテトが先陣を切ってお箸を持つと、イオくんと如月くんも続く。たっぷりの錦糸卵の下に隠れた、ちらし寿司を……一口!
「えっ!? イオくんこれすごい! 再現性がすごい!!」
「マジか。この味アナトラ世界で出せんのか……!」
めっちゃリアルの味に近い! しいたけも甘じゅわって感じだし、エビもぷりっぷり、れんこんも歯ごたえしっかり! 酢飯の味もばっちりだこれ!
「おいしい! そして錦糸卵美しい!」
「美しい……はわからんが、確かに美味い。エビ最高」
「わかるー! 具材がごろごろ大きめで、それぞれ食感が違うのが最高。めっちゃ美味しい! あ、イオくんこれ! このほうれん草のおひたしっぽいの、甘じょっぱくて美味しいよ!」
箸休め用の小皿については、想像する味ではなかったけど、これはこれでなんとなく和風。こっちの小皿の根菜っぽいのは……ピリ辛? 唐辛子系のピリッとした味わいだ。最後の小皿は、お団子っぽいけど……芋団子だー! さつまいもぽい甘い芋の団子! 優しい塩味が甘みを引き立ててうまーい!
「テトー! テトこの芋団子をお食べー!」
おいしいのー? ありがとー!
「しょっぱいやつだけど、絶対これテト好きだから! 美味しいから!」
「……確かにテトは好きそうだな。俺の分もやるわ」
イオくんと僕から芋団子を貰ったテトさんは、わーいって感じでかぶりついた。ホクホク好きなテトなら刺さるはず。と思ってみていたら、はわー! っと目をキラキラさせたテト、尻尾をぴーん! とたてた。
おーいしー!!
にゃーーん!! と高らかに響く猫の鳴き声。うむ。
やはりテトにはホクホク系が刺さるな……!




