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42日目:テトさんはコミュ強

 お腹いっぱいになったけど、早めの夕飯だったのでまだ時間には余裕がある。

 ということで、みんなでやってきたのは夜の浜辺である。……若干トラウマがあるらしいテトさんが、ひたすらぴたりと僕に寄り添ってくるけれども。テトさん流石に二度目倒れたりしないよー。

 ナツのことはテトがまもってあげるのー!

「気合入ってるなあ……。なんて優しいんだ、撫でましょう」

 わーい♪


 今日の夜空は月が出ていないので、浜辺も結構暗い。前来た時は遠くに漁船の明かりが見えたけど、今日は海も暗かった。

 そんな中でも、うっすらと周辺の様子がわかるのが、<夜目>スキルの効果かな? パッシブで自動発動してくれるのが助かるね。

「レベル1ならこんなもんか。これはどっちかって言うと発展スキルが必要だからな」

「<夜目>の発展スキルってどんなの?」

「<夜間行動>っていう、夜に俊敏バフがかかるスキルがあるんだよな。あと<遠見>が使えそうだった」

 イオくん掲示板情報をこまめにチェックしててえらいな。どんなスキルか聞いてみると、発動を宣言すると望遠鏡を覗いた感じで遠くを確認できるっていうスキルらしい。スキルレベルが上がると距離も伸びるらしく、斥候系のトラベラーに大人気なんだって。

「そんなに使わないかもしれないけど、あったらあったで便利そうなスキルだね」

「ナツは<夜間行動>の方を絶対に取ってほしい。俊敏は大事だ」

「焼け石に水では……! でもパッシブスキルならありだね」

 僕の俊敏、今も10から微動だにしてない。一応靴の補正があるから15になるけど、それでもイオくんの俊敏の半分以下のステータスなのだ。多少上がったところでそんな劇的な変化ないと思うんだよね。


「シャル、海だよ」

 と如月くんがシャルをホームから呼び出して見せている。

 シャルは、教会に到着したあたりから如月くんの胸ポケットに隠れちゃってて、ルーアさんが倒れたあたりで如月くんが一旦ホームに戻してたんだよね。その後夕飯だったから、まだまだ人見知り中のシャルはそのままホームにいたんだけど、海に行くなら見せてあげないとね、ってことで。

「シャルは管理局には行ったことあるから、海の近くにいた事はあるんだけど、ちゃんと見せたことなかったよね」

「きゅぅ……」

「水が怖いらしくて。痛い痛い爪立てないでほしい」

 如月くんの手にぎゅぎゅっとしがみついたシャルは、ちょっとぶるぶるしている。夜の海ってちょっと怖いところあるよね、わかる。怖いなら別に無理しなくてもいいんじゃない?

「そうですね、ちょっとしまっておきます」

「あ、胸ポケットなんだ……?」


 それかわいいけど、ホームに戻さなくていいんだろうか。と思ったらシャルも落ち着くらしく、なんかちょっと満足そうな顔でポケットに収まっていた。さては如月くんに甘えているのかもしれない。かわいいね。

「うーん、まだレベル1だからですけど、ちょっと見づらいですよね。何もないよりは全然マシですけど」

「レベル上げたら使いやすそうではあるが」

 とイオくんと如月くんが話し合っている中、僕とテトはとりあえず浜辺に出て「貝殻あるかなー」とか言いながら散歩してみる。テトはもともと夜目が利くから、夜の暗い中でも探し物が上手なのである。

 ナツー! ここにしろいのあるよー!

「テト探し物上手だね、さすが名探偵! ありがとう!」

 テトがちょいちょいと砂浜を掻いて貝殻を探してくれるんだけど、これがアクセサリ用の素材になるのである。欠けてるのとか割れてるのは使えないんだけど、形が綺麗なやつは使えるのでとてもありがたい。

「ダナルさんに色々教えてもらったから、こういうの使うと美容系の効果が乗るかな? もう少しで本サービス開始になるし、そうなったらショップで売りたいなあ」

 住人さんたちも利用してくれるって聞いてるから、結構良い売上げになるんじゃないかと思うんだよね。あとお守りやお札もね、いろんな人達からお店をするべきだって言われたから。 


 僕がテトの掘り出した貝殻を拾い上げて袋に入れる間に、テトが次の貝殻を見つけてくれるので、どんどん素材がたまっていく。テト探し物本当に上手だな、助かる。

「貝殻ってアクセサリ用素材の他に、絵の具の素材にもなるらしいよ」

 しろいのー?

「そうそう、白い絵の具の材料なんだって」

 ちなみに、絵の具にも色々グレードがあって、貝殻で作る絵の具はちょっと良いものなんだって。ボーンパールも絵の具の材料になるけど、あっちは一番安い絵の具の素材らしい。これもダナルさんがアクセサリの作り方を教えてくれたときに雑談で聞いた情報です。

 ボーンパール、リィフィさんのために拾いに行く予定があるわけだけど、あれって本当に品質がピンキリらしくて。たくさん取れるけど、絵の具は品質の低いものが材料にされるんだって。だから安価で売れるって話なんだろうけど。

 テトがさっきから拾ってくるこの小さくて白い貝は、<心眼>すると「アクセサリ用素材」の他に「絵の具の材料として一般的」という情報が出る。海の中にたくさん生息してるけど、魚の食料になりやすくて、水中で中身を食べられちゃった貝が浜辺に流れ着くんだそうで。

 生態系にも色々あるね。


 もっといっぱいさがすー?

「うーん、そうだねえ……あ、<夜目>スキルレベル上がった」

 すごい、あっという間に上がるからパッシブスキルって便利だなあ。もとから基本スキルのレベルはすごく上がりやすいけど、ありがたいね。

 視界は……そんなにレベル1の時と変わったような気がしないけど……あれ?

「テト、あそこに誰かいるね」

 どこー?

「ほら、あそこの小屋の横に」

 さっきまで全然気づかなかったけど、今気づいたってことはレベル上がったことで<夜目>がちゃんと強化されてるってことなんだろうけど。それにしても夜の浜辺で何してるのかな? 気になるけど、もし隠れているなら声をかけるのは良くないか……。

 なんて考えている間に、テトは「だあれー?」と無邪気にその人のところへ走っていくのであった。えっ、どうしよう。追いかけても良いのかなこれ。でも僕が行ったら僕が不審者な気もする……?


 戸惑っているうちに、フレンドリーキャット・テトはその能力を存分に発揮し、隠れている人ににゃーにゃーと一生懸命話しかけている。「なにしてるのー? かくれんぼー?」とここまで聞こえてくる元気な声。うちの猫本当にフレンドリーだな。

 どうしようかなあ、ここでテトを回収に行かないのもなんか無責任だし……行くか。驚かせないようにゆっくり近づいて……。


 きょうはねこのびんつくらないのー?

「何、言ってるのかわからない……君すごく人懐こいね……」

 ナツいるとわかるよー。ナツよんでくるー?

「元気なのだけはわかる……」


 やはり人をとても戸惑わせているようです。んー? でもこのテトの態度だと、初対面ではなさそうなんだけど……誰だろう?

「すみませーん、うちの猫ですー!」

 とりあえずそこそこ近づきつつ声をかけると、人影はびくっと体を揺らした。あれ、なんか布被ってる? そういえばテトが「ねこのびん」とか言ってたな。

「ああ、カルムさんのところの猫好きな息子さん」

「……どうも」

 こっちが声かけたからだろうけど、小さい声でぼそっと言葉を返してくれた。すぐ逃げられるかもと思ったけど、大丈夫そうだ。これもテトの力か……うちの猫コミュ強すぎるな!

「こんばんはー。この猫の名前はテト、僕の契約獣だよ」

「……テト。良い名前」

「ありがとう!」

 ありがとー!

 褒められて嬉しいテトは、にゃあん♪ と甘えた声で鳴いた。


「そして僕はトラベラーのナツです。テトがあなたの作った猫の瓶をものすごく気に入ってて、さっきも猫の瓶作らないのかって聞いてたよ」

「……なるほど。あの瓶は工房でないと作れない。……僕は錬金術は本業じゃないし」

「そうなんだ。本業でもないのにあんなに可愛い瓶を作れるなんて、素晴らしいね!」

「……飼い主もテンション高い。とても似てる……」

「ありがとう褒め言葉です! ついでに、できることが多いのは良いことだよ!」

 テトとナツ、にてるのー♪

 テトが嬉しそうに僕にすり寄ってくるので僕はとても癒されます。良い子だねー、撫でようねー! そう言えばこっちから名乗ったのに名乗ってくれない住人さんって初めてだな。やっぱり人見知りの人にはちょっとだけつついたほうが良いのかも? ちょっと聞いてみよう。

「えーと、あなたのお名前聞いても?」

「……ミクス。……ここで、何、してる?」

 お、会話続けてくれそう。やったね! 質問されて嬉しかったのか、テトはにっこにこで「あのねー! ナツがあくせさりー? つくるから、かいがらあつめてたのー!」と説明してるけど、さすがにこれは伝わってなさそう。


「僕が<細工>でアクセサリを作るから、貝殻拾いに来たんだよ。テトがたくさん見つけてくれて助かったんだ」

「貝……。白い貝?」

「そうそう、これ」 

 手に持っていた袋から貝殻を取り出して見せると、ミクスくんはぱっと顔を上げた。被っていた布が脱げて、ようやく素顔が見える。夜だから色合いがよくわかんないな……。身長は12・3歳くらいに見えたけど、顔立ちはもうちょっと大人っぽいかな? これで17歳なのか……エルフさんの神秘。

「これ……たくさんある?」

「あるよー。欲しいの?」

「うん」

 こくりと頷く童顔美少年。そっと手元のお椀みたいなのを見せてくれる。中にあるのは、テトがせっせと見つけてくれていた貝だ。これを集めてたのかあ。


「これなら、テトが探すの上手だから、一緒に探す?」

 ! おしごとー!

「そうだねー、テトお仕事できるもんねー?」

 テトおしごとするよー! かいいっぱいさがすー!

 ふんすっと気合を入れるテトさん、やる気に満ち満ちて尻尾ぴーん! である。目をキラキラさせる白猫を見て、ミクスくんはちょっとだけ微笑んでくれた。


「じゃあ、お願い」

 まかせろー!


 というわけで、テトははりきって貝殻を掘り出した。「ここー!」「こっちにもー!」「これもー!」とちゃっちゃか見つける見つける。普通にすごいなテト!

「さすが僕の自慢の猫……! たくさん見つけてえらい! 撫でましょう」

 わーい!

 真っ白なテトが砂だらけになってさくさく貝を見つけてくれたので、僕とミクスくんはその後ろからついていって貝を拾うだけで良かった。めっちゃ楽。僕も追加で結構拾ったけど、その倍くらいはミクスくんが拾ってたので、持っている器も一杯になりそうである。

「ところでその貝、何に使うの?」

「ん。絵の具」

「ああ、絵の具にするんだ。ボーンパールより良い素材みたいだね」

「……詳しい?」

「素材鑑定持ってるからわかるだけー。僕、絵は棒人間しか描けないし。綺麗な絵を見るのは好きだけどねー」

「ん」


 ミクスくんは曖昧に頷いた。その「ん」は一体どういう意味の「ん」なんだろうか、ちょっと気になるけど、まあいっか。

 フレンドチャットでイオくんに「人見知りさんと話してるので遠くで見守っといて!」って送ったお陰で、イオくんと如月くんは遠くに待機してくれている。まあ、あの二人は色々ゲームのことで話題はあるはず。長剣と双剣という違いはあれど、どっちも剣士だし。

「絵の具かあ、綺麗な色を作るのは難しいんだよね、確か」

 歴史の授業で雑談として聞いたけど、昔は綺麗な緑色をなかなか作れなかったんだって。だから毒を使った鮮やかな緑色が出来た時、毒なのに大流行したとかなんとか。壁紙とかにもそれを使ってたから、昔のヨーロッパの人たち日常的に毒の中で暮らしてたみたいな……ブラックな話だね!

「高級な絵の具は宝石とか砕くからすごく高いとか聞いたような?」

 きらきらくだいちゃだめなのー。

「ねー、宝石は宝石できれいだからねー」

「……ナツ、意外と物知り」

「それほどでも!」


 中学の時の歴史の先生、雑学多めの楽しい授業で好きだったんだよねー。テストとか問題の答えはわかんなくても、解答用紙の裏にどんな話が面白かったかとか書くとちょっとだけ点数くれるという、超いい先生だった。

 覚えること多くて大変だったけど、おかげで歴史は好きになれたよ。

「昔、」

 ミクスくんがポツリと呟く。

「知らなかった」

「え?」

「……貝、ありがと。テトもういいよ」

 いっぱいとったー?

 テトは呼びかけられたので戻ってきたけど、ミクスくんの持っている器にたくさん貝が入っているのを見て満足そうににゃふっとした。仕事の結果が出るのが誇らしいのだろう……一杯働いてえらい!

 でも貝が集まったなら、ここで聞いておかなきゃいけないことが一つ、僕にはあるわけで。


 えーと。でもこれ内緒にしてたりしないかな?

 話題にして嫌がられそうな気もしないでもない。でも気になるし、ここを逃したらもう二度と会えないとかワンチャンあり得るしなあ……。

 やらなくてもやっても後悔しそうなら、やっとくほうが心情的にお得な気がする僕である。

「ミクスくん」

「ん?」

「これ、多分君のじゃないかな? どこかに落とさなかった?」

 だって作者わかってるんだもん。そりゃ、返さないといけないって思うじゃん。僕はインベントリから取り出したルミナスシェルの首飾りをミクスくんに差し出した。


「あ、それ。……捨てといて」

「えっ」

 えっ???

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