42日目:子猫はがんばったのだ。
美味しいごはんを食べた後は、腹ごなしを兼ねてマーチャさんの契約獣屋さんへ。
るんたった♪ と弾む足取りのテトさんの後ろを全員でついていく。シャルも行きたいって言ったらしくて、如月くんたちも引き続き一緒である。
「そう言えば、船って申請すれば借りられるんだね。ギルドでいいのかな?」
「ああ、それはカッツェのところの執事がやってくれるぞ。準備が出来たらギルドで知らせてくれるらしい」
「そうなんだ」
相変わらずいつの間に話をまとめているんだろうか。イオくん素早いなあ。行動力があって素晴らしいと思います。
教会と契約獣屋さんは近いので、一旦テトの希望を優先しようと言ってくれたのは如月くんである。なんて気の利く良い子なのか。これはリアルでモテますね、すごく想像できる。
「きゅ。きゅー」
テトもー。マーチャすきなのー。すりすりするとすべすべー。
「きゅ!」
ケット・シーっていうんだってー。
なんか先輩してるテトの頭の上には、もちろんシャルがちょこんと乗っかっている。如月くん曰く、「テトせんぱいものしりー」ってなってるらしい。かわいい。
「そう言えば、如月くんに貰った動物の言葉がわかる薬、まだ使ってなかった。ミウちゃんに使わせてもらえるかなあ」
「あ、俺も使ってみたいですね。作ったはいいけど使えるところがなかったので。やっぱり作成者としては、効果知っておきたいです」
「如月、それ俺の分はあるか?」
「えっ、すみません。もう材料がなくて2つしか作れて無くて……」
「……そうか、それならいい」
イオくん、こう見えて動物好きなので、僕が貰った時も気になっていたらしい。もう無いと聞いてちょっと悲しそう。でも僕の分をあげるとは言えない、僕も使ってみたくてですね……。
さて、やってきました契約獣屋さん!
テトが体当りする前にすっと扉をあけてくれたイオくんはやはりスマートである。わーいっとお店に駆け込んだテトは、まっすぐにカウンターへ向かってにゃーん! と鳴く。副音声は「マーチャ―! あそびにきたのー!」である。
「あらまあ、お元気ね。いらっしゃい、テトちゃん」
と穏やかに出迎えてくれるマーチャさんは、相変わらず優しいおばあちゃんの雰囲気。テトもそりゃあ懐くよねえ。
「こんにちはー! 今日ミウちゃんとお見合いだって聞いたので、結果が気になって聞きに来ちゃいました」
「あらまあ。耳が早いのねえ」
にこにこしながらソファを勧めてくれるマーチャさん。お礼を言って座らせてもらうと、テトも僕の隣にちょこんとおすわりしてきらきらのまなざしでマーチャを見つめる。ミウちゃんがどうなったのか、気になるよね。
「とっても小さい子だったから、大丈夫かしらって思ったのだけれど。なんだかとっても懐っこくて、もう何年も前からここにいたみたいよ。それで、今日からうちの看板猫になってもらう事になったの」
「わあ、やった!」
わーい♪ ミウここにきたいっていってたのー、よかったのー!
同時に歓声をあげた僕とテトをなんか微笑ましいまなざしで見つめるマーチャさん……とイオくん。イオくんは時々僕の保護者かな? と思うことがあります。
「きゅー?」
「シャルが、今ミウちゃんはどこにいるのかって聞いてます」
「今はメルバが契約獣たちに会わせているのよ。仲良くできると良いのだけれど」
ほんのり嬉しそうにしながら、マーチャさんは慣れた手つきで紅茶を入れてくれた。わかるわかる、ミウちゃんめっちゃかわいいもんね。しかも白黒ぶち模様の猫だから、メルバさんと柄がお揃いなのだ。並んだらめっちゃかわいいと思う。
……ところでさらっと流しちゃったけど、テトさんさっきなんか興味深いこと言ってなかった?
「テト、ミウちゃんここに来たいって言ってたの?」
そうなのー。ミウはねー、いっしょうけんめいかわをおよいできたのー。
「川を、泳いで?」
それって、住人さんたちが死んだら魂が向かうっていう、川のこと?
ミウはねー、おかあさんにあいにきたのー。そういってたのー。
「ミウちゃんの、お母さん……」
え、ど、どっち?
模様的にはメルバさんかな。それとも猫つながりでマーチャさん? 妖精類だからきっと2人共長生きだろうし、お子さんがいるだろうなとは思うけど……!
ちらっとマーチャさんの方を見ると、マーチャさんは不思議そうにこちらを見ていた。マーチャさんにはテトの言葉はわからないはずだから、何の話かしら、って顔だ。
「あの、今、テトが」
すごく、意味深なことを言っているんだけど……でも、これ言って信じてもらえる話なのかな。
そもそもミウちゃんの言葉、テトにはわかるみたいだけど、他の契約獣さんにもわかる? あ、テトは猫さんだからわかるのか。通訳してあげたの? えらいねー。
メルバさんは契約獣さんの言葉わかるみたいだったから、そこ経由で伝わるかもと思ったけど、だめか。でもテトも説明はあんまり上手じゃないし……あ、そうだ!
「マーチャさん、これ!」
僕も貰い物だけど、ここで使わなきゃいつ使うんだってものがあるじゃないか。如月くんからもらった、動物の言葉がわかる薬。インベントリから取り出したそれを、マーチャさんの小さな手に握らせる。
如月くん、これあげてもいいですか! OK? ありがとう!! 心の広い友達でありがたい。
「あら? これは何かしら」
不思議そうな顔をするマーチャさん。そして何か察した様子でもう一つ同じ薬を取り出す如月くん。材料がなくて2つしか作れなかったといってた薬。使うべき人は、2人だけ。うん、これが良いよね、<グッドラック>さんも肯定してる気がする。
「こっちは、メルバさんにどうぞ」
如月くんが薬をテーブルの上に置く。それから、「動物の言葉がわかる薬です」と付け加えた。テトがどんな話を聞いたのかわからないけど、ミウちゃんのお話をちゃんと聞くべきなのは、絶対にマーチャさんとメルバさんだ。
「あの、テトがミウちゃんから聞いたんです。ミウちゃんは、ここに来たかったって」
「そうなの? どうしてかしら……」
「お母さんに会いに来たって、そう言ってたって」
「まあ」
驚いたように目を見開いて、マーチャさんは、口元に手を当てた。丁度そのとき、カウンターの奥の扉が開いて、小さいミウちゃんを肩に乗せたメルバさんがひょっこりと顔を出す。
「あら、みんないらっしゃい! 今日は何のご用かしらー?」
明るい声でそう言って近づいてくるメルバさん。その肩の上からぴょいと飛び降りたミウちゃんが、テトにちょこちょこと駆け寄ってきてみぃみぃと何かを必死に訴える。
ろじてー? ってひとにせなかおされたのー? メルバがなかないようにー? かなしいことはすくないほうがいいのー。にこにこえがおがいちばんなのー。
「きゅー!」
「あの、ロジテって人に心当たりありますか?」
「あら! 私の旦那よー、戦争で負った傷が原因でもう川へ渡ったけど、そりゃあもういい男でね! 大事な子の敵討ちを果たしてくれたの、英雄よー!」
「あの、ミウちゃんが」
なんか上手いこと言えないかなと思ったけど、僕は語彙力あんまりだから何にも思いつかなかった。しょうがないので正直に、聞いたことをそのまま伝えてしまおう。
「ミウちゃんが、川を泳いできたって言うんです。ロジテさんに背中を押されて、メルバさんが泣かないようにって」
「え」
ぴしっと固まったメルバさんを見上げて、ミウちゃんは「みゅぅ!」と力いっぱい鳴く。僕の言葉を肯定しているようなタイミングだ。
ミウがんばったのー。ほめてあげてほしいのー。
「ミウちゃんはすごく頑張ったから、褒めてってテトが。それで、その薬」
さっき如月くんが軽く説明したけど、メルバさんは聞いてなかったので、もう一度。
「動物の言葉がわかる薬です。メルバさんとマーチャさんは、ミウちゃんの言葉を聞くべきだと思う」
僕の言葉に、ミウちゃんが必死に鳴き声を上げる。早く飲んでと急かすような声色に、2人の手が薬の瓶に伸びた。
「……イーチャかしら」
マーチャさんが震える声で問いかけると、ミウちゃんは「みぃ!」と嬉しそうに一声。その声を聞いて、マーチャさんは急いで瓶の蓋を開ける。少量のその薬を、一気に煽った。
そんなマーチャさんの姿を見て、メルバさんも慌てて薬を手に取る。
人は死んだら川へ行く、と住人さんは言った。
川を泳いで、大切な人が待っている岸辺へとたどり着く。そして、そこで大切な人たちと充分な時間をすごしたら、また生まれてくるんだよ、と。
「……急いで来たから、子猫になっちゃったのね」
マーチャさんの声が震えた。小さなミウちゃんを抱え込んで、みゃあみゃあと必死に話しかける鳴き声に耳を傾けている。
そういうことも、きっと、あるんだね。
スペルシアさんは善性の神様だって言うから、きっと願いが聞こえたら叶えることもあるだろう。必死にマーチャさんの頬に体を擦り寄せる小さな猫さんが、本当に、そのイーチャさんって人なのかは……言葉がわからない僕たちには不明なことだけれど。
でも、小さな子猫を前に滂沱の涙を流しているメルバさんと、涙目でミウちゃんの声に耳を傾けているマーチャさんの姿を見ていると、きっとそうなんだろうなあと思う。
ロジテさん、メルバさんは結局泣いちゃったよ、と名前しか知らない誰かに報告をしながら、僕たちはそーっとお店を後にするのだった。
「……会えるんですねえ」
しみじみと呟いた如月くん。
「どうだろう、条件も色々ありそうだけど。少なくともミウちゃんは、もともとケット・シーだったのに子猫になっちゃったわけだから……」
意思疎通が出来ない上に寿命も短いんだから、かなりのハンデだよね。そこまでしないと記憶持ったまま生まれ変わったりは出来ないんじゃないかなあ。仮説だけど。
「ヨンドの図書館情報では、川で大切な人たちとゆっくり過ごして、心残りがなくなったらまっさらな魂で生まれ変わる、って感じらしいし。また人として生まれる前提条件がそれなんだろ。で、待てないやつはミウみたいに別のカテゴリになると」
「薬、作っておいて良かったあ……!」
「それはほんとうにえらい!」
きさらぎえらーい♪
「きゅきゅー♪」
はーっと息を吐く如月くん、今回のMVPは間違いなく君です。多分、かなり特殊な条件なんだろうけど、ミウちゃんはそれを選択したってことは、それほどまでにあの2人に会わなきゃいけないと思う事情があったんだろう。
「じゃあ心残りのない奴が死んで、すぐ生まれ変わるってなったらどうなるんだろうな? 正直細かい設定が気になる」
「イオくん、この手のファンタジーなゲームにその辺の法則性求めないほうがいいよ。多少ご都合主義なもんだし、多分今のってクエストだろうから、物語性はつくられるものじゃん」
「それを言われると……お?」
「うん?」
「今のクエストのクリア報酬、対処に困るもんが来たな」
「え、どれ?」
クエストのクリア報酬って、インベントリに勝手に入るものはお金とか素材とかちょっとした小物アイテムばっかりだから、時間のあるときにまとめてチェックするようにしてるんだよね。ちょっと大きなクエストの報酬は手渡しだったり、親しい住人さんからのクエストだと直接もらえたりするんだけど。
えーと、インベントリはこの前整理したばっかりだから、普通に一番下にあるやつ……これか。パステルイエローのめっちゃかわいい色してる。
「猫の御縁お守り……猫との遭遇率が上がるってイオくん!」
「効果はともかく、可愛すぎんだよなあ……」
「あ、俺シャルの首輪に下げとこうかな」
「それだ、ナイス如月。テト! お前にこれを授ける」
ねこー♪
喜んでぴょんぴょんするテトさんだけど、それテトが持ったらイオくんに効果いかなくない? 僕が猫と遭遇する確率上がるだけじゃないかなあ。
「ナツが遭遇すれば自動的に俺も遭遇するし」
「あ、確かに?」
じゃあいっか。
テト、もらえてよかったねー!




