42日目:待望のアクアパッツァ!
ところで、精神的に疲れたときって何で癒される?
美味しいものでしょ!
「念願の! アクアパッツァ!」
「よし好きなだけ食え」
「やったー!」
ゴーラに来たら必ず食べようと思っていたアクアパッツァ、プリンさんに美味しいお店をちゃんと聞いておきました! というわけでそのお店に向かいながら、ようやく如月くんの胸ポケットから顔を出したシャルは、テトとお話中だ。
「きゅぅ……」
しかたないのー。カッツェのこえおおきかったのー。あれはあっとうされるのー。
「きゅきゅ」
シャルはうまれたばっかりのこうはいだから、むりしなくていいのー。
「きゅー」
きさらぎやさしいからだいじょうぶなのー。
どうやら領主邸でずっと隠れていたことを反省しているらしい。シャルは耳をぴくぴくさせて何事か必死にテトに訴えている。すごく微笑ましい様子だけど、如月くん、どんな会話してるの?
「シャルは、カッツェさんの声にビビって顔出せなかったみたいです、不甲斐ないって話をしてますね」
「うーん、生まれたばかりの赤ちゃんなのにそこまで考えてくれるとは、なんてえらい。撫でましょう」
「きゅ?」
あー! テトもテトもー!
「テトも撫でましょう!」
みんなえらいぞー、可愛い上に思慮深いとは! なんて良い子なんだ。シャルはテトの言う通り、無理しなくていいんだからねー。
テトも後輩を慰めててえらい! やっぱりうちの子が最高である。
そんな話をしながら歩いていくのは、ギルド前通りから少し南方面に入ったところにある店、「アクアガーデン」。事前にちゃんとプリンさんからショップカードをゲットしているのである。水色と白を基調とした外装で、涼やかなデザイン。そしてもちろん、どばーんと1階部分を開け放った開放的なお店である。ゴーラ本当にこのスタイルのお店が多いなあ。
「この店は2階ないみたいだな。奥のソファ席行くぞ」
というイオくんの誘導に従って奥へ。ソファ席だとテトがある程度寝そべる事ができるので、楽なんだよね。客層は、ファミリーから友人同士っぽい感じの人たちから……多人数向けの店なのかな? グループの来店が多いね。特に若人向けとか、年齢層上の人向け、みたいなのはなさそう。
このお店は店員さんが注文を取りに来くるスタイルだった。メニュー表を見るとパエリアがお店のおすすめみたいだけど……あ、新商品にカレー味のパエリアがある!
「イオくん!」
「カレーだろ!」
思わずイオくんを見たら、即座にこちらの意図をくんでぐっと親指を立ててくれるイオくん、ほんと気が合うなって思います。カレーがあるならとりあえずカレーなのだ!
カレー……からいのかー。
「テトの甘いのは……あ、プリンあるよ、プリン」
ぷりーん♪ さくらんぼあるー?
「ちゃんとさくらんぼもあります!」
わーい!
アイスもあったけど、テトは冷たいものあんまり好きじゃないからね。こういう食事処は、デザートはだいたい2~3種類くらいのことが多いから、その中では一番テト好みの提案をしてみる。「ぷーりん♪ ぷーりーんー♪」と歌い出すテトさんである。
「アクアパッツァ、カレーパエリア、フレッシュサラダと……あ、この店シェア前提か! どうりでお値段高めだと思ってた」
「全部分け合う想定の量みたいですね。あ、トルティージャってオムレツでしたっけ? 俺、それがいいです」
「OK!」
一応周辺のテーブルを見て、どのくらいの量なのか確認。食べ盛りの男3人だし、トラベラーはお腹いっぱい状態でも食べられるので……このくらいはいけるかな? あ、あとはチュロス! チュロスは行っとこう! テトにもおすそ分けできるからね!
というわけでさくさくと注文して、ようやく一息。
「いやー、パワフルだったねえ、カッツェさん」
思い出すほどにそんな感想しか出てこない。ゴーラの謎のパワーの源泉を見たような気がする領主邸訪問だったなあ。しみじみと言ってみると、如月くんも向かいの席で深々と頷く。
「緊張しました……あとメイドさんたちの練度がヤバかったです」
「あれはヤバいよ、漫画で見るやつじゃん。さすが貴族のお屋敷……」
「メイドってああいうもんじゃないのか」
イオくんそれは本物を知ってる人だけが言える言葉だよ……! まあイオくんの家は実はお金持ちなので、本物は知ってるんだろうけど。
むーん、テトなでてもらえなかったのー。
「メイドさんたちはお仕事してたからだよ、仕方ないね」
むむむー。おしごとだいじー。おしごとならしかたないのー。
テトさんは、たくさん人がいたのにカッツェさんしか撫でてくれなかったことにちょっとご不満の様子だったけど、お仕事ガチ勢なので仕方ないと納得してくれました。テトもお庭に飛び出したい衝動を抑えて僕の隣で大人しくしてて偉かったねー。我慢できる猫、素晴らしいと思います! 撫でましょう。
にゃふー。
「次にお伺いする機会があったら、その時はお庭見せてもらおうねー」
テトもおねがいするのー。
そんな話をしていると、料理が届いたのでちょっと早い昼食タイムである。
でっかい大皿にどどーんと料理が来るのって、パーティーみたいでなんかめっちゃ楽しい気分になりませんか? 僕はなります。この店、一人客って大食いファイターなんだろうなあ。
「カレー! なんでこんなに美味しいのかカレー!」
「エビ美味い」
「魚介風味めっちゃカレーに合うよねー、ゆで卵が贅沢に飾りに使われてるのもポイント高いよ! なんか満足度が上がる!」
「あー、めっちゃわかります。ラーメンでも普通のカレーでもサラダでも、ゆで卵がのってたら贅沢ですよね」
たまごー。たまごはしろいからよいたべものー。
「テトの好きなプリンにも入ってるし、モンブランを作るのにも必要なんだよ」
すてきー!
テトの大好きな甘いものの材料と聞いて、テトの卵に対する評価がぐんっと上がったのであった。そう、卵は大事な食品だからね。栄養だって豊富らしいし、何より美味しいのである!
「パエリアも美味しいけど、やっぱりアクアパッツァ! 白身魚に染み込む旨味! あさり、ミニトマト、ブロッコリーという王道な具材ながら、口の中に広がるこの味わい……イオくんこれ白ワインかな? めっちゃまとまりのある味なのに、隠し味っぽいスパイスが実に個性的! これをきちんと美味しくまとめ上げるとはシェフの腕が良い! さすがプリンさんおすすめの店なだけあるねえ!」
「相変わらず食レポうまいな」
「褒め言葉がどんどん出てくるところ見習いたいです」
「褒めて損になることなど、なにも無い!」
まあ僕の主張はともかくとして、マジでめっちゃ美味しいアクアパッツァです。本気でいくらでも食べられるかもしれない、おかわりをも辞さない。
「……ナツ、追加注文するか?」
「イオくんさすが! 気が利く! イケメン!」
「食い物の時の褒め言葉ほど生き生きしてんだよなあ」
呆れつつもイオくんは追加でアクアパッツァを注文してくれるのであった。最高だね!
トルティージャって、トルティーヤじゃないんだ? 似てるけどジャのほうは聞いたこと無いな……とか思ってたけど、トルティージャっていうのは明らかにスパニッシュオムレツだよねこれ。野菜が色々入ったオムレツ。これは家のお母さんもよく作ってくれたやつで、波多野家ではケチャップと一緒に食べるのが定番だったなあ。
じゃがいもがホクホクしてて食べごたえもあるし、家では甘めの味付けだったから子供の頃から大好きだったんだ。このお店のは塩味のシンプルな味付けで、その分野菜の旨味が全面に押し出されている。こっちも美味しい!
「ちなみにリアルではレンジでもわりと簡単に作れるぞ」
「料理人の豆知識ありがとう! 後で調べてみようっと」
「いや料理人じゃねえんだわ」
僕には、卵焼きと目玉焼き以外の卵料理を作るという発想がなかったよ。ゆで卵はゆで卵作る機械を買ったので文明の利器にお任せです。イオくんはなんでも作れてえらいねえ。
「ちなみにこのトマトケチャップ、リアルの味と違うハーブとかスパイスとか入っててちょっとレモン風味。これはこれで美味しい!」
「おう、トマトケチャップ風味のソースって感じだな。美味い」
イオくんほどの料理人になれば、リアルで似た味の再現とかもしてくれるのである。すでにこの前の餃子パーティーの時、ヴェダルさんのお店で飲んだスープを再現したやつをちょっと味見させてもらったからね、やはり天才なんだな。
本人は「近いだけで全然違う」とか言ってるけどね! 充分に近い味だったし美味しかったよ。
「豆入ってるの美味いですね」
と素朴な感想を言ってくれた如月くん。そしてその手元でトルティージャをかじったシャルの反応は……普通においしー! って感じかな? 多分ほんのりチーズ入ってるからかもしれない。でも、ディープディッシュピザのときほどの食いつきじゃないので、1切れ食べたら充分みたい。
「テトも食べる?」
テトはプリンがぷるぷるしてるのみてていそがしいのー。
「じっくり鑑賞タイムでしたか。適度なところで食べるんだよー?」
はーい♪
このお店のプリンは柔らかくて揺れるタイプのようです。固いのも美味しいし柔らかいのも美味しい、プリンはいろんな楽しみ方ができる楽しい甘味だと思います!
ある程度食べ進んでから、そろそろデザートのチュロスかな? ってくらいのタイミングで、話題は午後どうしようか、に移る。
リアル明日は僕とイオくんが夜までログインしないので、今のうちにできることはやっておきたいわけなんだけれども。今日のログイン時間は、夕飯休憩もあるし、あとゲーム内2日分くらいかな?
「まずは教会行く?」
最初に片付けなきゃいけない問題は、とりあえずそれかな? と思って提案してみると、イオくんも如月くんも大きく頷いて同意を示してくれた。
「早いほうがいいだろうな、カッツェのことを伝えるにも、もたもたしていると別の人を見つけるかもしれんし」
「そうですね。早く安心させてあげたいです」
司祭さんが決まらないって泣きそうになってたルーアさんを思い出すと、僕もそれが良いような気がする。安心して結婚式の準備を進めてほしいもんね。
「ナツはアクセサリを忘れずに渡せよ」
「了解であります!」
「あー、あれは……。ルーアさんは大丈夫でしょうか、渡しても」
なんか如月くんが不安そうにしてるけど、逆にスペルシアさんが用意してくれたものを渡さないという選択肢はないのである。ルーアさんはほら、湯の里で僕たちがスペルシアさんにきのこご飯を捧げてたのも知ってるし、ワンチャン「まあご縁があるのですね」て感じで流してくれないかな。
流して下さいお願いします!
「それじゃあ、教会に行った後ですけど。実は俺達って別に結婚式に関してはやることがないんですよね」
如月くんのまとめに、確かに、と頷く僕たちである。一番苦労しそうだった衣装選びが終わっちゃったから、もう待ってるだけって感じだよね。プリンさんは刺繍とか色々忙しいかもだけれど。
「んー、じゃあ何する? フィールドに行ってもいいし、如月くんの方で何かクエストとかあるなら解散でもいいけど」
何かアイデアある? とイオくんにも聞いてみると、「ナツは?」と聞き返された。うーん、いや、気になるところはあるんだけど、今じゃない感じなんだよなあ……。テト、どこか行きたいところあるー?
マーチャのところー。
「テトはマーチャさんに会いたいのかあ。でも今契約獣屋さんには用事がないなあ……」
ミウおみあい? するっていってたのー。
「あ、ミウちゃんのお見合い今日なんだ?」
それは……確かにちょっと結果が気になるね! ちょっとだけ、結果だけ聞きに行っちゃう?
イオくんにお伺いを立てようと思って見てみると、すでにすべてを察した顔で頷かれました。さすがイオくん話が早い、ありがたいものです。
「テト、社長の許可が出たのでマーチャさんとこに少し顔を出しにいこうか」
やったー♪




