42日目:物欲はひねり出すもの
「利がないよね、君に利がない!」
ばーん! と両手を広げて大げさに嘆くカッツェさん。なんでこの人いちいち芝居がかっているんだろうか……似合うからいっか!
りながーい?
「長くないよテトさん、えーと。利がないっていうのは、得しないってことかな?」
りがないのよくないー?
「何が利なのかは人によって違うんだよ」
そっかー。
じゃあいいやーって感じのテトさん、実に僕に似ていると思います。イオくん、微妙な顔をしないでいただきたい、今の会話理解してる? やっぱテトと話せるよねイオくんは。
「君の知人の結婚式で司祭をする……まあそれはいいよ! ゴーラの恩人の頼みだからね! やってやろうとも!」
「わーい、ありがとうございます!」
「でもそれって君は別に得しないよね!」
「え、しますします。子どもたちが喜ぶ」
「それって君の得!?」
「割と僕にとっては……!」
子どもたちの好感度は何にも代えがたいものなので……! と訴える僕を呆れたまなざしで見つつ、イオくんが大きく頷く。
「ナツにとっては重要事項だな」
「そう言えばナツさんって常に子どもに優しいですね」
「頼れるお兄ちゃんだと思われたい!」
割と切実なものがあるのである。
「くっ、このパターンは想定していなかった! リゲル様の友人に良いところを見せて僕の好感度を上げる作戦がッ!」
あ、それが本音か。そういえばカパルさんが、カッツェさんはエンシェントエルフのファンだって言ってたっけ。リゲルさんのお父さんが有名な……建国王の友人? の、エンシェントエルフなんだよね。
「僕と仲良くなっても、リゲルさんの好感度は釣られて上がったりしないと思いますけど……?」
「自己満足だから構わないんだよ! 私個人的には、リゲル様が直々にこの屋敷を訪ねてくださっただけでもわりと大満足だからね!」
なるほど謙虚なファンだ……。この勢いはリゲルさんあんまり得意じゃなさそうだけれども。なぜなら、なんとなく属性が似ているイオくんがさっきから無言だから。これ完全に相手にしたくないって態度ですね、なんなら僕に丸投げしたい顔してる。
この人見知りめぇ……。如月くん、怖い貴族じゃなさそうだから、会話してみようよ。
「えーと、確かリゲルさんのお父さんが、エンシェントエルフさんなんですよね?」
僕の視線に負けたのか、如月くんが困り顔で切り出す。するとカッツェさんはすごい勢いで顔をこっちに向けて、ぱああっと満面の笑みを見せた。
「その通り! レジェンタ様は生きる伝説なのだよ!」
あ、なんかスイッチ入ったぞ。すごく好きなものを語る人の表情だ。具体的には、ダイエット食について語る僕のお母さんの表情である。趣味を語れる主婦は強いので、途中で話を遮ってはならぬ……!
「そもそもエンシェントエルフという、千年を生きる古き血を語るにあたって、いにしえの妖精郷の説明からせねばなるまい! そこは太古の昔、人類と妖精類を隔てていた……」
ナツー、カッツェのおこえおおきいのー。
「そうだねテト……これが情熱ってやつだよ……」
じょーねつはおおきいのかー。
「そうだね、大きいね……」
なんかカッツェさんが語ってるのって、大昔に妖精郷とこっちの世界は隔たれていたこと、そして妖精郷が崩れてこっちの世界と融合したこと、今も妖精郷の断片が各地にちらばっていること……などなど。僕たちは前に聞いてた話だね。
「そして! エンシェントエルフはその妖精郷の主と言われているのだ!」
「へー」
「そうなんですねー」
「君たち興味が薄いな!?」
いや興味がないわけではないんですが、すでに知っている話だったので……。とは流石に言えない。それよりちょっと気になってたことを聞いておこうかな。
「カッツェさんは普通のエルフなんですよね? エルフとエンシェントエルフってどう違うんですか?」
「それをエルフの君が聞くとは!」
「僕たちトラベラーなので……」
「そう言えばそうだった!」
愕然とするカッツェさんであった。こんなふうに言うってことは、こっちの世界の人たちにとっては常識みたいなことなんだろうけど、僕としてはずっと気になってたんだよねえ。
「私のような普通のエルフというのは、妖精郷が崩れたときにこっちの世界に完全に適応したエルフなんだ。妖精郷はこちらとは空気に含まれる魔力量がかなり違うからね。つまりは妖精郷を出た者たちということになる」
「エンシェントエルフさんは、妖精郷に残っているってことですよね」
「そうなる! 私たちエルフは、こちらの世界に適応するために色々なものを犠牲にして失っているんだ。例えば特殊魔法、寿命や家系の色などだね!」
「あ、リゲルさんのところは水色なんですよね」
「その通り! レジェンタ様もそれはそれは見事な水色の髪でいらっしゃる!」
リゲルさんの家で見た、家族の肖像画、確かにみんな水色だった気がする。あの色きれいなんだけど、似合う人が限られそうな色なんだよね。こっちのエルフさんは、両親の色のどちらかを引き継ぐ形だってエーミルさんに聞いたっけ。
「うん? つまり、そもそもは同じ存在ってことでいいんですか?」
「その通り! とは言え、エンシェントエルフは強いからね! 同じと言ってしまっては失礼だろう!」
能力値が段違いって感じかな? なるほどねえ。
僕がうんうんと納得していると、執事さんが申し訳なさそうになんか綺麗な焼き菓子を持ってきてくれた。家の当主がすみません、と小声で言われる。これフォロー慣れた人だな……。
「あの、申し訳ないのですが、何でもいいので何か高そうなものをねだって下さいませんか。当主も何も無しでは終われませんので」
「高いものはあんまり思いつかないんですけど……」
「そこをなんとか……!」
如月くん相手に熱弁するカッツェさんを横目にこそこそと依頼されたけど……な、何かある? イオくん思いつかない? 助けを求める視線を向けてみると、イオくんは仕方ないなって顔で肩をすくめた。
「ダイヤモンドもらっとけばいいんじゃないか」
「……あ、杖用の!」
確かに、宝石なら高い! でもそれだと僕のユーグくん用になっちゃうし、僕たち全員に対するお礼ってなるとなんか違うのでは? イオくんはパーティーメンバーだから杖が強くなることで利点はあるけど、如月くんに何にも恩恵がないよ。
というようなことを小声で伝えてみると、それもそうかと納得するイオくん。うーん、でもそうすると本当に難しいな……。
「例えば装備品などはいかがでしょう、そのシャツ以上のものをご用意します」
「もしや、そこも面子が絡んでおりますか……」
カパルさんと遭難者の関係者さんたちからもらったシャツのことは、すでに伝わってるんだねえ。3等星ともなれば、もっと良いものを与えなければならぬ、というわけか。
でも確かに装備品をもらうのは良いかもしれない。良いものは結構高いし、装備品なら全員使うしね! 執事さんのイチオシでもあるから、これなら間違いなさそう。そうすると、どんな装備をリクエストするかだけど……。
武器は新調したばかりだし、そうなると次は防具になるのが普通の流れかな。あ、でもイオくん靴もほしいって言ってなかったっけ。そっちでも良いかも。
「ローブとか胸当てとかは、まだ全然使えるものだよね。そうすると靴がいいんじゃない? 強化できるような良い靴なら、それなりのお値段になると思うよ」
「いいな。ある程度の金額にならないと、カッツェが納得しないだろうし」
あとは如月くんが良ければだけど……カッツェさんに捕まっていてこっちに全然意識向けられてないな。えーと、何か話題に割って入ろう。
「あの、カッツェさん」
「何かね!」
反応めっちゃ早い。勢いがあってよろしいと思います。
「僕、前から不思議に思ってたんですけど、こっちの世界にいるエンシェントエルフさんって、適応して普通のエルフになったりしないんですか?」
「ふむ、良い質問だね!」
一気にカッツェさんの意識がこっちに向いたので、その隙にイオくんが装備品の話をこそっと如月くんに耳打ちしている。さすがイオくん、こっちの意図をさくっと汲んでくれるので天才です。
ちなみにテトはさっきからカッツェさんのお話に飽きて、僕の膝の上で伏せて寝てます、とてもかわいい。
「エンシェントエルフがエルフになるには、きちんとした手順を踏んで儀式をする必要があるらしいんだ! その手順を知っているのはエンシェントエルフだけで、それは妖精郷が崩れた時にスペルシア神から示された救済の手段の一つと言われている!」
「ということは、リゲルさんのお父さんはその儀式をしてない?」
「その通り! エンシェントエルフのままこちらの世界に居続けることは出来ないので、定期的に妖精郷に戻る必要があるらしいんだ。そこもまたレジェンタ様の神秘性を高める一因と言えるね!」
生き生きと喋るカッツェさん、実に楽しそう。なるほどなー、つまりエンシェントエルフさんは基本的には妖精郷の人なんだねえ。
「こちらは妖精郷と比べると大気中の魔力濃度が薄いからね! こっちの世界でエンシェントエルフは全力の魔法は使えないと聞いたよ! となれば全力のエンシェントエルフの魔法、どれほどのものなのか気になるねえ、実に気になる!」
あ、まずいカッツェさんがヒートアップしてる。イオくん如月くんの意見どうだった? 頷いてるから多分OKってことだろう。よしよし。
「そもそもエンシェントエルフは……」
「あ、あの! カッツェさん! そういえばですね!」
割と無理やり話題を遮って、カッツェさんに負けじと大きく手を振る僕である。その話題ストップ! ストーップ!
「物欲! 思い当たるものがありまして!」
「やっとかい!」
きらっきらのあこがれを語る少年のような表情から、一瞬で領主様のきりっとした顔になるのはさすがだと思います。っていうかこの人普通に、僕たちに報奨を与えようとしてたことを忘れてた感があるぞ。しかし好きなものを前にした人間っていうのは概ねこんな感じなので……許されます。
さあ言え今すぐ言え、という表情をするので……えーと、イオくんお願いします。
「カッツェ。一応、俺達3人の総意として、強化できるタイプの冒険靴をねだろうと思うが、どうだ?」
「当然フルオーダーで作らせようとも!」
「ではそれで」
「……くっ、3人もいるんだからもっとじゃんじゃか色々何でもねだれば良いものを……謙虚だねえ!!」
まだ不服そうではあるものの、一応これでカッツェさんも納得したようだ。
早速靴職人を吟味しよう! とか言い出したので、それをきっかけにして席を立つ。なんか上手いこと言ってくれました、イオくんが。
「ルーアの結婚式の際に会えるだろうから、そこで詳細を伝えてくれ。日時はこの招待状に書いてあるとおりだが、大丈夫そうか?」
「何があろうと時間をあけようとも! ふむ。開始時間の1時間前には教会に着くように手配するので、シスタースミカにそう伝えてくれ。妻と一緒に伺おう。そう、私の美しい妻と!」
「よろしくお願いします!」
僕たちがルーアさんから貰った招待状は、住人さんに見せると普通の招待状に見えるらしいので、それで日時を確認してもらう。カッツェさんも張り切ってる様子だし、執事さんも大きく頷いていたので、これは信頼して大丈夫でしょう!
僕たちが次にすることは、教会への根回しかなあ。
「次に会ったときに、追加でほしいものがあったら言いたまえ!」
「あ、いえ追加は無いと思います」
「謙虚だねえ!!! 頼むから少しでも迷ってくれたまえよ」
やっぱり悔しそうなカッツェさんなのだけれども、僕たちにはコツコツお金を溜めて自力で購入するという楽しみもありますので……。やっぱり追加は無いかな。ねーテト?
じりきでつかみとるせいこうはかがやきなのー。
「いいこと言うねえ、さすがテト、名言まで作っちゃうかあ。天才では?」
にゃふー。




