42日目:レッツゴー領主邸
今日は10時から領主さんのところへ行くので、それまでの空き時間は港でお買い物タイムにした。
サンガの朝市も面白すぎるんだけど、港もめちゃくちゃ楽しい! とにかく活気があって、みんなが生き生きと働いている雰囲気がまず良いんだよね。
テトは甘いものがあんまりなくてちょっと不満そうだったけど、それでも貝殻の小物とか見て「きれーい♪」ってはしゃいでいた。雑貨屋さんで好きなのを選びなさい……ってやったら、めちゃめちゃ良い笑顔をいただいたので僕は満足です。
貝殻の小物系、結構色々売ってたから、いろんな人達のお土産用にたくさん買い込んでしまった。お土産屋さんで売っている貝殻や鯨モチーフのキーホルダーは、帯やベルトにつけておけるように大きめのカラビナが付いているのが多い。
リアルでいうと、御当地キーホルダーみたいな感じなのかな? こういうのを配り歩くのはちょっと楽しそうだね。
とりあえず今日は、雷鳴さんへのお土産……というか、育ててもらっている野菜類の対価として、なんか美味しい魚介類を買い込んでおいた。美味しい魚はなんぼあってもいいからね、イオくんが美味しく料理してくれるし、サラムさんとか酒飲みそうな人たちに分けても良い。
つまり、たくさん買っても許されます。イオくんが。
余りにも生き生きと買い込んでいるから好きにしな……ってやってしまったので、今インベントリが瀕死だけれども! 許されます!!
「うまい刺身食おうぜ!」
「醤油万歳っ!」
できればワサビがほしかったけど、そこまでは贅沢というものだ! 新鮮な魚介類本当に美味しい、最高。いや、なんでも新鮮なものと旬のものは美味しいんだけれども、せっかく目の前に新鮮な物が沢山売っているのだから、買わなきゃ絶対に後で後悔するもんね。
「近々本気でマジックバッグの購入を検討したい」
「装備にかかった金額に比べれば、そんな高いものでもないような気がしてきている」
「それな」
でもお金は有限なので、もう少し考えてからです。
*
思う存分買い物をした後は、ギルドに戻って如月くんと合流する。あの、なんかめちゃめちゃ可愛い子がぴょこっとポケットから顔をだしているんだけど、それはスクショしてOKですか?
「ナツさん、イオさん、テト、おはようございます」
「おはよう如月くん。シャルはポケットにいるんだ? それ超かわいいね」
「なんか外に行くって言ったら一緒に行きたいけど怖いって言うんで、苦肉の策です」
「きゅー」
おはよー。せまくてぎゅうぎゅうでとてもよいかんじなのー。
「小動物を胸ポケットにいれるのはロマンだな……」
「ロマンなんですか!?」
驚いている如月くんだけど、イオくんにとってはロマンなんだよ。だって小動物に嫌われる圧の強い男だからね……! それにしてもポケットから顔だけだしているシャル、とてもかわいい。これは領主さんも大喜びではないだろうか、エルフさんだからね。
「ちょっと早いけど、サクッと行くか。基本は礼を言われるだけだろうし、面倒なことは早めに終わらせようぜ」
「正直緊張します……!」
「大丈夫だよー、妖精類なんだから契約獣を前にしてひどいことは言わないよ、多分」
何しろエルフさんらしいので。その上如月くんにはこのちまっこいシャルがいるのである。絶対に敵にならないと思うよ多分。
えらいひとにあうのー?
「そうだよ。エルフさんだから、テトのことをたくさん撫でてくれると思うよ」
わーい♪
約束の時間は10時、ここから歩いて領主さんの屋敷へ向かっても、10分前にはつくね。手土産持ってく? って聞いてみたところ、イオくんは「いらないだろ」と一蹴した。
「呼ばれていくんだから、そこまで気を使わんでもいいんじゃないか」
「そんなもんかなー」
「テトが目的なら、テトが手土産みたいなもんだし」
「それはたしかにそう」
それでは手ぶらで行っちゃいますか。レッツゴー!
たどり着いたお屋敷は、まさに豪邸って感じの堂々とした門構えである。サンガで4等星のテアルさんのお家にお邪魔したときも「豪邸だあ」って思ったけど、それ以上だね。
やっぱり、豪華な家にしとかないと面子とかがあるのかなー? とぼけーっと建物を見上げる僕を横目に、イオくんがさくさくと門番さんに話しかけて来訪を伝えてくれた。すでに話は通っていたみたいで、門番さんは手にした槍をどんどん! と地面に2回叩きつけて、「開門!」と大きな声を出す。すると、外側へ向かって門が開かれ、キビキビとしたメイドさんが出てくる。
「お待ちしておりました、トラベラー様方。どうぞお進み下さい」
すっと頭を下げてそう言ってくれるので、ではお邪魔します、と……え、僕先頭なの? イオくん先行ってくれてもいいんだよ? あ、テトがすでに尻尾ぴーんでスタンバイしていらっしゃる……はい、僕が責任を持ってテトを連れていきます……。
ナツー! おにわひろーい!
「待ってねテト。まずはお屋敷の人にご挨拶からだよー」
テトよいこだからナツのおとなりにいるのー。
すごく楽しそうなテトが、僕の隣にぴとっと寄り添う。くっ、守りたいこの笑顔。仕方ないのでテトと一緒に先陣切らせていただこう。
如月くんはめっちゃ緊張してギクシャクしちゃってるし、イオくんは平気そうだけど静観の構えであとから付いてくる。庭をまっすぐ歩いていくと邸宅の前に老執事さんがいらっしゃって、僕たちの到着にタイミングを合わせてお屋敷の立派な扉を開け放った。
まっすぐ伸びる廊下に、ずらりと左右に並ぶ使用人さんたち。
これドラマとかで見たことあるやつ……っ!
「いらっしゃいませ」
といくつもの声が重なって一糸乱れぬ礼をとるみなさん。れ、練度が、練度が高いよ……!
救いを求めて執事さんに視線を向けると、どうぞと手で示されたので、このいたたまれない真ん中を突っ切って行かねばならないらしい。
偉い人のお家、怖いな……!
流石におっかなびっくり進んでいく僕の隣で、テトさんはるんたった♪ と弾む足取りであった。さすがテトさん心が強い。頼もしい限りである。
長い廊下を暫く進むと、その突き当りにやたら大きな扉があって、執事さんはいつの間にか玄関からこっちに移動していた。そしておもむろにその扉を開く。
「ようこそ!」
部屋の中から呼びかけてきた声は、力強く役者っぽかった。舞台の役者さんの喋り方みたいな、ちょっと独特の雰囲気。
「私がゴーラの領主、パトウ家当主のカッツェ=パトウだ。勇敢なるトラベラーたちの名を教えてくれたまえ!」
朗々とそう言ったのは、ベージュのスーツをスッキリと着こなした……どう見ても僕と同年代にしか見えない若い男性なんだけれども……? あれ、カッツェさんって100歳くらいって言ってなかったっけ? この若人が100歳……?
「いかにも! 私は100歳を超えているが、そんなに物珍しいかね?」
「あっまた心読まれてる……!」
「はっはっは! 君は実にわかりやすいな!」
栗色と金髪の中間みたいな絶妙な色合いの髪に、青灰色の瞳。僕と同い年、あるいはもう少し若いくらいに見えるんだけど、エルフさんの年齢もわからんなこれ。ドワーフも、フェアリーさんも年齢分かりづらいのに、エルフさんまでわからないとは。
「このわかりやすいのがナツ、俺がイオで、後ろにいるのが如月だ。白い猫はテト、ナツの契約獣だ」
テトだよー、よろしくなのー。
僕が恐れおののいていると、見かねたイオくんが一歩前に出てちゃちゃっと紹介してくれた。シャルはぴゃっと如月くんの胸ポケットに隠れているのでスルーしている。僕の親友、いつも冷静でえらいな。
「なるほど、イオ、ナツ、如月にテトだな。君たちがゴーラを救った恩人というわけだ!」
「あ、いえそれほどの者では」
「大げさだな」
「謙虚だねえ!」
大げさな身振り手振りで嘆くカッツェさんである。話すほど舞台役者にしか見えないんだけど、まあイケメンなので役者さんになったらめっちゃ人気出そうでもある。最近結婚したってカパルさん情報があるけど、さぞかし競争率高かったんだろうなあ。
「遠慮することはないさ、なんか思っていたより結構大事だったと聞いているよ? 万が一にもエリアゼロになにかあったら、ゴーラは消し飛んでいたかもしれないっていうのに!」
「自分たちの力で阻止できたわけじゃないですしねえ……」
ぼそっと言う如月くん。
そうなんだよねー、例えば敵と戦ってなんか阻止したっていうんなら、僕たちだってもうちょっと胸を張るんだけど。真実は強い友人たちがばばばっと力を振るってくれただけだから、「そんなご大層なものでは」ってなっちゃうんだ。
「最近の若人はみんなそんな無欲なのかい? もっとこう、ゴーラ救ってやったぜって顔をして色々要求していいところだよ? 欲しいものがあればリクエストしたまえよ!」
両手を広げてそんなことを言うカッツェさんだけど、そんなことを急に言われてもなあ……。あ、執事さんが紅茶を? ありがとうございます。ソファ座らせてもらいますね……。
「申し訳ございません、当家の当主は少々大げさな方でして」
「いえいえ」
ナツー、あのひとテトのことなでないよー? なんでー?
「先に終わらせたいことがあるみたいだよ……」
なんてやり取りをしている横で、カッツェさんは「私が若い頃はみんなアレが欲しいこれが欲しいと……」みたいな話をしている。うーん、絶対役者さん向き!
どうしようこれ? ってイオくんに視線を向けてみると、イオくんはぽんと一つ手を打った。
「あ、あるぞ1つ要求が。船を貸してほしい」
「船! 何隻ほしいんだい!?」
「いや貸してくれるだけでいい。貰っても維持できん」
「貸すだけなんて何のお礼にもなりゃしないし、申請してもらえれば誰にでも貸すんだよ船は! 謙虚だねえ!!」
カッツェさんはなんか力いっぱいそう言い切って、ちょっとうなだれた。
「そっちの子! 如月といったね、君はなにかないかい!?」
「え、えーと、可及的速やかにお屋敷を辞したいです」
「違う、要求だよ! リクエストだよ! 物欲だよ!」
「強いて言うなら美味い肉……ですかね……」
「謙虚だなあ!!!」
これ、持ちネタか何かなんだろうか。謙虚BOTみたいになってるよカッツェさん。頭を抱えたその人は、最後に僕を見て、テトを見て、うーんと唸った。
「エルフの君は……見るからに欲がなさそうだ!」
「人並みにはありますけど……。強いて言うなら家の猫がとてもあなたに撫でられたがっているので、撫でてもらえると嬉しいですね」
「それはお礼にならないよ、むしろご褒美だね!」
くうっと何故か悔しそうにしながら、カッツェさんは即座にテトを撫でるのであった。あ、手慣れてますね、さすが妖精類。
なでるのおじょうずー♪
テトも満足そうでよかったよかった。
「全く、困るなあ! こっちはお礼が出来ないと面子に関わるんだよ! 何かないのかい、欲しいものとか要求とか! ゴーラの領主ケチだったーとか言われたら、私は一生傷ついて落ち込むからね!」
「言いませんけど……!」
むしろこのメンタルの人が傷ついて落ち込む姿をあんまり想像できない。カッツェさん、賭けてもいいけど1日で立ち直れるタイプだと思うよ。打たれ強さを感じます。
「面子ですか……」
めんつなあにー? めんってながいのー?
「ご飯の話じゃないよテトさん」
なんだー。
つまらなさそうな顔になったテトさんを見て、イオくんがふと何か思いついたように顔をあげた。イオくんは頭の回転が早いので、何か思いついたのかもしれない。
「カッツェは、ゴーラの領主だな?」
「いかにも!」
「100歳を超えている」
「そうとも!」
「髪色は栗色……? 孤児院の人間とは身内ではない。領主だから広義ではゴーラの住人たちとは関わりのある立場。当然ゴーラの住人。……病気や怪我をしているか?」
「ないねえ!」
「健康だし、星の民だから当然教養はあるだろう。過去一年以内にスペルシア教会で祈ったことは?」
「新年には毎年祈りを捧げているよ。……うん? もしやそれは……」
「よし採用!」
あ、僕も流石にわかったよ。確かに適任かもしれない。条件をすべてクリアしているし、ルーアさんたちの結婚を祝えない理由が何一つない。なるほど、イオくん頭いい!
「カッツェさん!」
僕は期待を込めて問いかけてみることにした。
「司祭さんやりませんか!」
「君の?」
「いや違いますけど! スペルシア教会のシスターさんなんですけど、結婚式まであと一週間切ったのに司祭さんが急病で倒れられて、今代わりの人を探しているんです!」
「この期に及んで人のため……? 無欲ッ!」
なんか机の上に突っ伏してしまったカッツェさんであった。あのー、それで、どうでしょうお時間つくれそうですか……?




