39日目:無事、商談成立。
【悲報】リゲルさんとマレイさんの会話の意味がわからない!
……いや、多少はね。多少はわかるんだよ、交渉してるんだなって感じのことは。でもさっきから交わされる単語の意味がですね、あの……何の話それ?
ってぽかんとしていたら、いつの間にかイオくんと如月くんに回収され、隣のテーブルセットに移動させられました、僕です。さっきパウンドケーキ渡したメイドさんが、お茶とケーキを準備してくれていたらしい。
リゲルむずかしいはなししてるの……。
テトさんも若干しょんぼり顔。だよね、よくわかんなかったよね。「明星の涙」とか「暁の羽」とか「宵闇の欠片」とか……一体何だったんだろう。
「ナツさん、あれ多分国宝の名前ですよ」
「って如月くん! 物知りでえらい! なんで知ってるの?」
「石が薬になるって載ってた本にあったんです。宵闇の欠片っていうのは、常夜藍石っていう鉱石を砕いて薬にしたものを言うらしいです」
サンガで見つけたというその本には、古今東西の珍しい薬石が載っていたんだって。その中で伝説級の薬として扱われていたのが、その「常闇の欠片」なのだとか。
「名前の通り、真っ黒の粉なんですが、小さじ半分ほどの量を特定の飲み物とあわせて飲み干すと、不老不死になれる……という触れ込みで王家に献上されたそうですよ」
「不老不死になれた?」
「なれなかったみたいです。それでも、ヒューマンの王様が150歳まで結構元気に生きたというので、不老不死とまでは行かなくても延命長寿の秘薬であるとされてました」
「へー!」
さすがファンタジー世界、すごい薬があるものである。でもその話には続きがありまして。
「120歳を超えた頃から精神を病んでしまったので、結果としてやむを得ない場合のみ使うように、という注釈付きで封印されたそうです」
「そ、そういうところはなんかリアルだね……!」
ヒューマンの平均寿命を大幅にこえてるもんなあ。きっと親しい友人たちとか、自分の子どもたちとかよりも長生きしたんだろう。そういう状況が心を蝕んだのかもね。あ、でも薬自体の副作用かもしれない? うーん、深く考えるのはやめよう。
「ナルバン王国の国宝か。やたら詩的な表現の名前が多いのも、それだけ絢爛豪華なものだからってことか」
イオくんも興味深そうである。確かに、きれいな名前が多かったね。
「ところでナツ、あの宝石はなにか特殊なやつなのか?」
「あ、そういえば説明してなかったね」
僕とテトはマレイさんからきちんと説明してもらったけど、今回はすぐに商談に入っちゃってるからマレイさんの説明はなかった。僕は以前聞いた話を思い出しながら、それをそのままイオくんと如月くんに伝える。星の名前がついた特別な宝石、なんかすごく良さそうだよね。
光にかざした時虹色のかげが落ちる、って話をしたときに丁度マレイさんが実演してくれたので、隣の席からも虹色を確認出来た。
きらきらー♪
テトが即座に反応して、床に落ちる虹の影をてしっと捕まえに行く。それを見て、イオくんも理解の表情である。
「なるほど、あれは珍しいな。相当高い宝石なんだろうってことは理解した」
「10年に1個、ってくらいのレアなやつなんだって。王様の王冠にはふさわしいよね」
「思いっきり商談してますけど、リゲルさんってこういうの決める権限あるんですかね?」
「あ」
それは考えていなかった。さすが如月くん、視点が違うと思いつくことも違うね。でも大丈夫じゃないかなあ、元々リゲルさんの方から宝石店を紹介してほしいって言ってきたんだし……。ある程度の予算も、なんか仕事ができるリゲルさんなら通しちゃいそう。
淡々と商談を重ねる隣のテーブルを横目に、僕達は美味しい紅茶とパウンドケーキをいただいて、テトもメイドさんに「おいしいのありがとー♪」って懐いたりしていた。やがて2人の商談は無事に終了したらしく、マレイさんがこれでおしまいとでも言うように、ぱんっと手を叩く。
「有意義な商談でしたわ、王家からの決定通知をお待ちしておりましてよ」
「こちらこそ、良いものを紹介していただいた。連絡はナナミの宝石店「サンティエ」宛だな。「エタンセル」の系列店はほかにもあるのか?」
「当店はロクトに本店「ジョワイオー」、ゴーラに当店「エタンセル」、ヨンドに系列店「ルルール」、ナナミに系列店「サンティエ」、ニムに系列店「ルミナス」がございますわ。それぞれ当家が代表を務めておりますの」
「記憶しておこう」
絶妙なアルカイックスマイルで、リゲルさんとマレイさんは握手を交わした。……なんか、力強くない? 大丈夫? 商談ってまとまったんだよね……? 若干不安に思う僕である。
でもこっちを向いたリゲルさんの表情がちょっと柔らかいような気がしたし、大丈夫かな。
「マレイさん、突然の訪問に対応してもらってありがとう。宝石、割らなくて済みそう?」
「ふふ、お気遣いいただいたわね。あのままの形で使っていただくことを条件に、少しだけお勉強いたしましたの。だって、あの美しい形を崩してしまうなんて……あまりにも惜しいわ」
ほうっとため息を吐くマレイさん。物憂げな表情も美しいね。あれ、その指にはまってる指輪、それってもしかして……杖では……?
「……マレイさん、もしや魔法を使いますか?」
魔法をただ使うだけなら杖がなくても発動するけど、日常的に魔法を使うなら杖があると圧倒的にやりやすい。イオくんだって魔法を使うだけならできるけど、杖がないから威力が全くないもんね。【クリーン】みたいな、誰が使っても同じ効果が出るものだけ使うなら、杖は必要ない。でも指輪タイプの杖を使っているってことは、常日頃から魔法を多用するってことでは?
そう思って尋ねてみると、「ええ、もちろん」とのお返事が。
「宝石の研磨や加工、保存や運搬にまで、魔法は幅広く使うものでしてよ」
「あ、じゃあ! どこかおすすめの杖の工房知りませんか!」
やった、どこか探さなきゃって思ってたけど、マレイさんの使っているところなら間違いないぞ。だってマレイさんって見るからに一流のところしか使わなさそうだもん、上流の気配だよ……!
「あら、杖が強化できるのかしら?」
「そうなんです、やっと最初の強化なんですけど、僕がこの杖作ってもらった工房ってイチヤなので……。ゴーラに杖工房の伝がなくて」
「見せていただける?」
僕の自慢のユーグくんです、どうぞどうぞ。とってもきれいな杖なんだけど、強化には宝石が必要って説明文に書いてあるんだよね。どんな宝石でもいいなら、テトにもらったホワイトオパールがあるんだけど、宝石に相性とかあるかもしれないし、そのへんもちゃんと聞きたいんだよね。
「……素敵な杖だわ。花束のような華やかさと月の光のような上品さを備えているのね」
「自慢の杖です!」
「一流の職人の手ね。これだけの技量で作られた杖ならば……あそこしか無いわね。紹介状を書いて差し上げるわ」
「本当ですか! やったー!」
そうそう、一流の職人が作ってくれた一流のユーグくんなのです。やったねユーグくん、マレイさんが良い工房を教えてくれるよ! なんか若干きらきらしてる気がするので、多分ユーグくんも喜んでいることでしょう。
「そうだった、強化も行かないとな。午後にでも教えてもらった工房に行くか?」
「近場だったらはしごでいいけど、剣の工房と遠かったら別行動でもいいよ。剣は如月くんも強化するんだろうし時間かかるよね?」
「それなら、ナツの方には私が付き合うぞ」
さらっと申し出てくれたリゲルさん。リゲルさんなら杖の強化とかたくさんしてるだろうし、良い助言をもらえるかも。ありがたいのでぜひぜひ!
テトもナツといっしょー。
「テトもありがとう、一緒に行こうね!」
ユーグせんぱいおうえんするのー。
「後輩に応援された先輩は頑張っちゃうものなのだ……!」
そんな話をしている間に、マレイさんは紹介状を作って僕に差し出してくれた。花がらの透かしの入ったきれいな白い封筒は、これだけでもなんか高級品の香りがする。そして、ショップカード。
「杖工房・アリシャ。南側だね、イオくんたちが行く予定のラドン工房は北の方だから、結構離れてるかも」
「じゃあ別行動だな。早めに昼飯食ってからにするか」
「そうだね」
アリシャ、って工房主さんの名前かなあ? 藍色に銀のラメが入ったきれいなレアカードは、シンプルに中央に杖が刻まれたデザイン。格式高そう。リゲルさんが一緒で正解かも。
「その工房は少し変わっていて、一流の杖しか受け付けませんの。良い杖を持っていることが利用の条件……ということね」
「おお、なんかすごそう。あんまりお高くないといいんですけど……!」
いくらクエストでドカンと入ってきているとはいえ、強化ってどのくらいのお金がかかるのかわからないからなあ。お値段次第では、すぐにお願いは出来ないかもしれない。
「あら、料金は良心的よ。ただ、杖を選ぶだけ。……その杖ならきっとお眼鏡に叶うと思いますの。あそこは仕事を選ぶけれど、腕は一流ですもの」
「こだわりがあるんですね」
なるほど、それなら……。いやまだ安心は出来ない。マレイさんのいう「良心的なお値段」って言うのがバカ高い可能性もあるからね……! 実際見積もりとってみないとわからないところだなあ。
何にせよ、腕の良い職人さんがいるなら良かった。うちのユーグくんはずっと使い続けるつもりだから、なるべくコンディションを良い状態に保っておきたいしね。
「あとは、ホワイトオパールが杖の強化に使えたらいいんだけど」
「もしもっと良い宝石をお求めなら、当店でお求めになってね。私が責任を持って最適な宝石を選びますわ」
にっこりと微笑むマレイさんである。愛想笑いじゃなくて、多分お友達用の笑顔だから、僕もつられてにこにこしちゃうな。これからも杖の強化タイミングになったら、さっきマレイさんが言ってた系列店ってところに行けば良い宝石が買えるってことだよね?
と口にしてみると、マレイさんは無言で僕に1枚のカードを持たせてくれた。ショップカードは普通紙素材なんだけど、このカードは金属プレート。でもカテゴリ的にはショップカードに収納されたので、何か特別なショップカードなのかな……? と思って取り出してみると……。
「会員証……?」
「ホワイトシープの系列店は、一見さんお断りのお店ばかりですもの。それを持っていれば、どこの系列店にも入店できるので便利でしてよ?」
「入場証みたいな感じかなあ。何から何までありがとう、マレイさん」
「よろしくてよ。ナツさんには珍しいものも見せていただいたお礼と思ってくださる?」
珍しいもの……あ、グランさんの神獣石か。
確かに、あれは珍しいよね。石ではあるから、きっと宝石に携わる一族にとっては特に目を引くものなんだろうねえ。
「よろしければ、ヨンドにある「ルルール」にも是非足を運んでくださると嬉しいわ。あそこは私の弟が居りますの、杖用の宝石選びなら、私よりも弟が得意でしてよ」
「弟さんですか? ヨンドに行ったら、ぜひ!」
わー、楽しみが増えたね。忘れないようにメモしておかなくちゃ……!




