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39日目:人見知りさんとのちょっとした遭遇

 ゴーラの美味しいお店は、北側と港周辺に固まっている。……らしい。


「だから、美味しいお店って言うと有名なのは港倉庫街へ行くのが早いんだけど。どうしても南門周辺でというのなら、味は最高峰ではないけど、居心地の良い店とか。ちょっと変わったものを売る店とか。そういう感じになるね」

 静かな口調でそんなふうに教えてくれたのは、飴の屋台を出しているカルムさん。前に猫の形の飴を買ったお店だね。テトが気に入ってるから、追加でまたいくつか買うついでに、このへんでランチの美味しい店無いですか? って聞いてみた結果である。

「居心地の良いお店っていうのが気になります。どんなお店ですか?」

「昼はカフェで、夜はバーになるところだよ。バーと言ってもお酒が苦手な人でも楽しめるくらいのメニューはあるかな?」

 カルムさんがくれたショップカードには、「カフェ&バー・シーサイド」という店名が書かれていた。明るい水色のベース色に、カクテルグラスやワイングラス、パスタやフライドポテトのような定番おつまみのデフォルメされた絵が散りばめられた、ちょっとポップなカードだ。

 箔押しではないから、レアなお店ではなさそう。これなら明日会う予定のプリンさんにも渡せるね。


「はい、猫の瓶10個おまたせ。ご注文は以上でいいかな?」

「ありがとうございます!」

 ありがとー! ねこー♪

 嬉しそうなテトがお礼を言うと、カルムさんはすこし微笑んだようだった。カルムさん、糸目だからちょっと表情が分かりづらいんだよねえ。リゲルさんみたいに表情筋があんまり仕事しない人の方が、僕はまだわかりやすい。

 なんかエルフの種族的な能力なのかもしれないけど、目を合わせると感情が伝わりやすい感じなんだよね、住人さんたち。

「テト、古い飴さんから食べようねー。はいあーん」

 あーん。

 無防備に大きく開けたテトの口に、ぽいっと猫の形の飴を放り込む。テトはとっても嬉しそうににゃあん、と一声鳴いた。

 11時半を回ったから、そろそろカルムさんの屋台は店じまいらしい。滑り込みで飴買えて良かったね、テトさん。


「あ」

 満足そうなテトを撫でていると、不意にカルムさんが声を上げた。思わず顔を上げると、カルムさんは右の方を見て「ああー……」と残念そうに手を彷徨わせている。

「カルムさん?」

「ああ、ごめんね。そこに息子がいるんだけど人見知りでね……。お客さんがいるから、隠れられちゃったんだ」

「あ、猫の瓶作ってる息子さん」

 カルムさんの視線の先を追ってみたけど、ちょっと遠目の塀の影に誰かいる……かも? 身長は低めなので、多分子供かな。手を振ってみたけど……無反応だなあ。

「テト、あそこにいる人がこの猫の瓶作ってくれたんだって」

 ごあいさつするー!

 ぱああっと顔を輝かせたテトさんは、止める間もなくてててっとその塀のほうへ駆けていく。追いかけ……ないほうがいいかなあ、人見知りだと。ちらっとカルムさんを見てみると、苦笑を返されてしまった。


「そっとしといたほうがいいですか?」

「うーん、ごめんね。猫さんなら大丈夫だと思うんだけど、人間は逃げてしまうかと」

 それならば仕方ないか。屋台の横から見ていると、テトは息子さんと思しき人影の前まで駆け寄ると、何事か元気ににゃーにゃー話しかけている。……遠いと副音声聞こえないな。多分、猫の瓶とってもすてきー、みたなこと言ってるんだと思うけど。

 びくっとしちゃったかもしれない子供の影は、すっぽりフードを被っていて、顔は見えなかった。ただ、テトがとても好意的なのは伝わったようで、時々頷いてくれたりして、猫への優しさは伝わってきたよ。

「息子さん、何歳くらいなんですか?」

「17歳だよ」

「えっ」

 あの身長だと12・3歳くらいでは? と思った僕に、カルムさんはにっこり。

「エルフなんだ」

「あ、なるほど種族差……!」


 エルフはヒューマンの倍以上生きるから、成長にも差が出るのかあ。ちょっとこれは覚えておこう。小さい子供だと思って話しかけたら、僕より年上のエルフさんってことはあり得る……!

 ヒューマンとエルフが両親だと、子供はエルフかヒューマンかどっちかになる……って前に聞いたし、カルムさんの奥さんはエルフさんなんだろう。リゲルさんのところも、ヒューマンの妹がいたって言ってたもんなあ。

 テトはありがとー! って感じにその人影にすり寄ってから、僕のところに戻ってきた。お礼を言えて大満足って様子だ。僕も一応ぺこっと会釈だけしてみたけど、今度は反応あるかな……? 小さく会釈を返してくれたので、これで満足しておこう。

 人見知りの人はそっとしておいて、向こうのペースにあわせたほうがいいのだ。こっちから無理に構っちゃうと、苦手に思われて避けられる事が多い。

 同じ人見知りでも、こっちと仲良くなりたいって思ってくれている人になら話しかけるけど……そもそも会話が無理って人だって、中にはいるしねえ。イオくんだって、ある程度相手の傾向とかを把握するまでは、積極的に会話したくない人だし。会話無理って友達とはメッセージアプリでやり取りすると饒舌だったりするし……あれ、僕の友達って結構、人見知りが多いな?

 まあ個性だよ、個性。

 

 屋台を片付けるカルムさんに別れを告げて、僕達は教えてもらったばかりのお店、「カフェ&バー・シーサイド」へ向かう。地図の空白地が埋まるなら、それだけでも大歓迎ってなものだ。

「えーと、天然石売ってたお店の横から西方面に入る路地だよ」

「あ、ここですね。入れるようになってる」

 如月くんがサクサク先頭を行くので、僕たちはそれについていく。リゲルさんは最後尾だ。普段リゲルさんはナナミでどんなお店に行くんですか? って聞いてみると、

「まあ、それなりに高い店だな」

 とのお返事。まあそりゃそうかあ、きっと高給取りだろうし。絶対星の民だろうから、ファミリーネームもあるんだろうけど……リゲルさんが言わないなら聞かない。そのうちどっかから耳に入ってきそうでもある。

「そう言えば、ナナミにカレーありました?」

「見つからなかったな。帰りにサンガに寄って買って行くのも良いが」

「売ってるといいですねー」

 サンガの屋台は曜日や午前午後でも変わっちゃうから、そこは祈るしか無いぞ。まあでも、スープカレーを気に入っていたリゲルさんだし、庶民的な味でも大丈夫かな。


 リゲルからいのすきなのー?

「リゲルさん辛いの好きなのかって、テトが」

「やたら辛いのは苦手だが、適度な辛さで味が良ければ好ましいな」

 むむー。テトからいのきらいなのー。

「テトは辛いのだめなんですよ。あと酸っぱいのも苦手かなあ」

「甘い物を食べればいい」

 あまいのすきー♪

 テトにとって食事は嗜好品でしか無くて、本来なら魔力さえあれば充分。ということは、別に食事から栄養をとっているわけではないので、どんなに偏った食事をしていても問題ないのである。当然、これからも甘い物と美味しいものだけを与えていくよ。

 リゲルさんの微笑ましい表情に見守られつつ、「ごっはーん♪」とうきうきなテトさんは前をゆく如月くんについていく。少し歩いたところで、目的のお店は見つかった。

 カフェ&バー・シーサイド。

 どぱーん! と入口が開放的なお店である。ゴーラで流行りの店構えだ。


 店内は2階建てで、テラス席も当然ある。2階のベランダ席と1階のテラス席はすでに埋まっていて、1階の店内は半分くらい埋まってる感じかな?

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ! ご注文は中央カウンターで承ります!」

 とウエイトレスさんの元気な声が飛んでくる。1階は2人~4人用の席が多いみたいだ。イオくんが素早く奥の階段から2階を見に行って、すぐに戻ってきた。

「2階空いてるぞ、ソファ席もある」

 手招きされたので、そのまま2階へ。

 階段を上がると、2階はベランダ以外はがらがらだった。1階のカウンターで注文する形式だから、2階まで持ってくるのが面倒って人が多いのかもしれない。でも、6人がけの席が余っているのはありがたいね。この、中央カウンターで一括注文受付スタイルは、サンガで贔屓にしてた「南西の風亭」も同じ形式だったかな? アナトラ世界ではポピュラーな注文方法なのかも。

 テトと僕が奥の席をもらって、他の3人が向かいに座る、朝と同じ席割りになる。メニューは透明なテーブルクロスの下に挟まってて、絵心のある人が描いているのか、わかりやすいイラスト入りだ。


「ランチメニューは左側だね。えーと、洋食系?」

「パスタとかピザが多いな。シェアするか」

 ぱすたー。テトおこめのめんがいいなー。

「このお店にフォーはないよテトさん。一緒にグラタン食べる?」

 むむー。ちょっとまようのー。

 丁寧にイラストを描いてくれてるから、食べ物の絵が美味しそう。色はついてないから、テトにはどれが白い食べ物なのかわからないのかな。グラタンは白いよ! あ、でもテトにはデザートのパンケーキのほうがいいかも。生クリームたっぷり。

 すてきー!

「じゃあ、テトはパンケーキで。僕達はどうする? シェアするならピザ3枚くらい注文しちゃうのもありだよ」

 メニューを見ると、定番のマルゲリータの他にもソーセージ系の肉たっぷりピザとか、きのこのピザとか、当然シーフードのピザとか、結構種類がある。ゴーラは乳製品高くないから、お値段も控えめでありがたいね。

 肉はステーキ系が高いけど、ソーセージとかペパロニとかベーコンとか、加工されたお肉ならそんなに高くないみたいだ。


「リゲルさん、何か食べたいものある?」

「正直なんでもいい」

 ですよね。リゲルさん、この前平パン1枚で夕食を終わらせようとしていただけあって、あんまり食に興味なさそうだったもんな。

「如月くんは?」

「ソーセージピザは欲しいですねー」

「じゃあ1つはそれで。イオくんは?」

「俺もピザがいいな。ナツあと2枚くらい選んでくれ、俺は珈琲があればいい」

「わかった、じゃあピザパーティーで行こう!」

 んー、それじゃあゴーラらしくシーフードの……ペスカトーレってやつを1つと、定番のマルゲリータでいきますか。物足りなかったら追加すればいいしね。あとはそれぞれ飲み物を1つずつチョイス。

「わかった、如月注文に付き合ってくれ」

「了解です!」

 というわけで注文はイオくんたちにお任せ。僕は……ピザをひっくり返すと思われているので、戦力外である。リゲルさんは当然のように座っているので、自分が注文に行くって発想が無い人なんだろうなと思う。まあ、あんまりぞろぞろ行っても邪魔かもしれないし。


「そう言えば、ナツ。明日領主に会いに行くが、お前とラメラが言っていた奉納物の話をしてみるか?」

「え」

 奉納物……? 何の話だっけと少し考えてしまったが、あれか。ラメラさんに捧ぐアクセサリー奉納大会か。

「お祭りで盛り上がってくれるなら是非やってほしいですね。ラメラさん、アクセサリーを捧げてもらうの嬉しいみたいでしたし」

「聖獣や神獣にとって、何かを捧げられるということはそれだけで信仰の力になるからな。ラメラもメリカもゴーラでは信仰の厚い存在だし、職人たちも喜んで参加するだろうが……信仰に絡むものに順位付けするのはあまり良くないこととされている」

「なるほど」

 それもそうか。信仰の形であるならばなおさら、出来の良さと信仰の強さって別だもんね。そもそもラメラさんに捧げるのが目的なのに、これは何位です、みたいに勝手に評価するのもなんか違う。ってことは、大会方式じゃないほうが良いのかな。

 ラメラさんに、直接どれが好きか選んでもらう?

 順位じゃなくて、「ラメラさんのお気に入り」なら、大丈夫かな。その場合、お気に入りのものを作った職人さんに、ルミナスシェルの作り方とかをラメラさんから伝えてもらって……。あー、でも鱗を渡さなきゃだから、うっかりすると奪い合いになるかもしれないなあ。

 うーん、意外と難しい話だったかも。

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― 新着の感想 ―
ナツ君の人見知りへの関わり方ありがたすぎる……!! 急に来られてもビビるので距離を置いてくれるの嬉しいー。人柄が本当にいいのが伝わってきます。 一年間更新お疲れ様でした! 大変楽しませていただき、あ…
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