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暗闇に差す一筋の光 ――恩師の助言と私服校という道

中学三年生への進級を控えた春、私は自分の将来、つまり「高校進学」という現実について本格的に考え始めていた。

当時の日本では、中学校を卒業して就職する道もまだ残されていた。我が家の壊滅的な経済状況を考えれば、私も高校進学を諦め、すぐにでもフルタイムで働いて家計を支えるべきではないかと、本気で思い詰めていた。


だが、その考えを両親に打ち明けた時、普段は頼りない父と、日々のやり繰りに追われる母が、揃って激しい口調で私を遮った。


「〇〇、それだけは絶対に駄目だ。何があっても高校には行け。今は返さなくていい奨学金だってあるし、お前が学歴で苦労する姿は見たくない。お金のことは親が何とかするから、お前は勉強だけを考えなさい」


周りの友達も、高校へ行くのが当然という空気の中で進路を選んでいた。両親の強い言葉に背中を押され、私も重い腰を上げて志望校を探し始めた。だが、私の高校選びの基準は、自分の学力や興味ではなく、徹底的に「お金」の問題から入るしかなかった。


私立高校への進学は、入学金や授業料の面から一秒で選択肢から消えた。目指すは県立高校一択。しかし、通学費がかかる場所は避けなければならない。我が家から歩いて通える範囲に高校はなく、一番近い県立高校でも約五キロ離れていた。普通の生徒は自転車通学をする距離だが、私にはその自転車を買うお金すらあるか分からなかった。


(五キロくらいなら、毎日走って通えばいいか……。でも、高校の服装はどうなるんだろう? 高校生になっても、この中学校の半袖半ズボン体操服を続けられるんだろうか? さすがに真冬に半袖半ズボンの高校生なんて、街中に一人もいないよな……)


考えれば考えるほど、目の前は暗闇に包まれた。中学校の担任の先生に、服やお金の生々しい相談をするのはどうしても気恥ずかしかった。


迷った末に、私はある日の放課後、一キロほど離れた母校の小学校へと足を向けた。あの五・六年生の時に私を温かく見守り、中学校の制服問題でも奔走してくれた、あの優しい男性の恩師に会いたかったのだ。


卒業してわずか二年ほど。小学校の校舎の匂いは何も変わっていなかった。職員室の戸を叩くと、先生はすぐに私に気づき、椅子から立ち上がった。


「おお、〇〇じゃないか! よく来たな!」


先生の顔を見た瞬間、私の胸の奥でせき止められていた感情が一気に決壊した。中学校での孤独な半袖生活、中2の冬の地獄のような寒さと飢え、進学への不安。張り詰めていた緊張の糸が解け、私は先生の前で、大粒の涙をボロボロと流してしまった。


「先生……僕、高校に行きたいんだけど、お金が、服が……」


言葉にならない私を、先生は何も言わずに、ただ大きな優しい手で、何度も何度も背中をさすってくれた。


「よく頑張ったな、〇〇。まだその半袖半ズボンで、頑張っていたんだな。大丈夫だ、話はゆっくり聞く。先生が調べておいてやるから、来週またここへ来い」


翌週、私は再び小学校を訪問した。先生はわざわざ校舎の玄関前まで出て、私を待っていてくれた。応接室に案内されると、先生は一枚の分厚い資料を机に広げた。


「いいか、〇〇。よく聞け。この街で一番偏差値の高い、一番難しい県立〇〇高校があるだろう。あそこはな、なんと制服がないんだ。完全な『私服校』だ」


先生の言葉に、私は目を見開いた。


「体育の授業用に体操服は必要だが、あそこの高校は長袖か半袖かの指定が比較的自由だ。つまり、半袖シャツと長ズボンの体操服を一着ずつ買って、一年中それで体育を受けても誰も文句は言わない。普段の登下校は私服だから、お前の好きな半袖半ズボンで通ってもいい。だがな、〇〇。先生から一つ、大事なアドバイスがある」


先生は私の目をまっすぐに見つめた。


「お前はもう、半袖半ズボン体操服を穿き続けること自体が『目的』になっていないか? お前の本当の目的は、服を買い控えて、お母さんのお金を一円でも節約することだったはずだ。高校生用の半ズボンの古着なんて、交換会もないから手に入らないし、新しく買うなら普通の安い私服の方が、指定の体操服より遥かに安いんだよ。だから、高校に入ったら、もう無理に半袖半ズボンにこだわらなくていい。安い普通の長袖を着ればいいんだ」


頭をガツンと殴られたような衝撃だった。私は節約のために始めた半袖半ズボン生活を続けることに、いつの間にか奇妙なプライドを抱き、固執してしまっていたのだ。先生の言葉は、私の頑なな心を優しく解きほぐしてくれた。


「それからな、ここからが一番重要だ」と先生は続けた。「その一番難しい県立高校には、成績優秀で家庭が困窮している生徒に向けた、国や県の『返済不要の奨学金』の枠が優先的に割り当てられている。君の今の成績なら、もう少し頑張ってその高校にトップクラスで合格すれば、三年間、一円も返さなくていい奨学金をもらいながら学校に通えるぞ。自転車だって、そのお金で買える」


暗闇の中に、眩いばかりの一本の道が通った瞬間だった。


「先生……ありがとう。僕、その一番難しい高校に行く。絶対に合格してみせる」


私は涙を拭い、強く宣言した。別れ際、先生は私の肩を叩き、「応援してるぞ。いつでもまた来い」と笑顔で見送ってくれた。これで私の目標は決まった。


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