↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/19

試される魂 ――凍結の街と不屈のプライド

中学二年生の冬、冬場の新聞配達の過酷さは、小学生の頃の比ではなかった。足元に白い靴下を履くようになったため、足先の感覚が凍りつくような痛みだけはほんの僅かに改善された。しかし、身体全体の寒さは全く変わらない。いや、例年より冷え込みが厳しく悪化していた。


さらに悲惨だったのは、激増した「空腹感」だった。中学生になり、骨格も筋肉も大きくなった私の身体は、小学生の頃の数倍のエネルギーを必要としていた。しかし、我が家の経済状況は、この時期にいよいよ「底」をつき、完全なる崩壊状態を迎えていた。


その日の食卓に上るご飯すら困る状況。数握りしか残っていない米を、母が大量の水で薄めて作った薄いお粥を、家族四人で分け合ってすするような夜が何度もあった。


朝の新聞配達に向かう前、私の胃袋は完全に空っぽだった。あまりの飢えと寒さに、頭の芯がガンガンと激しく痛む。配達の途中、私はどうしても耐えられなくなり、かつて小学生の頃に編み出した最悪の生存戦略――公園の公衆便所の水道の水を、狂ったようにがぶ飲みする行為を再開した。


中学二年、十四歳の大柄な男子が、早朝の誰もいない公園で、半袖半ズボン体操服で、凍りつくような冷水を蛇口から直接胃袋に流し込んでいる。その姿は、客観的に見れば異様であり、惨めそのものだった。水を飲めば、一瞬だけ胃が膨らんで飢えの痛みが和らぐが、その数秒後には、冷水が体内から体温を激しく奪い去り、全身がガタガタと制御できないほど激しく震え出した。


朝の眠気も、中学校の宿題や部活動(将棋部の活動や、居残りでの勉強)のせいで就寝時間が遅くなり、小学生の頃より遥かにきつくなっていた。


「寒さ、眠気、空腹」のトリプルパンチが、毎日、私の肉体と精神を限界まで擦り減らしていった。

それでも、私は毎朝、心の中で一つの呪文を狂ったように唱えながら、新聞の束を配り続けた。


(暑さ寒さも彼岸まで。暑さ寒さも彼岸まで……。あと何日で、春分の日が来る? あと何日耐えれば、この氷の世界が終わるんだ?)


カレンダーの数字を頭の中で毎日カウントダウンすることだけが、私のちぎれそうな正気を繋ぎ止める唯一の方法だった。


そして、この中学二年生の冬、私たちの街を数年ぶりの大雪が襲った。

雪が降っている最中は、まだ空気中に湿気があり、それほど寒さは尖っていない。本当に恐ろしいのは、雪が止んだ翌日の、雲一つない「晴れた朝」だった。放射冷却によって気温は氷点下まで急降下し、路面に積もった四〜五センチメートルの雪は、ガチガチの凍結路面(アイスバーン)へと姿を変えていた。


午前四時半、私は外へ出た瞬間、空気そのものが刃物になって皮膚を切り裂くような激痛を感じた。朝刊の配達時間帯、街の道路はまだ誰一人として除雪を行っていない。街灯の薄暗い光を浴びて、道路が不気味に黒く光っている。


ブカブカの運動靴と薄い靴下では、氷の上で全く踏ん張りが利かなかった。注意深く歩いているつもりでも、新聞を満載した重いカバンの重みでバランスを崩し、私は何度も、氷の張ったアスファルトの上へ激しく転倒した。


「痛っ……!」


冷え切った剥き出しの手足が路面に激突し、鋭い痛みが走る。起き上がろうとすると、膝や肘から、じんわりと赤い血が滲み出て、それが寒さですぐに固まった。手足の感覚はすでに麻痺しており、自分がどれほどの怪我をしているのかすらよく分からなかった。ただひたすらに、転んでバラバラに散らばった新聞を、震える手で拾い集め、一軒一軒のポストへと手探りで届け続けた。


極限の寒さと、怪我の痛み、そして前夜から何も食べていないという猛烈な飢餓感。

配達の帰り道、まだ開店前の小さな食料品店の横を通りかかった時、私の頭の中に、あの小学校四年生の冬の、暗い記憶が黒い煙のようにムクムクと湧き上がってきた。


店の裏手には、配達用の牛乳箱や、仕入れたばかりのパンの入ったプラスチックのケースが積まれているのが見えた。店の人はまだ奥で寝静まっている。今、あのケースからパンを一つ盗み出せば、この激しい胃の痛みから解放される。誰も見ていない。今なら、絶対にバレない――。


私の足が、吸い寄せられるようにパンのケースに向かって一歩、踏み出そうとした。

その瞬間、私の脳裏に、あの夜の母の涙と、激しい嗚咽の混じった声が、凄まじい音量で蘇った。


『私はあなたを、人様のものを盗むような汚い泥棒に育てたつもりは絶対にない!』


ハッと我に返った。私は自分の身体が、恐怖と自己嫌悪で激しく震えるのを感じた。


(何を考えているんだ、僕は! あの時の約束を、お母さんの涙を、もう忘れたのか!)


万引きを実行しようとした、その「卑しい考え」を抱いたこと自体が、私にとっては許しがたい大罪だった。私はケースから激しく飛び退き、凍りついた道を自宅に向かって全力で走り出した。涙がボロボロとこぼれ、剥き出しの頬を濡らしながら、それがすぐに冷たい風で凍りついた。


家に帰り着くと、私は居間の片隅で、自分の犯しかけた罪に対する激しい自己嫌悪に打ちのめされていた。母が朝食の支度をはじめ、わずかな御飯を茶碗に盛ってくれたが、私は自分の汚れた心にその食事を与える資格はないと判断した。


「お母さん、ごめん……なんか、ちょっとお腹の調子が悪くて、気持ち悪いんだ。朝ご飯、いらない。妹にあげて」


そう言って、私は自分の分の貴重な食事を家族に譲り、そのまま登校した。母は私の顔色の悪さを心配していたが、それ以上は何も言わなかった。


登校中、極度の空腹と転倒による全身の打撲の痛みを抱えながらも、私の胸の中には、不思議なほどの静けさとプライドが戻っていた。


(僕は誘惑に勝った。泥棒にはならなかった。だから、この飢えは、僕が立派に生きている証拠だ)


そう自分に言い聞かせながら、中学校の教室へと向かった。私の八年間の戦いの中で、この中学校二年生の冬こそが、間違いなく最も過酷で、そして私の魂が最も激しく試された「極限の季節」だったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。