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第89話 灯という印の相談者は、名前より先に涙を置いた

 保護印「灯」の相談票が届いたあと、相談室の空気は少し変わった。


 未定。


 灯。


 どちらも本名ではない。


 けれど、ただの記号でもなかった。


 名前を書けない者が、それでも自分を見失わないために選んだ、小さな印。


 それは、暗い場所で手元に置く石のようなものだった。

 明るく照らすほどではない。

 けれど、ここにある、と確かめることはできる。


 ユリアナ先輩は、新しい相談票を机に置いたまま、しばらく黙っていた。


 保護印欄。


 灯。


 相談内容。


 ――未定が入れたなら、私も行けますか。


 たったそれだけの文だった。


 でも、そこにはものすごい勇気が必要だったのだと思う。


 名前を書かずに相談したい。

 でも、完全に隠れたいわけではない。

 誰にも見つかりたくない。

 でも、誰かに見つけてほしい。


 矛盾している。


 でも、人間はたぶん、そういうものだ。


 俺だって前世では、誰にも構われたくないと思いながら、どこかで誰かに気づいてほしかった。


 ただ、その言い方が分からなかっただけだ。


「返事をします」


 ユリアナ先輩が言った。


 声は落ち着いているが、目は真剣だった。


「保護印相談の二例目です。未定さんの時と同じく、来室可。ただし、本人名の開示不要。退室自由。呼称方法は本人確認。これでよろしいですか?」


 リリアが頷く。


「はい。安心して入れるようにしたいです」


 セリカさんも腕を組んだまま言った。


「警戒はする。でも、怖がらせない」


 ノエルは記録板を軽く叩く。


「灯。攻撃反応確認する?」


 俺は相談票を見た。


 見たい気持ちはある。


 でも、まだ本人が来ていない。


「今は票だけ軽く見ます。本人が来たら、許可を取ってから」


「うん」


 俺は短く息を吸って、相談票へ意識を向けた。


保護印:灯

状態:微弱接触

関連:第四の系統/ただし攻撃反応は低

感情傾向:恐怖、期待、罪悪感

注意:本人は“名前を書けない理由”を自分の罪だと思っています


 罪悪感。


 俺は眉を寄せた。


「攻撃反応は低いです。でも、未定さんとは少し違います。名前を書けない理由を、自分の罪だと思っているみたいです」


「罪……」


 リリアが小さく呟いた。


 アイリスが静かに言う。


「名前を書けないことを、悪いことだと思っているということですか?」


「たぶん」


 名前を書けない。


 名乗れない。


 それだけで、自分が不誠実な人間になったように感じる。


 分からなくはない。


 相談したいのに名乗れない自分を、卑怯だと思ってしまうのかもしれない。


 ユリアナ先輩はすぐに返答文を書いた。


 ――来室できます。

 ――本名を書けなくても構いません。

 ――保護印「灯」として記録します。

 ――呼ばれ方は、入室後に確認します。

 ――名乗れないことは、罪ではありません。

 ――話せる範囲で構いません。


 最後の一文を見て、リリアが少しだけ微笑んだ。


「ユリアナさんらしいですね」


「必要な文だと思いました」


「はい。とても必要です」


 ユリアナ先輩は、少し照れたように目を伏せた。


 その返答を受付箱に入れる。


 箱の中で、紙が淡く光った。


 しばらく何も起きない。


 未定さんの時より、少し長かった。


 相談室の中に、静かな緊張が広がる。


 セリカさんは扉の横へ移動したが、剣には触れていない。

 リリアは温かいお茶を二つ用意した。

 ノエルは記録板を伏せたまま、机の端に置いている。

 アイリスは窓際に立ち、小さな氷の盾を手の中で静かに溶かしては作っていた。

 ミュレアも、珍しく茶々を入れない。


 やがて。


 扉が叩かれた。


 未定さんの時より、少し強い。


 でも、迷いのある音だった。


「どうぞ」


 ユリアナ先輩が声をかける。


 扉が開いた。


     ◇


 入ってきたのは、治癒術科の制服を着た少女だった。


 年は俺たちと同じくらい。


 栗色の髪を短く切りそろえていて、眼鏡をかけている。

 整った顔立ちだが、表情がこわばっているせいで、どこか固い印象を受ける。


 制服のリボンは治癒術科の色。


 でも、胸元の名札は外されていた。


 彼女は部屋に入るなり、深く頭を下げた。


「あ、あの……すみません」


 第一声が謝罪だった。


 リリアがすぐに言う。


「謝らなくて大丈夫です」


「でも、名前を書かずに相談なんて、失礼で」


 少女は顔を上げない。


「すみません。本当に、すみません」


 リリアは席を立ち、ゆっくり近づいた。


 急がない。


 驚かせない距離で止まる。


「ここでは、本名を書けない相談も受け付けています」


「でも……」


「保護印は、灯でよろしいですか?」


 少女の肩が、小さく震えた。


「……はい」


「では、記録上は保護印『灯』として扱います。こちらから呼びかける時に、その印を使っても大丈夫ですか?」


 少女は少し迷った。


 そして、首を横に振った。


「呼ばれるのは、まだ……怖いです」


「分かりました」


 リリアはすぐに受け止めた。


「では、呼びかける時は、手元のベルを鳴らします。未定さんの時と同じ方法です」


 机の上に、小さな銀のベルが置かれる。


 少女はそれを見て、少しだけ目を見開いた。


「そんなことまで……」


「必要なら、します」


 ユリアナ先輩が静かに言った。


「相談者が安心して話せる形を整えるのが、相談窓口の役目です」


 少女は唇を噛んだ。


 泣きそうな顔だった。


 けれど、泣くことも我慢している。


 セリカさんが壁際から言う。


「座れる?」


 少女はびくりとした。


 セリカさんはすぐに声を少し柔らかくする。


「無理なら立ったままでもいい」


「……座ります」


 少女は椅子に座った。


 斜め向きの椅子だ。


 真正面から見られないようにした配置。


 彼女はそのことに気づいたのか、少しだけ息を吐いた。


 リリアがお茶を差し出す。


「飲めそうなら。無理に飲まなくて大丈夫です」


「ありがとうございます」


 少女はカップを両手で包んだ。


 指が冷えている。


 治癒術科の生徒なのに、自分を温める余裕もないのだろう。


     ◇


 最初に話し始めたのは、少女自身だった。


「私、治癒術科です」


「はい」


 リリアが頷く。


「治癒術は、得意な方でした」


 でした。


 過去形だった。


 リリアの表情が少しだけ変わる。


「今は、違うのですか?」


「……使えます。でも、怖いんです」


「怖い」


「はい」


 少女はカップを見つめたまま言った。


「治癒術って、本来は人を助けるものですよね」


「はい」


「でも、助けられなかった時、その人の名前と一緒に残るんです」


 相談室が静かになった。


 少女の声は震えている。


「前に、訓練中に怪我をした子がいました。私は治癒を担当しました。命に関わる怪我ではありませんでした。でも、痛がっていて、泣いていて、私は焦って、治癒の順番を間違えました」


 リリアが静かに聞いている。


 治癒術科の話だから、彼女には特に刺さるのだろう。


「その子はちゃんと治りました。後遺症もありません。でも、その後、周りから言われました」


 少女の手が震える。


「灯なら大丈夫だと思ったのに、って」


 俺は息を止めた。


 今、彼女は保護印を自分の過去の呼び名のように口にした。


 いや、正確には違うのかもしれない。


 でも、そこには意味がある。


「灯って、呼ばれていたんですか?」


 リリアが慎重に聞く。


 少女は少しだけ頷いた。


「本名ではありません。小さい頃から、治癒光が明るいからって、家族や友達がそう呼んでくれていました。嫌いじゃなかったんです」


 灯。


 それは嫌な名前ではなかった。


 むしろ、大事な呼び名だったのだ。


「でも、その時から、聞けなくなりました」


「なぜ?」


 セリカさんが聞く。


 少女は唇を噛む。


「灯なら大丈夫。灯なら助けてくれる。灯なら失敗しない。そう言われるたびに、怖くなりました」


 灯。


 人を照らす名前。


 でも、期待が重なれば、消えないことを求められる炎になる。


 リリアがそっと言った。


「灯は、失敗してはいけない名前になってしまったのですね」


 少女の目から、涙が落ちた。


「そうです」


 声が崩れる。


「嫌いじゃない名前だったのに。大事だったのに。今は、その名前で呼ばれると、失敗したら消えるって思ってしまって」


 彼女は両手で顔を覆った。


「だから、本名も書けませんでした。本名を書いたら、また治癒術科の私になって、灯と呼ばれて、誰かを助けられなかった時に全部終わる気がして」


 リリアは、すぐには励まさなかった。


 大丈夫です、とは言わなかった。


 たぶん、それは簡単すぎる。


 助けられなかったかもしれない恐怖を抱えている人に、大丈夫と言うのは、時に重い。


 リリアはただ、静かに言った。


「怖かったですね」


 少女は泣きながら頷いた。


「はい……」


「それでも、来てくれたんですね」


「未定さんが入れたなら、私も……って」


 彼女は涙を拭いた。


「名前を書けなくても、相談できるなら。灯って呼ばれなくても、話せるなら」


 未定さんの相談が、次の誰かの背中を押した。


 それは小さなことではない。


 俺は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


     ◇


 しばらくして、少女は俺の方を見た。


「レン・クロフォードさん」


「はい」


「私の治癒、見てもらえますか」


 リリアがすぐに俺を見る。


「無理はしないでください」


「はい。短時間だけ」


 俺は少女へ向き直る。


「確認します。見てもいいですか?」


「はい」


「本名は見えても言いません。嫌だと思ったら止めます」


「お願いします」


 俺は意識を向けた。


 彼女の治癒光。


 灯という保護印。


 怖れ。


 期待。


 失敗への罪悪感。


 表示が浮かぶ。


保護印:灯

本人名:非表示保護

治癒術適性:高

才能名:未定保護中

旧愛称:灯

状態:期待過負荷、失敗恐怖、治癒光抑制

拒否対象:「灯なら失敗しない」「灯なら助けてくれる」

本人意思:灯という呼び名を嫌いになりたくない。けれど今は呼ばれるのが怖い

注意:才能覚醒リンク不要。まずは呼称と期待の分離が必要


「治癒術適性は高いです。でも、才能名は未定保護中。今は覚醒リンクは不要です」


 少女は少しだけ息を止めた。


「不要……?」


「はい。あなたに必要なのは、強くなることより先に、灯という呼び名と“失敗しない期待”を分けることみたいです」


 少女の目が大きくなる。


「灯という呼び名を、嫌いになりたくない。けれど今は呼ばれるのが怖い。そう出ています」


 彼女は、また涙をこぼした。


「それです……私、その名前が嫌いなわけじゃないんです」


「はい」


「でも、今は無理なんです」


「無理に呼ばなくていいと思います」


 俺が言うと、リリアも頷いた。


「大事な呼び名なら、なおさら休ませてもいいと思います」


「休ませる……?」


「はい」


 リリアは自分の胸元に手を置いた。


「私は、聖女と呼ばれるのが怖かったです。今も、簡単には受け入れられません。でも、聖力そのものを嫌いになりたいわけではありませんでした」


「……はい」


「だから、呼び名と力を少し離して、自分が息をできる距離に置くことが必要でした」


 少女は、リリアの言葉を真剣に聞いていた。


「灯という呼び名も、今は距離を置いていいと思います。消すのではなく、休ませるんです」


「休ませる……」


 少女は、その言葉を何度も小さく繰り返した。


 ユリアナ先輩が確認票を用意する。


「記録上は、保護印『灯』を使用します。ただし、呼称としては使用しない。本人希望により、直接呼びかけはベル対応。旧愛称『灯』は休止中。才能名は未定保護。これでよろしいですか?」


 少女は少し考え、頷いた。


「はい」


 ノエルが記録板に書く。


「呼称休止。削除ではなく休止。重要」


 セリカさんが言う。


「いいじゃない。大事なものを、一度しまっておく感じで」


 少女は小さく頷いた。


「はい。捨てたくは、ないので」


 アイリスが静かに口を開いた。


「私も、氷という才能を嫌いになりたくありませんでした。でも、冷血魔女という呼び名は嫌でした」


 少女がアイリスを見る。


「アイリスさん……」


「今は、守護氷結という試用名があります。まだ大げさだと思っていますが」


 アイリスは少しだけ頬を赤くする。


「それでも、嫌な名前と、自分の力を分けることはできます」


 少女は少しだけ笑った。


「大げさなんですか?」


「大げさです」


 アイリスは真面目に答えた。


 その真面目さに、相談室に小さな笑いが生まれた。


 少女も、本当に少しだけ笑った。


     ◇


 次に必要なのは、治癒術の確認だった。


 ただし、治癒術そのものを強く使う必要はない。


 リリアが小さな訓練用の魔力花を出した。


 傷ついた花弁を、弱い治癒光で整える教材だ。


「人ではなく、まずは花で試しましょう」


 少女は不安そうに花を見た。


「失敗したら……」


「失敗しても、花はまた教材用に戻せます」


 ノエルが言う。


「魔力花は練習用。壊れても復元可能」


「それに」


 セリカさんが続ける。


「今日の目的は成功じゃない。怖くなったら止まる練習」


「止まる練習……」


 少女は少し驚いたようだった。


 治癒術科では、きっと「最後までやり切る」ことを求められる場面が多かったのだろう。


 でも今は違う。


 怖くなったら止まる。


 それも大事な訓練だ。


 リリアが優しく言う。


「始める前に、言葉を決めましょう。怖くなった時に止める言葉です」


「止める言葉……」


「“休みます”はどうですか?」


 少女は少し考えた。


「……言いやすいです」


「では、それで」


 少女は花へ手を伸ばす。


 白い光が、指先に生まれた。


 明るい。


 たしかに、灯という呼び名が似合う光だ。


 でも、その光はすぐに揺れた。


 少女の呼吸が乱れる。


「灯なら大丈夫」


 誰かの声ではない。


 彼女自身の記憶だ。


 光が強くなりすぎる。


 俺は声をかけそうになって、止まった。


 ここはリリアだ。


 リリアが静かに言う。


「怖くなったら?」


 少女は震える声で答えた。


「休みます」


「はい。休みましょう」


 光が消えた。


 失敗ではない。


 止まれた。


 少女は呆然としている。


「止めて……いいんですね」


「はい」


 リリアが微笑む。


「治癒術師も、休んでいいんです」


 その言葉で、少女の涙がまた落ちた。


 でも、今度の涙は少し違った。


 張り詰めたものがほどける涙だった。


「もう一度、やってみます」


「はい。無理のない範囲で」


 二度目の光は、弱かった。


 でも、花弁の端をほんの少し整えた。


 完全には治らない。


 けれど、十分だった。


「できた……」


 少女が呟く。


 リリアが頷く。


「はい。できました」


 俺の表示が静かに変わる。


保護印:灯

治癒光抑制:微弱緩和

旧愛称「灯」:休止保護

才能名:未定

本人意思:治癒を嫌いになりたくない

状態:安定傾向


「安定してきています。才能名は未定のまま。でも、治癒を嫌いになりたくないという意思がはっきり出ています」


 少女は小さく頷いた。


「はい……嫌いに、なりたくないです」


     ◇


 相談の最後に、少女は保護印欄を見つめた。


 灯。


 呼ばれるのは怖い。


 でも、捨てたくない呼び名。


 彼女はペンを持ち、横に小さく書き足した。


 旧愛称。現在は休止中。


 そして、才能名欄にはこう書いた。


 未定。


 その下に、本人意思。


 治癒を嫌いになりたくない。

 失敗しない灯ではなく、休みながらでも誰かを少し温められる力にしたい。


 ユリアナ先輩がその文を見て、静かに頷いた。


「このまま記録します」


「お願いします」


 少女は立ち上がり、深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


 リリアが言う。


「次も、話したくなったら来てください」


「はい」


「呼ばれ方は、今のままで?」


「はい。ベルで……お願いします」


「分かりました」


 少女は扉の前で一度立ち止まった。


 そして、小さな声で言った。


「いつか、また灯って呼ばれても大丈夫になりたいです」


 リリアが優しく答える。


「その時まで、休ませておきましょう」


「はい」


 少女は、少しだけ笑って出ていった。


 扉が閉まる。


 相談室に残ったのは、静かな余韻だった。


 セリカさんが息を吐く。


「名前を休ませる、か」


「はい」


 リリアはカップを片付けながら言った。


「消すのではなく、休ませる。今日の相談には、それが必要でした」


 ノエルが記録する。


「呼称休止制度、追加」


「また制度が増えましたね」


 俺が言うと、ユリアナ先輩は迷いなく頷いた。


「必要です。拒否と削除だけでは足りません。大事だけれど今は呼ばれたくない名前もあります」


 アイリスが小さく言う。


「分かります」


 彼女の氷も、きっとそうだったのだろう。


 氷そのものを捨てたいわけではない。


 でも、冷血魔女という呼び名では触れられたくなかった。


 ミュレアが通信越しに言った。


『名を捨てる、名を守る、名を休ませる。ふむ。だいぶ複雑になってきたのう』


「複雑ですね」


『人とは面倒じゃ』


「ミュレアも十分面倒です」


『妾は高貴に面倒なのじゃ』


 なぜか誇らしげだった。


     ◇


 午後になると、保護印相談の受付箱にさらに二枚の紙が入っていた。


 一枚は「雨」。


 ――呼ばれると泣きそうになる名前があります。


 もう一枚は「羽」。


 ――家を出たいわけではないけれど、家の名前から少し離れたいです。


 未定。

 灯。

 雨。

 羽。


 名前を書けない相談者たちは、少しずつ窓口へ来始めていた。


 黒い扉の向こうの声が、これをどう見ているのかは分からない。


 名前を捨てるのではなく。

 無理に持たせるのでもなく。

 休ませたり、保護したり、未定にしたりする。


 それは、あの声の思想とは違う道だ。


 名前は鎖だから捨てろ、ではない。


 名前は灯にも鎖にもなるから、本人が選べるようにしよう。


 そういう道。


 手間がかかる。

 面倒くさい。

 制度も増える。

 書類も増える。

 相談時間も長くなる。


 でも、たぶん必要なのだ。


 俺は自分の確認票を見た。


 才能名、未定。


 いつか、これにも名前をつける日が来るのだろうか。


 まだ分からない。


 今は未定でいい。


 未定のまま、今日みたいに誰かの話を聞けるなら。


 それで十分だ。


 リリアが俺を呼んだ。


「レン」


「はい」


「顔が少し疲れています」


「今日の相談、重かったですから」


「休憩しましょう」


「はい」


 セリカさんがすぐに言う。


「今日は素直」


「逆らうと怒られるので」


「分かってきたわね」


 ノエルが小さく頷く。


「成長」


 ユリアナ先輩も言う。


「良い傾向です」


 俺は苦笑した。


 相談窓口の全員に管理されている。


 でも、嫌ではなかった。


 通信水晶から、ミュレアが言った。


『レン』


「はい」


『今日の灯の相談、覚えておけ。名は消すだけではない。休ませることもある』


「はい」


『そして妾の甘味要求は休ませぬ』


「一品です」


 リリアが即答した。


『くっ……白き娘の制限も休まぬ……!』


 相談室に、少しだけ笑いが戻る。


 それがありがたかった。


 重い話のあとでも、笑える場所がある。


 それもきっと、人を戻す灯なのだと思う。

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