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第81話 才能確認会、なぜかレンの前に美少女たちが並ぶ

 翌朝、王立学園の相談窓口前には、長い列ができていた。


 それだけなら、もう珍しくはない。


 名前確認。

 本人呼称意思確認。

 未定欄。

 進路希望。

 才能名確認。


 旧研究棟事件からこちら、相談窓口は完全に学園生活の一部になりつつある。


 けれど、今日の列は少し様子が違った。


 女子生徒が多い。


 いや、多いどころではない。


 治癒術科、魔道具科、魔術科、貴族教養科。

 制服の色や飾りで所属が分かる彼女たちが、受付票を手に並んでいる。


 その列の先にいるのが俺だ。


 レン・クロフォード。


 前世で陰キャ非モテだった俺が、異世界の王立学園で美少女たちの列の前に座っている。


 落ち着いて聞いてほしい。


 俺は何もしていない。


 いや、何もしていないわけではないが、そういう意味では何もしていない。


 これは才能確認会だ。


 決して、ハーレム面談会ではない。


 だが、周囲の男子学生たちはそう見てくれなかった。


「……おい、見ろよ」


「レンさんの前に女子ばっかり並んでるぞ」


「才能覚醒リンクって、そういう意味でも強いのか?」


「外れスキルって言われてたのに、今や完全に勝ち組じゃん」


「俺も外れスキル欲しい」


 やめてほしい。


 その誤解は本当にやめてほしい。


 俺は机の前で、思わず額を押さえた。


「レン、顔」


 隣でセリカさんが言った。


「もう顔の種類が増えすぎています」


「今のは、周囲の誤解に胃をやられてる顔」


「正解です」


「素直でよろしい」


 セリカさんは腕を組んでいる。


 今日は相談窓口の警備兼、剣術課程担当だ。


 何人かの男子学生が近づきすぎると、彼女の視線だけで自然に距離が開く。


 強い。


 リリアは俺の反対側で、治癒術科の相談票を整理していた。


 表情はいつも通り優しい。


 ただ、列を見る目が少しだけ複雑だった。


「レン」


「はい」


「今日も、能力使用は必要最低限にしてくださいね」


「はい」


「それから、相談者の方と距離が近くなりすぎたら、少し下がってください」


「はい」


 距離。


 そこを指摘されると、何も言えない。


 才能確認では、手元の魔道具や確認票を一緒に覗き込むことがある。

 昨日までなら何とも思わなかった場面でも、今日のこの列を見ると、妙に意識してしまう。


 ノエルは記録板を抱えて、至って真面目な顔をしていた。


「レン、才能確認会の目的を再確認」


「はい」


「才能覚醒リンクを使う会じゃない。本人が自分の才能名、使い道、拒否したい呼び名、未定かどうかを確認する会」


「分かっています」


「女子が多いのは偶然」


 ノエルはそこで少し止まった。


「……たぶん」


「たぶんって言いましたね」


「事実確認中」


 やめてほしい。


 ユリアナ先輩は、臨時受付の前で凛として立っていた。


「本日の才能確認会は、実技杯本戦参加者および希望者を対象にした臨時相談です。レン様個人への依頼ではありません。才能覚醒リンクの使用も原則行いません。本人意思確認と記録が目的です」


 その説明は、朝から何度も繰り返されている。


 それでも列は減らなかった。


 通信水晶の向こうで、ミュレアが楽しそうに笑っている。


『ふむ。なかなか壮観じゃな。レンの前に女子が並ぶとは、前世のそなたが見たら泡を吹くのではないか?』


「たぶん気絶します」


『よいではないか。外れスキルから一転、美少女たちの才を見極める学園の中心人物。実に分かりやすく読者受けしそうじゃ』


「現場の胃痛も考慮してください」


『それは知らぬ』


「ひどい」


『主人公とはそういうものじゃ』


 主人公。


 まだその言葉に慣れない。


 でも、今日の光景だけ見れば、たしかに妙な主人公感はある。


 外れスキル扱いされた少年。

 実は仲間の才能を覚醒させる力を持つ。

 彼の前に、自分の才能を見てほしい少女たちが並ぶ。


 うん。


 文章にすると、完全にアクセス数狙いの展開だ。


 問題は、俺の精神が追いついていないことだけである。


     ◇


 最初の相談者は、治癒術科のエリナ・ファスだった。


 昨日、「安心治癒」を取り戻した少女だ。


 彼女は少し緊張した様子で椅子に座り、受付票を両手で差し出した。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします、エリナさん」


 リリアが優しく応じる。


 エリナは俺を見ると、少しだけ頬を赤くした。


「あの、レンさん。今日は覚醒リンクをお願いしに来たわけではなくて」


「はい。大丈夫です」


「自分の才能名を、ちゃんと書いておきたくて」


 彼女の確認票には、すでにいくつかの項目が埋まっていた。


 本人名:エリナ・ファス。

 得意なこと:治癒術、緊張している人への声かけ。

 周囲から呼ばれる才能名:治癒術科の優等生、聖女候補。

 拒否したい才能名:聖女候補、失敗できない治癒師。

 受け入れたい才能名:安心治癒。

 その才能をどう使いたいか:怖がる人の緊張を和らげたい。


 リリアが確認票を見て、柔らかく微笑む。


「とてもよく書けています」


「ありがとうございます。リリアさんに言われると、安心します」


 エリナの表情が少し緩む。


 俺は能力を使わず、まず彼女の言葉を聞いた。


「エリナさん。その“安心治癒”は、自分で呼んでみてどうですか?」


「最初は少し恥ずかしかったです。でも、聖女候補って呼ばれるより、ずっと息がしやすいです」


「なら、それでいいと思います」


「はい」


 俺は最小限だけ表示を確認する。


エリナ・ファス

才能名:安心治癒

状態:安定

本人意思:怖がる人の緊張を和らげたい

才能覚醒リンク:不要。通常訓練で成長可能


「安定しています。才能覚醒リンクは不要です。今のまま、リリアと訓練を続ければ伸びると思います」


 エリナは、ぱっと表情を明るくした。


「使わなくても大丈夫なんですね」


「はい」


 リリアが頷く。


「エリナさんの中に、もうちゃんとある力です」


「はい!」


 エリナは嬉しそうに確認票を胸に抱えた。


 その姿を見て、列の後ろの女子生徒たちが少しざわめく。


「リンク使わない場合もあるんだ」


「才能名が安定してるって、なんかいいね」


「私も確認だけでもいいのかな」


 いい流れだ。


 才能覚醒リンクを使ってもらうための列ではなく、自分の才能を自分の言葉で確認する列。


 そうなってくれれば、俺の負荷も減る。


 というか、切実にそうなってほしい。


     ◇


 二人目は、魔道具科のミーナ・アルレットだった。


 ルカの友人で、使う人の手に合わせる「手馴染み調整」の才能を持つ少女。


 彼女は椅子に座るなり、小型ランプを机に置いた。


「これ、昨日から調整してたんです。手の小さい人でも握りやすいように」


 ノエルの目が光った。


「見たい」


「どうぞ!」


 すでに魔道具科同士の空気になっている。


 俺たちは少し見守る形になった。


 ノエルがランプを手に取り、数秒で頷く。


「持ち手の角度がいい。魔力注入口も無理がない」


「本当ですか!」


「うん。手馴染み調整、かなり安定」


 ミーナは嬉しそうに笑った。


 確認票を見る。


 本人名:ミーナ・アルレット。

 得意なこと:使う人の手に合わせた魔道具調整。

 周囲から呼ばれる才能名:工房向き、後継ぎ候補、便利な調整係。

 拒否したい才能名:便利な調整係、後継ぎ候補だけで呼ばれること。

 受け入れたい才能名:手馴染み調整。

 その才能をどう使いたいか:使う人が「これなら使える」と思える道具を作りたい。


 ノエルが静かに言った。


「かなりいい」


 ミーナは頬を赤くした。


「ノエルさんに褒められるの、すごく嬉しいです」


「事実」


 ノエルは短く返した。


 その短さが逆に強い。


 俺は少しだけ表示を見る。


ミーナ・アルレット

才能名:手馴染み調整

状態:安定

本人意思:使う人に合わせた道具を作りたい

才能覚醒リンク:不要。ただしノエルとの共同訓練で成長促進可能


「ノエルとの共同訓練がよさそうです」


「やる」


 ノエルが即答する。


「いいんですか!?」


「うん。面白いし、必要」


 ミーナは椅子から立ち上がりかけるくらい喜んだ。


 その様子を見て、周囲の男子学生がぼそっと言った。


「レンさんの前に女子が来て、ノエルさんと仲良くなって帰っていったぞ」


「何の会なんだ」


 才能確認会です。


 健全な才能確認会です。


     ◇


 三人目はクララだった。


 成績二位の補欠と呼ばれて傷ついた、図書委員の少女。


 彼女は以前より少しだけ背筋が伸びていた。


 受付票も丁寧に書かれている。


 本人名:クララ・メイフィールド。

 得意なこと:記録整理、資料分類、言葉の正確な保存。

 周囲から呼ばれる才能名:整理上手、二番目の記録係。

 拒否したい才能名:二番目の記録係、補欠記録係。

 受け入れたい才能名:静かな記録整理。

 その才能をどう使いたいか:誰かの言葉を間違えずに残したい。


 ユリアナ先輩が、その確認票をとても真剣に読んだ。


「クララさん。この“誰かの言葉を間違えずに残したい”という一文は、とても重要です」


「そうでしょうか」


「はい。記録は人を縛ることもありますが、正しく扱えば人を守ります。あなたの才能は、相談窓口にとっても大切なものです」


 クララは目を丸くした。


「私の記録が、人を守る……」


「はい」


 ユリアナ先輩の言葉は、クララに深く届いたようだった。


 俺は表示を見る。


クララ・メイフィールド

才能名:静かな記録整理

状態:安定

本人意思:誰かの言葉を正しく残したい

才能覚醒リンク:不要。ユリアナとの記録訓練で成長可能


「ユリアナ先輩との記録訓練が良さそうです」


 クララの顔が一気に緊張した。


「せ、生徒会長とですか?」


 ユリアナ先輩は少し考えてから、穏やかに言った。


「嫌でなければ、図書委員会と生徒会の記録整理を一部一緒に行いましょう」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 クララは深く頭を下げた。


 また一人、俺のリンクを使わずに進む道が見つかった。


 この流れはかなりいい。


 才能覚醒リンクが万能の成長装置ではなく、適切な人と繋がるための案内にもなる。


 それが、俺自身の負担も、周囲の誤解も減らしてくれる。


     ◇


 四人目に来たのは、エルだった。


 正式名、エレノーラ・ミストレア。


 呼称も進路も、まだ未定を大切にしている少女だ。


 彼女は受付票を持って、少し不安そうに座った。


「私、才能名も未定でいいでしょうか」


「もちろんです」


 リリアがすぐに言った。


 エルは少し安心したように息を吐く。


「みんな、いろいろな才能名を書いているので。私も何か決めないといけないのかなと思って」


「未定は正式な意思です」


 ユリアナ先輩が静かに言う。


「才能名でも同じです」


 エルの確認票は、いくつか空白が残っていた。


 本人名:エレノーラ・ミストレア。

 試用呼称:エル。

 得意なこと:人の表情や空気を読むこと、場を荒立てないこと。

 周囲から呼ばれる才能名:気配り上手、貴族令嬢らしい、調整役。

 拒否したい才能名:都合のいい調整役。

 受け入れたい才能名:未定。

 その才能をどう使いたいか:まだ考え中。


 俺はその「まだ考え中」を見て、少し笑った。


「とてもエルさんらしい確認票ですね」


「未定だらけで、変ではありませんか?」


「全然。むしろ大事です」


 ノエルが頷く。


「才能名未定も保護対象」


 セリカさんも言う。


「周りが勝手に“調整役”って決めるのを止めるだけでも意味があるわ」


 エルは少しだけ目を潤ませた。


「都合のいい調整役、って書いていいか迷いました」


「書いていいです」


 リリアが優しく言う。


「嫌な呼ばれ方は、才能名でも拒否していいんです」


 俺は表示を見る。


エレノーラ・ミストレア/試用呼称:エル

才能名:未定

状態:安定

拒否才能名:都合のいい調整役

本人意思:考える時間を必要としています


「安定しています。未定のまま守れています」


 エルはほっとした顔をした。


「よかった……」


 その言葉だけで、この欄を作ってよかったと思えた。


     ◇


 午前中いっぱい、才能確認会は続いた。


 来るのは女子だけではない。


 男子学生もいた。


 けれど、なぜか俺の机の前に並ぶタイミングでは女子が多くなる。


 偶然だ。


 きっと偶然だ。


 そう思いたい。


 しかし、観覧している学生たちの視線はどんどん誤解を深めている。


「レンさん、また女子と話してる」


「治癒術科の子、笑顔で帰ったぞ」


「魔道具科の子もすごく嬉しそうだった」


「図書委員の子まで……」


「才能確認ってすごいな」


 何がすごいのか。


 俺は何度目か分からない胃痛を覚えた。


 リリアが静かにお茶を置いてくれる。


「レン、休憩です」


「ありがとうございます」


「無理はしていませんか?」


「胃以外は」


「胃も大事です」


 真剣に言われた。


 セリカさんが横から言う。


「あと、にやけてないか確認」


「にやけてません」


「さっき少し」


「してません」


「リリア、どう?」


 リリアは少し考えた。


「嬉しそうではありました」


「リリアまで」


 ノエルが記録板から顔を上げる。


「レン、相談者が安心して帰ると嬉しそう」


「それは嬉しいです」


「ならいい」


 ノエルはあっさり言った。


 セリカさんも少し笑う。


「そういう顔なら、まあいいわ」


 リリアも微笑む。


「はい。そういう顔なら」


 なぜか許可された。


 よく分からないが、少しほっとした。


 ミュレアが通信越しに言う。


『レン、見事に囲まれておるな』


「囲まれているわけでは」


『リリア、セリカ、ノエル、ユリアナ、アイリス、アリシア、そして相談に来る娘たち。うむ。完全にハーレムらしくなってきた』


「なっていません」


『否定が弱いぞ』


「全力で否定しています」


『ならば、もっと慌てよ』


「理不尽」


 リリアの目がすっと細くなる。


「ミュレアさん、余計なことを言うと今日の甘味がなくなります」


『それは困る。黙る』


 即座に黙った。


 甘味の力、強すぎる。


     ◇


 昼過ぎ、才能確認会の終盤。


 ユリアナ先輩が一枚の白紙を俺の前に置いた。


「では、最後にレン様です」


「……俺ですか」


「はい」


「今日は相談者が多いので、俺は後日でも」


「今日です」


 即答だった。


 逃げ道がない。


 リリアも頷く。


「レンの確認も必要です」


 セリカさんも腕を組む。


「他人ばかり見て、自分を後回しにしない」


 ノエルも真顔。


「レンの才能名未定欄、昨日不安定だった」


 通信水晶からミュレア。


『逃げるな、レン』


 囲まれた。


 今度こそ本当に囲まれた。


 俺は観念して、本人才能意思確認票を手に取った。


 本人名。


 レン・クロフォード。


 得意なこと。


 ……何だろう。


 好感度を見ること。

 名前や才能名の揺らぎを見つけること。

 仲間との連携時に才能を引き出す補助。


 自分で書くと、かなり恥ずかしい。


 周囲から呼ばれる才能名。


 外れスキル。

 好感度限界突破。

 魂同調者。

 名前守り。

 才能覚醒リンク。

 美少女覚醒チート。


 最後のは誰が言った。


 いや、ミュレアだ。


 確実にミュレアだ。


『何じゃ、妾を見るな』


「心当たりがありすぎるんですよ」


『分かりやすくてよいではないか』


「よくありません」


 拒否したい才能名。


 人を惚れさせるだけの力。

 危険な洗脳能力。

 好意支配。

 便利な覚醒装置。


 書く手が少し止まる。


 好意支配。


 それは、俺が一番怖れている名前だ。


 俺の力で誰かの感情を歪めているのではないか。


 リリアたちが俺を信頼してくれるのは、本当に彼女たち自身の意思なのか。


 その不安は、今も完全には消えていない。


 リリアが俺の手元を見て、静かに言った。


「レン」


「はい」


「私は、支配されてここにいるのではありません」


 胸が詰まった。


 セリカさんも続ける。


「私も、自分で選んでる」


 ノエル。


「私の好奇心は私のもの」


 ユリアナ先輩。


「信頼は、制度では強制できません」


 ミュレア。


『妾が支配されると思うか? 妾を甘く見るでない』


 いつもの調子のようで、声は真面目だった。


 俺はゆっくり息を吐く。


 そして、次の欄に書いた。


 受け入れられる才能名。


 未定。


 仮称:好感度限界突破。

 候補:才能覚醒リンク。


 その才能をどう使いたいか。


 誰かを支配する力ではなく、本人の名前と才能と意思を支える力にしたい。

 仲間の努力を奪うのではなく、本人が積み上げたものを本人の力として使えるようにしたい。

 俺一人で抱え込まず、相談窓口全体で扱いたい。


 書き終えると、胸の奥が少し軽くなった。


 表示が浮かぶ。


レン・クロフォード

才能名:未定

仮称:好感度限界突破

候補:才能覚醒リンク

拒否才能名:好意支配、危険な洗脳能力、便利な覚醒装置

本人意思:誰かを支配する力ではなく、本人の名前と才能と意思を支える力にしたい

状態:安定傾向

注意:未定のまま保護してください


「安定しています」


 俺が言うと、リリアがほっとしたように微笑んだ。


「よかったです、レン」


 セリカさんも満足そうに頷く。


「よし」


 ノエルが記録板を開く。


「重要データ」


 ユリアナ先輩がすぐに言う。


「本人許可範囲内で記録してください」


「分かってる」


 ミュレアが通信越しに言う。


『未定でよい。むしろ、今のそなたには未定が似合っておる』


「褒めていますか?」


『褒めておる。たぶん』


「たぶん」


『未定じゃ』


 便利すぎる。


     ◇


 才能確認会が終わる頃、相談窓口の前には穏やかな疲労感が漂っていた。


 たくさんの確認票。

 いくつもの才能名。

 未定の欄。

 拒否したい名前。

 どう使いたいかという本人の言葉。


 今日、才能覚醒リンクを本格的に使った相手はほとんどいない。


 それでも、多くの学生が少し安心した顔で帰っていった。


 俺のチートがすごいからではない。


 いや、俺の力も少しは役に立ったと思う。


 でも、それ以上に。


 リリアが治癒の言葉を支えた。

 セリカさんが剣の意思を確認した。

 ノエルが魔道具の才能を見た。

 ユリアナ先輩が記録として守った。

 ミュレアが余計な茶々と、たまに鋭い助言をくれた。


 俺一人ではない。


 それが、今日一番大事なことだった。


 窓の外では、夕方の光が訓練場を染めていた。


 実技杯本戦まで、あと少し。


 第四の系統はまだ動いている。


 才能名を奪う干渉も、完全には消えていない。


 でも、こちらも準備している。


 名前を守る。

 才能名を守る。

 未定を守る。

 本人の意思を守る。


 外れスキル扱いだった好感度限界突破は、そのための力になり始めている。


 リリアが俺の名前を呼んだ。


「レン」


「はい」


「今日は、もう休みましょう」


「はい」


 セリカさんが続ける。


「夜更かし禁止」


「はい」


 ノエル。


「記録整理は明日」


「はい」


 ユリアナ先輩。


「体調管理も本戦準備です」


「はい」


 ミュレア。


『甘味は一品――』


「一品です」


 リリアが先に言った。


『妾の台詞を取るでない!』


 最後に笑いが起きた。


 俺も笑った。


 前世の俺なら、この賑やかさの中に自分がいるなんて想像もしなかった。


 けれど今は、ここにいる。


 名前を呼ばれ、返事をして、誰かの才能の名前を一緒に探している。


 まだ、自分の才能名は未定だ。


 それでいい。


 未定のままでも、進める。


 俺は確認票を大事に畳み、胸元の学生証に触れた。


 レン・クロフォード。


 今日もちゃんと、俺の名前だった。

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