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『前世で陰キャ非モテだった俺、異世界転生したら【好感度限界突破】で美少女たちが勝手に惚れてくるんだが!?〜外れスキル扱いされた俺、実は触れただけで才能覚醒させる最強チートでした〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第8話 初心者依頼のはずなのに、災害級魔物なんだが

 王都の東門を出ると、急に空が広くなった。


 高い城壁の内側にいた時は、人の声や馬車の音、露店の匂いに囲まれていて、息をするだけでも少し疲れた。

 けれど城門を抜けると、風の質が変わる。


 草原の匂い。

 土の匂い。

 遠くに見える森の濃い緑。


 それだけなら、気持ちのいい初仕事だった。


 そう、それだけなら。


 俺の手には、冒険者ギルドで受けたばかりの依頼票がある。


 内容は薬草採取。

 指定薬草を十束。

 場所は王都東の森。

 推奨ランクはF。

 報酬は銅貨十五枚。


 完全に初心者向けの仕事だ。


 普通なら、ここで俺とリリア――王都ではリアと名乗ることにした元聖女――が、薬草を探しながら「冒険者生活、始まったな」みたいな会話をしていてもおかしくない。


 だが、現実は違った。


 少し前を、赤髪の女騎士が歩いている。


 セリカ・ヴァンブレイド。


 彼女の頭上には、嫌な表示が浮かんだままだった。


破滅フラグ:本日午後、東の森で災害級魔物に遭遇し重傷

隠し才能:竜殺しの剣姫

状態:自信喪失、苛立ち


 災害級魔物。


 初心者依頼の薬草採取に、絶対混ざってはいけない単語である。


 俺は依頼票を見て、森を見て、また依頼票を見た。


「レン」


 隣を歩くリアが、小声で呼ぶ。


「はい」


「何度見ても、依頼票の内容は変わらないと思う」


「分かってます」


「まだ見てる」


「現実逃避です」


「正直ね」


 リアはフードの奥で少しだけ笑った。


 王都に入ってから、彼女はずっとフードを深くかぶっている。

 白銀の髪と整いすぎた顔立ちは、どうしても目立つ。

 元聖女リリア・セレスティアを探している教会関係者に見つかるわけにはいかない。


 そのため、今の彼女は旅の治癒師リア。


 ……なのだが、歩き方や声の落ち着きに気品があるせいで、隠しきれていない気もする。


「リア」


「なに?」


「フード、大丈夫ですか? 暑くないですか?」


「大丈夫」


「本当に?」


「またそれ」


「すみません」


「でも、心配してくれてるのは分かるから、怒ってない」


 リアはそう言って、少しだけフードを押さえた。


好感度:115 → 116

状態:緊張、安心

備考:名前を偽っている不安はあるが、レンが隣にいることで落ち着いています


 朝から好感度がちょくちょく上がる。


 もう驚かない。

 いや、驚いているが、表情に出さない努力をしている。


 たぶん出ている。


「今、また見た?」


「……少し」


「私の?」


「はい」


「変なこと?」


「大丈夫です。安心してるって出てました」


「それは……変なことではないわね」


 リアは少しだけ頬を赤くした。


 それを見て俺も動揺しそうになったが、前方のセリカが足を止めたことで、意識がそちらに戻った。


 セリカは振り返り、鋭い目でこちらを睨んだ。


「あんたたち」


「はい?」


「さっきから何なの。ついてきてるわよね」


 ばれていた。


 いや、当然か。


 一定距離を保って歩いていたつもりだったが、相手は騎士らしい。

 尾行の素人が隠れて後をつけられる相手ではない。


 俺は両手を上げた。


「すみません。同じ依頼で東の森へ向かっているだけです」


「同じ依頼?」


 セリカは俺の手元の依頼票を見た。


「薬草採取?」


「はい」


「初心者?」


「今日登録しました」


 セリカの眉がぴくりと動いた。


「今日?」


「はい」


「その隣の子も?」


「はい」


 リアは小さく会釈した。


「リアです。治癒と支援ができます」


 セリカは一瞬、リアを見て、少しだけ目を細めた。

 何か感じ取ったのかもしれない。


 だが、すぐに俺の方へ視線を戻した。


「だったら、森の浅いところだけにしておきなさい。今日の東の森は少し妙よ」


「妙?」


「魔物の気配が濃い。Fランクの薬草採取で奥に入るのは危ない」


 厳しい言い方だったが、忠告してくれている。


 表示を見る。


セリカ・ヴァンブレイド

好感度:0 → 3

状態:苛立ち、警戒

備考:初心者が危険に巻き込まれるのを面倒だと思いつつ放っておけない


 口は悪いが、悪い人ではなさそうだ。


 俺は少しだけ安心した。


「ありがとうございます。でも、セリカさんも東の森へ?」


 名前を呼んだ瞬間、セリカの目が鋭くなった。


「名乗った覚えはないけど」


 しまった。


 表示で見えた名前を、そのまま言ってしまった。


 リアが隣で小さく息を吐いた。


 たぶん「またやった」と思っている。


 俺は慌てて言い訳を探した。


「ギルドで受付の方が……」


「私の名前を?」


「えっと、依頼票の近くで誰かが呼んでいたような」


 苦しい。


 かなり苦しい。


 セリカは疑わしげに俺を見ている。


「まあいいわ。王都で私の名前を知ってる人間は珍しくないし」


 助かった。


「ヴァンブレイド家の落ちこぼれ騎士としてね」


 セリカは自嘲気味にそう言った。


 その言葉に、表示が反応する。


状態:自嘲

隠し本音:自分で言う前に他人に言われる方が痛い


 胸が少し痛んだ。


 自分で先に傷を口にして、相手に言われる前に防ぐ。

 前世の俺にも覚えがある。


 俺が「どうせ陰キャだから」と先に言って、周囲の笑いを弱めようとしていたのと同じだ。


「落ちこぼれなんですか?」


 聞いてから、まずいと思った。


 言い方。


 もっとあるだろう。


 セリカはむっとした顔になった。


「初対面で直球ね」


「すみません。会話が下手で」


「見れば分かるわ」


「そこまで?」


「ええ」


 リアが横で小さく笑った。


 俺は軽く落ち込んだ。


 セリカは腕を組む。


「私は魔法が使えないの。騎士家の娘なのに、強化魔法も属性魔法もほとんど駄目。剣だけは振れるけど、それだけじゃ家の期待には応えられなかった。だから落ちこぼれ」


 淡々と言っているが、その奥に積もったものがある。


 俺には見えていた。


隠し才能:竜殺しの剣姫

覚醒条件:自分の剣を認める者と共に、強大な敵に立ち向かう

現在状態:才能封印中

原因:自己否定、周囲からの魔法偏重評価


 落ちこぼれではない。


 この人は、たぶんとんでもない才能を持っている。


 ただ、周りの評価基準と噛み合わなかっただけだ。


 俺は思わず言った。


「剣だけ振れるって、すごいことだと思いますけど」


 セリカの表情が止まった。


「……何?」


「魔法が使えなくても、剣が振れるなら、それは才能なんじゃないですか」


「慰めならいらないわ」


「慰めじゃないです」


「私の何を知ってるの」


「ほとんど知りません。でも、歩き方と、手の位置と、周囲の見方が、すごく綺麗だと思いました」


 言いながら、自分でも驚いた。


 戦闘予測・小の影響だろうか。


 セリカの動きの無駄のなさが、なんとなく分かる。


 剣を抜いていなくても、彼女の身体はいつでも戦えるように整っている。


 それは一朝一夕で身につくものではない。


「あなたは、自分の剣をかなり大事にしてきた人だと思います」


 セリカは黙った。


 リアも少し驚いたように俺を見ている。


 俺は言ってから恥ずかしくなった。


 また余計なことを言ったかもしれない。


 だが、セリカの表示は少し変わっていた。


好感度:3 → 12

状態:困惑

備考:初対面で剣を褒められ、反応に困っています


「……変な新人ね」


「よく言われます」


「誰に?」


「主にリアに」


「今日だけで何度も言ってるわ」


 リアが静かに補足した。


 セリカは少しだけ口元を緩めた。


 ほんの一瞬だった。


 だが、その瞬間に彼女の顔から刺々しさが少しだけ薄れた。


「まあいいわ。薬草採取なら、森の浅いところだけにしなさい。私はもう少し奥を確認する」


「危険です」


 俺は即座に言った。


 セリカの眉が上がる。


「初心者に心配されるほど弱くないわ」


「そうじゃなくて、今日の東の森には災害級魔物の痕跡があります」


 空気が止まった。


 セリカの目が細くなる。


「……なぜ、そんなことが分かるの」


「俺のスキルです」


「便利な言葉ね」


「最近よく言われます」


「災害級なんて、適当に言っていい単語じゃない」


「分かっています」


 リアが俺の隣に立つ。


「レンの言うことは、信じた方がいいわ」


 セリカはリアを見る。


「あなたも見えるの?」


「私は見えない。でも、レンが危険だと言ったことは、今のところ外れていない」


「ずいぶん信用してるのね」


 リアは少しだけ視線を逸らした。


「命を救われたから」


 セリカの目がわずかに揺れた。


 それ以上は聞かなかった。


 彼女は森の方を見る。


「……災害級がいるなら、なおさら確認が必要ね」


「なぜですか」


「東の森の浅い場所には、初心者や採取人が入る。放置すれば犠牲が出る」


 やはり、この人は放っておけない側の人間だ。


 俺は内心でため息をついた。


 似た者同士かもしれない。


 リアが俺を見る。


「レン」


「はい」


「止めても無理そう」


「ですね」


 セリカが不満そうに言う。


「二人で勝手に納得しないで」


「すみません」


「それと、私は一人で行く。初心者を連れていく理由はない」


 その瞬間、表示が赤く点滅した。


破滅フラグ進行

条件:セリカ単独で東の森奥へ進入

結果:災害級魔物と遭遇、重傷


 単独では駄目だ。


 俺は言った。


「一緒に行きます」


「聞いてた?」


「聞いてました。でも、一人で行かせるわけにはいきません」


「あなた、今日登録したFランクでしょう」


「そうです」


「足手まといよ」


「かもしれません」


「なら」


「でも、俺には危険が見えます。リアは治癒ができます。セリカさんは戦えます。一人より三人の方が、生き残れる可能性は高いと思います」


 セリカは俺を睨んだ。


 俺も目を逸らさなかった。


 本当は怖い。


 美人の騎士に睨まれるのは普通に怖い。


 だが、ここで引くわけにはいかなかった。


 セリカはしばらく黙り、やがて小さく舌打ちした。


「……危険だと思ったらすぐ逃げる。私の指示に従う。それが条件」


「分かりました」


「リアも、それでいい?」


 リアはうなずいた。


「ええ。治癒と支援なら任せて」


 セリカは少し驚いた顔をした。


 その言い方に、どこか聖女らしさが出ていたからかもしれない。


「あなた、本当にただの治癒師?」


「今は、ただの治癒師よ」


「今は?」


「色々あったの」


 リアはそれ以上言わなかった。


 セリカもそれ以上聞かなかった。


     ◇


 東の森は、王都からそう遠くない場所にあった。


 浅い場所には人の通った跡があり、薬草採取の初心者でも迷いにくい。

 実際、指定薬草はすぐに見つかった。


 細長い葉に、薄紫の小さな花。

 ギルドで見せてもらった見本と同じものだ。


 俺はしゃがんで薬草を確認する。


指定薬草:ルメ草

状態:良好

採取推奨:根を残して葉を摘む


「根を残して葉だけ取るみたいです」


 俺が言うと、セリカが少し目を細めた。


「薬草にも詳しいの?」


「表示で出ています」


「本当に便利ね、そのスキル」


「俺もそう思います」


 リアは丁寧に薬草を摘みながら言った。


「前は外れスキル扱いされたのにね」


「忘れたい過去です」


「数日前でしょう」


「もう遠い昔のようです」


 セリカが呆れたように息を吐く。


「あなたたち、緊張感があるのかないのか分からないわね」


「あります」


「あるわ」


「同時に答えると余計にないように聞こえる」


 そう言いつつ、セリカの表情は少しだけ柔らかくなっていた。


 俺たちは薬草を集めながら、少しずつ森の奥へ進んだ。


 浅い場所では異常は少ない。

 だが、奥へ入るにつれて空気が変わった。


 鳥の声が消えた。


 木々の葉が、不自然に揺れない。


 自然感知が警告を出す。


警告:森の魔力流が乱れています

方向:北東

危険度:上昇


 俺は足を止めた。


「近いです」


 セリカが剣に手をかける。


「どのくらい?」


「まだ距離はあります。でも、森の流れがおかしい」


「森の流れ?」


「説明が難しいんですけど、自然感知みたいな能力で」


「本当に色々できるのね」


「自分でも把握しきれてません」


 リアが周囲を見回す。


「空気が重いわ。聖力にも、嫌なざらつきがある」


「魔物の瘴気?」


 セリカが尋ねる。


「たぶん」


 その時、遠くで悲鳴が聞こえた。


 人の声だ。


 俺たちは一斉に走り出した。


 木々の間を抜けると、小さな開けた場所に出た。


 そこには、三人の冒険者がいた。


 全員、若い。

 たぶん俺たちと同じ初心者か、少し上くらい。


 そのうち一人が足を押さえて倒れている。


 そして、彼らの前に巨大な魔物がいた。


 熊に似ている。

 だが、普通の熊ではない。


 黒い毛皮。

 額から伸びる角。

 背中に浮かぶ紫色の紋様。

 呼吸するたびに、口元から黒い霧が漏れている。


 俺の視界に、最悪の表示が浮かんだ。


魔物:瘴角熊グラウルベア

危険度:災害級下位

状態:暴走

弱点:額の角、右前脚の古傷

注意:咆哮による恐怖硬直

注意:通常の剣撃は毛皮で軽減


 災害級。


 本当にいた。


 セリカの顔色が変わる。


「グラウルベア……? こんな浅い森にいる魔物じゃない!」


 倒れている冒険者が叫ぶ。


「助けてくれ!」


 グラウルベアが前脚を振り上げる。


 このままだと、倒れた冒険者が潰される。


「リア!」


「分かってる!」


 リアが手をかざす。


 白い光が走り、倒れていた冒険者の身体を包む。


 一瞬だけ、彼の周囲に光の膜が生まれた。


 グラウルベアの爪が振り下ろされる。


 光の膜が砕けるが、直撃は防いだ。


「今!」


 俺は走った。


 冒険者の襟首を掴み、引きずる。


 筋力補正・微がこんなところで役に立つとは思わなかった。


 重い。


 だが、何とか引き離す。


 セリカが前に出た。


「下がって!」


 彼女の剣が抜かれる。


 鋭い踏み込み。

 赤い髪が揺れる。


 一閃。


 グラウルベアの右前脚に剣が入った。


 だが、深くは切れない。


「硬い……!」


 セリカが歯を食いしばる。


 魔物が唸り、前脚を横薙ぎに振る。


攻撃:右薙ぎ払い

範囲:広

推奨:後退


「セリカさん、下がって!」


 俺が叫ぶより早く、セリカは後ろへ跳んだ。


 ぎりぎりで爪が空を切る。


 彼女の反応は速い。


 やはり弱くない。


 むしろ、とんでもなく強い。


 だが、本人の表示は違った。


状態:焦燥

隠し本音:また駄目なのか

才能封印:継続


 また駄目なのか。


 その言葉に、胸がざわついた。


 グラウルベアが咆哮した。


 空気が震える。


 耳が痛い。


 身体が硬直する。


咆哮効果:恐怖硬直

抵抗:精神耐性不足

聖属性連携補正発動


 リアの白い光が俺たちを包んだ。


 身体の硬直が解ける。


「レン、動ける!?」


「動けます!」


「セリカ!」


 リアが叫ぶ。


 セリカも光に包まれ、硬直から抜け出していた。


 しかし、彼女の表情は苦い。


「私の剣じゃ、通らない……!」


「通ります!」


 俺は叫んだ。


 セリカがこちらを見る。


「何を根拠に!」


「俺には見えます!」


 グラウルベアが再び突進してくる。


突進

弱点露出:右前脚の古傷、額角の付け根

推奨:足止め後、角付け根へ集中攻撃


「右前脚の古傷! そこを崩せば、頭が下がる! 角の付け根が弱点です!」


 セリカの目が見開かれる。


「そんな細かいことまで……!」


「見えます!」


「あなた、本当に何なのよ!」


「自分でも分かりません!」


 会話している場合ではない。


 俺は杖を握り、グラウルベアの前へ出る。


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


 相手は俺の何倍も大きい。

 前世の俺なら、動物園の熊でも檻越しに見るだけで十分だった。


 だが、今は逃げられない。


 背後には怪我人がいる。

 リアがいる。

 セリカがいる。


 グラウルベアが突進する。


回避:左斜め前

杖打撃:鼻先

効果:注意誘導


 俺は表示通りに動いた。


 左斜め前へ滑り込み、杖で鼻先を打つ。


 衝撃が手に走る。


 硬い。


 だが、魔物の注意は俺へ向いた。


「こっちだ!」


 自分で叫んでおいて、後悔した。


 大きな赤い目が俺を見る。


 怖い。


「レン!」


 リアの声。


 背中に白い光が宿る。


リア支援:敏捷補助

効果:回避性能上昇


 身体が軽くなる。


 俺はグラウルベアの爪をぎりぎりで避けた。


 セリカが右前脚へ斬り込む。


 しかし、彼女の剣はまた浅く弾かれた。


「くっ!」


 セリカの顔に焦りが浮かぶ。


状態:自己否定上昇

才能覚醒条件:未達

必要要素:自分の剣を信じること


 自分の剣を信じること。


 そんな簡単な言葉が、彼女には難しいのだ。


 ずっと否定されてきたから。


 魔法が使えない。

 騎士家なのに落ちこぼれ。

 剣だけでは足りない。

 そう言われ続けて、自分でも信じられなくなっている。


 俺は叫んだ。


「セリカさん!」


「何!」


「あなたの剣は弱くない!」


 彼女が一瞬止まる。


「今それを言う場面!?」


「今だから言います!」


 グラウルベアが暴れる。


 俺は必死に回避しながら続けた。


「あなたの踏み込みは綺麗です! 剣筋も速い! ただ、最後の瞬間に自分で力を止めてる!」


 セリカの表情が変わる。


「止めてる……?」


「弾かれると思ってるから! どうせ通らないって、自分で決めつけてる!」


「っ……!」


 それは、彼女にとって痛い言葉だったのだろう。


 好感度表示どころではない。

 セリカの目に怒りと戸惑いが浮かぶ。


「偉そうに……!」


「偉そうですみません! でも見えるんです!」


 俺はグラウルベアの爪を杖で受け流し、肩に衝撃を受けながら叫んだ。


「セリカさんは弱くない! あなたを弱いって決めつけた人たちの目が節穴だっただけです!」


 森の中に、その声が響いた。


 一瞬、セリカが息を呑んだ。


セリカ・ヴァンブレイド

状態:感情揺動

好感度:12 → 31

才能封印:亀裂

覚醒条件進行


 届いた。


 でも、まだ足りない。


 グラウルベアが大きく身体を起こした。


 額の角に紫の魔力が集まっていく。


危険行動:瘴気突進

被弾時:致命傷

推奨:発動前に右前脚を破壊


 まずい。


 今止めなければ、全員危ない。


「右前脚! 今です!」


 俺が叫ぶ。


 セリカは剣を握り直した。


 だが、ほんの一瞬、迷いが見えた。


 その迷いを消すように、リアが手をかざす。


「セリカ!」


 白い光が、セリカの剣を包んだ。


「私はあなたをまだよく知らない。でも、レンが信じた人なら、私も信じる!」


 リアの声が、森を切る。


 セリカの目が大きく開いた。


リア支援:聖属性付与

セリカ才能封印:解除寸前


 俺は最後に叫んだ。


「セリカさん! あなたの剣を、あなたが信じてください!」


 セリカが低く息を吸った。


 赤い髪が風に揺れる。


 彼女の周囲の空気が変わった。


「……勝手なことばかり言って」


 セリカは小さく呟いた。


「でも、そこまで言われて引いたら、本当に私の剣が泣くじゃない」


 彼女が地面を蹴った。


 今までより速い。


 いや、速さだけではない。


 迷いが消えている。


 剣が、一直線に右前脚の古傷へ向かう。


隠し才能:竜殺しの剣姫

覚醒開始


 セリカの剣に、赤い光が宿った。


 炎ではない。


 もっと鋭く、澄んだ光。


 一閃。


 今度は弾かれなかった。


 グラウルベアの右前脚が深く裂ける。


 魔物が悲鳴を上げ、巨大な身体が傾いた。


「レン!」


「角の付け根!」


 俺は叫び、杖を構える。


 リアの支援光が俺とセリカを包む。


 セリカが跳ぶ。


 俺はグラウルベアの注意を引くため、鼻先へ杖を叩き込む。


 魔物の頭が下がる。


 その瞬間、セリカの剣が角の付け根へ走った。


「はあああああっ!」


 赤い光が弧を描く。


 角が砕けた。


 紫の瘴気が霧散する。


 グラウルベアが大きくのけぞった。


 まだ倒れない。


 災害級というだけあって、しぶとい。


弱点露出:胸部魔核

推奨:浄化魔力+剣撃


「胸! 魔核が見えます!」


 俺は杖の先に浄化魔力を集める。


 セリカが横に並んだ。


「合わせられる?」


「やってみます!」


「新人のくせに無茶ばかり」


「今日だけでよく言われます!」


 リアが両手をかざした。


「二人とも、いきます!」


 白い光が俺たちの背を押す。


 俺の杖から浄化の光が伸び、セリカの剣に重なる。


 セリカが踏み込む。


 俺も同時に杖を突き出した。


 剣と光が、グラウルベアの胸を貫く。


 魔核が砕けた。


 黒い霧が一気に晴れる。


 巨大な魔物は、地面を揺らして倒れた。


 静寂。


 しばらく誰も動かなかった。


 俺は肩で息をしながら、杖にもたれかかる。


「……勝った?」


 自分の声が情けない。


 セリカが剣を構えたまま、魔物を見ている。


「たぶん」


 リアが倒れていた冒険者たちの方へ駆け寄る。


「怪我を見ます!」


 彼女の声で、ようやく俺も動いた。


 怪我人は三人。

 一人は足を折っている。

 一人は腕に深い傷。

 もう一人は恐怖で動けなくなっているが、外傷は少ない。


 リアが治癒魔法をかける。


 俺も補助に回った。


 白い光が傷を塞いでいく。


 完全ではないが、命に関わる状態は脱した。


破滅フラグ:初心者冒険者三名死亡 → 回避

能力還元:救護判断・微


 また微。


 でも、今はそれどころではない。


 セリカが、倒れたグラウルベアの前に立ち尽くしていた。


 剣を握る手が震えている。


 俺は近づいた。


「セリカさん」


「……私が、斬った」


「はい」


「本当に、斬れた」


「見てました」


 セリカは自分の剣を見下ろす。


 その刃には、赤い光の名残がかすかに残っていた。


「今のは、何」


「たぶん、才能が覚醒したんだと思います」


「才能……」


「竜殺しの剣姫、って表示されてました」


 言ってから、またやってしまったと思った。


 しかし、今回はセリカは怒らなかった。


 ただ、呆然と俺を見た。


「竜殺し……?」


「はい」


「私が?」


「はい」


「魔法もまともに使えない、私が?」


「剣で十分強いと思います」


 セリカの表情が歪んだ。


 泣くのを堪えているようにも見えた。


「……そんなこと、誰も言わなかった」


 小さな声だった。


「剣だけじゃ足りないって。魔法が使えない騎士なんて時代遅れだって。弟の方が家を継ぐのにふさわしいって。ずっと、そう言われてきた」


「はい」


「私も、そうなのかもしれないって思ってた」


「はい」


「でも、斬れた」


「斬れました」


 セリカは唇を噛む。


 それから、怒ったように俺を睨んだ。


「あなたのせいよ」


「え?」


「あなたが変なことを言うから。信じろとか、弱くないとか、節穴とか」


「あ、すみません。節穴は言い過ぎましたか」


「そこじゃない!」


 セリカは顔を赤くした。


「……でも」


 彼女は少しだけ視線を逸らす。


「ありがとう」


 その声は、かなり小さかった。


 けれど、確かに聞こえた。


セリカ・ヴァンブレイド

好感度:31 → 57

状態:混乱、感謝、照れ

隠し才能:竜殺しの剣姫・覚醒初期

備考:初めて自分の剣を認められ、感情の整理が追いついていません


 好感度が一気に上がった。


 またこのパターンだ。


 俺は少しだけ後ずさりした。


 セリカが眉をひそめる。


「何で下がるの」


「いえ、何でも」


「何か見えた?」


「少し」


「私の?」


「はい」


「何が?」


「感謝してるって」


「それだけ?」


「それだけです」


 嘘はついていない。


 全部は言っていないだけだ。


 リアが治癒を終えて戻ってきた。


「怪我人は大丈夫。すぐに王都へ運べば助かるわ」


「よかった」


 セリカはリアを見る。


「あなたもすごい治癒ね。本当にただの治癒師?」


「今は、ただの治癒師」


「その言い方、ますます怪しいわ」


「色々あるの」


「色々ありすぎじゃない?」


 セリカはため息をついた。


 その時、倒れていた冒険者の一人が弱々しく言った。


「あ、あんたたち……ありがとう。俺たち、もう駄目かと」


 セリカはそちらを見て、少し表情を引き締めた。


「立てる?」


「肩を貸してもらえれば」


「王都まで戻るわ。グラウルベアのことも報告しないと」


 俺は魔物の死骸を見る。


災害級魔物討伐証明:角、魔核片

推奨:ギルドへ提出

注意:討伐功績により注目度上昇


 注目度上昇。


 最悪だ。


 俺はセリカに言った。


「討伐功績、セリカさん中心で報告しませんか」


 セリカが目を細める。


「どういう意味?」


「俺とリアは今日登録したばかりで、目立つと困るので」


「測定石を割った時点で、もう十分目立ってると思うけど」


「それは忘れてください」


「無理ね」


 リアも静かに言う。


「無理だと思う」


「リアまで」


 俺は肩を落とす。


 セリカは剣を鞘に収めた。


「功績を押しつけられても困るわ。私は一人じゃ勝てなかった」


「でも」


「あなたの指示、リアの支援、私の剣。三人で倒した。それで報告する」


「目立ちます」


「目立つわね」


「困ります」


「知らないわよ。災害級を倒しておいて目立たない方が無理」


 正論だった。


 非常に困る正論だった。


 リアが少し笑う。


「レン、諦めましょう」


「諦めたくないです」


「でも、たぶん無理」


「ですよね」


 俺はグラウルベアの角の破片を拾った。


 重い。


 これが討伐証明になるらしい。


 セリカは倒れていた冒険者に肩を貸し、リアがもう一人を支える。

 俺は荷物と討伐証明を持つことになった。


 森を出る頃には、夕方の光が差し始めていた。


 初心者依頼の薬草採取。


 そのはずだった。


 結果として、薬草は集まった。

 怪我人も助けた。

 災害級魔物も倒した。


 依頼としては大成功だ。


 ただし、俺の静かな冒険者生活は、初日から音を立てて崩れ去った気がする。


 王都の城壁が見えてきた頃、セリカが隣に並んだ。


「レン」


「はい」


「明日、時間ある?」


「え?」


「あなたの実力を、もう少し見たい」


 リアがぴくりと反応した。


 セリカは少し頬を赤くして、慌てて付け足す。


「べ、別に変な意味じゃないわよ。今日の戦い、まだ納得できてないだけ。あなたの指示がなければ、私は覚醒できなかった。だから、その……確認したいの」


 表示が浮かぶ。


セリカ好感度:57 → 64

状態:照れ、興味

備考:レンに認められたことをもう一度確かめたいと思っています


 また上がった。


 リアの視線が、なぜか俺に刺さる。


リリア好感度:116

状態:穏やかな警戒

備考:セリカへの距離感を観察しています


 穏やかな警戒。


 それは穏やかなのか、警戒なのか。


 俺は冷や汗をかいた。


「えっと、まずはギルドに報告してから考えましょう」


「逃げたわね」


 セリカが言う。


「逃げましたね」


 リアも言う。


「二人とも厳しくないですか」


 俺がそう言うと、二人は顔を見合わせた。


 そして、なぜか少しだけ笑った。


 この時、俺はまだ知らなかった。


 この東の森での一件が、王都冒険者ギルドで大騒ぎになることを。


 そして、セリカ・ヴァンブレイドという女騎士が、これ以降やたらと俺に絡んでくるようになることを。


 さらには、リリアとセリカの間に、妙な火花が散り始めることも。


 俺はただ、薬草採取の依頼票を握りしめながら思っていた。


 初心者依頼って、こんなに大変なのか。


 冒険者、怖い。

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