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第76話 冷血魔女と呼ばれた氷の天才、なぜか俺の班に来る

 翌朝、相談窓口の前にアイリス・ヴェルナーが立っていた。


 まだ受付開始前で、図書館棟の廊下には人も少ない。

 朝の光が窓から差し込み、磨かれた床に淡く反射している。


 その中で、アイリスは一人だけ冬みたいな空気をまとっていた。


 淡い青銀の髪。

 涼しげな紫の瞳。

 背筋はまっすぐで、制服の襟元にも乱れがない。


 見た目だけなら、完全に「氷の天才魔術師」だ。


 だが、俺はその呼び方を口にはしなかった。


 昨日、アイリスの才能名が「冷血魔女」へ置き換わりかけたばかりだ。

 本人が望まない名前を、印象だけで貼りつけるわけにはいかない。


「おはようございます、アイリスさん」


 俺が声をかけると、彼女は少しだけ目を動かした。


「おはようございます、レン・クロフォード」


 相変わらずフルネームで呼ばれる。


 悪意ではない。

 たぶん、距離感の問題だ。


 それでも名前を呼ばれたことには違いない。


 俺は胸元の学生証に触れた。


 レン・クロフォード。


 今日も大丈夫だ。


「今日は相談ですか?」


「そうです」


 アイリスは短く答えた。


「昨日の件について、正式に確認しておきたいと思いました。私の才能名と、あなたの力との関係を」


 声は冷静だった。


 けれど、昨日より少しだけ硬さが違う。


 拒絶ではなく、警戒。

 警戒ではあるが、完全に閉ざしているわけではない。


 相談室の扉が開き、リリアが顔を出した。


「あ、アイリスさん。おはようございます」


「おはようございます、リリアさん」


 リリアが名前で呼ぶと、アイリスは少しだけ迷ってから返した。


 その返し方が、昨日の「アイリスでいい」という小さな許可の続きに見えた。


 セリカさんも奥から現れる。


「早いわね」


「待たせるよりはいいと思いました」


「そういうところ、真面目ね」


「悪いことですか」


「いいえ。嫌いじゃないわ」


 セリカさんがさらっと言うと、アイリスが一瞬だけ返答に困った顔をした。


 氷の天才、意外と真正面から褒められるのに弱いのかもしれない。


 ノエルは記録板を抱えて、ほぼ小走りでやって来た。


「アイリスさん。本人才能意思確認票、準備できてる」


「早いですね」


「昨日から作ってた」


「……そうですか」


 若干引いている。


 気持ちは分かる。


 ユリアナ生徒会長は、最後に静かに入ってきた。


 姿勢はいつも通り整っているが、手には新しい書類束がある。


「アイリス・ヴェルナーさん。本日は、本人才能意思確認票の試験運用にご協力いただく形でよろしいですか?」


「はい」


「確認します。本人の許可なく才能確認は行いません。拒否した場合は即時停止。記録内容の公開範囲は、本人、相談窓口、担当教師、必要に応じて生徒会と学園長までです」


「問題ありません」


 アイリスはそう言ってから、俺を見た。


「あなたも、それを守りますか」


「守ります」


 俺は即答した。


「アイリスさんが嫌だと言ったら、見ません。止めます」


 アイリスはしばらく俺の顔を見つめていた。


 値踏みするような視線。


 でも、昨日ほど冷たくない。


「分かりました」


 それだけ言って、彼女は相談室へ入った。


     ◇


 本人才能意思確認票。


 ユリアナ先輩とノエルが作った新しい書式は、思ったよりしっかりしていた。


 本人名。

 正式な適性分類。

 周囲から呼ばれる才能名。

 本人が受け入れられる才能名。

 拒否したい才能名。

 その才能をどう使いたいか。

 未定欄。

 本人署名。

 第三者確認欄。


 名前の確認票と似ている。


 だが、扱うものはもっと厄介だ。


 名前はその人を呼ぶもの。

 才能名は、その人の力に意味を与えるもの。


 どちらも間違えれば、人を縛る。


 アイリスは紙を前にして、しばらく黙っていた。


 ペンを持つ指先が、ほんの少しだけ固い。


 リリアが向かいに座り、穏やかに声をかける。


「急がなくて大丈夫です」


「急いでいるつもりはありません」


「はい。でも、少し力が入っているように見えました」


 アイリスは自分の指を見る。


 それから、小さく息を吐いた。


「……こういう書類を書くのは得意な方です。ですが、自分の才能について書くのは、少し嫌ですね」


 ノエルが頷く。


「分かる。才能は自分で分かってるようで、周りの評価が混ざる」


「あなたにもありますか」


「ある。魔道具研究が好き。でも、変人研究者って言われると、少し複雑」


「複雑、ですか」


「嫌な時と、少し誇らしい時がある。未定」


 ノエルが真顔で言うと、アイリスは一瞬だけ目を瞬かせた。


「未定、便利ですね」


「かなり便利」


 ユリアナ先輩が軽く咳払いした。


「便利ですが、乱用はしないでください。必要な時に使うものです」


「ユリアナ、それ言いながら自分も未定欄増やしてる」


「必要だからです」


 ノエルの指摘に、ユリアナ先輩は少しだけ視線を逸らした。


 この二人のやり取りも、ずいぶん自然になった。


 アイリスはその様子を見て、ほんの少し緊張を緩めたようだった。


 そして、最初の欄に文字を書く。


 本人名。


 アイリス・ヴェルナー。


 字は端正で、少し冷たいくらい整っている。


 次に正式分類。


 氷属性魔術適性。


 そこまでは迷いがない。


 だが、周囲から呼ばれる才能名の欄で、ペンが止まった。


 相談室の空気も、少しだけ止まる。


 アイリスはしばらくペン先を見つめていた。


 それから、ゆっくり書いた。


 氷の天才。

 氷魔術師。

 冷血魔女。

 氷人形。


 最後の二つを書く時、彼女の指が少し震えた。


 リリアが、そっと名前を呼ぶ。


「アイリスさん」


「……大丈夫です」


 大丈夫。


 そう言う声が、大丈夫ではない時の声だった。


 セリカさんが腕を組む。


「嫌な名前も、書くのはきついわよね」


「書かない方がいいですか」


「いいえ。嫌だって書くために、必要なら書いていい。でも、無理してまで書かなくていい」


 セリカさんらしい言い方だった。


 強いけれど、押しつけない。


 アイリスは少しだけ考え、続きの欄へ移った。


 拒否したい才能名。


 冷血魔女。

 氷人形。


 そこには、さっきより強い筆跡で書いた。


 嫌だと、自分で決めるための字だった。


 俺の視界に、小さな表示が浮かぶ。


アイリス・ヴェルナー

拒否呼称記録:有効

冷血魔女:後退傾向

氷人形:後退傾向


 俺は何も言わなかった。


 今は、彼女が自分で書いている時間だ。


 勝手に割り込まない。


 次の欄。


 本人が受け入れられる才能名。


 アイリスは少し迷った。


 氷属性魔術。

 氷魔術師。

 アイリスの氷。


 最後に書いた「アイリスの氷」を、彼女はしばらく見つめていた。


「それ、いいですね」


 リリアが言う。


 アイリスは少し驚いた顔をする。


「そうでしょうか」


「はい。誰かに貼られた名前ではなく、アイリスさん自身の氷という感じがします」


「……少し、子どもっぽくありませんか」


「そんなことありません」


 リリアははっきり言った。


「私は好きです」


 アイリスは返事に困ったように目を逸らす。


 頬がほんの少し赤い。


 セリカさんが俺の耳元で小さく言った。


「この子、褒められ慣れてないわね」


「たぶん」


「レンと似てる」


「俺まで?」


「似てる」


 否定しきれないのがつらい。


     ◇


 最後の大事な欄。


 その才能をどう使いたいか。


 アイリスは、ここで一番長く黙った。


 氷魔術。


 相手を止める力。

 距離を取る力。

 近づかせない力。

 敵を封じる力。


 彼女はきっと、そうやって自分の氷を扱ってきたのだろう。


 けれど昨日、俺の表示には別の可能性が見えていた。


 守る氷。


 ただし、それをこちらから押しつけるわけにはいかない。


 アイリス自身がどう思うかが大事だ。


 彼女はペンを握り直した。


 そして、ゆっくり書いた。


 人を遠ざけるだけでなく、守るために使いたい。


 短い一文。


 だが、それを書き終えた瞬間、相談室の空気が少し変わった。


 冷たかった魔力が、静かな水面のように落ち着く。


 俺の視界に表示が出る。


アイリス・ヴェルナー

氷属性魔術適性:安定

本人意思:人を遠ざけるだけでなく、守るために使いたい

才能名候補:守護氷結

注意:本人受容は未定。急いで固定しないでください


 守護氷結。


 いかにも強そうな名前だ。


 アクセス数狙い的にも、かなり映える。


 氷の天才美少女が、冷血魔女ではなく守護氷結へ覚醒する。


 読者なら絶対好きなやつだ。


 だが、俺はすぐに言わなかった。


 表示の最後に「急いで固定しないでください」とある。


 大事なのは、彼女が受け入れられるかどうかだ。


 ノエルがこちらを見た。


「何か出た?」


「出ました。でも、まだ急いで固定しない方がいいみたいです」


 アイリスが俺を見る。


「言ってください。未定でいいのでしょう?」


 その言い方が少しだけ柔らかかった。


 昨日より、ほんの少し。


「才能名候補として、守護氷結と出ました」


「守護氷結……」


 アイリスはその言葉を小さく繰り返した。


 指先に、白い氷の粒が浮かぶ。


 それは鋭い棘ではなく、薄い花びらみたいな形をしていた。


「大げさですね」


「はい。少し」


「そこは否定しないのですね」


「嘘はよくないので」


 アイリスがかすかに笑った。


 本当に、ほんの少し。


「でも、嫌ではありません」


 その言葉に、表示が変わる。


守護氷結:試用可能

本人受容:低〜中

未定欄推奨


「まだ未定扱いがいいみたいです。試してみる才能名、という形なら安定しそうです」


 ユリアナ先輩がすぐに欄を追加した。


 試用才能名。


 守護氷結。


 アイリスはそこに、少し迷ってから印をつけた。


 その瞬間、彼女の周囲の冷気がふわりと柔らかく広がる。


 リリアが静かに微笑んだ。


「きれいですね」


「……氷に、きれいなんて」


「きれいです」


 リリアの言葉はまっすぐだった。


 アイリスは目を伏せる。


「そう、ですか」


 頬がまた少し赤い。


 氷の天才、やはり褒めに弱い。


     ◇


 確認票の記入が終わった後、アイリスは俺の方を見た。


「レン・クロフォード」


「はい」


「あなたの才能覚醒リンクを、少しだけ試してもいいです」


 相談室の空気が一瞬止まった。


 リリアが微妙に目を見開く。


 セリカさんが眉を上げる。


 ノエルは記録板を構えかける。


 ユリアナ先輩はすぐに規則確認の顔になる。


 通信水晶の向こうでミュレアが楽しそうに笑った。


『また一人増えたな』


「何がですか」


 俺が聞くと、セリカさんが即座に言った。


「聞かない方がいい」


 リリアは少し複雑そうな顔をしている。


「アイリスさん、本当に試すのですか?」


「はい。ただし、今すぐ完全な覚醒を望むわけではありません。私の氷が、守る方向へ本当に向かえるのか確認したいだけです」


 ノエルが真面目に言う。


「才能覚醒リンク対象候補」


 その言葉に、リリアとセリカさんが同時に黙った。


 何だろう。


 空気が少しだけ痛い。


 俺は慌てて両手を振った。


「いや、対象候補と言っても、検査的な意味で」


「分かっています」


 リリアは微笑んだ。


 微笑んでいるのに、少し怖い。


「レンの負担確認が先です」


「はい」


 セリカさんも言う。


「あと、アイリスが本当に望んでいるか。途中で嫌になったら止めること」


「当然です」


 アイリスは真剣に頷いた。


 ユリアナ先輩が手順を確認する。


「短時間。才能覚醒ではなく、反応確認。本人意思、名称固定、試用才能名、拒否呼称保護。レン様の負荷が上がった場合は即停止。記録範囲は限定」


「はい」


 俺とアイリスが同時に返事をした。


 それが少し変で、ノエルが小さく言った。


「息が合った」


「ノエル」


 セリカさんが低い声を出す。


「記録しない」


「はい」


 このやり取りの間、アイリスは不思議そうに俺たちを見ていた。


「あなたたちは、いつもこうなのですか」


「だいたい」


 セリカさんが答える。


「騒がしいですね」


「慣れるわよ」


「慣れる予定はまだありません」


 そう言いながらも、アイリスの表情は少しだけ柔らかかった。


     ◇


 訓練場へ移動し、短時間の反応確認を行うことになった。


 アイリスは片手を前に出し、氷の魔術陣を展開する。


 白銀の円。

 繊細な線。

 その中心に、小さな氷の盾のような形が浮かぶ。


 俺は少し離れて立ち、深呼吸した。


「始めます。嫌ならすぐ止めます」


「分かりました」


「アイリス」


 名前を呼ぶ。


 彼女の瞳が少しだけ揺れた。


「はい」


「あなたの氷を、どう使いたいですか」


 アイリスは一瞬だけ迷った。


 そして、確認票に書いた言葉を自分の声で言った。


「人を遠ざけるだけでなく、守るために使いたい」


 その瞬間、俺の中で細いリンクが触れた。


 好感度限界突破。


 才能覚醒リンク。


 ただし、今回は開かない。


 押し広げない。


 覗き込みすぎない。


 ただ、彼女の言葉と氷の流れが一致するかを確認する。


アイリス・ヴェルナー

名称固定:安定

試用才能名:守護氷結

本人意思:一致

才能覚醒リンク:反応あり

注意:完全覚醒には信頼蓄積が不足。現時点では微弱補助のみ


「反応あり。でも完全覚醒にはまだ早いです。信頼の蓄積が足りない。今は微弱補助まで」


 アイリスは、ほっとしたような、少し悔しそうな顔をした。


「そうですか」


「がっかりしましたか」


「少し」


 正直だった。


「でも、安心もしました。あなたと少し話しただけで完全に覚醒したら、それはそれで怖いので」


「俺も怖いです」


 アイリスは小さく頷いた。


「なら、あなたの力は本当に、積み重ねを必要とするのですね」


「たぶん」


「たぶん?」


「俺もまだ完全には分かっていないので」


「正直ですね」


「ごまかすと、たぶんセリカさんに怒られます」


「それは納得できます」


 セリカさんが遠くで腕を組んだ。


「聞こえてるわよ」


「すみません」


 アイリスの氷の盾は、ほんの少しだけ形を変えた。


 今までは鋭い結晶だったものが、薄い半透明の壁になる。


 人を刺すためではなく、受け止めるための形。


 それはまだ小さい。


 だが、確かに昨日とは違っていた。


 アイリスはその氷を見つめる。


「……これが、守る氷」


「まだ試用です」


「ええ。まだ未定です」


 彼女はそう言って、自分で少しだけ笑った。


 未定。


 その言葉が、彼女の口から出た。


 それは、かなり大きなことに思えた。


     ◇


 反応確認が終わると、リリアがすぐに俺の体調を確認した。


「レン、負荷は?」


「低いです。大丈夫」


「本当に?」


「本当に」


 リリアは少しだけ疑ったが、表示を見た俺が頷くと納得してくれた。


 セリカさんもアイリスを見る。


「無理してない?」


「はい」


「ならいいわ」


 アイリスは少し意外そうだった。


「あなたは私にも気を遣うのですね」


「実技杯で倒れられたら困るでしょ」


「そういう理由ですか」


「半分くらい」


「残り半分は?」


「名前と才能を嫌な形で歪められるのは、見てて気分が悪い」


 セリカさんの言い方はぶっきらぼうだった。


 だが、アイリスはその言葉を静かに受け止めた。


「そうですか」


 ノエルが記録板を閉じる。


「アイリスさん、才能覚醒リンク完全対象にはまだ早い。でも試用才能名は有効。実技杯で伸びる可能性あり」


「実技杯で?」


「実戦に近い連携環境で、守る氷を使いたい意思が強まれば」


 アイリスは少し考えた。


 そして、俺を見た。


「実技杯で、あなたと同じ班になることはできますか」


 また空気が止まった。


 リリアの表情が、ほんの少し固まる。


 セリカさんも無言。


 ノエルは興味津々。


 ユリアナ先輩は、すぐに書類上の問題を考え始めた顔。


 ミュレアは通信越しに笑いをこらえていない。


『ほう。これは本当に増えたのではないか?』


「ミュレア、黙ってください」


『嫌じゃ』


 アイリスは周囲の反応に少し戸惑ったようだった。


「何か問題が?」


「いえ、問題というか」


 俺が答える前に、ユリアナ先輩が冷静に言った。


「チーム登録はすでに行われています。人数上限は六名なので、制度上は追加可能です。ただし、アイリスさんはすでに別チームの登録予定者では?」


「はい。私は自分の班のリーダーです」


「では、同じ班になることはできません」


 アイリスは頷いた。


「そうですね。少し言い方が悪かったです」


「つまり?」


「対戦相手として、あなたの班と戦いたいという意味です」


 リリアとセリカさんが、なぜか同時に少しほっとした顔をした。


 俺は見なかったことにする。


 アイリスはまっすぐに俺を見る。


「あなたと組めば、私の氷がどう変わるか分かるかもしれない。でも、今はまだ早い。なら、相手として戦います」


「相手として」


「はい。私の氷が、あなたたちの連携とぶつかった時、守る方向へ変われるのか。それを見たい」


 彼女は、もう昨日のように拒絶だけで話していなかった。


 疑いはある。


 警戒もある。


 だが、その奥に確かな興味がある。


 自分の氷が何になれるのか。


 それを知りたいという気持ち。


「分かりました」


 俺は頷いた。


「実技杯で、戦いましょう」


 アイリスは小さく頷いた。


「はい。レン・クロフォード」


 俺も名前を返す。


「アイリス」


 彼女は今度、あまり驚かなかった。


 ただ、少しだけ視線を逸らした。


「その呼び方は、まだ少し慣れません」


「嫌ですか?」


「嫌ではありません」


 それだけ言って、彼女は訓練場の向こうへ戻っていった。


     ◇


 その日の夕方、実技杯のチーム編成表が正式に掲示された。


 生徒会掲示板の前には、多くの学生が集まっている。


 俺たち第五混成班も、少し離れた場所から確認した。


 第五混成班。


 レン・クロフォード。

 リリア。

 セリカ。

 ノエル。

 ユリアナ・フォン・グランベル。


 制限付き見学者欄。


 ミュレア・ノクターン。


 王宮結界補助。


 アリシア・ルミナス・ヴァレンティア。


 なんだか、改めて見るとすごい並びだ。


 俺は少しだけ目眩がした。


「すごいチームですね」


 リリアが言った。


「他人事みたいに言わないでください。リリアも入っています」


「そうでした」


 リリアは少し照れたように笑った。


 セリカさんが別の欄を指す。


「アイリスの班、あったわよ」


 そこには、第四混成班と書かれていた。


 リーダー。


 アイリス・ヴェルナー。


 構成は魔術科、剣術課程、治癒術科、魔道具科の混成。


 かなりバランスがいい。


 ノエルがすぐに分析する。


「強い。氷で地形制御、盾役、風支援、治癒、罠。かなり堅い構成」


「本気ですね」


 ユリアナ先輩が頷く。


「アイリスさんは優勝候補の一角です。私たちと当たる可能性は高いでしょう」


 通信水晶からミュレアが楽しそうに言う。


『よいではないか。強敵、氷の美少女、実技杯、才能覚醒。盛り上がる要素が揃っておる』


「ミュレアは完全に観客気分ですね」


『見学者欄に入っておるからな』


「そういう意味ではないです」


 掲示板の前で、学生たちが騒いでいる。


「第五混成班と第四混成班、当たったらすごそう」


「レンさんの才能覚醒リンクと、アイリスさんの氷魔術か」


「外れスキル班と氷の天才班って感じ?」


「いや、第五混成班はもう外れじゃないだろ」


 外れ。


 その言葉に、少しだけ胸が揺れた。


 だが、以前ほど痛くはなかった。


 リリアが俺を見て、静かに呼ぶ。


「レン」


「はい」


 セリカさんも。


「レン」


「はい」


 ノエルも。


「レン」


「はい」


 ユリアナ先輩も。


「レン様」


「はい」


 ミュレアも通信越しに。


『レン』


「はい」


 大丈夫。


 俺は外れスキルではない。


 いや、そう呼ばれていた過去もある。


 でも、それだけではない。


 レン・クロフォードだ。


 そして今、第五混成班の一員だ。


 掲示板の向こうで、アイリスがこちらを見ていた。


 目が合う。


 彼女は少しだけ顎を引いた。


 挑戦の合図。


 俺も頷き返した。


 実技杯でぶつかる。


 俺の力が、努力を奪うものではないと証明するために。


 アイリスの氷が、冷血ではなく守る力にもなれると示すために。


 そして、外れスキル扱いされた俺の力が、仲間の名前と才能を輝かせるチートだと、今度こそ学園中に見せるために。


 少し怖い。


 でも、それ以上に。


 少し楽しみだった。

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