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第52話 好感度が上がるほど強くなるとか、完全に面倒な仕様だ

甘いものは、結局みんなで食べることになった。


 場所は王立学園の中庭。


 正式な調査後の休息、という名目だった。


 アリシア王女がいる。

 生徒会長ユリアナもいる。

 仮学生証型制御具をつけた魔王令嬢ミュレアもいる。

 元聖女のリリア、赤髪の剣士セリカさん、研究科のノエルもいる。


 そして俺。


 どう考えても普通の休憩ではない。


 中庭の隅に置かれた丸テーブルには、王立学園の購買で買った焼き菓子と果実茶が並んでいた。

 王女殿下がいるため、近衛騎士が少し離れた場所で控えている。ギルド側の護衛もいる。さらにユリアナが生徒会として周囲の通行を調整している。


 完全に物々しい。


 ただ、当のミュレアはそんな空気を気にしていなかった。


「ふむ。これはなかなかよい」


 彼女は黒紫のリボンを揺らしながら、焼き菓子を小さくかじった。


 制服風の魔力衣装。

 胸元には仮学生証型制御具。

 見た目だけなら、王立学園に紛れ込んだ少し気位の高い美少女である。


 中身は封印中の魔王令嬢だが。


「ミュレアさん、一品だけですからね」


 リリアが隣で念を押す。


「分かっておる。白き娘は心配性じゃな」


「心配ではなく、経過観察です」


「言い方を変えても心配であろう」


「……少しは」


 リリアが素直に認めると、ミュレアは一瞬だけ目を丸くした。


 それから、ふいと顔を逸らす。


「まったく。そなたは直球が過ぎる」


「すみません」


「謝るな。悪くはない」


 この二人の距離感も、不思議なことになってきた。


 聖女と魔王令嬢。


 普通なら対立する言葉なのに、今は焼き菓子の量を巡って静かに攻防している。


 平和と言えば平和だ。


 俺がそう思っていると、セリカさんが横から言った。


「レン、ぼんやりしてる」


「少し現実感がなくて」


「今さら?」


「今さらですね」


 もう本当に今さらだ。


 アリシア王女は果実茶の杯を手に、穏やかに微笑んでいる。


「零号資料庫の後に、こうして休めるのは大事だと思います。重い情報を受け取った時ほど、日常に戻る時間が必要ですから」


「王女殿下が言うと、すごく説得力があります」


「王宮では、重い話のあとに甘いものが出ることも多いのです」


 ミュレアが即座に反応した。


「ほう。王宮は分かっておるな」


「ただし、食べすぎは注意されます」


「どこも白き娘のような者がおるのか」


「健康管理は大事ですから」


 アリシア王女までリリア側についた。


 ミュレアは心底不満そうだった。


 ノエルは焼き菓子にはあまり手をつけず、記録板を見ている。


 いや、甘いものより記録なのか。


 彼女らしい。


「ノエル、休憩ですよ」


 俺が言うと、ノエルは顔を上げた。


「休憩しながら考えてる」


「それは休憩なんですか」


「研究者にとっては」


 ユリアナがすぐに言った。


「ノエル様、休憩中の記録作業は十分以内です」


「生徒会長、そこまで管理するの?」


「あなたは管理しなければ作業を続けます」


「否定できない」


 ノエルが素直に引いた。


 ユリアナの管理能力は強い。


 そのユリアナ自身は、きちんと果実茶を飲んでいた。

 それだけで少し安心する。


 俺が見ていると、ユリアナは目だけこちらへ向けた。


「レン様」


「はい」


「また私の体調確認ですか」


「すみません。癖で」


「癖にしないでください。……ただ、本日は休憩予定を確保しています」


「それなら安心です」


 ユリアナは少しだけ困った顔をした。


「本来、私があなたの行動を確認する立場なのですが」


「お互い確認するということで」


「……合理的ではあります」


 受け入れられた。


 少しずつ、ユリアナも柔らかくなっている気がする。


 その時、ノエルがぱたりと記録板を閉じた。


「休憩はした。そろそろ本題に入っていい?」


「早くないですか」


「十分経った」


「本当に測ってたんですね」


 ユリアナが懐中時計を見る。


「九分四十秒です」


「ほぼ十分」


「残り二十秒休んでください」


「厳密すぎる」


 それでもノエルは二十秒待った。


 そして、きっちり二十秒後に口を開く。


「レンの能力仕様について、整理したい」


 甘いものの空気が、一気に研究会の空気へ戻った。


 俺は杯を置く。


 逃げたい気持ちはある。


 だが、逃げる話ではない。


 俺の力は、俺だけの問題ではなくなっている。


 リリアの聖力、アリシア王女の結界、ミュレアの封印、セリカさんとの連携、ノエルの研究、ユリアナの制度設計。


 みんなに関わっている。


 ノエルは記録板を広げた。


「現時点で分かっているのは、レンの能力が“魂同調系統”に分類される可能性が高いこと。基本機能は感情状態観測、危険兆候感知、適性補助。さらに、信頼関係が深まると連携精度や魔力安定補助が上がる」


「つまり、仲良くなればなるほど強くなる」


 セリカさんが簡単にまとめた。


 ノエルは頷く。


「かなり乱暴だけど、だいたいそう」


「乱暴なんですね」


 俺が言うと、ノエルは真顔で言った。


「研究用語で言えば、信頼関係に基づく魂魄同期率上昇に伴う相互補助機能の強化」


「仲良くなればなるほど強くなる、でお願いします」


「うん。そっちの方が分かりやすい」


 自分でも分かっているらしい。


 問題は、その仕様だ。


 仲良くなればなるほど強くなる。


 字面だけなら、とても主人公っぽい。


 けれど、実際はかなり面倒だ。


 好感度が高い相手ほど、感情が流れ込みやすくなる。

 力の流れを補助できる一方で、俺自身の負担も増える。

 相手との境界が曖昧になる危険もある。


 便利なだけではない。


 リリアが真剣な顔で言った。


「レンが私の聖力を支えてくれる時、私はとても安心します。でも、その安心がレンの負担になるなら、使い方を考えなければいけません」


 セリカさんも頷く。


「剣でも同じ。レンの警告があると動きやすいけど、毎回全部見てもらうのは危ないってことね」


 アリシア王女も静かに言う。


「王家結界との連携も、必要時に限定すべきでしょう。強力だからこそ、常用してはいけない」


 ミュレアが焼き菓子の皿を名残惜しそうに見ながら言った。


「妾の場合は封印安定に関わる。リンクを強めれば妾は外へ出やすくなるであろうが、その分レンに負荷がかかる。実に面倒じゃ」


「珍しく真面目ですね」


「妾とて、そなたを壊す気はない」


 ミュレアはさらっと言った。


 俺が少し驚いて見ると、彼女は不満げに眉を寄せた。


「何じゃ。その顔は」


「いえ、ありがとうございます」


「礼を言われるほどではない。レンが壊れたら妾の学園外出計画が遠のくからな」


 照れ隠しだ。


 表示を見るまでもなかった。


 リリアが微笑んでいる。

 セリカさんも少しだけ目を細めていた。


 ユリアナが記録板に淡々と書き込む。


「能力使用規定案を整理します。第一に、能力使用は本人同意を原則とする。第二に、好感度・感情状態の確認は、緊急時を除き口外禁止。第三に、上限突破者との連携は使用時間を制限。第四に、使用後は必ず負荷確認」


「上限突破者、という言葉が強いですね」


 俺が言うと、ユリアナは少し考えた。


「では、深層信頼対象」


「それも強くないですか」


 セリカさんが腕を組む。


「というか、誰がそれに当たるの?」


 部屋の空気が、一瞬だけ止まった。


 ノエルがすぐに俺を見る。


「レン、見える?」


「ええと……」


 見たくない。


 非常に見たくない。


 でも、確認しないわけにもいかない。


 俺は自分の内側の線を見る。


 濃い線。


 特に強く繋がっている相手。


深層信頼対象候補

リリア・セレスティア

セリカ

ミュレア・ノクターン

アリシア・ルミナス・ヴァレンティア

ノエル・アシュフォード

ユリアナ・フォン・グランベル:形成途上


 俺は言葉に詰まった。


 全員が見ている。


「……リリア、セリカさん、ミュレア、アリシア殿下、ノエル。ユリアナ先輩は形成途上と出ています」


 言った瞬間、空気が変になった。


 リリアは少し頬を赤くして視線を落とした。

 セリカさんは腕を組んだまま、耳がほんのり赤い。

 ミュレアは満足そうに笑った。

 アリシア王女は杯を持つ手を少し止めた。

 ノエルは「形成済みか」と研究者の顔で頷いている。

 ユリアナは、完全に固まった。


「形成途上……」


 彼女が小さく呟く。


「ユリアナ先輩、これはその、信頼関係の話であって」


「分かっています」


「恋愛的な意味とは限らないので」


「分かっています」


「ならよかったです」


「ですが、本人の前で言われると困ります」


「すみません」


 ユリアナの頬が少し赤かった。


 生徒会長でも、こういう時は反応するらしい。


 ミュレアが楽しそうに笑う。


「ほう。過労の生徒会長も形成途上か」


「ミュレアさん」


 リリアが軽くたしなめる。


「からかいすぎはいけません」


「白き娘も随分と余裕が出たな」


「余裕というより、レンの負担を増やしたくないだけです」


「ふむ。正妻のような言い方じゃな」


 リリアが固まった。


 セリカさんも固まった。


 アリシア王女が軽く咳き込んだ。


 ユリアナは記録板を閉じた。


「今の発言は記録しません」


 ノエルが真顔で言う。


「私は記録したい」


「禁止です」


「残念」


 俺は頭を抱えた。


 好感度が上がるほど強くなる。


 深層信頼対象。


 上限突破。


 全部、言葉が強すぎる。


 しかも、そこに恋愛だの正妻だのが絡むと、学園の相談窓口どころではない騒ぎになる。


 俺は心から思った。


 完全に面倒な仕様だ。


     ◇


 ノエルの提案で、簡単な連携確認を行うことになった。


 もちろん、安全範囲で。


 場所は中庭の端にある小さな訓練スペース。


 魔術科が低出力の実習に使う場所らしく、結界も張られている。


 目的は、俺の能力が「信頼関係」によってどの程度変化するかの確認。


 ユリアナは最初、休憩後すぐの実験に難色を示した。


 だが、ノエルが「負荷上限を決めるために最低限必要」と説明し、オルフェさんも同意したことで、短時間だけ許可された。


 実験という言葉は少し嫌だったが、安全管理のためなら仕方ない。


 最初はリリア。


 彼女が小さな治癒光を出し、俺がその流れを見る。


 以前なら、傷や異常があって初めて表示が出た。

 だが今は、リリアの聖力の揺らぎが前より細かく見える。


リリア・セレスティア

聖力流路:安定

微細揺らぎ:疲労由来

補助可能:出力維持、反動緩和

注意:過補助禁止


「疲労由来の揺らぎがあります。でも、出力は安定しています。補助するなら反動緩和だけで十分です」


 リリアは小さく頷く。


「無理に力を増やすのではなく、支えるだけですね」


「はい」


 リリアの聖力が一瞬、柔らかく安定した。


 俺の胸に温かい感覚が流れ込む。


 優しさ。

 祈り。

 少しの不安。


 でも、以前より飲まれない。


 表示が出る。


感情過負荷:低

信頼リンク安定


「大丈夫です。負荷は低いです」


 リリアがほっとしたように笑った。


 次はセリカさん。


 彼女は木剣を手に、簡単な型を見せた。


 俺が見ると、剣筋の危険ではなく、動きの予兆が見えた。


セリカ

剣気流路:鋭利

次動作:右踏み込み、斜め斬り

補助可能:死角警告、踏み込みタイミング共有

注意:過干渉すると剣筋を乱します


「次の動きが少し見えます。でも、俺が口を出しすぎるとセリカさんの剣筋が乱れます」


「でしょうね」


 セリカさんは納得したように頷いた。


「私の剣は、私が振る。レンは危ない時だけ言って」


「はい」


 それだけで、リンクが安定した。


 言葉が少ない分、はっきりしている。


 セリカさんらしい。


 次はアリシア王女。


 小さな結界を張る。


 青白い光が丸く広がる。


アリシア・ルミナス・ヴァレンティア

王家結界:高安定

補助可能:弱点位置共有、負荷分散

注意:王家認証と魂同調の混線注意


「結界の弱点が見えます。補助はできますが、王家認証と混ざらないよう注意が必要です」


 アリシア王女は真剣に頷いた。


「王家の力を、個人の関係性に流し込みすぎてはいけないということですね」


「たぶん、そうです」


「覚えておきます」


 王女らしい慎重さだった。


 次はミュレア。


 黒紫の魔力をほんの少しだけ出す。


 結界内の空気が一気に重くなった。


 でも、仮学生証型制御具が反応し、出力を抑える。


ミュレア・ノクターン

封印魔力:高出力抑制中

補助可能:封印安定、外出制御補助

注意:好感度上限超過によりリンク効率高

危険:負荷急上昇の可能性


 やはり、ミュレアとのリンクは強い。


 強すぎる。


 少し意識を向けただけで、黒紫の魔力の奥にある感情が流れ込んでくる。


 退屈。

 期待。

 寂しさ。

 誇り。

 外を見たいという強い願い。


 胸が一瞬、詰まった。


 セリカさんがすぐに気づく。


「レン」


「少し強いです」


 リリアが白い光を添える。


「緩めます」


 ミュレアもすぐに魔力を引いた。


「む。やはり妾とのリンクは強すぎるか」


「強いです。でも、制御具を通すと安定します」


 俺は息を整えながら言った。


「ただ、長時間は危険です」


 ミュレアは素直に頷いた。


「よかろう。妾の外出は短時間からじゃな」


「ちゃんと分かってくれて助かります」


「妾は高貴で賢いからな」


 軽口に戻った。


 少し安心した。


 最後はノエル……と思ったが、ノエルの場合、魔術を出すよりも研究的な好奇心が強すぎる。


 表示はこうだった。


ノエル・アシュフォード

状態:興奮、好奇心、理性で抑制中

補助可能:解析精度向上、記録補正

注意:研究欲による暴走注意


「研究欲による暴走注意と出ています」


「だろうね」


 ノエル本人が納得した。


 ユリアナが即座に言う。


「制限継続です」


「分かってる」


 ノエルは少し残念そうだったが、納得はしているようだった。


 そしてユリアナ。


 彼女は少し迷った。


「私は、魔力系の補助対象ではないと思いますが」


「でも、形成途上って出てましたし」


 俺が言うと、ユリアナの頬が少し赤くなった。


「その言い方は控えてください」


「すみません」


 ユリアナは小さな防護結界を展開した。


 貴族教育で学んだ基礎結界らしい。


ユリアナ・フォン・グランベル

結界適性:中

管理能力:高

補助可能:情報整理、危険優先度判断

注意:過労時に判断精度低下


「ユリアナ先輩の場合、魔力補助より情報整理や危険優先度判断の連携が向いているみたいです」


「危険優先度判断……」


 ユリアナは興味深そうに呟いた。


「つまり、相談窓口の分類や危険度判定で、あなたの感知と私の制度設計が噛み合う可能性があるということですか」


「たぶん」


「有用ですね」


 仕事の話になると表情が真剣になる。


 ただ、表示にはこうも出ている。


注意:過労時に判断精度低下


「ただし、過労時に判断精度が下がります」


 言うと、ユリアナは目を閉じた。


「……それは一般論です」


「表示にも出ています」


「分かりました。休息規定を自分にも適用します」


 ついに自分にも規定を入れた。


 セリカさんが満足そうに頷く。


「いい傾向」


 リリアも微笑んだ。


「はい」


 ユリアナは少しだけ恥ずかしそうだった。


     ◇


 連携確認の結果、はっきりしたことがある。


 俺の能力は、相手との信頼や関係が深いほど、より細かく、より強く働く。


 ただし、それは負担と表裏一体だった。


 リリアとは穏やかに安定する。

 セリカさんとは危険察知と瞬間判断が鋭くなる。

 アリシア王女とは結界の弱点共有ができる。

 ミュレアとは封印と外出制御が強く補助できるが、負担も大きい。

 ノエルとは解析補助ができるが、研究欲が危険。

 ユリアナとは情報整理や制度判断で噛み合う可能性がある。


 完全に面倒な仕様だ。


 しかも、好感度や信頼関係が深まるほど能力が強化される。


 つまり、人間関係を避けて生きるほど弱くなり、誰かと深く関わるほど強くなる。


 前世の俺に対する嫌がらせみたいな能力だった。


 俺がそう言うと、ノエルは真顔で返した。


「でも、今のレンには合ってると思う」


「そうですか?」


「うん。たぶん、昔のレンならきつかったかもしれない。でも今は、周りに止める人がいる」


 セリカさんが頷く。


「止めるわよ」


 リリアも。


「支えます」


 アリシア王女も。


「協力します」


 ミュレアも。


「使い倒す。……壊れぬ範囲でな」


「最後が不穏です」


「妾なりの配慮じゃ」


 ユリアナも記録板を閉じて言った。


「制度で守ります」


 ノエルも。


「観測する」


「ノエルは少し違う気がします」


「安全のために」


「なら、お願いします」


 俺は小さく笑った。


 一人で受けるには重い力だ。


 でも、一人で受けなくていいなら。


 少しだけ、向き合える気がした。


 その時、俺の視界に、零号資料庫で見た最後の一文が再び浮かんだ。


魂の同調者が現れる時

封じられた第四の系統もまた目覚める


 消えたと思っていた表示が、また出た。


 俺は思わず黙る。


 セリカさんがすぐに気づいた。


「レン?」


「また出ました。第四の系統の表示です」


 全員の表情が変わる。


 ノエルが一歩近づいた。


「詳細は?」


「まだ不明です。ただ……」


 表示が続く。


第四の系統

状態:休眠

反応条件:魂同調者の覚醒進行

関連:古代三系統の均衡崩壊時に封じられたもの

注意:現時点で詳細閲覧不可


「第四の系統は休眠状態。魂同調者の覚醒進行に反応。古代三系統の均衡崩壊時に封じられたもの。詳細はまだ見えません」


 中庭の空気が、また重くなる。


 甘いものの残り香も、少し遠くなった。


 ミュレアが低く言った。


「三系統の均衡が崩れた時に封じられたもの、か」


 アリシア王女が顔を引き締める。


「それが今、レン様の力に反応して目覚める可能性があるのですね」


 リリアが不安そうに俺を見る。


「レンのせい、ではありません」


 先に言われた。


 俺が言いそうなことを。


 セリカさんも続ける。


「そうよ。何かが起きても、あなた一人のせいにしない」


 ユリアナも、いつもの冷静な声で言った。


「原因と責任は分けて考えるべきです。現時点では、あなたの能力が反応条件の一部である可能性が示されただけです」


 すごい。


 論理で救われることもあるのだなと思った。


 ノエルも頷く。


「分からないものは、分からないまま扱う。決めつけない。調べる」


「はい」


 俺は息を整えた。


 第四の系統。


 また大きな謎が増えた。


 でも、今度は一人で抱え込む前に、みんなが止めてくれた。


 それだけで、少し違う。


 ミュレアが俺を見て、ふっと笑う。


「面倒な仕様じゃな、レン」


「本当に」


「だが、面倒なものほど、扱いを間違えねば面白い」


「面白がらないでください」


「少しだけじゃ」


 その少しだけは、絶対に少しではない。


 リリアが静かに言った。


「今日は、ここまでにしませんか」


 アリシア王女も頷く。


「賛成です。情報が多すぎます」


 ユリアナが記録板を閉じる。


「本日の追加調査は禁止します。全員休息。これは生徒会長としての判断です」


「王女としても同意します」


 アリシア王女が言うと、かなり強い決定になった。


 ノエルは少し未練がありそうだったが、さすがに頷いた。


「分かった。記録整理だけにする」


「記録整理も時間制限付きです」


 ユリアナが釘を刺す。


「はい」


 ノエルが素直に返事をした。


     ◇


 夕方、俺たちは中庭を出た。


 零号資料庫の記録。

 魂同調系統。

 好感度が上がるほど強くなる仕様。

 感情過負荷。

 第四の系統。


 考えることは山ほどある。


 だが今日は、考えすぎないことにした。


 少なくとも、今この瞬間は。


 ミュレアが仮学生証を指でつつきながら言う。


「レン。次の外出時は、学園の菓子店を案内せよ」


「まだ正式外出は決まってません」


「決まる」


「自信満々ですね」


「妾が望むからな」


「それで通るなら苦労しません」


 リリアが微笑む。


「正式に許可が出たら、一品だけ選びましょう」


「また一品か」


「はい」


「白き娘は本当に手強い」


 セリカさんが笑う。


「でも、ミュレアもだいぶ聞くようになったわね」


「妾は聞き分けがよいからな」


「それはどうかしら」


 アリシア王女が楽しそうに見ている。


 ユリアナは、そんな一行を見て少しだけ不思議そうな顔をしていた。


「この集団は、統制が取れているのか取れていないのか判断に迷います」


 ノエルが即答する。


「取れてないようで、ぎりぎり取れてる」


「ぎりぎりですか」


「いつも」


 俺は深く頷いた。


「いつもぎりぎりです」


 セリカさんが俺を見る。


「そこは胸を張らない」


「はい」


 みんなが少し笑った。


 重い謎を抱えたまま、それでも笑えた。


 俺は夕焼けの空を見上げる。


 好感度が上がるほど強くなる。

 信頼が深まるほど、力が増す。

 でも、負担も増える。


 完全に面倒な仕様だ。


 けれど、その面倒を一緒に考えてくれる人たちがいる。


 なら、もう少しだけやっていける。


 そう思えた。

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