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第46話 生徒会長ユリアナ、俺を監視対象にする

 放課後の王立学園は、昼間とは少し空気が違う。


 授業を終えた学生たちが、部活動や研究室、寮へと散っていく。

 廊下には昼休みほどの騒がしさはないが、そのぶん足音や話し声が妙に響いた。


 俺は、その廊下を歩いていた。


 目的地は、生徒会室。


 理由は、王立学園生徒会長ユリアナ・フォン・グランベルに呼び出されたから。


 呼び出し理由は、学園内の不審な好感度上昇現象についての説明。


 文字にすると、ますます意味が分からない。


「不審な好感度上昇現象って、何なんでしょうね」


 俺が呟くと、隣を歩くセリカさんが即答した。


「あなたのことね」


「分かってはいますけど」


「じゃあ聞かない」


「現実確認したくなかったんです」


「現実から逃げない」


 セリカさんは今日も容赦がない。


 リリアは俺の少し後ろを歩いていた。


 彼女も同行してくれることになった。

 生徒会長からは俺一人が呼ばれているが、俺の能力や相談対応にはリリアも関わっている。何より、セリカさんが「レン一人で行かせると、言われたことを全部真面目に受け止めて帰ってくる」と判断した。


 その判断は否定できない。


 ノエルも同行している。


 理由は「研究対象レンに関する制度的監視が始まる瞬間を観測したい」から。


 もう少し人間味のある理由が欲しかった。


「ノエル、本当に来るんですか」


「来るよ」


「ユリアナ先輩に、あなたにも確認事項があると言われていましたよね」


「だから行く」


「怒られに?」


「怒られるかは、議論してみないと分からない」


 その前向きさは見習いたくない。


 リリアが少し困ったように笑う。


「でも、生徒会長さんのおっしゃることも分かります。今日の廊下は、少し混乱していましたから」


「少し、ですか」


 俺の体感では、かなり混乱していた。


 相談、質問、好感度の噂、才能覚醒の噂、恋愛相談。


 途中から何屋なのか分からなくなっていた。


「レンが悪いわけじゃないけど、放っておくと人は集まるわ」


 セリカさんが言う。


「レオンも同じようなことを言っていましたね」


「そうね。あの金髪、ああ見えて学園内の空気は分かってるのかも」


「褒めてます?」


「少しだけ」


 セリカさんの「少しだけ」は、最近よく聞く。


 ミュレアの「少しだけ」と似ている気もする。

 本人に言ったら怒られるので言わない。


 俺は歩きながら、自分の状態を見た。


レン・クロフォード

状態:緊張、軽い胃痛、逃避願望微弱

備考:生徒会室に行きたくないが、同行者がいるため逃亡可能性は低い


 相変わらず正直すぎる。


 逃亡可能性は低い。


 つまり、ゼロではない。


 セリカさんが横目で見てきた。


「今、何か見た?」


「逃亡可能性は低いそうです」


「よろしい」


「それでよろしいんですか」


「高いよりはいいでしょ」


 確かに。


 生徒会室は本校舎三階の南側にあった。


 扉には、磨かれた金属のプレートがついている。


 王立学園生徒会室。


 字面が強い。


 俺が扉の前で一瞬固まると、セリカさんが背中を軽く押した。


「行く」


「はい」


 俺はノックした。


「どうぞ」


 中から、よく通る声が返ってきた。


 扉を開ける。


 生徒会室は、想像していたよりも整っていた。


 中央に大きな机。

 壁際には資料棚。

 窓辺には鉢植え。

 奥には生徒会長用らしい机があり、その上には書類がきっちり積まれている。


 いや、きっちり積まれているように見えるだけで、量が多い。


 かなり多い。


 机の端には未処理の申請書らしき束。

 反対側には行事予定表。

 さらにその横には、旧研究棟事件に関する学園内通達の写し。


 その机の前に、ユリアナ・フォン・グランベルが立っていた。


 銀金色の髪を一つにまとめ、制服は皺一つない。

 背筋はまっすぐ。

 まるで、疲労というものを知らない人のように見える。


 だが、表示は違った。


ユリアナ・フォン・グランベル

状態:警戒、責任感、過労、睡眠不足

備考:生徒会長として学園秩序を守ることに強い義務感を抱いています


 過労。


 睡眠不足。


 いきなり見えてしまった。


 見なかったことにしたい。


 だが、見えてしまったものは見えてしまう。


「お待ちしておりました」


 ユリアナは丁寧に一礼した。


「レン・クロフォード様。リア様。セリカ様。ノエル様」


 ノエルも含まれている。


 逃がすつもりはないらしい。


「急な呼び出しに応じていただき、ありがとうございます」


「いえ」


 俺が答えると、ユリアナは淡々と続けた。


「まず確認します。本日の昼休みから放課後にかけて、あなたの周囲に多数の学生が集まりました。魔術科、治癒術科、研究科、剣術課程。少なくとも四課程にまたがっています」


「はい」


「その結果、東廊下で一時的な通行障害が発生。魔術科二年の移動授業が三分遅れ、治癒術科一年の実習準備に遅延が出ました」


「すみません」


「謝罪が欲しいわけではありません」


 昼にも言われた台詞だった。


 ユリアナは机の上の資料を一枚取る。


「問題は、あなたが意図していないにも関わらず、人が集まり、学園内の動線と人間関係に影響を与え始めていることです」


 言葉が正確だ。


 そして逃げ道がない。


「レンは悪気があってやっているわけではありません」


 リリアが静かに言った。


 ユリアナは彼女に視線を向ける。


「承知しています。むしろ、悪意がないからこそ難しいのです」


「難しい?」


「悪意ある扇動であれば、規則で止められます。しかし、善意による相談、救済、適性発見は止めにくい。止めれば、困っている学生を見捨てることになる。放置すれば、あなた方の周囲に非公式な相談圏が生まれます」


 非公式な相談圏。


 また強い言葉が出た。


 ユリアナは俺を見る。


「それは、派閥の芽です」


「派閥を作るつもりはありません」


「つもりがなくても、人は集まります」


 やっぱり言われた。


 何度聞いても、重い。


 セリカさんが腕を組む。


「つまり、生徒会としてはレンへの相談を管理したいということ?」


「はい。ただし、相談そのものを否定するつもりはありません」


 ユリアナは即答した。


「旧研究棟事件後、聖具や研究室への不安を抱える学生が増えています。魔術や治癒術に適性不安を持つ者も多い。その声を拾うことは必要です」


「なら、どうするんですか」


 俺が聞くと、ユリアナは待っていたように資料を差し出した。


 手書きだが、非常に整理されている。


 仮称:学生適性・聖具不安相談窓口。


 担当教師、ギルド連絡担当、治癒術科補助、魔道具科補助、生徒会受付。


 相談分類。

 緊急度判定。

 レンへの確認依頼は教師経由。

 本人同意なしの好感度・状態確認禁止。

 接触確認時は第三者同席。

 相談時間は一人十分以内。


 すごい。


 すでに制度案ができている。


「これ、いつ作ったんですか」


「本日昼休み以降です」


「仕事が早いですね」


「必要でしたので」


 表示に「過労」「睡眠不足」が出ている理由が分かった。


 この人、必要だと思ったら休まないタイプだ。


 セリカさんが資料を見ながら言う。


「内容は悪くないわね。むしろ必要」


 リリアも頷く。


「本人同意の項目があるのは大事だと思います」


 ノエルも興味深そうに覗き込む。


「相談分類が甘いかな。魔道具適性と魔術回路適性は分けた方がいい。あと聖具不安は精神的恐怖と実際の魔力異常を別カテゴリにした方が記録として使いやすい」


 ユリアナはすぐにペンを取った。


「採用します」


「早い」


「有用な意見ですので」


 ノエルは少し嬉しそうだった。


 研究や分類の話になると、この人たちは妙に噛み合うらしい。


 俺としては、どんどん自分を中心に制度が組まれていくのが怖い。


「俺、毎日ここで相談を受けるんですか」


「いいえ」


 ユリアナは首を横に振った。


「あなたに直接依存する形にはしません。あくまで最終確認または特殊事例の補助です。通常相談は教師と生徒会で受け、必要に応じてギルドへ回します」


「それは助かります」


「ただし」


 来た。


「あなたの能力については、まだ不明点が多い。学園秩序への影響を含め、生徒会として観察を続けます」


「観察」


「監視と言い換えても構いません」


「構います」


 思わず言った。


 ユリアナは表情を変えなかった。


「では、観察とします」


「そこは変えてくれるんですね」


「言葉の印象は重要ですから」


 マルクスの記録干渉を思い出した。


 言葉の印象。


 この人は、それを軽く扱っていない。


 ユリアナは机に資料を置く。


「レン様。あなたは急速に学園内で影響力を持ち始めています。これは事実です」


「はい」


「あなたが望む望まないに関わらず、学生たちはあなたに期待し、救いを求め、近づこうとする。中には、あなたの力を利用しようとする者も出るでしょう」


 表示が浮かぶ。


ユリアナ・フォン・グランベル

状態:警戒、責任感

備考:レンが利用される可能性も懸念しています


 俺は少し驚いた。


 彼女は、俺を危険視しているだけではない。


 俺が利用されることも警戒している。


「俺が利用されることも、考えているんですね」


 つい言ってしまった。


 ユリアナの目が、わずかに細くなる。


「……見えたのですか」


「少し」


「便利ですね」


「怖くもあります」


 俺が答えると、ユリアナは数秒黙った。


 それから言う。


「その認識があるなら、なおさら監視が必要です」


「なぜですか」


「怖いと分かっている者ほど、自分一人で抱え込もうとするからです」


 リリアとセリカさんが、同時に俺を見た。


 なぜ俺を見るのか。


 いや、分かる。


 ユリアナは続けた。


「あなたを疑うためだけではありません。あなたが抱え込みすぎないように、制度で支える必要があります」


 その言葉は意外だった。


 もっと冷たいものだと思っていた。


 秩序。

 監視。

 規則。

 派閥防止。


 そういう言葉ばかりだったから。


 でも、ユリアナの中では、管理と支援は同じ線上にあるのかもしれない。


 もちろん、マルクスのような管理とは違う。


 ユリアナは少なくとも、本人の同意や第三者確認を制度に入れている。


 リリアが静かに言った。


「ユリアナ様は、学園を守りたいのですね」


 ユリアナの表情が少しだけ緩んだ。


「はい」


 短い返事だった。


「王立学園は、貴族も平民も、王族も地方出身者も、才能ある者も才能に悩む者も集まる場所です。ここで生じた不安や不公平が放置されれば、将来の王国に影響します」


 重い。


 学生の言葉とは思えないくらい重い。


「だから、生徒会長として見過ごせません」


 俺の表示が更新される。


ユリアナ・フォン・グランベル

状態:責任感、過労、孤立

備考:弱音を吐くことを自分に許していません


 孤立。


 弱音を吐くことを許していない。


 それを見た瞬間、俺の中で彼女への印象が少し変わった。


 完璧な生徒会長。

 冷たい監視者。

 学園秩序の化身。


 そう見えるけれど、その裏でかなり無理をしている。


 リリアの言葉を思い出す。


 怖いと思うことは悪いことではない。


 セリカさんの言葉も。


 怖がっているなら、たぶん大丈夫。


 俺はユリアナの机を見る。


 書類の山。


 整いすぎた予定表。


 隅に置かれた冷めたお茶。


 手つかずの軽食。


 言うべきか迷った。


 ここで言うと、たぶん話がずれる。


 でも、見えてしまった。


「ユリアナ先輩」


「何でしょう」


「寝ていますか?」


 部屋の空気が止まった。


 セリカさんが「あ」と小さく言った。


 リリアが目を瞬かせる。


 ノエルが急に面白そうな顔をする。


 ユリアナだけが、完全に固まった。


「……何の話ですか」


「睡眠です」


「それは分かります」


「状態に過労と睡眠不足が出ています」


 正直に言うと、ユリアナの表情がわずかに崩れた。


 ほんの少し。


 でも、完璧な仮面にひびが入ったのが分かった。


「それは、今の議題と関係ありません」


「あります」


 自分でも驚くくらい、すぐに言葉が出た。


「生徒会長が倒れたら、学園秩序に影響します」


 セリカさんが横で小さく吹き出しかけた。


 リリアは真面目な顔で頷いている。


 ノエルは完全に観測している。


 ユリアナは、少しだけ眉を寄せた。


「私は倒れません」


「倒れる人はだいたいそう言うと思います」


「根拠は?」


「俺もよく言うので」


 セリカさんがすかさず言った。


「説得力あるわね」


「褒められてますか」


「たぶん」


 ユリアナは、こちらをじっと見た。


 そして、なぜか少しだけ困ったような顔をした。


「……あなたは、話題を逸らすのが得意なのですか」


「得意ではありません。むしろ苦手です」


「では、なぜ今それを?」


「見えたからです」


 俺は言った。


「そして、見えたものを放っておくと気になるので」


 ユリアナは黙る。


 沈黙が少し長い。


 やがて彼女は、机の上の書類を一枚整えた。


「本日は、あなたへの監視体制について話していたはずです」


「はい」


「私の睡眠時間は本題ではありません」


「でも、次の本題になるかもしれません」


「次?」


 ノエルが楽しそうに言った。


「次回、生徒会長過労問題」


「ノエル様」


 ユリアナの声が少し冷たくなる。


「冗談」


「冗談に聞こえません」


「半分本気」


「なお悪いです」


 セリカさんが腕を組む。


「でも、レンの言う通りよ。あなた、顔色悪いもの」


 リリアも続ける。


「治癒師としても、少し心配です。指先の血色が薄いですし、呼吸も浅いです」


 ユリアナは、今度こそ完全に言葉を失った。


 冷静な生徒会長が、三方向から体調を心配されている。


 しかも、彼女としては監視対象を呼び出したはずなのに、逆に自分が観察されている。


 立場が逆転している。


 俺は少し申し訳なくなった。


「すみません。話をずらすつもりは」


「……いえ」


 ユリアナは深く息を吸った。


 姿勢を整え直す。


「ご指摘は受け止めます。ただし、本日の議題は最後まで進めます」


「はい」


「レン・クロフォード様。あなたには、正式な相談窓口が設置されるまで、生徒会の臨時観察対象として、日々の接触状況を簡易報告していただきます」


「簡易報告」


「相談件数、相談種別、直接接触の有無、能力使用の有無。これだけです」


「これだけ、ですか」


 十分多い気もする。


 セリカさんが資料を見る。


「まあ、管理するなら必要ね」


 リリアも頷く。


「本人同意の確認にもなります」


 ノエルが手を上げる。


「報告書の形式、私も見たい」


「ノエル様には別途、研究観察に関する制限書を出します」


「えっ」


 ユリアナは容赦なかった。


「レン様を研究対象として扱う場合、本人同意、教師許可、生徒会確認が必要です」


「三重承認……」


 ノエルが珍しく落ち込んだ。


 セリカさんが満足そうに頷く。


「いい制度ね」


「よくない。研究速度が落ちる」


「安全速度になるの」


「むう」


 ノエルが唸る。


 俺としては非常にありがたい。


 ユリアナは最後に、俺へ視線を戻した。


「以上です。異論はありますか」


「監視対象という呼び方だけ、もう少し柔らかくできませんか」


「臨時観察協力者」


「少し柔らかくなりました」


「では、そう記録します」


 本当に変えてくれた。


 言ってみるものだ。


 だが、ユリアナは続けた。


「ただし、あなたが学園秩序を乱す行動を取った場合、生徒会長として止めます」


「はい」


「そして、あなたが過剰に相談を抱え込んだ場合も止めます」


「……はい」


 そちらも入った。


 セリカさんとリリアが満足そうにしている。


 完全に味方が増えたような、監視役が増えたような、複雑な気分だ。


 ユリアナは会議終了のように書類を閉じた。


「本日は以上です」


 俺たちは立ち上がる。


 扉へ向かいかけたところで、俺は一度だけ振り返った。


 ユリアナはすでに次の書類を手に取っていた。


 やはり休む気がない。


「ユリアナ先輩」


「まだ何か?」


「今日は、ちゃんと寝てください」


 彼女の手が止まる。


「……善処します」


 どこかの魔王令嬢みたいな返事だった。


 リリアが静かに言う。


「善処ではなく、約束してください」


 ユリアナがリリアを見る。


 リリアは微笑んでいるが、目は真剣だった。


 セリカさんも言う。


「レンにもそう言ってるから。あなたにも言うわ」


 ノエルも便乗する。


「睡眠不足は判断力落ちるから、研究効率も下がるよ」


「生徒会業務です」


「似たようなもの」


 ユリアナは、しばらく沈黙した。


 そして、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。


「……分かりました。本日は、最低でも日付が変わる前に休みます」


「遅いです」


 俺が言うと、彼女は少しだけ目を丸くした。


 それから、本当にわずかに笑った。


「では、努力します」


 その笑顔は一瞬だった。


 完璧な生徒会長の顔ではなく、少し疲れた同年代の少女の顔だった。


 表示が浮かぶ。


ユリアナ・フォン・グランベル

好感度:8 → 19

状態:警戒、困惑、わずかな信頼

備考:レンの無遠慮な心配に戸惑っています


 上がった。


 まだ低いが、上がった。


 俺は何も言わずに扉を開けた。


 言ったらまた面倒になりそうだったからだ。


     ◇


 生徒会室を出ると、セリカさんがすぐに言った。


「また増えたわね」


「何がですか」


「監視役兼、心配対象」


「俺が心配する側ですか」


「そう」


 リリアも頷く。


「ユリアナ様、少し無理をされているようでした」


「そうですね」


 ノエルが腕を組んで言う。


「生徒会長、分類すると過労型完璧主義だね」


「分類が早い」


「研究者だから」


「ユリアナ先輩にまた怒られますよ」


「三重承認がつらい」


 ノエルは本当にしょんぼりしていた。


 珍しい姿だった。


 俺は廊下を歩きながら、さっきの表示を思い返す。


 警戒。

 責任感。

 過労。

 孤立。

 わずかな信頼。


 ユリアナ・フォン・グランベル。


 冷たい監視者だと思っていた。


 でも、たぶんそれだけではない。


 彼女は学園を守ろうとしている。


 自分が倒れそうになっても、秩序を保とうとしている。


 それは立派だ。


 でも、危うい。


「レン」


 リリアが俺の顔を覗き込む。


「今度はユリアナ様のことを考えていますね」


「分かりますか」


「はい」


 セリカさんがため息をつく。


「本当に、放っておけない人を見つける才能があるわね」


「俺が見つけたというか、見えてしまうので」


「結果的に同じよ」


 結果的に。


 またそれだ。


 でも、否定できなかった。


 生徒会長ユリアナは、俺を監視対象にした。


 いや、正確には臨時観察協力者にした。


 そして俺は、その監視者の過労を見つけてしまった。


 たぶん、これで終わらない。


 彼女はこれから、昼休みや授業後に現れるだろう。

 俺の相談状況を確認し、報告書を求め、学園秩序を守ろうとする。


 そしてきっと、無理をする。


 その時、俺は放っておけるのだろうか。


 答えは、たぶん分かっている。


 セリカさんが横から言った。


「先に言っておくけど、一人で背負わない」


「まだ何もしてません」


「する前に言ってるの」


「はい」


 リリアも微笑む。


「一緒に見守りましょう」


「はい」


 ノエルが言う。


「私は三重承認の突破方法を考える」


「それは考えなくていいです」


 廊下に夕方の光が差し込んでいた。


 王立学園の中で、俺の周囲はさらに騒がしくなっていく。


 好感度相談。

 才能相談。

 生徒会の監視。

 そして、過労気味の完璧な生徒会長。


 静かな学園生活は、もう戻ってこない。


 けれど、不思議と、完全に嫌だとは思えなかった。


 面倒なのは間違いない。


 でも、その面倒の中に、誰かが少し楽になる道があるなら。


 俺はまた、見えてしまったものへ手を伸ばすのだろう。

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