第44話 表彰式とか聞いてないんだが
翌朝、俺は制服の襟元を直しながら、鏡の前で固まっていた。
王立学園の仮制服。
濃紺の上着に、白いシャツ。
胸元にはギルド推薦特別調査生の徽章。
初めて袖を通した時は、場違い感がすごいと思った。
今も思っている。
ただ、昨日までと違うのは、今日はこの格好で講堂の壇上に立つ予定があるということだ。
表彰式。
王立学園特別功労章。
旧研究棟事件の功績。
言葉だけ並べると立派だ。
立派すぎる。
俺の人生に似合わないほど立派だ。
前世で陰キャだった頃の俺は、表彰される側ではなかった。
教室の隅。
集合写真の端。
文化祭では裏方。
体育祭では人数合わせ。
賞状をもらう人たちを、拍手しながら見ている側だった。
別に、それが嫌だったわけではない。
目立つのは苦手だったし、注目されると喉が詰まる。
壇上で名前を呼ばれるなんて、想像しただけで胃が痛くなる。
それなのに、異世界へ転生してからというもの、なぜか俺は目立つ場所へ押し出され続けている。
しかも今回は、王立学園の講堂。
学生たちの前。
王女殿下の前。
学園長の前。
逃げたい。
非常に逃げたい。
「レン、まだ?」
扉の向こうからセリカさんの声がした。
俺は鏡越しに自分を見る。
顔色は、まあまあ悪い。
「もう少しだけ」
「その“もう少し”で逃げ道探してるでしょ」
「探してません」
「声が探してる」
声で分かるのか。
怖い。
俺は諦めて扉を開けた。
廊下には、セリカさんとリリアが立っていた。
セリカさんは剣術課程用の制服姿だった。
濃紺の上着に、動きやすい外套。腰には儀礼用の剣帯。
赤い髪をいつもより少し丁寧に整えていて、凛としている。
リリアは白いケープ付きの治癒術研修生服。
胸元にはギルド治癒師章もつけている。
白銀の髪が柔らかく肩に落ち、昨日よりもずっと落ち着いた顔をしていた。
二人とも、似合っている。
とても。
俺が黙っていると、セリカさんが眉を上げた。
「何?」
「いえ、二人とも似合っているなと」
言った瞬間、セリカさんの表情が止まった。
リリアも少しだけ頬を染める。
「……朝からそういうことをさらっと言わない」
「すみません」
「謝るところでもないけど」
セリカさんは目を逸らした。
リリアは小さく微笑む。
「レンも似合っています」
「俺は、制服に着られている感じがします」
「そんなことはありません」
リリアは少しだけ真面目な顔で言った。
「今日は、胸を張ってください」
「それが一番難しいんですが」
「私も緊張しています。でも、一緒ですから」
一緒。
その言葉で、少しだけ呼吸が楽になった。
セリカさんも、いつもの調子で言う。
「堂々としてなさい」
「何回目ですか、それ」
「あなたが堂々とするまで何回でも」
「終わらない気がします」
「じゃあ、ずっと言うわ」
それはそれで、少し安心する。
俺たちは並んで廊下を歩き出した。
◇
講堂へ向かう途中から、すでに視線が多かった。
昨日の時点で嫌な予感はしていたが、今日はそれ以上だった。
廊下の左右。
階段の踊り場。
窓際。
講堂へ続く渡り廊下。
どこにも学生がいる。
しかも、明らかにこちらを見ている。
「来た……」
「あれがレン・クロフォード?」
「外れスキルって言われてた人だろ?」
「王宮礼拝堂の儀式を止めたって、本当なのかな」
「リアさん、綺麗……」
「セリカさん、剣術課程に正式編入しないのかな」
聞こえる。
全部ではないが、十分聞こえる。
さらに表示も出る。
学生A
状態:興味、尊敬
備考:レンの魔力感応能力に憧れています
学生B
状態:緊張、好奇心
備考:リアに治癒術について聞きたいと思っています
学生C
状態:憧れ、対抗心
備考:セリカの剣技を見てみたいと思っています
悪意が少ないのはありがたい。
ありがたいが、これはこれで落ち着かない。
セリカさんが小声で言う。
「見られてるわね」
「実況しないでください」
「現実確認」
「現実から目を逸らしたいです」
「逸らすと転ぶわよ」
リリアがくすりと笑った。
その笑顔を見た近くの女子生徒たちが、なぜか小さく息を呑んだ。
リリアは気づいていない。
いや、気づいていないふりをしているのかもしれない。
彼女も、こういう視線に少しずつ向き合おうとしているのだろう。
講堂の前には、ノエルがいた。
制服姿だが、手にはなぜか小さな測定器を持っている。
「おはよう。三人とも、ちゃんと来たね」
「逃げると思ってました?」
「レンは三割くらい」
「三割」
「セリカさんとリアさんがいなかったら六割」
「信用がない」
「信用はしてるよ。逃げたくても結局来るだろうって意味で」
それは信用なのか。
ノエルは俺たちの胸元を見て、残念そうに首を傾げた。
「功労章はまだか。授与後に刻印見せてね」
「やっぱりそれが目的ですか」
「目的の一つ」
「他にもあるんですか」
「旧研究棟事件の正式記録がどう読み上げられるか。政治的にどこまで表現を丸めるのか。学園が“違法研究”という言葉を使うのか、“不適切研究”に逃げるのか。大事でしょ」
急に鋭い。
ノエルは変人だが、記録に対しては本当に真面目だ。
セリカさんが言う。
「それは確かに大事ね」
「でしょ。言葉を曖昧にすると、後で誰かが都合よく書き換える」
マルクスの記録干渉を思い出す。
俺は頷いた。
「今日は、ちゃんと聞きます」
「うん。壇上で倒れない範囲で」
「倒れません」
「表示は?」
ノエルが俺を見る。
俺は自分の状態を見る。
レン・クロフォード
状態:緊張、胃痛気味、逃避願望微弱
備考:周囲の支えにより逃亡可能性は低い
「逃亡可能性は低いそうです」
セリカさんが満足そうに頷く。
「よし」
「よしなんですか」
「よしよ」
リリアも微笑んだ。
「行きましょう」
俺たちは講堂へ入った。
◇
王立学園の講堂は、想像していたより広かった。
高い天井。
古い木の座席。
正面には大きな壇。
その後ろには王国旗と学園紋章が掲げられている。
学生たちは学年と課程ごとに席へ座っていた。
魔術科、剣術課程、治癒術科、研究科、一般教養科。
色の違う徽章が並び、ざわめきが波のように広がっている。
壇上には、学園長エルドリッジ先生。
その隣に、アリシア王女。
ミリア先生や各課程の教師たちも控えている。
アリシア王女は学園制服ではなく、王族としての白と青の外套を羽織っていた。
こちらに気づくと、小さく頷いてくれる。
俺は反射的に深く頭を下げそうになったが、セリカさんに肘で軽く止められた。
「折れすぎない」
「はい」
俺たちは壇の横で待機することになった。
この時点で、視線が痛い。
逃げたい。
でも、隣にリリアとセリカさんがいる。
壇下の少し離れた場所にはノエルもいる。
なぜか測定器を隠す気がない。
目が合うと、彼女は小さく親指を立てた。
どういう意味だろう。
たぶん「観測準備完了」だ。
まったく安心できない。
やがて、鐘が鳴った。
講堂のざわめきが収まる。
学園長が前へ出た。
「本日、王立学園は、旧研究棟における違法研究および魔力炉暴走事件について、学園内に正式な報告を行います」
違法研究。
言った。
ノエルが、席で小さく頷いたのが見えた。
学園長は続ける。
「旧研究棟管理担当であったラゼル教授は、外部商会および教会監察部関係者と不正に結び、学園の設備を用いて学生の聖力に関する危険な研究を行っていました」
講堂がざわめいた。
学生たちの反応は当然だ。
学園側が、ここまで明確に言うとは思っていなかったのだろう。
「一部の学生には、十分な説明なしに試作聖具が使用されました。学園はこれを重大な倫理違反として認め、被害を受けた学生への支援と、研究審査体制の全面見直しを行います」
リリアが、少しだけ息を吐いた。
食堂で倒れた治癒術科の女子生徒のことを思い出しているのだろう。
学園長は静かに頭を下げた。
「学園として、学生の安全を守れなかったことを深く謝罪します」
講堂が静まった。
学園長が学生の前で頭を下げた。
それは、かなり重いことなのだと思う。
次に、アリシア王女が前へ出た。
学生たちの空気が変わる。
王女が話すというだけで、講堂の緊張感が一段上がった。
「旧研究棟の事件は、学園だけの問題ではありません。王国、教会、商会、そして王家に関わる問題でもありました」
アリシア王女の声は、澄んでいてよく通る。
「私は現場で、危険な魔力炉を見ました。人の力を、その人の意思を確かめることなく利用しようとした記録も見ました」
彼女の視線が、講堂全体をゆっくり渡る。
「力ある者を恐れることは、間違いではありません。けれど、恐れを理由に誰かを道具として扱うことは許されません」
その言葉は、リリアにも、ミュレアにも、俺にも向けられているように聞こえた。
「本日表彰される三名は、力を誇示したのではありません。見えた危険から目を逸らさず、互いの力を信じ、誰かを守るために動きました」
俺の心臓が跳ねた。
来る。
名前を呼ばれる。
セリカさんが小声で言う。
「堂々と」
「はい」
リリアが、そっと微笑んだ。
学園長が再び前へ出る。
「王立学園特別功労章。セリカ殿」
セリカさんが一歩前へ出た。
講堂の視線が彼女へ集まる。
赤い髪。
まっすぐな背筋。
剣士としての姿。
学園長は功労章を手に取る。
「旧研究棟地下魔力炉の暴走に際し、危険な魔力線を正確に断ち、仲間と学生を守った剣技を称える。あなたの剣は、家名ではなく、あなた自身の力として記録されます」
セリカさんの表情が、ほんの少しだけ揺れた。
家名ではなく。
あなた自身の力として。
昨日も聞いた言葉だが、講堂で正式に言われると重みが違う。
学園長が功労章を渡す。
セリカさんは受け取り、深く礼をした。
拍手が起こる。
最初は少し遠慮がちだった。
やがて、剣術課程の席から大きくなり、講堂全体へ広がる。
セリカさんは壇から戻る時、少しだけ耳が赤かった。
「顔、赤いです」
俺が小声で言うと、彼女は前を向いたまま答えた。
「うるさい」
照れている。
次に、学園長が呼んだ。
「リア殿」
リリアが一歩前へ出る。
講堂の空気が変わった。
元聖女。
教会に戻らないと宣言した治癒師。
旧研究棟事件で学生を救った白い少女。
いくつもの視線が彼女に向けられる。
リリアは少し緊張していた。
でも、俯かなかった。
学園長は静かに言った。
「あなたは、食堂で倒れた学生の聖力暴走を鎮め、旧研究棟地下では暴走炉の吸引から仲間と王女殿下を守りました。教会の聖女としてではなく、ギルドの治癒師リアとして、その働きを称えます」
リリアの目が、かすかに潤んだ。
でも、涙は落ちなかった。
彼女は功労章を受け取り、胸元のギルド章の近くにそっと添えた。
「ありがとうございます」
声は小さい。
けれど、講堂によく届いた。
治癒術科の席から、拍手が起きた。
その中に、以前食堂で倒れた女子生徒の姿もあった。
彼女は泣きそうな顔で拍手していた。
リリアはそれに気づき、少しだけ微笑んだ。
拍手が広がる。
リリアが戻ってくると、俺は小声で言った。
「すごく、よかったです」
リリアは少し頬を赤らめた。
「ありがとうございます」
そして最後。
学園長が俺を見る。
「レン・クロフォード殿」
来た。
足が重い。
だが、逃げない。
俺は一歩前へ出た。
講堂中の視線が、一斉に刺さる。
外れスキル。
危険異能者。
魔力感応者。
旧研究棟事件を見つけた男。
いろいろな名前が、視線の中に混ざっている気がする。
でも、歩く。
壇上へ出て、学園長の前に立つ。
学園長は功労章を手に持ち、俺をまっすぐ見た。
「あなたの力は、見えない危険を見つける力です。時に恐れられ、時に誤解されるでしょう。けれど、旧研究棟事件において、その力は隠された不正を暴き、人命を守り、暴走を止めるために使われました」
外れではない。
危険物でもない。
そう言われているようだった。
「王立学園は、その事実を記録します」
記録。
ノエルが言っていた。
記録に残ることは大事だと。
誰かが後で言い換えようとしても、正式記録があるのは強いと。
学園長は、はっきり言った。
「レン・クロフォード殿。あなたの力と行動を、王立学園はここに称えます」
功労章が手渡される。
小さな銀色の章だった。
表面には学園紋章。
裏側には、細かな魔力刻印が入っている。
手のひらに、ほんのり温かい。
俺は、それを握った。
「……ありがとうございます」
声が少し震えた。
でも、言えた。
講堂から拍手が起きる。
最初は遠く感じた。
けれど、だんだん近くなる。
俺は壇上から、講堂を見た。
レオンがいた。
彼は腕を組んだまま、少し不機嫌そうな顔で拍手していた。
ノエルがいた。
功労章の裏側を早く見せろと言わんばかりに目を輝かせながら拍手していた。
ミリア先生がいた。
静かに頷いてくれていた。
アリシア王女がいた。
まっすぐにこちらを見て、穏やかに微笑んでいた。
そして、横にはリリアとセリカさんがいる。
一人ではない。
その事実が、胸の中でゆっくり沈んでいった。
◇
表彰式の後、予想通り俺たちは囲まれた。
式が終わり、講堂の外へ出た瞬間である。
魔術科の学生。
治癒術科の学生。
剣術課程の学生。
研究科の学生。
気づいた時には、かなりの人数が周囲にいた。
「あの、レン様、魔力感応について教えていただけませんか?」
「危険察知って、訓練で身につくものなんですか?」
「好感度が見えるという噂は本当ですか?」
「恋愛にも使えるんですか?」
「旧研究棟の地下って本当に魔力炉があったんですか?」
情報量が多い。
しかも途中から変な質問が混ざった。
好感度が恋愛に使えるかどうかは、俺が聞きたい。
いや、聞きたくない。
「ええと、その」
俺が固まると、セリカさんがすっと前に出た。
「質問は順番。あと、レンは昨日まで連続で事件対応してるから、長時間は駄目」
完全に仕切り始めた。
頼もしい。
リリアも微笑みながら言う。
「治癒術や聖具の不安がある方は、まず担当の先生を通してください。必要なら、私も一緒に確認します」
こちらも自然に対応している。
すごい。
俺だけが固まっている。
ノエルは横から功労章を覗き込もうとしていた。
「レン、刻印見せて」
「今ですか?」
「今」
「囲まれてます」
「だから今。人が多いと観測環境として面白い」
「面白がらないでください」
そんなやり取りをしていると、質問していた女子生徒の一人が、少し頬を赤らめながら言った。
「レン様って、思っていたより話しやすいんですね」
「え?」
「もっと怖い方かと……危険異能者とか言われていたので」
その言葉に、周囲が少し気まずそうになる。
でも、俺は怒る気になれなかった。
教会がそう言ったのだ。
怖がる人がいて当然だ。
「俺も、自分の力が全部分かっているわけではありません。だから、怖いと思うのも普通だと思います」
俺は正直に言った。
「でも、勝手に使ったり、誰かを試したりはしません。何か不安があるなら、先生やギルドを通して相談してください」
女子生徒は、ほっとしたように頷いた。
「はい」
すると別の学生が言った。
「じゃあ、魔道具の才能があるか見てもらうのも、先生を通せばいいですか?」
才能。
その言葉で、少し嫌な予感がした。
俺の視界に表示が浮かぶ。
学園内好感度変動:急上昇中
注意:恋愛系トラブル発生率上昇
注意:才能相談依頼増加予測
やめてほしい。
表彰された直後に、面倒な予測が出た。
俺は思わず目を閉じた。
「レン?」
リリアが心配そうに見る。
「何か出ました?」
「学園内好感度が急上昇中。恋愛系トラブル発生率上昇。才能相談依頼増加予測」
正直に言うと、セリカさんの顔が少し険しくなった。
リリアは静かに微笑んだ。
静かすぎて逆に怖い。
ノエルだけが楽しそうだった。
「つまり、表彰式が好感度イベントとして機能したわけだ」
「その分析いります?」
「いる」
周囲の学生たちは、好感度という言葉に反応してざわめいている。
まずい。
非常にまずい。
セリカさんが一歩前へ出た。
「今日はここまで。レンへの相談は後日、先生を通して。勝手に詰め寄らない」
剣術課程の男子が思わず背筋を伸ばした。
「は、はい!」
リリアも柔らかく言う。
「皆さん、レンも疲れていますので」
治癒術科の女子たちが素直に下がる。
すごい。
二人とも完全に俺の防波堤になっている。
俺は小さく礼を言った。
「助かりました」
セリカさんがため息をつく。
「放っておいたら、あなた全部真面目に答えようとするでしょ」
「たぶん」
「だから止めたの」
リリアも頷く。
「相談を受けることは悪いことではありません。でも、レンが倒れては意味がありません」
「はい」
俺は大人しく頷いた。
その時、廊下の少し先にアリシア王女が立っているのが見えた。
彼女は俺たちの様子を見て、少し楽しそうに微笑んでいた。
目が合うと、軽く近づいてくる。
「表彰式、お疲れ様でした」
「殿下こそ、ありがとうございました」
「レン様、かなり注目されていましたね」
「できれば分けたいです」
「誰にですか?」
「ノエルとか」
「私は刻印の注目なら歓迎するよ」
ノエルが即答する。
アリシア王女はくすりと笑った。
「学園内での相談依頼については、正式な窓口を作った方がいいかもしれませんね。才能や聖具に関する不安を抱えている学生は多いでしょうから」
真面目な提案だった。
たしかに、無秩序に俺へ相談が集まるより、先生やギルドを通した方が安全だ。
セリカさんも頷く。
「その方がいいですね」
リリアも言う。
「聖具に関する不安は、特に放置しない方がいいと思います」
話がどんどん実務になっていく。
俺は、ありがたいような、さらに仕事が増えるような複雑な気持ちになった。
その時、視界にまた表示が出た。
新規学園相談窓口案
効果:学生の才能・聖具不安の早期発見
副作用:レンへの接触機会増加
恋愛系トラブル発生率:さらに上昇
「副作用が嫌すぎる……」
思わず声に出た。
セリカさんが即座に聞く。
「何?」
「相談窓口を作ると、学生の不安は早期発見できますが、俺への接触機会が増えて恋愛系トラブル発生率がさらに上がるそうです」
アリシア王女が一瞬固まった。
リリアは微笑んだまま。
セリカさんはこめかみを押さえた。
ノエルは真顔で言った。
「研究価値がある」
「ありません」
「ある」
「ないです」
アリシア王女は少しだけ頬を赤らめながら咳払いした。
「そ、そのあたりは、制度設計で調整しましょう」
「お願いします」
俺は心から頭を下げた。
表彰式は終わった。
外れスキル扱いから、正式に評価されるところまで来た。
それは嬉しい。
嬉しいはずだ。
けれど、同時に新しい問題も増えた。
学園内好感度急上昇。
才能相談の増加。
恋愛系トラブル発生率上昇。
俺の静かな学園生活は、今日また一段階遠ざかった。
功労章を握りしめながら、俺は心の中で呟いた。
表彰式とか聞いてないんだが。
しかも、表彰された後の方が大変そうなのも聞いてない。




