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第32話 旧研究棟地下、封印石の炉心が暴走していた

 隠し床扉の下には、石の階段が続いていた。


 幅は狭い。

 人ひとりが通るには十分だが、横に並んで進むのは難しい。


 下から吹き上がってくる風は冷たく、どこか金属の焦げたような匂いが混じっていた。


 旧研究棟の一階は埃っぽかった。

 だが、地下は違う。


 埃ではない。

 湿気でもない。

 古い魔力が淀んで、空気そのものに重さを与えている感じだった。


「……嫌な場所ね」


 セリカさんが剣を構えたまま言った。


 彼女が先頭に立つ。

 その後ろに俺、リリア、アリシア王女、ノエル、ミリア先生。


 ラゼル教授は上で拘束されている。


 だが、彼の笑い声だけが、まだ耳に残っていた。


 ――止められるものなら、止めてみなさい。


 止める。


 止めなければならない。


 床下から漏れる赤黒い光は、階段の壁を脈打つように照らしていた。


 俺の視界には、ずっと警告が浮かんでいる。


地下魔力炉

状態:暴走進行中

動力:封印石片、聖力増幅陣

影響範囲:旧研究棟全域、学園北西区画

危険:聖属性保持者の魔力吸引、封印石核の爆発的崩壊


 影響範囲が広がっている。


 このままだと、旧研究棟だけでは済まない。


「レン、顔色が悪い」


 セリカさんが振り返らずに言った。


「表示がずっと赤いので」


「危険度は?」


「高いです。炉心が暴走していて、聖属性持ちの魔力を吸おうとしています」


 俺はリリアとアリシア王女を見る。


 リリアは静かに頷いた。


「分かります。下から引かれる感じがします」


 アリシア王女も、胸元を押さえていた。


「私も、少し……」


「殿下、無理なら戻ってください」


 俺が言うと、彼女は首を横に振った。


「戻る方が危険です。今、何が起きているのかを見ないままにはできません」


「でも」


「レン様」


 アリシア王女は、少しだけ苦しそうな顔で笑った。


「私は王女です。王女という肩書きは、不自由なものです。でも、不自由だからこそ見なければならないものもあります」


 その言葉に、ミュレアの声が頭の奥で小さく響いた。


『気骨のある娘じゃな』


「ミュレア」


『あの王女、嫌いではない。自分の檻を自覚しておる』


「今、評論してる場合じゃないです」


『分かっておる。だから助言してやろう。聖属性の娘二人を炉心に近づけすぎるな。炉は餌を見つけた獣のようなものじゃ』


 餌。


 嫌な言い方だが、分かりやすい。


「リリア、殿下、炉心に近づきすぎると吸われます。一定距離で止まってください」


「分かりました」


「はい」


 ノエルが階段の壁を見ながら呟いた。


「これ、古い王立学園の魔力導管だ。たぶん百年以上前の設備。今は使われてないはずなのに、封印石で無理やり再起動してる」


「止められますか?」


「構造が見えれば。問題は、壊すと爆発するかもしれないこと」


「ミュレアも同じことを言っています。核は壊すな、鎮めろと」


「魔王令嬢と同意見なの、ちょっと悔しいけど正しい」


 ノエルは真剣な顔で頷いた。


 普段は危険なものを見ると目を輝かせる彼女だが、今は違う。


 研究者として、目の前の危険を理解している顔だった。


 階段を下りきると、地下通路に出た。


 壁は黒い石でできている。

 ところどころに古い魔法文字が刻まれ、その上から新しい赤い線が乱雑に描き足されていた。


 古い設備に、新しい術式を無理やり上書きしている。


 見ただけで気持ちが悪かった。


地下通路

旧式魔力導管:稼働中

上書き術式:白灯商会式

目的:聖力吸引、封印石核への集約


「白灯商会式の術式が上書きされています」


 俺が言うと、ノエルが壁の文字を覗き込んだ。


「ほんとだ。雑。いや、理論だけは妙に高度だけど、現場処理が雑。安全率を完全に無視してる」


「研究者的には?」


「最悪。設計者を椅子に縛って三日くらい安全講習受けさせたい」


「それで済むんですか」


「済まない」


 ノエルの声は低かった。


 その時、通路の奥から金属が擦れるような音がした。


 セリカさんが手を上げる。


「何か来る」


 赤黒い光の向こうから、三体の魔導人形が現れた。


 訓練場で見たものとは違う。


 黒い金属の骨格。

 胸部に小さな封印石片。

 腕は長く、手の先には鎖のようなものが巻かれている。


旧式警備魔導人形

改造状態:封印石駆動

目的:侵入者排除、聖属性保持者捕縛

弱点:胸部封印石制御核

注意:破壊時に魔力破裂


「魔導人形です。胸の石が制御核。でも壊すと破裂します!」


「壊さず止める方法は?」


 セリカさんが聞く。


「関節部の魔力線を切れば動きが止まります。首の後ろ、右肘、左膝!」


「十分!」


 セリカさんが踏み込んだ。


 先頭の魔導人形が鎖を伸ばす。


 狙いはリリア。


 俺が叫ぶ。


「リリア狙いです!」


 セリカさんの剣が鎖を弾く。


 金属音が地下通路に響いた。


 ノエルが指先から魔力糸を伸ばし、二体目の足元に絡める。


「三秒止める!」


「助かります!」


 セリカさんは一体目の首後ろを剣の腹で叩き、流れるように右肘の線を切る。


 魔導人形の腕が落ちる。


 続いて左膝。


 人形が崩れた。


 胸部の封印石は壊れていない。

 破裂もない。


「一体停止!」


 俺が言う。


 リリアは白い光で、三体目の鎖の動きを弱めていた。


「聖力で押さえます。でも、長くは」


「無理しないで!」


 アリシア王女も手をかざした。


 淡い青白い光が広がる。


 リリアの光とは少し違う。


 もっと澄んでいて、王家の紋章のような形を一瞬だけ描いた。


アリシア王女

聖属性反応:王家系統

効果:結界補助、魔力鎖の減衰

注意:炉心に捕捉されやすくなります


「殿下、使いすぎないでください! 炉に見つかります!」


「分かりました。でも今だけ!」


 彼女の補助で、三体目の鎖が鈍る。


 セリカさんが戻りざまに二体目を止め、さらに三体目の関節を切った。


 最後の魔導人形が床に崩れる。


 セリカさんは息を整え、剣を構えたまま言った。


「先に進むわよ。長居したくない」


「同感です」


 リリアがアリシア王女へ視線を向ける。


「殿下、今の光は」


「王家に伝わる簡易結界術です。授業ではあまり使いません」


「綺麗な光でした」


 リリアがそう言うと、アリシア王女は少しだけ目を丸くした。


 それから、ほっとしたように笑う。


「ありがとうございます。教会の聖術とは違うので、学園では少し珍しがられます」


「違っていても、誰かを守る光なら綺麗だと思います」


 アリシア王女の表情が、ほんの少し柔らかくなった。


 表示が浮かぶ。


アリシア・ルミナス・ヴァレンティア

好感度:42 → 49

状態:信頼、安堵

備考:リアの言葉に救われています


 また上がった。


 俺ではなく、リリアに対してだろう。


 それはいい。


 すごくいい。


 ……なぜか少しだけ安心した。


     ◇


 通路の先には、重い鉄扉があった。


 表面には古い学園紋章。

 その上から、白灯商会式の赤い術式が絡みついている。


 奥から低い振動音が聞こえた。


 心臓の鼓動みたいに、一定の間隔で響いている。


地下魔力炉入口

封鎖:旧式学園認証+白灯商会上書き

開錠条件:魔力回路切断、聖力過負荷の中和

危険:開門時、吸引波


「開けると吸引波が来ます。リリアと殿下は、扉から離れて」


「はい」


「分かりました」


 ノエルが扉の前にしゃがむ。


「これ、開けるだけならできる。でも、開いた瞬間に中の炉が聖属性を吸う。リアさんと殿下を後ろに下げて、レンが流れを見て、セリカが波を切る」


「波を切るって何よ」


 セリカさんが眉をひそめる。


「できない?」


「やるけど」


 できるのか。


 いや、セリカさんならやりそうだ。


 リリアが俺を見る。


「レンは大丈夫ですか?」


「俺は聖属性じゃないので、吸われにくいはずです」


『油断するでない』


 ミュレアの声が割り込む。


『そなたは炉心と相性がよい。聖属性ではなくとも、封印石が反応する可能性がある』


「俺も危ないみたいです」


 セリカさんが即座に言う。


「じゃあ、あなたも前に出すぎない」


「はい」


 ノエルが扉の回路に魔力糸を伸ばす。


「三、二、一。開ける」


 扉の術式がほどけた。


 重い音を立てて、鉄扉が開く。


 瞬間、赤黒い風が吹き出した。


 風ではない。


 魔力の波だ。


 俺の視界が赤く染まる。


吸引波

対象:聖属性、封印適性、感知適性

弱点:波の中心線


「中心線、真正面!」


 俺が叫ぶ。


 セリカさんが剣を振る。


 赤黒い波が、切り裂かれるように左右へ割れた。


 リリアが白い光でアリシア王女を包む。

 アリシア王女も結界を重ねる。


 ノエルは扉の横で踏ん張りながら、目を輝かせかけていた。


「すごい魔力密度……!」


「感動してる場合じゃないです!」


「分かってる!」


 波が収まる。


 扉の奥に、広い地下空間が現れた。


 そこは、炉心室だった。


 中央に巨大な円形の魔法陣。

 その中央に、黒紫色の結晶が浮いている。


 古代迷宮の封印石より小さい。

 だが、いくつもの破片を無理やり溶かして固めたような歪な形をしていた。


 結晶から赤黒い線が伸び、床の魔法陣へ流れている。


 周囲には、いくつもの椅子。

 拘束具のような革ベルト。

 聖力測定器。

 記録用の水晶。


 リリアが息を呑んだ。


 アリシア王女の顔から血の気が引く。


「ここで……学生を?」


 ノエルが、珍しく無言になった。


 俺の表示は、さらに冷たかった。


地下魔力炉

用途:聖力増幅実験、封印石反応測定、聖具適合試験

被験者:学生、外部治癒術適性者、債務者候補

管理者:ラゼル教授

資材提供:白灯商会

監修記録:教会監察部代理人


 完全な証拠だった。


 俺は声が出なかった。


 リリアが一歩、炉心室に入る。


 その瞬間、中央の結晶が強く光った。


警告:炉心、リリアを捕捉

聖力吸引開始


「リリア、下がって!」


 俺が叫ぶ。


 白い鎖のような光が床から伸び、リリアの足首へ向かった。


 セリカさんが斬る。


 だが、切った鎖がすぐに再生する。


 アリシア王女にも別の鎖が伸びる。


「殿下!」


 ミリア先生が叫ぶ。


 リリアは歯を食いしばり、自分とアリシア王女の周囲に白い光を広げた。


「吸われる前に、流れを散らします!」


「無理しすぎです!」


「今は、少しだけ!」


 少しだけ。


 その言葉ほど信用できないものはない。


 俺は炉心を見る。


 表示が高速で流れる。


炉心核

状態:暴走中

弱点:核中央の歪み

注意:破壊禁止

鎮静方法:過剰吸引の逆流を止め、封印石片の個別反応を分離

必要:感知誘導、聖力安定化、剣気遮断、魔力回路再構成


 やることが多すぎる。


「ノエル、回路再構成できますか!」


「時間があれば!」


「どれくらい!」


「普通なら半日!」


「今は!」


「五分でやる!」


 五分で半日分をやるらしい。


 天才は怖い。


「セリカさん、炉心から伸びる赤黒い線を切ってください。ただし中央の結晶には触れないで!」


「了解!」


「リリア、殿下の結界と合わせて吸引を散らせますか!」


「やります!」


「殿下、リリアと同じ波に合わせてください。強く押さず、薄く広げる感じで!」


「分かりました!」


 指示を出している自分が、自分ではないみたいだった。


 でも、見えている。


 流れが。


 危険が。


 止め方が。


 セリカさんが赤黒い線を次々に断つ。

 ノエルが炉心外周の回路に魔力糸を走らせる。

 リリアとアリシア王女の光が重なり、白と青白い膜になって広がる。


 俺は炉心核に近づいた。


 熱い。


 いや、冷たい。


 どちらとも言えない圧が、皮膚を刺す。


『レン、近づきすぎるな』


 ミュレアの声。


「でも、見ないと」


『そなたは本当に馬鹿じゃな』


「知ってます」


『褒めてはおらぬ』


「でしょうね」


 炉心核の中心に、歪みが見えた。


 複数の封印石片が、一つの核として無理やり繋がれている。


 それぞれが別々の方向へ力を流そうとして、ぶつかり合い、暴走している。


 ミュレアの封印暴走の時と似ている。


 ほどけそうな糸を、無理にまとめて結んだような感じ。


 壊せば、全部が弾ける。


 鎮めるなら、一つずつ分けるしかない。


「ノエル、外周回路を三分割してください!」


「三分割?」


「封印石片の反応が三系統あります。まとめて止めると爆発します!」


「なるほど、最悪だけど理解!」


 ノエルの魔力糸が三方向へ伸びる。


 セリカさんが赤黒い線を切るたびに、炉心が悲鳴のような音を出す。


 リリアの顔色が白くなる。


 アリシア王女も額に汗を浮かべている。


「レン、まだ?」


 セリカさんが叫ぶ。


「あと少しです!」


 表示が点滅する。


逆流危険

対象:リリア

対象:アリシア

対象:レン


 俺も対象に入った。


 炉心核から、赤黒い線が俺に伸びる。


 セリカさんが気づく。


「レン!」


 だが、距離が近すぎた。


 避けきれない。


 赤黒い線が俺の胸元に触れた瞬間、頭の中に大量の情報が流れ込んだ。


 学生の悲鳴。

 聖具の実験記録。

 ラゼル教授の焦り。

 白灯商会の契約。

 教会監察部代理人の署名。


 そして、ひとつの計画名。


聖女再現計画

目的:人工的な聖力増幅により、教会依存しない聖女級治癒術者を作成

副目的:王族系聖属性保持者への適用可能性調査

対象候補:A.L.V.


 A.L.V.


 アリシア・ルミナス・ヴァレンティア。


 王女も、対象候補だった。


「殿下が狙われてます!」


 俺は叫んだ。


 アリシア王女の目が見開かれる。


 その瞬間、炉心が彼女の聖属性に強く反応した。


 青白い光が引き寄せられる。


「殿下!」


 リリアがアリシア王女の前に出た。


 白い光で吸引を受け止める。


 だが、リリアも限界だ。


 俺は歯を食いしばった。


 好感度リンク。


 ミュレアの時に使った存在補助。

 リリアの聖力循環補助。


 今、同じことができるか。


新規連携候補:聖力同期補助

対象:リリア、アリシア

目的:吸引分散、逆流防止

注意:レンへの負荷大


 負荷大。


 だが、他にない。


「リリア、殿下、手を!」


 俺が叫ぶと、リリアはすぐに理解した。


「はい!」


 アリシア王女も、迷わず手を伸ばした。


 俺は二人の手を取る。


 瞬間、白と青白の光が流れ込んできた。


 リリアの聖力は、柔らかくて温かい。

 アリシア王女の光は、澄んでいて少し冷たい。


 二つの光が炉心に吸われないよう、俺は流れを横へ逃がす。


 ノエルが叫ぶ。


「今、炉心の吸引が落ちた!」


「セリカさん、中央手前の赤い線!」


「見えてる!」


 セリカさんの剣が走る。


 最後の赤黒い線が切れた。


 ノエルの魔力糸が三系統の回路を分離する。


「分離完了!」


「リリア、殿下、光を弱めて! 押さえ込まず、包む!」


「分かりました!」


「はい!」


 二人の光が炉心核を包む。


 俺は封印石片の反応を一つずつ鎮めていく。


 一つ。

 二つ。

 三つ。


 赤黒い光が弱まる。


 振動が収まっていく。


 表示が変わった。


地下魔力炉

暴走:停止

炉心核:鎮静

聖力吸引:停止

証拠保全:成功


 終わった。


 そう思った瞬間、足から力が抜けた。


「レン!」


 リリアの声が聞こえる。


 倒れる前に、セリカさんが後ろから支えてくれた。


「だから無理するなって言ったでしょう!」


「一人じゃなかったので」


「そういう問題じゃない!」


「すみません」


 怒られている。


 でも、声が少し震えていた。


 本気で心配させたらしい。


 アリシア王女も、息を切らしながら俺を見た。


「レン様、今のは……」


「殿下が、計画の対象候補に入っていました」


「私が?」


「はい。聖女再現計画。王族系聖属性保持者への適用可能性調査。対象候補、A.L.V.と」


 アリシア王女の顔が青ざめた。


 ミリア先生も言葉を失っている。


 ノエルが炉心横の記録水晶を確認していた。


「……ある。記録が残ってる。計画名も、候補者略号も。レンの言った通り」


 彼女の声は震えていた。


 怒りと恐怖と、研究者としての嫌悪が混ざった声だった。


 リリアが、静かにアリシア王女の手を握った。


「あなたが悪いのではありません」


 アリシア王女は、はっとしたようにリリアを見る。


 その言葉は、今日リリアが女子生徒に言った言葉と同じだった。


 そして、かつて自分にも言いたかった言葉。


 アリシア王女の青い瞳が揺れる。


「……ありがとうございます」


 セリカさんが炉心を睨む。


「本当に、どいつもこいつも人を材料みたいに」


 その声は低かった。


 ミュレアも、頭の奥で静かに言った。


『人間も魔族も、力に目が眩む者は同じ顔をするのう』


「止めました」


『うむ。よくやった』


 珍しく、からかいのない声だった。


 俺はセリカさんに支えられたまま、炉心室を見回した。


 証拠は残った。


 地下魔力炉は止まった。


 アリシア王女が狙われていたことも分かった。


 大きな前進だ。


 だが、それは同時に、敵がかなり深くまで学園と王国に入り込んでいた証拠でもある。


 そして上では、拘束されたラゼル教授が待っている。


 彼がこれで終わるとは思えなかった。


 俺の視界に、最後の表示が浮かんだ。


ラゼル教授

状態:追い詰められ

次行動:教会監察部への責任転嫁、逃亡試行

注意:マルクス・グレイとの直接関係が露見します


 いよいよ、マルクスに繋がる。


 俺は深く息を吸った。


「戻りましょう」


 セリカさんが俺を支えたまま言う。


「歩ける?」


「少し」


「じゃあ肩を貸す」


「ありがとうございます」


 リリアも反対側に来た。


「私も支えます」


「それは少し恥ずかしいです」


「恥ずかしがっている場合ではありません」


「はい」


 アリシア王女が、炉心室の記録水晶を見つめていた。


 その表情は、先ほどまでよりずっと硬い。


 王女としての顔だった。


「この証拠は、必ず表に出します」


 彼女は静かに言った。


「学園の中で、王国の中で、誰かが誰かを材料にすることを許しません」


 その言葉に、リリアが頷く。


 セリカさんも頷いた。


 俺も頷いた。


 旧研究棟の地下で、俺たちはようやく敵の影をはっきり掴んだ。


 白灯商会。

 ラゼル教授。

 教会監察部。

 マルクス・グレイ。


 そして、聖女再現計画。


 外れスキル扱いされた俺の感知は、また面倒な真実を見つけてしまった。


 でも今回は、見つけてよかったと心から思った。


 見つけなければ、誰かがまた材料にされていたから。

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