表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/110

第31話 旧研究棟の封印箱、開けたら完全に黒だった

「その箱、証拠です」


 俺がそう言った瞬間、旧研究棟の空気が止まった。


 夕方の光が、埃っぽい窓から斜めに差し込んでいる。

 古びた資料棚。

 床板の奥に隠された地下扉。

 そして、その前に立つラゼル教授。


 彼の手には、小さな封印箱があった。


 外見はただの黒い箱だ。

 だが、俺の視界には中身がはっきり表示されている。


封印箱

内容:封印石片、試作聖具記録、白灯商会署名入り契約紙

重要証拠

注意:箱内部に簡易焼却術式あり


 簡易焼却術式。


 つまり、いざとなれば中身を燃やせるようになっている。


 俺は思わず息を呑んだ。


 ラゼル教授は、ほんのわずかに笑みを崩した。

 だが、すぐに元の穏やかな顔へ戻る。


「レン君。君は先ほどから、ずいぶん断定的な物言いをしますね」


「見えているので」


「それは君の特殊感知能力によるものですか?」


「はい」


「では、証拠とは言えません」


 静かな声だった。


 怒鳴らない。

 焦らない。

 けれど、こちらの言葉を最初から無効にしようとしている。


 マルクス監察官と似ていた。


 正しそうな言葉で、こちらの見ているものを曖昧にする。


「教授」


 アリシア王女が一歩前へ出た。


 白い外套が、埃っぽい空気の中で静かに揺れる。


「その箱をこちらへ」


 ラゼル教授は、王女に向かって丁寧に一礼した。


「殿下。これは旧研究棟の管理資料です。学生の見学に先立ち、危険物を安全な場所へ移そうとしていただけでして」


「安全な場所とは?」


「私の研究室です」


「旧研究棟の資料を、管理者であるあなたの研究室へ移す。それ自体は手続き上おかしくないかもしれません」


 アリシア王女の声は穏やかだった。


 だが、その青い瞳は少しも笑っていない。


「ですが、今この場には教務局のミリア先生、特別調査生、そして私がいます。危険物であるなら、立ち会いのもと確認するべきです」


「殿下のお手を煩わせるようなものではありません」


「それを判断するのは、あなたではありません」


 ラゼル教授の笑みが、薄くなった。


 セリカさんが俺の横で小さく言う。


「いいわね、殿下。静かに強い」


「はい」


 俺も同意した。


 アリシア王女は、王族らしい威圧感を大声ではなく言葉の置き方で出す人だった。


 ラゼル教授は、それでも引かなかった。


「殿下。恐れながら、旧研究棟には機密資料も含まれています。王女殿下とはいえ、学園研究規定上、閲覧権限には段階がございます」


「その規定を使って、半年前から私の報告を握り潰していたのですか?」


 ラゼル教授の目が、一瞬だけ止まった。


 ほんの一瞬。


 だが、俺には分かった。


ラゼル教授

状態:動揺

備考:王女の報告握り潰しに関与しています


 当たりだ。


「殿下」


 ミリア先生が静かに息を呑む。


 アリシア王女は視線を逸らさない。


「私は半年前、旧研究棟周辺の結界異常を報告しました。ですが、教務局には届いていなかった。今日、レン様の感知によって同じ方面の異常が確認された。さらに食堂では、あなたの研究室の試作聖具が学生に危害を及ぼした」


 王女の声が少し低くなる。


「そのうえ今、あなたは封印箱を持って旧研究棟から出ようとしている。これを偶然で済ませるには、少し無理があります」


 ラゼル教授は、ゆっくり息を吐いた。


「……殿下は、私を疑っておられるのですね」


「疑いを晴らすために、箱を確認します」


「それは困ります」


 初めて、はっきり言った。


 食堂の時のような遠回しな言い方ではない。


 困る。


 つまり、見られたくない。


 ノエルがぼそっと言った。


「言っちゃった」


「ノエル」


「ごめん。でも、今のは完全に黒」


 声は小さいが、空気が張っているのでやけに響く。


 ラゼル教授の視線がノエルへ向いた。


「ノエル君。君は優秀な生徒です。だからこそ、軽率な言動は控えた方がいい」


「優秀な生徒だからこそ、変な魔道具を見逃せません」


 ノエルは怯まなかった。


「食堂の試作聖具、あれは聖力安定具じゃありません。安定じゃなくて、強制的な増幅と抑制を繰り返す構造でした。あんなものを学生に着けさせるなんて、研究倫理以前の問題です」


「研究には過程があります。未完成のものを外から見て断じるのは」


「未完成品を学生に使わせるなって話です」


 ノエルの言葉は鋭かった。


 普段は好奇心の塊みたいな人だが、研究の危険性については真剣らしい。


 リリアも一歩前へ出た。


「ラゼル教授」


 その声は静かだった。


「聖力が弱い学生に、安定すると言って聖具を渡したのですか」


「適性の補助です」


「本人に、危険性は説明しましたか」


「過度な不安を与える必要はありません」


 リリアの表情が変わった。


 怒りだ。


 大きな怒鳴り声ではない。

 けれど、白い光が彼女の指先にかすかに灯った。


「私も、そう言われました」


 ラゼル教授の目がわずかに動く。


「何の話でしょう」


「聖具だから大丈夫。祈りを補助するものだから怖がらなくていい。痛みは、身体が聖力に慣れていないだけ」


 リリアの声は、少しだけ震えていた。


 でも、逃げてはいない。


「そう言われて、私は長い間、痛みに耐えました。自分が弱いからだと思っていました。でも違いました。私に付けられていたのは、聖力を奪う呪具でした」


 旧研究棟の埃っぽい空気が、さらに冷える。


 アリシア王女が静かにリリアを見る。


 ノエルは息を詰めている。


 ラゼル教授は、表面上は何も変わらない。


 だが、表示は変わった。


ラゼル教授

状態:強い警戒

備考:リアの正体に気づき始めています


 まずい。


 リリアの正体に近づいている。


 俺は一歩前へ出た。


「教授。その箱を渡してください」


「君に渡す理由はありません」


「箱の中に、白灯商会の契約紙と封印石片があります」


「また感知ですか」


「はい」


「やはり危険ですね、君の力は」


 ラゼル教授の声が低くなった。


「見えた気になったものを真実として扱い、人を疑い、場を乱す。教会が君を異端容疑者として扱う理由が少し分かります」


 胸に冷たいものが刺さった。


 異端。


 危険。


 外れ。


 言葉は違うのに、全部同じ場所を突いてくる。


 自分はここにいていいのか。

 自分の力は、本当に誰かを助けているのか。

 それとも、ただ問題を大きくしているだけなのか。


 一瞬、足元が揺らいだ。


 でも、リリアが隣に立った。


「レンの力は、人を疑うためだけのものではありません」


 セリカさんも、反対側に立つ。


「危険を見つける力よ。あなたたちが隠したいものも含めてね」


 ノエルが軽く手を上げる。


「あと、研究的にはかなり貴重」


「ノエル、それは今言わなくても」


「ごめん。空気が重すぎたから」


 少しだけ、力が抜けた。


 助かった。


 俺は深く息を吸った。


 怖い。

 でも、怖いままでいい。


 見えているものを、言わなければならない。


「箱の中に焼却術式もあります」


 俺が言うと、ラゼル教授の指がわずかに動いた。


警告:ラゼル教授、焼却術式起動準備

起動方法:箱側面の隠し魔石を押す

起動まで:三秒


「箱の側面!」


 俺が叫ぶ。


 同時にセリカさんが動いた。


 速い。


 ラゼル教授の指が箱の側面に触れる直前、セリカさんの剣の鞘がその手首を叩いた。


「ぐっ!」


 封印箱が宙に浮く。


 ノエルが飛びつくように受け止めた。


「危なっ!」


「床に置かないでください! 左側面に焼却魔石!」


「見えてる!」


 ノエルは工具を取り出すより早く、魔力糸のようなものを指先から伸ばした。


 白銀の細い線が箱の側面へ絡みつく。


「魔力回路、止める! リアさん、聖力を薄くかぶせて!」


「はい!」


 リリアの白い光が、封印箱を包む。


 俺は表示を読み上げる。


「焼却術式、まだ生きています。箱底部から中央へ流れています。ノエル、右下の回路を切って!」


「了解!」


 ノエルの魔力糸が走る。


 ぱちん、と小さな音。


簡易焼却術式:停止

封印箱:安全化


「止まりました!」


 俺が叫ぶと、全員が息を吐いた。


 ラゼル教授は手首を押さえながら、初めて明確に顔を歪めていた。


 セリカさんは剣こそ抜いていないが、完全に戦闘姿勢だ。


「教授。今、燃やそうとしたわね」


「……危険物の暴走を防ごうとしただけです」


「苦しい言い訳ね」


 アリシア王女が静かに言った。


「ラゼル教授。その箱は、王女である私の立ち会いのもと開封します。ミリア先生、記録を」


「はい」


 ミリア先生の声も硬かった。


 ラゼル教授は何か言おうとしたが、アリシア王女が遮った。


「拒否は認めません」


 その一言で、彼は口を閉じた。


     ◇


 封印箱は、資料室の中央机に置かれた。


 ノエルが焼却術式を完全に封じ、リリアが聖力で外部干渉を防ぎ、ミリア先生が記録用の水晶を起動する。


 アリシア王女が立ち会い、セリカさんがラゼル教授の動きを見張る。


 俺は箱の中身を確認しながら、危険表示が出ないかを見ていた。


 ノエルが封印箱の鍵を慎重に外す。


「開けるよ」


 蓋が、ゆっくり持ち上がった。


 中には、三つのものが入っていた。


 一つ目は、黒紫色の小さな石片。

 古代迷宮で見た封印石片とよく似ている。


 二つ目は、数枚の羊皮紙。

 白灯商会の署名と印が入った契約紙。


 三つ目は、黒い革表紙の研究記録帳。


 俺の視界に表示が浮かぶ。


封印石片

出所:古代迷宮

加工状態:低純度粉末化前

用途:聖力増幅・拘束実験


契約紙

関係者:白灯商会、ラゼル教授、教会監察部代理人

内容:聖属性魔道具共同研究、封印石片提供、成果物の優先譲渡


研究記録帳

内容:聖力安定具試作、被験者記録、旧研究棟地下魔力炉

注意:複数の学生名あり


 完全に黒だった。


 言い逃れできる部分はあるかもしれない。

 だが、少なくともこれで白灯商会とラゼル教授、さらに教会監察部代理人が繋がった。


 アリシア王女が契約紙を見て、顔を青くした。


「教会監察部代理人……」


 ミリア先生が記録を確認する。


「この署名、正式な監察部の形式です。偽造の可能性もありますが……」


「マルクス・グレイの部署ですか?」


 俺が聞くと、アリシア王女は頷いた。


「はい。聖務監察官は、教会内部の不正を調べる立場でもあります。本来なら」


「本来なら、ですか」


 セリカさんが低く言う。


 王女は答えなかった。


 答えなくても分かる。


 不正を調べるはずの部署が、不正に関わっているかもしれない。


 リリアは研究記録帳の表紙を見つめていた。


「被験者記録……」


 その声は小さかった。


 ノエルが慎重にページをめくる。


 そこには、学生の名前が並んでいた。


 聖力が弱い者。

 安定しない者。

 治癒術の成績が伸び悩む者。


 そして、今日食堂で倒れた女子生徒の名前もあった。


 リリアの手が震えた。


「やはり、あの子だけではなかったのですね」


「リア」


「大丈夫です」


 そう言いながらも、声は硬い。


「大丈夫ではありません。でも、目を背けません」


 彼女は記録帳を見つめる。


「私と同じように、自分が弱いからだと思わされる子を、増やしたくありません」


 アリシア王女が静かに頭を下げた。


「申し訳ありません。学園内で、このようなことが」


「殿下が謝ることではありません」


 リリアは首を振った。


「でも、止めたいです」


「私もです」


 アリシア王女の声は、はっきりしていた。


 ラゼル教授は、沈黙していた。


 先ほどまでの余裕は薄れている。


 だが、まだ完全に折れてはいない。


 表示が出る。


ラゼル教授

状態:追い詰められ、開き直り寸前

備考:地下魔力炉の起動を考えています


 地下魔力炉。


 嫌な単語が出た。


「教授、地下で何を動かすつもりですか」


 俺が言うと、ラゼル教授の目がこちらを向いた。


「……本当に、不愉快な力ですね」


「答えてください」


「君に答える義務はありません」


「でも、地下魔力炉という言葉は出ています」


 ノエルが反応した。


「地下魔力炉? 旧研究棟にそんなものが?」


 ミリア先生も驚いている。


「管理図にはありません」


 ラゼル教授は、ゆっくり笑った。


 それは、今までの穏やかな笑みとは違った。


 少しだけ、壊れたような笑いだった。


「管理図にないものなど、王立学園にはいくらでもありますよ。古い学園ですからね」


 開き直った。


 アリシア王女が厳しい声で言う。


「ラゼル教授。あなたを、この場で拘束します」


「王女殿下に、その権限が?」


「学園長と教務局へ緊急連絡を」


 アリシア王女がミリア先生へ指示する。


 ミリア先生が通信魔道具を取り出そうとした、その瞬間。


 床の魔法鍵が赤く光った。


警告:地下魔力炉、遠隔起動

原因:ラゼル教授の血印認証

進行:封印石反応増幅

危険度:高


「床が!」


 俺が叫ぶ。


 隠し床扉から赤黒い光が漏れ出した。


 ラゼル教授の手首から、うっすら血が流れている。


 セリカさんが叩いた時にできた傷。


 それを使ったのか。


「血印認証です! 教授の血で地下の何かが起動しました!」


 ノエルが叫ぶ。


「最悪! 古い魔力炉に封印石を繋いでる!」


 床が震える。


 資料棚から埃が落ちる。


 リリアが聖力を広げるが、地下から押し上がってくる魔力は重く、濁っていた。


「これは……迷宮の封印石と同じざらつきです。でも、もっと荒い」


 セリカさんがラゼル教授を押さえようとする。


 だが、教授は両手を上げたまま笑った。


「止められませんよ。地下炉は一度動けば、封印石の反応が収まるまで止まらない」


「なぜこんなものを!」


 アリシア王女の声が震えた。


 怒りだ。


 ラゼル教授は、疲れたように言った。


「必要だったのです。聖力を安定させる技術が完成すれば、弱い聖力しか持たない者も救える。教会に頼らず、学園独自の聖具を作れる」


「そのために学生を実験台にしたのですか」


「実験なくして進歩はありません」


 その言葉に、ノエルが低く言った。


「研究者の言葉じゃない」


 ラゼル教授がノエルを見る。


「理想だけで研究は進みませんよ」


「違う。失敗を認めず、被験者に危険を知らせず、証拠を燃やそうとするのは研究じゃない。隠蔽」


 ノエルの声は震えていた。


 怒りで。


「あなた、研究者じゃなくてただの隠蔽犯だよ」


 ラゼル教授の顔が歪む。


 だが、今は言い争っている場合ではない。


 地下からの魔力が強くなっている。


 俺の視界に表示が流れる。


地下魔力炉

状態:暴走初期

動力:封印石片、聖力増幅陣

危険:旧研究棟内の聖属性持ちに反応

対象:リリア、アリシア王女、治癒術適性者


 リリアとアリシア王女が対象。


「この魔力炉、聖属性持ちに反応します! リリアと殿下が危ない!」


 セリカさんが即座に動いた。


「二人とも下がって!」


 だが、床の魔法陣から白い鎖のような光が伸びた。


 リリアとアリシア王女へ向かう。


 俺は反射的に杖を構えた。


 表示が出る。


魔力鎖

弱点:床扉中央の赤い紋

推奨:剣撃による遮断、聖力逆流防止、感知誘導


「床扉中央の赤い紋!」


 セリカさんが剣を抜く。


 早い。


 彼女の剣が、床板に走った赤い紋を斬る。


 白い鎖が一瞬揺らぐ。


 リリアがその隙に聖力を広げ、アリシア王女を包む。


「殿下、こちらへ!」


「はい!」


 アリシア王女はすぐに動いた。


 王族らしい落ち着きだが、顔色は白い。


 ノエルが床扉へ走り寄りかける。


「構造を見る!」


「ノエル、待って!」


 俺が叫ぶ。


 表示が赤くなる。


接近危険

床扉直上:魔力吸引域

ノエル接触時:魔力枯渇リスク


「上に立つと吸われます!」


「了解、ぎりぎりで見る!」


「ぎりぎりも怖いです!」


 ノエルは本当にぎりぎりで止まった。


 怖い。


 この人も別方向に危ない。


 ミリア先生が通信魔道具を起動しようとするが、魔力ノイズでうまく動かない。


「通信が乱れています!」


 閉じ込められた。


 旧研究棟内で、地下魔力炉が起動。

 外への通信は不安定。

 地下扉は警報付き。


 最悪に近い。


 その時、頭の奥にミュレアの声が響いた。


『レン』


「ミュレア?」


『その魔力、こちらにも響いておる。古代迷宮の封印石を雑に砕いて使ったな。品のない術式じゃ』


「止め方は分かりますか」


『中心核を鎮めればよい。だが、外からでは難しい。地下へ降りねばならぬ』


「地下へ……」


 やっぱりか。


 セリカさんが俺を見る。


「行くしかない顔をしてる」


「顔に出てますか」


「出てる」


 リリアも静かに言う。


「でも、一人では行かせません」


「分かっています」


 俺は今度こそ、先に言った。


「一人では行きません」


 セリカさんが頷く。


「よろしい」


 アリシア王女が真剣な顔で言った。


「私も行きます。この学園の問題です」


「殿下、それは危険です」


 ミリア先生が止める。


 だが、アリシア王女は首を横に振った。


「だからこそです。私が見なければならない」


 表示が出る。


アリシア王女

状態:恐怖、責任感、決意

備考:王族として学園内の不正から目を逸らせないと思っています


 リリアと似ている。


 怖いけれど、逃げない。


 セリカさんが短く言う。


「なら守ります」


 アリシア王女は少し驚き、それから頷いた。


「お願いします」


 ノエルが床扉を見ながら言った。


「扉、開けられる。リアさんの聖力とレンの誘導があれば、警報を一時的に殺せる」


「危険度は?」


「高い」


「正直ですね」


「嘘をつく場面じゃない」


 俺は床扉を見る。


 表示が浮かぶ。


隠し床扉

開錠可能

条件:聖力認証偽装、感知誘導、魔力回路切断

注意:開扉後、地下魔力炉暴走カウント進行


 開ければ進む。


 戻れなくなるかもしれない。


 でも、開けなければリリアやアリシア王女が危険だ。

 学園全体にも影響が出るかもしれない。


 俺は深く息を吸った。


「開けましょう」


 言葉にすると、腹が決まった。


 ミュレアが頭の奥で笑う。


『ふふ。やはり、そなたはそう言う』


「分かっていたなら止めてください」


『止めても行くであろう?』


「……はい」


『ならば助言だけしてやる。地下炉の中心に、封印石の核がある。それを壊すな。壊せば暴発する。鎮めるのじゃ』


「壊さず鎮める」


『そなたの得意分野であろう。壊れかけたものを、繋ぎ止める』


 ミュレアの声が、少しだけ優しかった。


 俺は頷いた。


 リリアが俺の隣に立つ。

 セリカさんが前に立つ。

 ノエルが床扉の回路を見る。

 アリシア王女が覚悟を決めた顔で立つ。


 旧研究棟の床下から、赤黒い光が漏れている。


 ラゼル教授は、壁際で拘束されながら笑っていた。


「止められるものなら、止めてみなさい」


 俺は教授を見た。


「止めます」


 声は震えなかった。


 たぶん、隣にみんながいたからだ。


 リリアの白い光が床扉を包む。

 ノエルの魔力糸が回路へ伸びる。

 俺は表示を読み、セリカさんが危険な線を剣で断つ。


 かちり、と床扉の奥で音がした。


 そして、旧研究棟の隠し地下への扉が開いた。


 冷たい風が、下から吹き上がる。


 その奥で、赤黒い光が脈打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ