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『前世で陰キャ非モテだった俺、異世界転生したら【好感度限界突破】で美少女たちが勝手に惚れてくるんだが!?〜外れスキル扱いされた俺、実は触れただけで才能覚醒させる最強チートでした〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第27話 外れスキル扱いされた俺、実技試験でまた目立つ

 王女アリシアは、遠くからこちらを見ていた。


 近づいてくるわけではない。

 声をかけるわけでもない。


 ただ、澄んだ青い瞳で、俺たち三人を静かに観察している。


 その姿だけで、周囲の空気が少し変わっていた。


 さっきまでレオン・バルツァーの取り巻きとしてにやにやしていた学生たちも、王女の視線に気づくと、途端に声を落とす。


 王女。


 やはり、その肩書きは重いらしい。


 俺は目を逸らそうとして、失敗した。


 アリシア王女と目が合った。


 彼女は、ほんの少しだけ微笑んだ。


 値踏みではない。

 侮りでもない。

 ただ、何かを確かめるような目。


 そして、軽く会釈をされた。


 王女に会釈された。


 どうすればいいのか分からない。


 俺は反射的に頭を下げた。


 深すぎたかもしれない。


 セリカさんが小声で言う。


「レン、固い」


「王女様ですよ」


「分かるけど、そんなに折れ曲がらなくても」


「前世でも今世でも王族対応の経験がないので」


「前世?」


「あ」


 しまった。


 リリアが小さくこちらを見る。


 セリカさんも目を細めた。


 前世の話は、二人には少し話している。

 だが、全部ではない。


 今ここで掘り下げられると困る。


 俺は咳払いした。


「昔の話です」


「あとで聞くわ」


「はい」


 逃げられなかった。


 ミリア先生が、王女の方へ軽く一礼する。


 アリシア王女もそれに応じ、それから静かに回廊の奥へ歩いていった。


 彼女の周囲には護衛らしき生徒や従者はいない。

 だが、遠巻きに見守る視線はいくつもあった。


 それだけで、彼女が学園内でも特別な存在だと分かる。


 俺の視界には、まだ表示が残っていた。


アリシア・ルミナス・ヴァレンティア

身分:王女

状態:興味、観察

備考:レンたちギルド推薦者に強い関心を持っています

関連:王立学園旧研究棟


 旧研究棟の鍵を握る人物。


 これ以上ないほど重要そうだ。


 そして、こういう重要人物と初日から目が合うあたり、俺の静かな学園生活は始まる前から終わっている。


「レン」


 リリアが隣で囁く。


「はい」


「また、何か見えましたか?」


「王女殿下は、旧研究棟と関係があるみたいです」


「やはり……」


 リリアは少しだけ表情を引き締めた。


 セリカさんも低く言う。


「いきなり王女が関係者。厄介ね」


「はい」


「でも、敵とは限らない」


「表示では、興味と観察です。敵意は見えません」


「なら、今は様子見ね」


 セリカさんの判断は早い。


 ミリア先生が俺たちを振り返る。


「では、学園長室へ向かいます。途中で余計な接触は避けてください」


「はい」


 さっきレオンに絡まれたのを、先生も快く思っていないらしい。


 俺たちは本校舎へ入った。


     ◇


 王立学園の本校舎は、外から見た以上に広かった。


 白い石の廊下。

 高い天井。

 壁に並ぶ歴代学園長の肖像画。

 窓から差し込む光を受けて、床の魔法石が淡く輝いている。


 どこを見ても上品だ。


 そして、どこを歩いても視線が刺さる。


「あれがギルド推薦の?」


「剣術研修生の赤髪の子、綺麗……」


「白い子、治癒術科?」


「男の方は普通だな」


「クロフォードって、あの?」


 普通だな、が一番刺さった。


 いや、外れだの危険人物だの言われるよりはいい。


 でも、普通だな、という言葉には前世から妙な重みがある。


 良くも悪くもなく、印象に残らない。

 いるけど、いない。

 そんな扱いを何度も受けてきた。


 ただ、今はその評価に助けられる部分もある。


 目立たないなら、それはそれでいい。


 ……隣の二人が目立ちすぎているので、俺だけ地味でも意味は薄いが。


 学園長室は本校舎の三階にあった。


 扉の前でミリア先生が軽くノックする。


「ギルド推薦特別調査生の三名をお連れしました」


「入ってください」


 落ち着いた男性の声。


 扉が開く。


 中は広い書斎のような部屋だった。


 壁一面の本棚。

 大きな机。

 窓際には鉢植えの薬草らしき植物。

 魔法具や古い石板もいくつか置かれている。


 机の向こうに座っていたのは、銀髪の老紳士だった。


 穏やかな目をしているが、ただ優しいだけの人ではなさそうだった。


エルドリッジ・アークライト

役職:王立学園長

状態:慎重、興味、警戒

備考:ギルド推薦者を受け入れつつ、学園内の問題を探らせる意図があります


 この人は、分かっている。


 少なくとも、俺たちがただの研修生ではないことを。


 学園長は立ち上がり、ゆっくりと一礼した。


「ようこそ、王立学園へ。私は学園長のエルドリッジ・アークライトです」


「レン・クロフォードです」


「リアです」


「セリカです」


 俺たちは順に名乗った。


 学園長は三人を見て、静かに頷く。


「ギルド長ダリウス殿から、事情は一部伺っています」


 一部。


 その言い方が慎重だった。


「ただし、この学園には多くの立場の者がいます。王国、貴族、魔術院、教会、商会。そのすべてが、必ずしも同じ方向を見ているわけではありません」


 初対面でかなり踏み込んだことを言う。


 セリカさんが少しだけ目を細めた。


 学園長は続ける。


「あなた方には、表向きは特別調査生として学んでもらいます。裏では、旧研究棟に関する違和を調べてもらう。ただし、無理に踏み込んではいけません。学園内での失敗は、学園だけでなく王国政治にも波及します」


 政治。


 嫌な言葉だ。


 俺は思わず背筋を伸ばした。


「俺たちは、どこまで調べていいんですか?」


「まずは見ることです」


 学園長は言った。


「誰が旧研究棟に近づくのか。どの研究室が白灯商会と関係を持っているのか。どの生徒や教師が教会監察部の名を出すのか」


「見るだけ、ですか」


「見ることは、時に剣より強い」


 学園長の視線が俺に向く。


「レン君。あなたの力は、見る力に近いと聞いています」


「はい。たぶん」


「ならば、急いで答えを出そうとしないことです。見えたものを、どう解釈するか。それを間違えれば、見えない者より危うい」


 痛いところを突かれた。


 俺は頷く。


「分かりました」


「本当に?」


 学園長にまで言われた。


 リリアとセリカさんが、なぜか同時にこちらを見る。


「なぜ皆さん、俺が無茶をする前提なんですか」


 セリカさんが言う。


「前科」


 リリアも言う。


「心配です」


「はい……」


 学園長は小さく笑った。


「良い仲間を持ちましたね」


 俺は返事に困った。


 でも、否定はできなかった。


     ◇


 身分登録と施設説明は、思ったより淡々と進んだ。


 学生証のような魔法札を渡される。

 学園内の主要施設を案内される。

 食堂、訓練場、治癒術棟、図書塔、魔術実験棟。


 そして、旧研究棟。


 遠くから見ただけだった。


 本校舎の北西、木立の奥に建つ古い灰色の建物。


 窓の一部は板で塞がれ、蔦が壁を這っている。


 だが、完全に廃墟というわけではない。

 入口には鍵がかかっており、周囲には薄い結界が張られていた。


 俺の視界に表示が浮かぶ。


王立学園旧研究棟

状態:封鎖中、ただし定期的な出入りあり

関連:白灯商会搬入記録、封印石片、聖属性魔道具研究

注意:地下区画あり


 地下区画。


 やっぱりある。


 俺は思わず足を止めた。


 ミリア先生が振り返る。


「どうしました?」


「いえ、旧研究棟は今も使われているんですか?」


「公式には、資料保管と一部研究室の予備保管場所です。通常学生の立ち入りは禁止されています」


「通常学生の、ということは」


「教員と許可を得た研究生は入れます」


 なるほど。


 出入りする人物がいる。


 そこを探る必要がある。


 セリカさんが小声で言う。


「夜に行く流れね」


「やっぱりそう思います?」


「思うわ」


 リリアも困ったように微笑む。


「でも、いきなりは危険です」


「分かっています」


 俺が答えると、二人がじっと見る。


「分かっています。本当に」


「ならいいわ」


「信じます」


 信用を積み直すのは大変だ。


     ◇


 午後。


 実技適性試験は、学園の訓練場で行われることになった。


 石造りの広い円形訓練場。

 観覧席まである。


 なぜ観覧席があるのか。


 いや、剣術や魔術の試験を見るためだろう。


 問題は、そこにすでに学生たちが集まっていたことだ。


「……見物、多くないですか」


 俺が言うと、ミリア先生は淡々と答えた。


「特別調査生の実技適性試験は珍しいですから」


「見世物ですね」


「そうとも言えます」


 否定してほしかった。


 観覧席には、レオン・バルツァーとその取り巻きたちもいた。


 彼は俺を見つけると、わざわざ笑顔で手を振ってきた。


 完全に煽りだ。


 セリカさんが低く言う。


「斬りたい」


「まだ駄目です」


「まだ、なのね」


 リリアが小さく突っ込んだ。


 俺は苦笑する。


 訓練場の端には、アリシア王女もいた。


 ただし観覧席ではなく、教師たちの近くに静かに立っている。


 彼女は俺たちを見ると、軽く頷いた。


 やはり、観察している。


 俺の表示が浮かぶ。


アリシア王女

状態:興味、期待

備考:レンの能力が本当に外れなのか見極めようとしています


 王女まで見極めに来ている。


 勘弁してほしい。


 試験官は三人いた。


 剣術担当の壮年男性。

 魔術担当の女性教師。

 治癒術担当の年配教師。


 まずはセリカさんからだった。


「セリカ、剣術適性確認。相手は訓練用魔導人形二体」


 試験官の声が響く。


 訓練場中央に、木と金属でできた魔導人形が二体立ち上がる。


 セリカさんは訓練用の剣を手に、中央へ出た。


 観覧席がざわつく。


「赤髪の子、剣術課程?」


「ギルド推薦らしいぞ」


「ヴァンブレイド家の誰かじゃないか?」


「でもあの家の娘って、魔法が駄目で……」


 余計な声が聞こえた。


 セリカさんにも聞こえたかもしれない。


 だが、彼女は振り返らなかった。


 剣を構える。


 姿勢が変わった。


 赤い髪が風に揺れる。


 次の瞬間、魔導人形が動いた。


 一体が正面から斬りかかり、もう一体が横から回る。


 セリカさんは正面の攻撃を受け流し、その勢いのまま横の一体へ踏み込む。


 速い。


 剣の腹で人形の腕を弾き、足元を崩し、振り返りざまに正面の一体の胸部へ一撃を入れる。


 魔導人形の胸部に光が灯る。


 命中判定。


 観覧席がどよめいた。


「速っ」


「今の、魔力強化なし?」


「剣だけで?」


 セリカさんは止まらない。


 二体目の攻撃を低くかわし、背後へ回り込み、首元の判定点へ剣を添えた。


 試験官が手を上げる。


「終了。評価、上位」


 ざわめきがさらに大きくなる。


 セリカさんは剣を下ろし、こちらへ戻ってきた。


 顔は少し赤い。


「どう?」


「すごかったです」


 俺は即答した。


 セリカさんは目を逸らす。


「……ならいいわ」


 リリアも微笑む。


「とても格好よかったです」


「あなたまで」


 セリカさんはさらに照れた。


 でも、嬉しそうだった。


     ◇


 次はリリアだった。


 治癒術適性確認。


 訓練用の魔導水晶に、擬似的な損傷反応を発生させ、それを治癒術で安定化させる試験らしい。


 リリアが中央へ出ると、観覧席が一段とざわめいた。


 白銀の髪。

 白いケープ。

 静かな立ち姿。


 目立たない方が無理だった。


 レオンが何かを囁き、取り巻きが笑う。


 俺は少しだけ眉をひそめた。


 リリアは気にせず、水晶へ手をかざした。


 白い光が広がる。


 強すぎず、弱すぎない。


 水面に月光が落ちるような、静かな光だった。


 水晶の中の赤い損傷反応が、ゆっくり消えていく。


 治癒術担当の教師が目を見開いた。


「……安定化率、九十八。過剰干渉なし。聖力制御、極めて良好」


 観覧席が静かになる。


 リリアは手を下ろし、軽く一礼した。


 戻ってきた彼女に、俺は言った。


「すごく綺麗でした」


 リリアが瞬きをする。


「治癒が、ですか?」


「はい。あと、姿も」


 言った後で気づいた。


 少し余計だったかもしれない。


 リリアの頬が赤くなる。


「……ありがとうございます」


 セリカさんが俺を横目で見る。


「レン、今日はやけに素直ね」


「緊張で口が滑っているかもしれません」


「それはそれで危険ね」


 否定できない。


     ◇


 そして、俺の番が来た。


「レン・クロフォード。魔力感応および危険察知適性確認」


 訓練場中央に立つ。


 視線が一気に集まる。


 体が少し固くなった。


 観覧席のレオンが、わざと聞こえる声で言った。


「外れスキルの実技か。何をするんだろうね」


 取り巻きが笑う。


 古い痛みが胸をかすめた。


 外れ。

 役立たず。

 要らない。


 聞き慣れた言葉だ。


 でも、今日は少し違う。


 観覧席の端に、セリカさんがいる。

 リリアがいる。

 教師の近くにはアリシア王女もいる。


 俺の力を、外れではないと言ってくれた人がいる。


 試験官の女性教師が説明する。


「あなたには、この訓練場内に設置された五つの魔力異常点を見つけてもらいます。制限時間は三分。通常、魔術感応に優れた者で二つから三つ。四つ以上なら優秀です」


 なるほど。


 感知試験。


 派手ではないが、俺向きだ。


 俺は深く息を吸った。


 視界が切り替わる。


魔力異常点:五

位置:北壁の水晶、東側床下、訓練人形内部、観覧席下、試験官机の封印箱

注意:追加隠し異常点一

隠し異常点:地下魔力線の不自然な揺れ


 五つではない。


 六つある。


 しかも、六つ目は試験用ではなさそうだ。


 地下魔力線の不自然な揺れ。


 俺は一瞬迷った。


 試験は五つを見つけるものだ。

 余計なことを言えば目立つ。


 でも、地下魔力線。


 旧研究棟の地下区画と関係している可能性がある。


 見なかったことにはできない。


「まず、北壁の水晶」


 俺は指差した。


 教師の表情が変わる。


「正解です」


「次に東側床下。訓練人形の胸部内部。観覧席下の三列目。試験官机の封印箱」


 俺が次々に言うと、訓練場が静まり返った。


 教師は目を見開いている。


「……すべて正解。時間、二十秒」


 観覧席がざわつく。


「二十秒?」


「嘘だろ」


「事前に知ってたんじゃないのか?」


 レオンの顔から笑みが消えていた。


 だが、俺はまだ終われない。


「それと、試験用ではない反応があります」


 教師が眉を寄せる。


「試験用ではない?」


「地下の魔力線が不自然に揺れています。場所は訓練場の北西方向へ流れていて……たぶん旧研究棟方面です」


 その瞬間、アリシア王女の表情が変わった。


 ミリア先生も息を呑む。


 教師たちが互いに視線を交わした。


 表示が出る。


隠し異常点:確認

関連:旧研究棟地下区画

状態:微弱稼働中

注意:学園側未把握


 学園側も知らなかったのか。


 俺はやらかしたかもしれない。


 静かに終わるどころか、さらに目立った。


 試験官が慎重に言う。


「レン君。その反応を、もう少し詳しく説明できますか」


 俺は頷いた。


「魔力線が旧研究棟方面へ流れています。ただ、自然な流れではなく、何かに吸われている感じです。封印石か、聖属性魔道具に近い反応があります」


 訓練場の空気が一気に変わった。


 レオンたちの軽い笑い声は消えている。


 アリシア王女がゆっくりとこちらへ歩いてきた。


 教師たちが慌てて頭を下げる。


 王女は俺の前で立ち止まった。


「レン・クロフォード様」


「は、はい」


「その反応は、本当に旧研究棟から?」


「はい。少なくとも、そちらへ繋がっています」


 アリシア王女の青い瞳が、まっすぐ俺を見た。


「詳しく、お話を伺いたいです」


 表示が浮かぶ。


王女アリシア接触イベント:発生

好感度:12 → 28

状態:興味、警戒、期待

備考:レンの能力を本物と判断し始めています


 上がった。


 まただ。


 俺は心の中で頭を抱えた。


 リリアとセリカさんの視線を背中に感じる。


 そして頭の奥で、ミュレアが楽しそうに笑った。


『ふふ。初日から王女か。やるではないか、妾の監視者殿』


 やめてほしい。


 本当にやめてほしい。


 俺はただ、試験を無事に終えたかっただけなのに。


 訓練場中の視線を浴びながら、俺は思った。


 王立学園初日。


 やっぱり、目立たずに終わるなんて無理だった。

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