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『前世で陰キャ非モテだった俺、異世界転生したら【好感度限界突破】で美少女たちが勝手に惚れてくるんだが!?〜外れスキル扱いされた俺、実は触れただけで才能覚醒させる最強チートでした〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第25話 王立学園特別調査生とか、聞いてないんだが

 白灯商会南倉庫の押収品がギルドへ運び込まれたのは、夕暮れを過ぎた頃だった。


 封印石片。

 対聖女用呪具の部材。

 黒蛇金融商会との契約台帳。

 教会監察部との連絡文書。

 そして、王立学園旧研究棟への搬入記録。


 どれも厄介だった。


 厄介すぎて、逆にどこから驚けばいいのか分からない。


 俺はギルドの会議室で、積み上げられた資料を眺めながら、小さく呟いた。


「……普通の冒険者生活って、どこに行ったんでしょうね」


 向かいに座っていたセリカさんが即答する。


「最初から来てないわよ」


「そんな残酷なこと言います?」


「事実じゃない」


 否定できない。


 薬草採取から始まったはずなのに、災害級魔物、元聖女、女騎士の覚醒、古代迷宮、魔王令嬢、教会密偵、白灯商会の証拠隠滅。


 並べるだけで頭が痛くなる。


 まだ冒険者登録して数日だ。


 数日で人生の密度が壊れている。


 隣に座るリリアは、押収資料の一部を静かに読んでいた。


 王都ではリアと名乗っているが、この会議室にいる者たちは事情を知っている。

 それでも彼女は、時々自分のギルド章に指を触れていた。


 自分は教会の聖女ではなく、ギルド所属の治癒師なのだと、確かめるように。


 会議室の奥では、ギルド長ダリウスさんと魔法使いのオルフェさんが資料を分類している。


 受付嬢のエマさんも記録係として参加していた。


 昨日まで借金問題で追い詰められていた彼女が、今は不正を暴く側で書類をまとめている。


 まだ不安はあるだろう。


 それでも、前を向こうとしているのが分かった。


 俺のスキル表示も、それを示している。


エマ・リント

状態:緊張、責任感、前向き

備考:自分が被害者で終わらず、証拠整理に関わることで立ち直ろうとしています


 少しだけ、胸が温かくなる。


 助けられた人が、次に誰かを助ける側へ回る。


 それは、たぶん良いことだ。


 その時、ダリウスさんが一枚の書類を机に置いた。


「問題は、これだ」


 王立学園旧研究棟への搬入記録。


 封印石片。

 聖属性魔道具共同研究。

 白灯商会。

 教会監察部。

 学園内協力者。


 嫌な単語が並んでいる。


 セリカさんが眉を寄せた。


「王立学園に入り込んでいるのは確定ですか」


「ほぼな」


 ダリウスさんは低く答えた。


「この搬入記録だけなら、まだ言い逃れはできる。だが白灯商会の倉庫から出た台帳と照合すれば、旧研究棟に封印石片が運ばれたのは間違いない」


「学園側は知っているんですか?」


 俺が聞くと、ダリウスさんは首を横に振った。


「全部が知っているとは思えん。王立学園は巨大な組織だ。教師、研究者、貴族子弟、王国官僚の予備軍、魔術院からの出向者。白灯商会が入り込む隙はいくらでもある」


 オルフェさんが続ける。


「旧研究棟は、現在あまり使われていない建物です。表向きは古い魔道具の保管と、卒業研究用の資料庫。人の出入りは少ない。ただ、完全に閉鎖されているわけではありません」


「つまり、証拠を隠すにはちょうどいい」


 セリカさんが言う。


「その通りだ」


 ダリウスさんは俺を見た。


「レン。お前のスキルには、王立学園特別調査生制度が出たな」


「出ました」


「それを使う」


 嫌な予感はしていた。


 していたが、実際に言われると胃が重くなる。


「俺が学園へ?」


「お前たち三人だ」


「三人?」


 俺はリリアとセリカさんを見る。


 リリアは少し驚いた顔をした。

 セリカさんは、半分予想していたような顔だった。


 ダリウスさんは淡々と説明する。


「王立学園特別調査生制度は、王国やギルドが特別な技能を持つ者を短期間学園に送るための制度だ。名目上は研修、実態は調査や能力確認。今回はそれを使う」


「俺はまだ冒険者になったばかりなんですが」


「その数日で、災害級魔物、古代迷宮、魔王令嬢、白灯商会不正に関わっている」


「関わりたくて関わったわけでは」


「分かっている。だから送る」


「分かっているなら休ませてほしいです」


「休ませるために送る場所ではないな」


 でしょうね。


 俺は机に額をつけたくなった。


 リリアが小さく言う。


「私も行くのですか?」


「ああ。聖属性魔道具と封印石の調査には、お前の感覚が必要になる可能性が高い。ただし、表向きは治癒術研修生として扱う」


「治癒術研修生……」


「教会の聖女ではなく、ギルド所属の治癒師としてだ」


 リリアの目が少しだけ揺れた。


 それは、怖さだけではない。


 自分の新しい肩書きで、王立学園に入る。

 教会ではなく、ギルドの治癒師として。


 彼女にとっては、大きな意味を持つのだろう。


 セリカさんが聞く。


「私は?」


「護衛兼、剣術課程の短期研修生だ。ヴァンブレイド家の名前は使わない。ギルド推薦の剣士として入る」


 セリカさんの表情がわずかに緩んだ。


「家名を使わなくていいんですね」


「ああ。お前自身の実績で入る。東の森のグラウルベア戦と古代迷宮調査の実績がある」


「……分かりました」


 セリカさんは静かに頷いた。


 家に認められるためではなく、自分の剣で得た立場。


 それもまた、彼女にとって大きいのかもしれない。


 そして俺。


「俺は何の名目なんですか?」


「特殊感知能力者。表向きは魔力感応適性の調査生だ」


「好感度は?」


「言うな」


「はい」


 即答された。


 まあ当然だ。


 学園で「好感度が見えます」などと言ったら、初日で不審者扱いされる。


 いや、今でも十分不審者なのかもしれないが。


 その時、頭の奥に声が響いた。


『学園か。よいのう』


 ミュレアだった。


 今日も遠慮なく割り込んでくる。


「聞いていたんですか」


『妾は退屈しておるのでな』


「その理由で会議を盗み聞きしないでください」


『盗み聞きではない。監視者の状況把握じゃ』


「便利な言い訳ですね」


『当然じゃ』


 ミュレアは楽しそうだった。


『レンよ、妾も学園へ行くぞ』


「無理です」


『即答するでない』


「封印管理中の魔王令嬢が王立学園に来たら、初日で全校集会です」


『退屈せずに済むではないか』


「俺が胃痛で倒れます」


『胃薬とやらを用意せよ』


「この世界にあるんですかね」


 リリアが静かに言う。


「ミュレアさんは、まず存在安定が先です」


『白き治癒師は厳しいのう』


「治癒師として当然です」


 セリカさんも続ける。


「学園には連れていかないわ。あなたはしばらくギルド管理施設か迷宮区画で大人しくしていなさい」


『赤き剣姫まで。妾は孤独で泣いてしまうぞ』


「泣きそうにない声ですね」


『レン、そなたまで冷たい』


 ミュレアが大げさに嘆く。


 会議室にいる者の多くには聞こえていないが、俺とリリア、セリカさんにはだいたい聞こえている。


 オルフェさんだけは、魔力の揺れで何となく察しているらしく、苦笑していた。


 ダリウスさんが俺を見る。


「またミュレアか」


「はい。学園へ行きたいそうです」


「却下だ」


『聞こえぬが、今かなり無慈悲なことを言われた気がする』


「正解です」


『むう』


 封印された魔王令嬢が拗ねている。


 状況だけ聞くと意味が分からない。


     ◇


 特別調査生として学園に入るには、最低限の準備が必要だった。


 身分証。

 推薦状。

 表向きの経歴。

 そして制服。


「制服?」


 俺は思わず聞き返した。


 エマさんが資料をめくりながら答える。


「はい。短期調査生でも、学園内では制服着用が基本だそうです」


「俺もですか?」


「もちろんです」


「冒険者服では駄目なんですか?」


「目立ちます」


「制服の方が目立つ気がします」


 セリカさんが横から言う。


「学園では制服の方が目立たないでしょ」


「そういうものですか」


「そういうものよ」


 リリアは少しだけ困ったように自分の外套を見た。


「私は、フードをかぶったままでは駄目でしょうか」


「学園内では難しいかもしれません」


 エマさんが申し訳なさそうに言う。


「ただ、治癒術研修生用の白いケープがあります。顔を完全に隠すことはできませんが、ある程度は視線を避けられるかと」


 リリアは少し緊張した。


 教会から逃げて以来、彼女はフードで顔を隠すことに慣れている。


 それを外すのは、不安だろう。


 俺は言った。


「無理なら、別の方法を」


 リリアは首を横に振った。


「いえ。ずっと隠れているわけにもいきません」


「でも」


「怖いです。でも、ギルド所属の治癒師として行くのなら、顔を隠しすぎるのも不自然です」


 彼女は小さく息を吸う。


「少しずつ、慣れます」


 強い。


 でも、無理をしているのも分かる。


 セリカさんが静かに言う。


「何かあれば、私が前に立つわ」


「ありがとうございます」


「レンもいるし」


「はい」


 リリアがこちらを見る。


「頼りにしています」


「俺でよければ」


「レンがいいです」


 不意打ちだった。


 俺は固まる。


 リリアも自分で言ってから、少しだけ顔を赤くした。


「その、危険が見えるので」


「あ、はい。そうですよね」


「……それだけでは、ありませんけど」


 小声で付け足された。


 俺は聞こえなかったことにした。


 聞こえたが、聞こえなかったことにした。


 セリカさんがじとっと見る。


「聞こえてたでしょ」


「何がですか」


「逃げたわね」


「はい」


 エマさんが資料で口元を隠しながら笑っている。


 会議室が変な空気になりかけたところで、ダリウスさんが咳払いをした。


「制服の採寸は、この後すぐだ。ギルド提携の仕立屋を呼んである」


「早いですね」


「明日には学園側へ申請を出す。時間がない」


「明日」


 俺は肩を落とした。


 どうやら、本当に学園へ行くことになりそうだ。


     ◇


 採寸は、ギルドの別室で行われた。


 仕立屋は、年配の女性だった。


 小柄だが目つきが鋭く、寸法を見る手つきに無駄がない。


「はい、まず男の子から」


「俺ですか」


「そう。さっさと立つ」


「はい」


 有無を言わせぬ圧だった。


 俺は部屋の中央に立ち、腕を広げる。


 採寸用の紐が肩、胸、腰、腕へと次々に当てられていく。


「細いねえ。冒険者にしちゃ筋肉が足りない」


「最近、鍛え始めたばかりで」


「食べな」


「はい」


 セリカさんが横から頷く。


「もっと食べさせます」


「頼んだよ、赤いお嬢さん」


「任せてください」


「俺の食事管理まで決まりました?」


 リリアも静かに言う。


「必要だと思います」


「リリアまで」


「レンは放っておくと考え込みすぎて食事を忘れそうです」


「さすがに忘れません」


 二人の視線が刺さる。


「……たまに」


「ほら」


 セリカさんが勝ち誇った顔をした。


 採寸を終えた仕立屋が、俺を上から下まで見て言う。


「王立学園の男子制服は、濃紺の上着に白シャツ、銀の縁取りだね。あんたは地味な顔だから、逆に似合うよ」


「地味な顔」


 ぐさりと来た。


 だが、悪意はなさそうだった。


「褒めてるんだよ。派手な制服に顔が負けない。清潔感が出る」


「ありがとうございます……?」


 褒められたのか微妙だ。


 次にセリカさんの番だった。


「はい、赤いお嬢さん」


「私ですか」


「剣を置きな」


「ここに」


「背筋がいいねえ。肩も動かしやすいようにしないと。剣術課程なら、女子制服も少し動きやすく調整するよ」


 セリカさんは意外と大人しく採寸されていた。


 普段は強気だが、こういう身支度には慣れているのかもしれない。


 騎士家の令嬢だったのだから当然か。


 仕立屋が腰回りや肩幅を測りながら言う。


「赤髪に学園制服は映えるね。上着は濃紺だが、あんたなら負けない」


「そうですか」


「胸を張りな。剣士は姿勢が命だよ」


「はい」


 セリカさんが少し照れながら背筋を伸ばす。


 その姿は、普通に格好よかった。


 つい見てしまう。


 セリカさんが気づいた。


「レン」


「はい」


「今、見てた?」


「採寸を」


「採寸を?」


「制服姿を想像したというか」


 言った瞬間、セリカさんの顔が赤くなった。


「正直に言いすぎ!」


「すみません!」


 仕立屋が笑う。


「若いねえ」


 リリアも口元を押さえている。


 俺は視線を床へ逃がした。


 そして、リリアの番になった。


 仕立屋はリリアを見るなり、少しだけ目を細めた。


「白いお嬢さんは、治癒術研修生用だね」


「はい」


「ケープあり。袖は広すぎない方がいい。治癒術は手元が命だからね」


 リリアはフードを外すか迷っていた。


 俺とセリカさんは、何も言わずに待つ。


 やがて、リリアはそっとフードを下ろした。


 白銀の髪が、肩に落ちる。


 仕立屋が一瞬、息を呑んだ。


「まあ……綺麗な髪だね」


 リリアは少しだけ身を縮める。


「目立ちますか」


「目立つよ」


 仕立屋はあっさり言った。


 リリアの表情が曇りかける。


 だが、仕立屋は続けた。


「でも、隠すだけが正解じゃない。綺麗なものを綺麗に見せて、余計な視線は服の品で受け流す。そういう仕立てもある」


「服の品で……」


「白いケープに銀糸を少し。派手じゃなく、祈りの布みたいに見せる。あんたが下を向かなくてもいい服にしてやるよ」


 リリアが目を見開いた。


 俺も少し驚いた。


 この仕立屋さん、かなり格好いい。


「ありがとうございます」


 リリアは小さく頭を下げた。


 仕立屋は何でもないように採寸を始める。


「礼は完成してからだよ。ほら、腕を上げて」


「はい」


 リリアが腕を上げる。


 その姿を見て、俺は少しだけ想像してしまった。


 白いケープ。

 銀糸。

 治癒術研修生としてのリリア。


 似合うに決まっている。


 視線を逸らすのが遅れた。


 リリアが気づく。


「レン」


「はい」


「今、何か考えましたね」


「似合いそうだなと」


 正直に言った。


 リリアの頬が、ふわりと赤くなる。


「……ありがとうございます」


 セリカさんが横で小さく咳払いをした。


「レン、私の時より素直じゃない?」


「そんなことは」


「あるわね」


「すみません」


「謝られると余計に複雑!」


 仕立屋がまた笑った。


「これは学園でも騒がしくなりそうだねえ」


「やめてください、不吉なことを」


 俺は本気で言った。


 だが、たぶんその予言は当たりそうな気がした。


     ◇


 採寸が終わると、簡易の仮制服が用意された。


 正式なものは後日だが、明日の申請用に仮の姿を確認する必要があるらしい。


 俺は濃紺の上着を羽織った。


 鏡を見る。


 ……誰だこれ。


 前世の制服とも、クロフォード家の貴族服とも違う。


 冒険者服よりもずっと整っていて、少しだけ賢そうに見える。


「地味だけど、悪くないわね」


 セリカさんが言う。


「地味は入るんですね」


「褒めてる」


「ありがとうございます」


 リリアも見ていた。


「似合っています」


「リリアに言われると、少し安心します」


「本当ですか?」


「はい」


 リリアは少し嬉しそうに微笑んだ。


 次にセリカさんが仮制服を着る。


 濃紺の上着に、動きやすい短めの外套。

 赤い髪との相性がいい。


 剣士らしい凛とした雰囲気がある。


「……格好いいですね」


 俺が言うと、セリカさんは顔を赤くした。


「可愛いじゃなくて?」


「あ、いや、可愛いもありますけど、まず格好いいが」


「そ、そう」


 なぜか少し満足そうだった。


 リリアが小さく笑う。


「セリカさんらしいです」


「あなたに言われると、悪い気はしないわね」


 そして、リリア。


 白い仮ケープを羽織った姿は、思った以上に目を引いた。


 聖女の服ではない。

 教会の白ではない。


 でも、彼女の髪とよく合っている。


 清らかというより、静かな冬の朝みたいだった。


 リリアは不安そうにこちらを見る。


「変ではありませんか?」


「全然」


 即答していた。


 リリアの目が少し丸くなる。


「似合っています。すごく」


「……ありがとうございます」


 リリアは頬を赤くしながら、ケープの端をそっと握った。


 セリカさんが俺を見る。


「即答だったわね」


「これは即答でしょう」


「まあ、分かるけど」


 セリカさんも素直に頷いた。


「似合ってるわ、リア」


「ありがとうございます」


 その時、頭の奥からミュレアの声がした。


『ほう。白き治癒師の制服姿か。妾も見たいぞ』


「駄目です」


『なぜじゃ』


「今いませんし」


『リンク越しに見せよ』


「そんな機能ありません」


『作れ』


「無茶言わないでください」


 ミュレアは不満そうだった。


『なら、妾の制服も用意せよ』


「なぜ」


『仲間外れは嫌じゃ』


 その言葉が、妙に素直だった。


 俺は一瞬、返事に詰まる。


 からかいのつもりかもしれない。

 でも、ミュレアは長く一人で封印されていた。


 仲間外れ、という言葉が冗談だけには聞こえなかった。


 リリアも何か感じ取ったのか、静かに言った。


「いつか、ミュレアさんにも似合う服を用意しましょう」


『本当か、白き治癒師』


「はい。ただし、治療と安定が進んでからです」


『むう。条件つきか』


「当然です」


 セリカさんも言う。


「制服は無理でも、外に出られるようになったら服は必要ね」


『赤き剣姫まで……ふふ、よい。約束じゃぞ』


 ミュレアの声は少し嬉しそうだった。


 俺は小さく息を吐く。


 魔王令嬢の服まで考えることになるとは。


 本当に、俺の静かな生活はどこへ行ったのか。


     ◇


 その日の夕方、王立学園への特別調査生申請書が完成した。


 名目はこうだ。


 レン・クロフォード。

 魔力感応および危険察知に特異適性を持つギルド推薦調査生。


 リア。

 聖属性治癒術に高い適性を持つギルド所属治癒術研修生。


 セリカ。

 剣術および迷宮実戦経験を有するギルド推薦剣術研修生。


 それぞれ、学園に短期間滞在し、旧研究棟に関する調査を行う。


 ……という表向きの話になっている。


 実際には、白灯商会と教会監察部、学園内協力者の不正を探る潜入調査だ。


 重い。


 制服採寸で少し騒いだ後に改めて考えると、かなり重い。


 ダリウスさんは申請書を封筒に入れ、封蝋を押した。


「明朝、王立学園へ使者を出す。早ければ明後日には返答が来る」


「明後日……」


 心の準備期間が短い。


 セリカさんが言う。


「それまでに学園の基本情報を頭に入れないと」


「勉強ですか」


「当然でしょ。貴族子弟も多い場所よ。変な作法で目立ったら困る」


「俺、もう目立つ気がします」


「諦めないで」


「それはセリカさんが言うんですね」


 リリアが小さく笑った。


「私も学園のことはあまり知りません。教会では、王立学園の話はあまり聞かされませんでした」


「教会と学園は別系統なんですか?」


 オルフェさんが答える。


「表向きは協力関係です。ただ、学園は王国直轄色が強い。教会が完全に支配しているわけではありません。だからこそ、白灯商会は旧研究棟を使ったのでしょう。目立ちにくい」


「学園内協力者というのは?」


「そこが問題です」


 オルフェさんは苦い顔をする。


「教師か、研究員か、事務方か、あるいは学生か。今の段階では分かりません」


 俺の視界に表示が浮かぶ。


王立学園内協力者

状態:不明

関連候補:旧研究棟管理者、聖属性魔道具研究会、白灯商会寄付枠

注意:学園内での不用意な接触は危険


 やっぱり簡単ではない。


 俺は表示を共有した。


 ダリウスさんは頷く。


「まずは旧研究棟管理者を探る。だが、いきなり踏み込むな。学園はギルドとは違う。貴族の子弟が多い分、面倒な横槍もある」


「貴族子弟……」


 嫌な響きだ。


 クロフォード家での記憶が蘇る。


 外れスキル。

 役立たず。

 兄の嘲笑。


 学園でも、似たようなことを言われるのだろうか。


 そう考えた瞬間、表示が出る。


注意:王立学園内でレンの能力を外れ扱いする者が出現する可能性

破滅フラグ:低

ざまぁ発生条件:実技試験、旧研究棟調査結果


 ざまぁ発生条件。


 表示の言い方が急に俗っぽい。


 俺は思わず額を押さえた。


「どうしました?」


 リリアが聞く。


「学園で俺の能力を外れ扱いする人が出る可能性があるみたいです」


 セリカさんが即座に言う。


「見る目がないわね」


「まだ出てません」


「出る前から言っておく」


 リリアも静かに言う。


「レンの力が人を助けることは、私たちが知っています」


「ありがとうございます」


 そう言われると、少しだけ怖さが薄れた。


 前なら、誰かに外れと言われた時点で心が折れていたかもしれない。


 でも今は、俺の力を見てくれた人たちがいる。


 リリア。

 セリカさん。

 エマさん。

 ギルド長。

 そして、ミュレアまで。


 ……ミュレアを入れていいのかは少し悩むが。


『当然入れるがよい』


「心を読まないでください」


『読んでおらぬ。勘じゃ』


「その勘、鋭すぎません?」


『妾は魔王令嬢じゃからな』


 万能の言い訳だ。


     ◇


 夜、俺たちはギルドの一室で学園資料を読むことになった。


 分厚い冊子。

 学園地図。

 主要教師一覧。

 研究棟の配置図。

 制服規定。

 食堂の利用方法。


 完全に入学前説明会である。


 俺は地図を見ながら、旧研究棟の位置を確認した。


 学園敷地の北西。

 本校舎から離れ、庭園と古い資料塔の奥にある。


 周囲には人気が少ない。


 いかにも何かありそうだ。


「ここ、夜に行くと絶対怖いですね」


 俺が言うと、セリカさんが即座に言った。


「夜に行く前提なの?」


「行く流れになりそうで」


「否定できないのが嫌ね」


 リリアが資料を覗き込む。


「旧研究棟の隣に、聖属性魔道具研究室があります」


「そこが怪しいですね」


「はい」


 表示も反応する。


聖属性魔道具研究室

関連度:高

注意:教会寄付資料あり

接触候補:天才魔導師生徒、研究室助手


 天才魔導師生徒。


 新しいヒロイン候補の気配がする。


 いや、考えすぎかもしれない。


 だが、俺の経験上、こういう表示はだいたい当たる。


 俺は黙っておこうとした。


 セリカさんがすぐ気づく。


「何か出た?」


「いえ」


「レン」


「出ました」


「早い」


 リリアが小さく笑う。


「何が出ましたか?」


「聖属性魔道具研究室に、天才魔導師生徒と研究室助手という接触候補が」


 セリカさんの眉が動く。


「天才魔導師生徒」


 リリアも静かに反応する。


「生徒、ですか」


 空気が少しだけ変わる。


 俺は慌てて言う。


「まだ会ってもいませんから」


「でも、レンの周りは出会ってからが早いです」


 リリアが静かに言う。


「そんなことは」


 セリカさんが指折り数え始めた。


「リア、私、エマ、ミュレア」


「……」


「早いわね」


「否定材料がない」


 俺は机に突っ伏したくなった。


 ミュレアが頭の奥で笑う。


『ふふ。学園でも増えるかもしれぬな、レン』


「増えません」


『本当に?』


「本当に」


 セリカさんとリリアが同時にこちらを見る。


「顔」


「声が弱いです」


「……努力します」


 俺は小さく答えた。


 静かな生活。


 それはもう難しいかもしれない。


 だが、せめて学園では大人しくしたい。


 そう願った瞬間、スキル表示が出た。


王立学園編

主要フラグ:実技試験、旧研究棟潜入、王女との接触、天才魔導師との接触

注意:初日から目立つ可能性あり


 初日から目立つ可能性あり。


 俺はそっと資料を閉じた。


「今日はもう寝ましょう」


 セリカさんが言う。


「逃げたわね」


「はい」


 リリアがくすりと笑う。


「でも、今日はそれでいいと思います」


「ありがとうございます」


 こうして、王立学園への潜入準備が始まった。


 白灯商会の証拠を追い、教会の不正を暴き、旧研究棟に眠る封印石の謎を探るため。


 表向きは特別調査生。


 実態は、かなり危険な潜入調査。


 そして俺は、最後に浮かんだ表示を見なかったことにした。


初日イベント:実技適性試験

レンの外れ扱い発生率:高

ざまぁ発生率:高


 ……やっぱり、普通の学園生活なんて無理そうだった。

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