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『前世で陰キャ非モテだった俺、異世界転生したら【好感度限界突破】で美少女たちが勝手に惚れてくるんだが!?〜外れスキル扱いされた俺、実は触れただけで才能覚醒させる最強チートでした〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第22話 教会からの引き渡し要求、全部まとめてお断りします

 会議室へ向かう廊下は、いつもより少し冷たく感じた。


 昼前のギルドは本来なら騒がしい。

 依頼帰りの冒険者が食堂で早めの酒を飲み、受付では報酬精算の声が飛び交い、掲示板前では次の獲物を探す連中が肩を寄せ合っている。


 だが、今は違った。


 空気が張っている。


 理由は分かっている。


 教会からの正式文書。


 逃亡中の元聖女リリア・セレスティアと思われる人物の引き渡し要求。

 古代迷宮封印対象ミュレア・ノクターンの教会管理下への移送要求。

 そして、俺――レン・クロフォードを異端容疑者として事情聴取する要求。


 俺は歩きながら、小さく息を吐いた。


「……俺も入ってるの、納得いかないんですが」


 隣を歩くセリカさんが即座に言う。


「むしろ当然じゃない?」


「当然ですか」


「好感度が見える、封印に干渉する、元聖女を助ける、魔王令嬢を繋ぎ止める。教会から見たら、危険人物そのものよ」


「言葉にされると最悪ですね」


「自覚が足りないよりはいいわ」


 正論が痛い。


 反対側を歩くリリアは、フードの奥で静かに前を見ていた。


 顔色は少し白い。

 だが、足取りは乱れていない。


「リリア」


 周囲に人が少ないことを確認して、小声で呼ぶ。


「はい」


「大丈夫ですか」


 リリアは一拍置いてから、頷いた。


「怖いです」


 正直な返事だった。


「でも、逃げたいとは思っていません」


 その言葉は、前よりもずっと強かった。


「教会に戻れば、私はまた聖女として扱われるのではなく、逃げた道具として扱われるのでしょう。もう、それは嫌です」


 静かな声だった。


 怒鳴らない。

 震えない。

 ただ、はっきりと拒む声。


 セリカさんが低く言った。


「戻す気なんてないわ」


「ありがとうございます」


「礼を言うところじゃない。仲間を売る趣味はないだけ」


「それでも、嬉しいです」


「……そういう返し、ずるいわね」


 セリカさんが少しだけ照れた顔をする。


 こういう時でも、二人の距離は少しずつ近づいている。


 俺はそれを見て、ほんの少しだけ安心した。


 その瞬間、セリカさんがこちらを睨む。


「何笑ってるの」


「いえ、仲良くなったなと」


「今それを言う?」


「すみません」


 リリアが小さく笑った。


 その笑みが見られただけで、少しだけ廊下の冷たさが薄れた気がした。


     ◇


 会議室には、すでに主だった面々が集まっていた。


 ギルド長ダリウスさん。

 魔法使いのオルフェさん。

 受付嬢のエマさん。

 数人のギルド職員。

 そして、昨夜も一緒だったガルムさんとニルさん。


 机の中央には、白い封筒が置かれていた。


 教会の紋章が押された封蝋。


 それだけで、リリアの肩がわずかに強張る。


 俺はそれに気づいたが、何も言わなかった。


 代わりに、彼女の隣に立つ。


 セリカさんも反対側に立った。


 リリアが小さく息を吸う音が聞こえた。


 ダリウスさんは全員が揃ったのを確認すると、文書を手に取った。


「内容は先ほどエマが読み上げた通りだ。だが、正式にもう一度確認する」


 低い声で、文書が読み上げられる。


 逃亡した元聖女リリア・セレスティアは、教会管理下にある重要人物であり、王都冒険者ギルドが身柄を保護している場合は速やかに引き渡すこと。


 古代迷宮の封印対象ミュレア・ノクターンは、魔族王家に連なる危険存在であり、教会の封印管理部署へ移送すること。


 レン・クロフォードは、未登録の異能を用いて聖女および封印対象に干渉した疑いがあり、異端審査のため事情聴取に応じること。


 読み上げが終わった瞬間、会議室は静まり返った。


 エマさんが唇を引き結んでいる。


 セリカさんの手は、もう剣の柄に近い位置にあった。


 リリアは俯いていない。


 文書を見ていた。


 逃げずに。


 ダリウスさんは文書を机に置いた。


「以上だ」


 ガルムさんが鼻を鳴らした。


「ずいぶん勝手な文だな」


 ニルさんも肩をすくめる。


「要求というより命令ですね」


「教会は昔からそういうところがある」


 ダリウスさんの声は冷たかった。


「自分たちが正しいと思った瞬間、相手の都合を消す」


 リリアの指が小さく動いた。


 俺は口を開いた。


「ギルド長」


「何だ」


「俺は、事情聴取に行くべきなんでしょうか」


 言った瞬間、セリカさんがこちらを見た。


「は?」


 かなり低い声だった。


 リリアも驚いたように俺を見る。


 俺は慌てて続けた。


「いや、行きたいわけじゃありません。ただ、俺が行かないことでギルドに迷惑がかかるなら」


「レン」


 リリアの声が静かに割り込んだ。


 怒っているわけではない。


 でも、強い。


「それは、迷惑ではありません」


「でも」


「誰かに迷惑をかけたくないから、自分を差し出すのは違います」


 その言葉は、まっすぐ胸に刺さった。


 以前、俺がエマさんに言ったことと似ている。


 一人で抱え込まない方がいい。

 自分だけで背負わない方がいい。


 なのに俺は、気づけば同じことをしようとしていた。


 セリカさんも言う。


「あなた、また自分を軽く扱おうとしたわね」


「……少し」


「少しじゃない」


「はい」


「反省」


「はい」


 完全に叱られている。


 でも、不思議と嫌ではなかった。


 ダリウスさんは腕を組んだまま、俺を見ていた。


「レン。ギルドは所属冒険者を、正式な手続きなしに他組織へ差し出す場所ではない」


「はい」


「リアも同じだ。ギルド所属の治癒師として登録されている。教会の言い分だけで引き渡す理由はない」


 リリアの目が少し揺れた。


「そしてミュレアに関しては、教会が封印石の不正利用に関与している疑いがある。そんな相手に封印対象を渡すなど論外だ」


 セリカさんが頷く。


「当然ね」


 ダリウスさんは、教会の文書を指で叩いた。


「返答は拒否だ。ただし、感情的に突っぱねるだけでは足元をすくわれる。こちらも証拠と理屈を揃える」


 オルフェさんが資料を広げる。


「押収した対聖女用呪具、偽装封印石、白灯商会との取引記録。これらを整理すれば、教会側の要求が不当であると示せます」


 エマさんが記録用紙を手に頷いた。


「黒蛇金融商会の不正契約も、白灯商会との繋がりが見えています。正式な報告書にまとめます」


 エマさんの声は、昨日までよりしっかりしていた。


 自分を縛っていた問題が、今は大きな不正を暴く糸口になっている。


 彼女自身も、それを分かっているのだろう。


「私も証言します」


 リリアが言った。


 会議室の視線が集まる。


「教会で、私がどのように扱われたか。聖具と呼ばれた呪具をつけられ、聖力を失い、偽物として扱われたこと。すべて話します」


 俺は少し驚いた。


「リリア、本当に?」


「はい」


 彼女は頷いた。


「怖いです。でも、私が黙れば、同じことがまた起きるかもしれません」


 その声に迷いはあった。


 でも、逃げはなかった。


 セリカさんが静かに言う。


「無理はしないで。話す時は、私たちも一緒にいる」


「ありがとうございます」


 リリアは小さく微笑んだ。


 ダリウスさんも頷く。


「証言は慎重に扱う。外へ出す範囲はこちらで調整する。リアの安全を最優先だ」


「はい」


 その時、俺の視界に表示が浮かんだ。


リリア・セレスティア

状態:恐怖、決意

備考:自分の過去を証言することで、同じ被害を止めたいと思っています


 俺は胸の奥が熱くなった。


 助けられる側だった彼女が、誰かを助ける側へ進もうとしている。


 その姿は、前よりずっと強かった。


     ◇


 会議が進むにつれ、状況は少しずつ整理されていった。


 教会への正式返答は、ギルド長名義で出す。


 内容は三点。


 一つ、リアは王都冒険者ギルド所属の治癒師であり、本人の意思に反して引き渡す理由はない。

 二つ、ミュレア・ノクターンは現在、古代迷宮封印事件の重要参考対象であり、教会関係者による封印術式干渉疑惑があるため、教会管理下への移送は認めない。

 三つ、レン・クロフォードへの異端容疑については根拠不明であり、冒険者ギルドへの正式照会手続きを経ずに身柄要求を行うことは認められない。


 要するに、全部まとめてお断りである。


 言葉はずっと丁寧だが、中身はかなり強い。


 ダリウスさんは文案を確認しながら言った。


「これで教会が引き下がるとは思えん」


「次はどう出ますか」


 セリカさんが尋ねる。


「表向きは交渉。裏では揺さぶりだろうな。リアの正体を広める、レンを異端だと噂させる、ミュレアを危険な魔族として王国へ訴える。やりようはいくらでもある」


「面倒ですね」


 俺が言うと、ダリウスさんは少しだけ笑った。


「お前が言うと実感がこもるな」


「最近、面倒ごとしか起きていないので」


「慣れろ」


「慣れたくないです」


 会議室に少しだけ笑いが起きた。


 その緩みが、ありがたかった。


 だが、すぐにオルフェさんが表情を引き締める。


「もう一つ問題があります。ミュレアの存在安定です」


 俺は嫌な予感がした。


 オルフェさんは資料を見ながら言う。


「現在、ミュレアは迷宮封印区画に留め置かれていますが、封印術式の再定義にはレンさんとのリンクが深く関わっています。このまま長時間離れた場合、封印が不安定化する可能性があります」


「やっぱりそうですか」


「はい。最低限、一日に一度は状態確認が必要です」


 リリアとセリカさんの視線がこちらへ向く。


 俺は両手を上げた。


「一人では行きません」


「よろしい」


「分かっているならいいです」


 二人の返事が早い。


 完全に監視体制ができている。


 ダリウスさんは続けた。


「ミュレアをいつまでも迷宮内に置くのも危険だ。教会や白灯商会が再び手を出す可能性がある」


「移送するんですか?」


「その検討に入る。候補はギルド地下の封印室、あるいは王国管理の特別保護施設だ」


 王国管理。


 新しい単語に、少し緊張する。


「王国も動くんですね」


「当然だ。魔王令嬢、教会不正、古代迷宮封印。王国が知らん顔できる規模ではない」


 セリカさんが少し眉を寄せる。


「王国が介入すれば、貴族も動きますね」


「そうなる」


「ヴァンブレイド家にも話が行くかもしれない」


「可能性はある」


 セリカさんの表情が硬くなった。


 彼女の実家。


 魔法の使えない娘を落ちこぼれとして扱った家。


 その家が、今のセリカさんを見たらどうするのか。


 手のひらを返すのか。

 利用しようとするのか。

 それともまた否定するのか。


 俺には分からない。


 セリカさん自身も、きっと分からないのだろう。


 リリアがそっと言った。


「セリカさん」


「大丈夫よ」


「本当に?」


「……少し嫌なだけ」


 正直な答えだった。


 リリアは頷いた。


「嫌なことは、嫌と言っていいと思います」


「あなたが言うと重いわね」


「経験者なので」


 二人の間に、短い沈黙があった。


 でもそれは、気まずい沈黙ではなかった。


 同じように何かから離れ、自分の立ち位置を探している者同士の沈黙だった。


 俺は口を挟まなかった。


 代わりに、セリカさんの表示を見る。


セリカ・ヴァンブレイド

状態:不安、警戒、決意

備考:実家に利用されることを恐れているが、逃げるだけではいたくないと思っています


 セリカさんもまた、逃げないことを選び始めている。


 俺だけが逃げ腰ではいられない。


     ◇


 会議の最後に、ダリウスさんは俺たち三人を見た。


「お前たちには、しばらく一つの班として動いてもらう」


「監視班ですか?」


 俺が聞くと、ダリウスさんは頷いた。


「ミュレア監視、リアの保護、レンの能力調査、教会関連証拠の整理。全部つながっている。バラバラに扱うより、一つの班として管理した方がいい」


「管理という言葉、少し怖いですね」


「所有ではない」


 その一言に、リリアがわずかに反応した。


 ミュレアの言葉が、ダリウスさんにも残っているのだろう。


「ギルドは、お前たちを所有しない。だが、安全のために管理と支援はする」


「……分かりました」


 俺は頷いた。


 リリアも、セリカさんも頷く。


 ダリウスさんは続けた。


「班名は仮で、古代迷宮特別調査班」


「急に正式っぽくなりましたね」


「必要だからな」


「俺、登録してまだ数日なんですが」


「数日でこれだけ問題を拾う新人は初めてだ」


「拾いたくて拾ってません」


「分かっている。だからこそ放っておけん」


 そう言われると、もう何も言えない。


 エマさんが記録を取りながら、少しだけ笑っていた。


「レンさんらしいですね」


「エマさんまで」


「すみません。でも、本当に」


 俺は肩を落とした。


 リリアが静かに言う。


「レンは、困っている人を見つけるのが上手いのだと思います」


 セリカさんが続ける。


「そして放っておけない」


「結果、こうなるわけですね」


「そうね」


「はい」


 二人が同時に頷いた。


 もう反論する気力がない。


 でも、嫌ではなかった。


 この班が、自分を縛る鎖ではなく、支えてくれる枠組みになるなら。


 それは、悪いことではないのかもしれない。


     ◇


 会議が終わった後、俺たちは食堂へ降りた。


 教会からの文書の件はまだ伏せられているが、ギルド内にはすでに緊張が広がっている。


 俺たちが席に着くと、周囲の冒険者たちがちらちら見てきた。


 以前のような軽口は少ない。


 代わりに、何か大きなことが起きていると察している目だった。


 俺はパンをちぎりながら、小さく呟く。


「また目立ちますね」


 セリカさんが水を飲む。


「今さら」


「その二文字、強いですね」


「便利よ」


 リリアがスープを口にしながら言う。


「でも、今は目立つことにも意味があるかもしれません」


「意味?」


「私たちが隠れて震えているだけではないと、教会に示すことになるから」


 リリアの声は静かだった。


「もちろん、危険はあります。でも、隠れているだけでは、相手の言う通りになってしまう」


「……強くなりましたね」


 俺が言うと、リリアは少し困ったように微笑んだ。


「まだ怖いです」


「それでもです」


「なら、レンのおかげです」


 不意に言われて、俺は固まった。


 セリカさんがこちらを見る。


 エマさんがちょうど料理を運んできたところで、少し微笑む。


 リリアは自分で言ってから少しだけ頬を染めた。


「……今のは、その、助けてもらったという意味で」


「分かっています」


「本当に?」


「分かっているつもりです」


 セリカさんがじとっとした目を向ける。


「レン、顔が赤い」


「スープが熱くて」


「まだ飲んでないでしょ」


「湯気で」


「苦しいわね」


 エマさんがくすりと笑った。


「皆さん、少し安心しました」


「え?」


「会議室に向かう時、とても張り詰めていたので」


 エマさんは机に皿を置いた。


「こうして普通に話しているのを見ると、少しだけ安心します」


 普通に話す。


 それだけのことが、今は大事だった。


 俺はパンを口に入れた。


 少し硬い。


 けれど、噛むほどに小麦の味が広がった。


 こういう小さな現実が、心を地面につなぎ止めてくれる。


 その時、頭の奥に声が響いた。


『レン』


 ミュレアだ。


 声はもう弱々しくない。


 少し眠そうで、退屈そうで、いつもの調子に戻りつつある。


「何ですか」


 俺が小声で返すと、リリアとセリカさんが同時にこちらを見る。


「ミュレア?」


「来たの?」


「声だけです」


 ミュレアは楽しそうに笑った。


『何やら、妾を差し置いて楽しそうではないか』


「食事中です」


『妾はまだ何も食べておらぬ』


「魔王令嬢って食事するんですか?」


『するに決まっておる。失礼な男じゃな』


「すみません」


『甘いものがよい』


「急に要求が具体的」


 セリカさんが呆れたように言う。


「封印中の魔王令嬢が食べ物の注文?」


 ミュレアの声が返る。


『赤き剣姫、聞こえておるぞ。妾は長く封じられていたのじゃ。少しくらい甘やかされてもよかろう』


 リリアが静かに言う。


「甘いものは、身体が安定してからです」


『白き治癒師まで厳しい』


「治癒師として当然です」


『むう』


 ミュレアが本気で不満そうな声を出した。


 思わず笑いそうになる。


 だが、次の瞬間、ミュレアの声が少し低くなった。


『レン』


「はい」


『教会が動いたな』


 食堂の空気が、俺たちの周りだけ静かになった気がした。


「分かるんですか」


『封印越しでも、あやつらの匂いは覚えておる。白い衣の奥に、古い欲が染みついておる』


「……そうですか」


『気をつけよ。奴らは正しさの名を使う。正しい管理、正しい救済、正しい封印。そう言いながら、相手の名を奪う』


 リリアの表情が強張った。


 ミュレアの声は、少しだけ優しくなる。


『白き娘。そなたも知っておろう』


「はい」


『ならば忘れるな。そなたの名は、そなたのものじゃ』


 リリアは目を見開いた。


 ミュレアが、からかわずに言った。


 リリアは少しだけ間を置き、小さく答える。


「……ありがとうございます」


『礼はいらぬ。妾も自分に言っておるだけじゃ』


 ミュレアの声がふっと軽くなる。


『では、甘いものを忘れるでないぞ、監視者殿』


「結局そこに戻るんですね」


『大事じゃ』


 声が遠ざかっていく。


 俺は小さく息を吐いた。


 セリカさんが腕を組む。


「魔王令嬢、案外まともなことも言うのね」


「案外と言ったら怒られますよ」


「聞こえてるかしら」


『聞こえておるぞ』


 まだいた。


 セリカさんが少しだけ眉を上げる。


「じゃあ言うわ。案外、悪くない助言だった」


『ふふ。赤き剣姫に褒められたか。今日は良き日じゃな』


 今度こそ声が消えた。


 リリアはしばらく黙っていた。


 それから、自分の胸元に手を当てる。


「私の名は、私のもの」


 小さな声だった。


 俺は聞こえないふりをした。


 たぶん、それは彼女自身に向けた言葉だったから。


     ◇


 午後になると、教会への返答文書が正式に送られた。


 内容は予定通り。


 引き渡し要求を拒否。

 ミュレア移送要求を拒否。

 俺への異端容疑事情聴取も拒否。


 ただし、完全拒絶ではなく、教会が保有する関係資料の提出、白灯商会との関係説明、対聖女用呪具に関する見解提出を求める形になっている。


 強い。


 かなり強い。


 ダリウスさんは本気で教会とやり合うつもりらしい。


 そして夕方前、返答文書を運んだギルド使者が戻ってきた。


 その顔は、かなり険しかった。


「ギルド長。教会側は、明日、正式使節を送るとのことです」


「早いな」


「はい。使節の代表は、聖務監察官マルクス・グレイ。随行者には白灯商会の顧問魔術師も含まれると」


 白灯商会。


 その名が出た瞬間、会議室にいた全員の表情が変わった。


 俺の視界に、赤い表示が浮かぶ。


新規敵対候補:マルクス・グレイ

役職:教会聖務監察官

状態:接近中

目的:リリア回収、ミュレア移送、レン査問

危険度:高


 来る。


 教会が、正面から。


 俺は表示を見つめながら、乾いた喉を鳴らした。


 セリカさんが隣で剣の柄に手を置く。


「明日ね」


 リリアは静かに頷く。


「逃げません」


 俺も杖を握った。


 怖い。


 もちろん怖い。


 でも、逃げないと決めた人たちの隣で、一人だけ後ろを向くわけにはいかなかった。


「俺も行きます」


 セリカさんがこちらを見た。


「当然」


 リリアも言う。


「一緒に」


 その言葉に、少しだけ力が戻った。


 俺たちは、明日やって来る教会使節を迎える準備に入る。


 魔王令嬢を巡る問題は、迷宮の中だけでは終わらなかった。


 次に始まるのは、王都の表舞台での戦い。


 剣や魔法だけではなく、言葉と証拠と立場がぶつかる戦いだった。

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