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『前世で陰キャ非モテだった俺、異世界転生したら【好感度限界突破】で美少女たちが勝手に惚れてくるんだが!?〜外れスキル扱いされた俺、実は触れただけで才能覚醒させる最強チートでした〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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11/13

第11話 俺は静かに暮らしたいだけなんだが

 翌朝、俺はセリカさんに叩き起こされた。


 比喩ではない。


 本当に、扉が叩かれた。


 どんどんどん、と宿の部屋の扉が鳴った瞬間、俺はベッドの上で飛び起きた。


「敵襲!?」


「違うわよ。朝よ」


 扉の向こうから、やけに元気な声が返ってくる。


 セリカさんだった。


 部屋の中を見る。


 リリアはベッドの上で上体を起こし、目をこすっている。

 銀の髪が少し乱れていて、普段よりもずっと年相応に見えた。


「……朝?」


「朝です」


「レン、今、敵襲って言った?」


「言いました」


「宿で目覚めて最初の言葉がそれなのね」


「昨日の夜、本当に魔物が出たので」


「それは、そう」


 リリアは納得したような、納得したくないような顔をした。


 扉の向こうでセリカさんが言う。


「二人とも、早く起きなさい。訓練場が混む前に行くわよ」


「本当に朝から訓練なんですね……」


「昨日言ったでしょう」


「言いましたけど」


「逃げなかったのは偉いわ」


「逃げる前に叩き起こされました」


 扉越しに、セリカさんが笑った気配がした。


 楽しそうで何よりである。

 俺は全然楽しくない。


 リリアはベッドから降り、簡単に身支度を始めた。

 外では「リア」と名乗るため、今日もフード付きの外套を羽織る。


 俺も顔を洗い、服を整え、荷物の中からハンクにもらった杖を手に取った。


 昨日、グラウルベアと戦い、宿の魔物騒ぎでも使った杖だ。

 普通の木の杖に見えるが、俺にとってはもうかなり頼れる相棒だった。


「レン」


 リリアが俺の袖を軽く引く。


「はい」


「眠れた?」


「少しは」


「本当?」


「……半分くらい」


「半分」


「同じ部屋に二人も女性がいて、熟睡できるほど俺の精神は強くないです」


 言ってから、しまったと思った。


 リリアが少しだけ頬を赤くする。


「そ、そう」


「今のは、変な意味ではなく」


「分かってる」


「本当に」


「分かってる」


 分かっていると言いながら、リリアも少し動揺している。


 スキル表示が出る。


リリア・セレスティア

好感度:123

状態:寝起き、軽い照れ

備考:レンが同室を意識していたことを知り、自分も少し意識しています


 朝から見る情報ではない。


 俺はそっと視線を逸らした。


「また見た?」


「……寝起きって出てました」


「それだけ?」


「はい」


「嘘が下手」


「すみません」


 リリアは少しだけ笑った。


 こういうやり取りにも慣れてきた気がする。

 いや、慣れてはいない。

 心臓は相変わらず忙しい。


 でも、以前のように何も言えなくなるほどではなくなっていた。


 扉を開けると、セリカさんが腕を組んで待っていた。


 昨日とは違い、軽い訓練着姿だ。

 赤い髪はきっちり結い上げられている。


「遅い」


「まだ朝食前ですよね」


「訓練してから食べるのよ」


「逆では?」


「戦場では、いつでも食べられると思わないことね」


「ここは宿です」


「屁理屈を言わない」


 完全に訓練教官の顔である。


 リリアが横から静かに言った。


「セリカさん、レンは昨日から働きすぎています。ほどほどでお願いします」


「分かってるわ。まずは軽く走って、素振りして、受け身を見て、足運びを確認して、最後に模擬戦を少しだけ」


「それは軽いんですか?」


 俺が聞くと、セリカさんは真顔で答えた。


「軽いわ」


 価値観が違う。


 騎士の軽いは信用できない。


     ◇


 ギルド裏の訓練場に着くと、すでに数人の冒険者がいた。


 昨日のグラウルベア討伐の噂が広がっているのか、俺たちが入った瞬間、何人かがこちらを見た。


「おい、あれだろ。測定石を割った新人」


「東の森でグラウルベア倒したってやつ?」


「隣の治癒師もすごかったらしいぞ」


「セリカと一緒にいた連中か」


 やめてほしい。


 心からやめてほしい。


 目立ちたくないという俺の願いは、王都二日目にしてすでに粉々になりかけている。


 セリカさんは気にした様子もなく木剣を取り、俺に一本渡した。


「まず走るわよ」


「木剣は?」


「持ったまま」


「なぜ」


「慣れるため」


「なるほど」


 分かりたくなかった。


 訓練場の外周を走る。


 一周目はまだよかった。

 二周目で足が重くなった。

 三周目で息が切れた。


 セリカさんは平然と走っている。

 リリアも見学かと思いきや、俺より少し後ろを軽く走っている。


「リリア、無理しないでください」


「リア」


「あ、すみません。リア、無理しないでください」


「レンの方が無理してる」


「俺は今まさに無理してます」


「自覚があるなら、呼吸を整えて」


 リリアに優しく正論を言われる。


 セリカさんは前から振り返った。


「会話する余裕があるなら、もう一周追加ね」


「ありません!」


「今、返事した」


「罠だ!」


 訓練場の隅で見ていた冒険者たちが笑った。


 俺は情けない息を吐きながら、それでも何とか走り切った。


 次は素振り。


 セリカさんの指導は厳しかったが、理不尽ではなかった。


「腕だけで振らない。足から動かす」


「はい」


「予測できても、身体が遅ければ意味がない」


「はい」


「肩に力が入りすぎ。死ぬほど緊張してる」


「死ぬほどは」


「してる」


「はい」


 反論してもだいたい負ける。


 リリアは横で支援魔法の練習をしていた。


 白い光を細く伸ばし、俺の動きを補助する。

 昨日の戦闘で使った支援を、より安定させる練習らしい。


 時々、俺の身体が急に軽くなる。


「あ、今の良かったです」


 俺が言うと、リリアは少し嬉しそうにした。


「本当?」


「はい。足がかなり楽に」


「もう少し弱めた方がいい? 強すぎると、身体の感覚がずれるかもしれない」


「そこまで考えられるんですか」


「昨日、レンが動きにくそうだったから」


 リリアは真剣だった。


 教会の聖女としてではなく、冒険者パーティーの支援役として、自分の力を使おうとしている。


 それが少し眩しかった。


 セリカさんも、リリアの支援を受けながら頷く。


「リアの支援は筋がいいわ。前に出るタイプじゃないけど、味方の動きをよく見てる」


「ありがとうございます」


「でも、レンに意識を向けすぎ」


 リリアが固まった。


「え?」


「支援対象がレンに偏ってる。私への支援が半拍遅れる時がある」


「……それは」


「戦闘中は、公平に見なさい」


「はい」


 リリアは素直にうなずいた。


 だが、耳が少し赤い。


 俺は何も見なかったことにした。


リリア状態:反省、照れ

備考:無意識にレンを優先していたことに気づき動揺しています


 やめろ、表示。


 心臓に悪い。


 今度はセリカさんが俺の方を見る。


「レンも同じ」


「俺も?」


「あなた、危険が見えるのはいいけど、リアへの危険に反応しすぎ。昨日の宿の魔物戦でも、視線がまずリアに行ってた」


「それは、リリア……リアが狙われていたので」


「私が狙われた時は?」


「もちろん助けます」


「一瞬遅い」


「すみません」


「謝るんじゃなくて、直すの」


「はい」


 セリカさんの指摘は鋭い。


 俺は自分では公平に動いているつもりだった。

 でも、たしかにリリアが狙われると、頭が真っ白になりやすい。


 それは、彼女を最初に助けた相手だからなのか。

 好感度が高いのを知ってしまっているからなのか。

 それとも、単に俺が彼女を放っておけないからなのか。


 考えかけて、すぐやめた。


 訓練中に考える内容ではない。


 セリカさんが木剣を構える。


「最後に模擬戦」


「最後なんですね」


「午前の最後ね」


「午前」


「午後もあるわよ」


「そんな気はしてました」


 訓練場の隅で、見物していた冒険者たちが増えている。


 なぜだ。


 昨日より多い。


「あの、見物人が」


「気にしない」


「気になります」


「実戦では、周囲の視線なんて気にしていられないわ」


「実戦と訓練場は違うと思います」


「気にしない」


 強い。


 俺は木剣を構えた。


 セリカさんは真剣な目をしている。


セリカ・ヴァンブレイド

好感度:84

状態:集中、期待

備考:レンが昨日より少しでも動けるようになっているか楽しみにしています


 楽しみにしているらしい。


 訓練で人の成長を見るのが好きなのかもしれない。


 セリカさんが踏み込む。


 昨日より少しだけ遅い。

 いや、俺に合わせてくれている。


攻撃:中段

推奨:受け流し、右足前進


 俺は受け流して、一歩前に出る。


 昨日はここで下がった。


 今日は前へ。


 木剣を返す。


 セリカさんは軽く受けた。


「いいわ。その一歩」


「ありがとうございます」


「でも遅い」


「はい」


 木剣が横から飛んでくる。


 俺はかろうじて避ける。


 リリアの支援が背中に乗る。


 身体が少し軽い。


 足が動く。


 セリカさんの三撃目が来る。


 昨日なら体勢を崩していたところだ。


 今日は、踏みとどまった。


 反撃はできない。


 でも倒れなかった。


 セリカさんの口元がわずかに上がる。


「上出来」


 その一言が、妙に嬉しかった。


 直後、足を払われた。


「うわっ!」


 俺はまた砂地に転がる。


 昨日のような装備トラブルは起きなかった。

 よかった。

 本当によかった。


 セリカさんが木剣を肩に担ぐ。


「調子に乗ると足元がおろそか」


「褒めてから落とすの、やめてもらえませんか」


「印象に残るでしょう?」


「残ります」


 リリアが駆け寄ってくる。


「大丈夫?」


「砂まみれですが、生きています」


「よかった」


 彼女が手を差し出してくれた。


 俺はその手を取って立ち上がる。


 柔らかい手だった。


 ……いや、訓練中だ。

 考えるな。


 セリカさんがじっと見ている。


「……何ですか」


「別に」


「今、何か言いたそうでした」


「別に」


 リリアも少しだけ視線を逸らした。


 まただ。


 またこの空気だ。


 周囲の冒険者たちが、妙ににやにやしている。


 その中の一人が言った。


「新人くん、朝から両手に花だな」


 俺は固まった。


 リリアの表情が静かになる。

 セリカさんの眉がぴくりと動く。


 まずい。


 これは、何かまずい。


 俺が何か言う前に、セリカさんがその冒険者へ木剣を向けた。


「今、何か言った?」


「い、いや、褒めただけだって」


「なら、次は私と訓練する?」


「遠慮します」


 冒険者は即座に退散した。


 リリアは穏やかに微笑んだまま、俺に付いた砂を払ってくれる。


「レンは、すぐからかわれますね」


「昔からそうです」


「嫌なら言っていいのよ」


「言う前にセリカさんが剣を向けました」


「助かりましたね」


「はい」


 セリカさんは少し照れたように顔を逸らす。


「別に、あなたのためじゃないわ。訓練場でくだらない茶々を入れられるのが嫌だっただけ」


セリカ状態:照れ隠し

備考:レンがからかわれたことに少し腹を立てています


 分かりやすい。


 いや、俺が言えたことではないが。


     ◇


 訓練が終わる頃には、俺の足は棒のようになっていた。


 ギルドの食堂で朝食兼昼食を取ることになったが、椅子に座った瞬間、身体が沈んだ。


「動けない……」


「まだ午前よ」


 セリカさんが水を飲みながら言う。


「午前だけで一日分動きました」


「普段どれだけ動いてなかったのよ」


「前世……昔から運動は得意では」


「また昔の話?」


 リリアが少しだけ首を傾げる。


 俺はごまかすようにパンを口に入れた。


 ギルド食堂のパンは硬めだが、スープに浸すとうまい。

 ボルド料理長の味には及ばないが、これはこれで旅人向きの味だった。


 食べながら、周囲の視線がこちらに向いているのを感じる。


 昨日のグラウルベア討伐。

 夜の宿でのナイトグリム退治。

 今朝の訓練。


 噂が広がる条件が揃いすぎていた。


 聞きたくなくても、耳に入ってくる。


「測定不能の新人だってよ」


「白髪の治癒師も相当だぞ」


「セリカがあんなに楽しそうに訓練してるの久々に見たな」


「あいつら、パーティー組むのか?」


「美少女二人に囲まれてる新人、何者だよ」


 最後のやつ、やめてほしい。


 俺はスープに視線を落とす。


「目立ちたくない……」


 小さく呟くと、リリアが言った。


「もう無理だと思う」


「三回目ですね」


「大事なことだから」


 セリカさんも頷く。


「諦めなさい。目立たずに生きるには、あなたの行動が派手すぎる」


「行動は地味なつもりなんですが」


「災害級魔物を倒して、宿の魔物を退治して、訓練場で騎士と模擬戦する新人は地味じゃないわ」


「並べると確かに」


「並べなくてもよ」


 正論が刺さる。


 その時、受付の方からエマさんが歩いてきた。


 昨日より少し顔色が悪い。


 いや、俺には表示も見えている。


エマ・リント

好感度:9

状態:睡眠不足、金銭的不安

破滅フラグ:二日後、悪徳金融業者に連行される

進行度:上昇

備考:借用証書の件を相談すべきか迷っています


 昨日は三日後だった。


 残り二日になっている。


 時間が進んでいるのだから当然だが、数字で見えると焦る。


 エマさんは俺たちの席まで来ると、少し声を落とした。


「レンさん。少し、お時間よろしいでしょうか」


「はい」


 俺はすぐに立とうとしたが、足が重くて少しよろけた。


 リリアが支えてくれる。


「大丈夫?」


「訓練の後遺症です」


 セリカさんが涼しい顔で言う。


「まだ軽い方よ」


「これで?」


「ええ」


 明日以降が怖い。


 エマさんは少し心配そうに俺を見た。


「お疲れのところすみません」


「いえ。借用証書の件ですか」


 エマさんの表情が強張る。


 周囲に聞こえないよう、俺は声を下げた。


「場所を変えた方がいいですね」


 エマさんは小さく頷いた。


 俺たちはギルドの奥にある小さな相談室へ案内された。


 リリアとセリカさんも一緒だ。


 エマさんは最初、二人を同席させるか迷ったようだったが、俺が信用できる相手だと伝えると、深く息を吐いて席に着いた。


 彼女は鞄から一枚の書類を出した。


「昨日、レンさんが言っていた不正な借用証書という言葉が気になって、夜にもう一度確認しました」


 机の上に置かれた書類。


 数字が細かく書かれている。

 俺はそれを見た瞬間、表示が出た。


不正箇所:利息計算改ざん

不正箇所:返済期限の一方的短縮

不正箇所:保証人欄の偽造

対処法:ギルド規約第十八条、王都金融取締令違反の可能性

証拠:初回契約控えとの差異確認


 かなり具体的に出た。


 ありがたいが、情報量が重い。


「これ、元の契約書の控えはありますか?」


 俺が聞くと、エマさんは目を見開いた。


「あります。家に」


「それと見比べれば、不正が分かるはずです。利息の計算と返済期限、それから保証人欄」


 エマさんの顔色が変わる。


「保証人欄……」


「心当たりが?」


「父の名前が書かれています。でも、父はもう亡くなっています。契約した時点では、すでに」


 セリカさんが低く言った。


「偽造ね」


 リリアも表情を引き締める。


「ひどい」


 エマさんは唇を噛んだ。


「母の治療費で借りたお金でした。返しても返しても、利息が増えて……でも、私が無知だったから仕方ないのだと思っていました」


「仕方なくありません」


 リリアが静かに言った。


「人の弱みに付け込むのは、仕方ないことではありません」


 その声には、昨日までの彼女自身の痛みが重なっていた。


 エマさんは少し驚いたようにリリアを見る。


「リアさん……」


「すみません。強く言いすぎました」


「いえ。ありがとうございます」


 俺は書類を確認しながら言う。


「ギルドに相談できますか?」


 エマさんは迷った。


「受付担当が私的な借金問題を持ち込むのは」


「悪徳業者がギルド職員を脅しているなら、私的な問題だけではないわ」


 セリカさんが言う。


「冒険者ギルドの信用にも関わる。隠して悪化させる方がまずい」


「でも」


「エマさん」


 俺はできるだけ落ち着いて言った。


「このままだと、二日後にかなり危険なことになると思います」


 エマさんの顔が青くなる。


「二日後……」


「何か、来る予定が?」


「返済期限です。でも、とても払える額では」


「なら、今日中に動いた方がいいです」


 エマさんは震える手で書類を握った。


「どうして、そこまで分かるのですか」


「俺のスキルです」


「好感度を見るスキル、でしたよね?」


「それだけじゃないみたいで」


 説明するたびに、自分でもよく分からなくなる。


 エマさんは少しだけ笑った。


「測定石を割るわけですね」


「それは忘れてください」


「無理です」


 リリアとセリカさんが同時にうなずいた。


 味方がいない。


 最終的に、エマさんはギルド長に相談することを決めた。

 俺たちは証拠確認のため、今日の夕方にエマさんの家へ同行することになった。


 また予定が増えた。


 静かに暮らしたいだけなのに。


     ◇


 相談室を出ると、ギルド内の空気が少し慌ただしくなっていた。


 受付の奥で職員たちが走っている。

 掲示板の前には、何人かの上位冒険者が集められていた。


 エマさんが職員の一人に声をかける。


「何かあったんですか?」


「王都北東の古代迷宮で異常反応だ。封鎖していたはずの下層扉が開いたらしい」


 古代迷宮。


 その単語に、セリカさんが反応した。


「北東の古代迷宮って、王都地下に繋がっているって噂の?」


「噂じゃなくて一部は本当だ。だからギルドと王国が共同管理してる。今、緊急調査隊を組むって話になってる」


 職員は俺たちを見た。


「ああ、ちょうどいい。レンさんたちはギルド長から呼び出しが出てる」


「俺たち?」


「昨日のグラウルベア討伐と宿の魔物騒ぎの件も含めて、話を聞きたいらしい」


 ギルド長。


 嫌な予感しかしない。


 俺はリリアとセリカさんを見る。


 リリアは少し緊張した顔。

 セリカさんは真剣な顔だった。


「行くしかないわね」


「ですよね」


 俺たちはギルドの二階へ案内された。


 そこにいたのは、大柄な中年男性だった。


 短く刈った灰色の髪。

 鋭い目。

 片頬に古い傷跡。

 見るからに元冒険者という雰囲気だ。


 頭上に表示が浮かぶ。


名前:ダリウス・ガルド

役職:王都冒険者ギルド長

状態:警戒、興味

好感度:10

備考:測定不能の新人たちを見極めようとしています


 ギルド長ダリウスは、俺たちを見るなり言った。


「お前が測定石を割った新人か」


「はい。弁償は」


「いらん。あれはお前のせいというより、石の方が耐えられなかっただけだ」


「そうなんですか」


「そういうことにしておけ」


 いいのだろうか。


 ダリウスは次にリリアを見る。


「そちらの治癒師は、リアで間違いないな」


「はい」


「昨日の救助者三名、お前の治癒で命を拾った。礼を言う」


 リリアは少し驚いた後、丁寧に頭を下げた。


「私にできることをしただけです」


「できることの範囲が広すぎるがな」


 ダリウスは短く笑い、次にセリカさんを見る。


「セリカ。久しぶりに顔色がいいな」


「そう見えますか」


「見える。東の森で何か掴んだか」


 セリカさんは一瞬、俺の方を見た。


 それから、まっすぐ答えた。


「はい。少しだけ、自分の剣を信じられました」


 ダリウスの目がわずかに細くなる。


「そうか。ならいい」


 短い言葉だった。


 だが、セリカさんには届いたようだった。


 ダリウスは机の上に地図を広げた。


「本題だ。王都北東の古代迷宮で異常が起きている。昨日のグラウルベア、夜のナイトグリム侵入、どちらも同じ異常魔力に引かれた可能性が高い」


 地図には、王都の外れにある遺跡のような場所が示されている。


「上位冒険者を中心に調査隊を組む。お前たちにも同行してもらいたい」


 俺は固まった。


「俺たち、登録二日目ですが」


「知っている」


「Fランクですが」


「仮のな」


「目立ちたくないんですが」


「それは諦めろ」


 本日、何度目の宣告だろう。


 リリアが少し心配そうに言う。


「私たちが行って、足手まといにはなりませんか」


「昨日災害級を相手に生還し、宿の魔物も処理した者を足手まといとは呼ばん。もちろん、前衛の主力として放り込む気はない。お前たちは異常感知と支援、治癒、そして現場確認だ」


 ダリウスは俺を見る。


「レン。お前のスキルは、危険の兆候が見えると聞いた」


「はい。ある程度は」


「古代迷宮の異常原因を探るには、その力が役立つかもしれん」


 嫌な予感しかしない。


 だが、断る理由も弱い。


 もし昨日の魔物たちが本当に古代迷宮の異常で出てきたのなら、放置すればまた被害が出る。


 見えてしまった危険を、無視できる性格ではない。


 リリアが俺を見る。


 セリカさんも俺を見る。


 二人とも、答えは分かっているような顔をしていた。


「……分かりました」


 俺は小さく息を吐いた。


「同行します。ただ、無理だと思ったら撤退を提案します」


「それでいい」


 ダリウスは頷いた。


「出発は明朝。今日は準備をしろ。セリカ、お前はこの二人の護衛兼監督だ」


「了解しました」


「リア、治癒師としての身分はギルドで保証する。教会から何か言われても、ギルド所属の治癒師として扱う」


 リリアの肩がわずかに震えた。


「……ありがとうございます」


 ダリウスは何も聞かなかった。


 ただ、短く言った。


「王都ギルドは、所属する者を簡単には売らん」


 リリアは目を伏せた。


 その言葉が、彼女にとってどれほど大きいか、俺には少し分かる気がした。


 部屋を出ると、セリカさんが腕を組んだ。


「明朝、古代迷宮ね」


「急展開すぎませんか」


「あなたといると、急展開ばかりね」


「俺のせいでしょうか」


「半分くらい」


「残り半分は?」


「運命?」


「嫌な言葉ですね」


 リリアが静かに言った。


「でも、行くのでしょう?」


「はい」


「なら、私も行きます」


「分かっています」


「私はもう、守られるだけではいたくない」


 彼女の声は穏やかだったが、芯があった。


 セリカさんも頷く。


「私も行く。古代迷宮の異常を放っておくわけにはいかないし、レンの監督役を任されたから」


「監督が増えた」


「逃げられないわね」


「逃げる気は……少ししか」


「あるじゃない」


 セリカさんが呆れる。


 リリアは少し笑った。


 俺は二人に挟まれながら、ギルドの階段を下りる。


 周囲の視線は相変わらず集まっている。


 測定不能の新人。

 元聖女の治癒師。

 竜殺しの才能に目覚めかけた女騎士。


 俺たちは、たぶんもう静かにはいられない。


 けれど、それでも。


 俺は、ひとりではなかった。


 ギルドの掲示板に、新しい依頼書が貼られる。


 赤い印が押された緊急依頼。


緊急調査依頼

王都北東・古代迷宮異常反応

調査隊同行者募集

危険度:未定


 その文字を見た瞬間、俺のスキルが反応した。


警告:古代迷宮深部に未知反応

関連対象:???

好感度:測定不能

危険度:MAX


 好感度、測定不能。


 危険度、MAX。


 俺は思わず立ち止まった。


「レン?」


 リリアが呼ぶ。


「何か見えた?」


 セリカさんが問いかける。


 俺は掲示板を見つめたまま、ゆっくり答えた。


「古代迷宮の奥に、何かいます」


「魔物?」


「分かりません」


 表示の最後に、かすかな文字が浮かぶ。


声なき呼び声:ようやく来た


 背筋が冷たくなった。


 まるで、迷宮の奥にいる何かが、俺たちを待っているようだった。


 俺は小さく息を吐く。


「……普通の日が、遠い」


 そう呟くと、リリアとセリカさんが顔を見合わせた。


 そして、なぜか二人とも少しだけ笑った。


「レンらしいわ」


「本当にね」


 そう言われても、俺としては笑い事ではない。


 王都二日目。


 俺は、静かに暮らしたいという願いが完全に崩れ始めていることを、ようやく認めざるを得なかった。

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