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19.立ち塞がる雷鳴

「魔王さん、いっくわよ〜?

――『雷よ、命じて槍となせ――」

「……ブラン」

「ええ。

――『雪壁ニクス・ムールス』」

「『万雷ムルティ』!」


ガキンッ!!!


 鋭い雷の槍と、冷たい氷の壁。ぶつかりあって砕けた2つの背後から――


ヒュンッ!!!


「ノワ!!」

「――『炎盾フラムマ』」


バチッ!!!


 最小限の大きさに展開された炎の盾を前に、三つの矢は電気とともに弾け飛ぶ。


 絶え間なく攻撃を放ちつつも、フェクダは二人に上品に微笑みかける。


「流石ね、隙がないわ。

けれど――」


ヒュンッ!!!


「『雪壁ニクス・ムールス』」


カンッ!!


 どれだけ矢を放とうと、それは彼らには届かない。


「……それよ。

どうしてさっきから――」


――攻撃を、しないの?


 軽く肩をすくめ、答えるノワ。


「今回に関して言えば、俺の目的は戦いではない。

派手な魔法を使って目立てば、計画に支障が出る」

「憲兵など呼ばれては大変です、一気に始末する数が増えてしまう」

「――そう。

……さては私、舐められているのかしら?」


 一瞬、彼女の端正な顔に苛立ちの色が見える。


 それに呼応するかのように――


ビリッ!!


 彼女の周囲を取り囲むのは、丸く走る電流。


「ブラン、気をつけろ。来るぞ」

「お任せを。

――指一本、触れさせません」


 二人を取り囲む、氷の霧。


「いいわ。

そのつもりなら、本気にさせてあげる」


 引き絞る弓は、まっすぐにノワを見据えて――


「雷電の力、思い知りなさい。

――『鳴神に命ずる。今ここに――」


バチッ!!


 暗雲立ち込める空に現れるのは、無数の斧。


 小さな雷のようなそれらを見上げ、ノワは軽くため息をつく。


「……派手な魔法だな。

ブラン、防ぎきれるか?」

「ええ。

少々、大規模な魔法を展開することになるでしょうが」


 そう言ってハクは、そっと手袋を外す。


 いつの間にか雷は、暗い空を覆い尽くし――

 

「――『雷斧トニトルア・アクス』!!」


ヒュンッ!!


 彼女の矢を合図に、一斉に落下した。


ズドンッ!!!

 

 金の雷光と、遅れてくる重い振動。


 二人の姿は、あっという間にその中へと呑まれて見えなくなる。 


「……ふふっ。

案外、あっさりとしたものね」


 舞い上がる粉塵を見つめ、品のある微笑みを浮かべるフェクダ。


「もともとは、足止め目的だったのだけれど……得したわ。

さ、アリオトに報告しなくてはね」


 くるりと踵を返し、その場を去ろうとして――


パチンッ!!


「足止め、とな?

興味深いな、その話――」


――聞かせてもらおうか


ボウッ!!!!


 彼女の行く手を阻むように、真っ赤な炎の壁が現れる。


「……まさか」


 ゆっくりと振り返れば、そこには無傷の二人の姿が。


「……っ、直撃したはずよ!!

詠唱する時間だって、なかったはず!!」


 信じられない、といった表情のフェクダ。


 そんな彼女を冷静に見つめ、ハクは答える。


「思っていたよりも、威力がありませんでしたので。

あれくらいでしたら無詠唱でも防げます」

「ありえないわ!

あの魔法は、かの魔王フォンセを一度打ち倒したとされる――」

「魔法自体の問題ではない。

……まさか、気づいていないのか?」


カツッ


 歩み寄るノワ、距離を取ろうと後退するフェクダ。


「かつて大英雄の折、魔王軍は思うように軍を進めることが出来なかった。

――何故かわかるか?」

「大英雄って……

知らないわよ、そんな昔のこと!」

「魔法が使えなかったのだ。

今と同じように、精霊の力が強まっていたからな」


 後ろへ下がるフェクダの背後に、炎の壁が迫る。


「――っ!

『雷鼓――」


 迫るノワを前に、必死に弓を引こうとするも。


「……な、どうして!?

矢が、できない……!」


バチッ!


 弱々しい火花のみが、虚しくその先で散る。


「言っただろう、今の王国で魔法を使うのは困難だ。

随分長く戦っていたからな、先程の魔法で魔力切れを起こしたのだろうよ」

「……っまさか!

あなた達、さっきから防御ばっかりだったのは――」

「魔力消費の少ない防御魔法を使い続けるだけで、敵が勝手に自滅する。

……ふふ、案外この状況も悪くないかもしれませんね」


 白い手袋を丁寧につけ直しながら、彼女の方を見ようともせずに答えるハク。


「……っ、最悪ね。

完全に、してやられたわ」

「さて、では聞かせてもらおうか。

お前の目的――『足止め』とやらについて」

「話すわけっ――」

「『細氷テヌエース』」


ピキッ!


 何かが凍るような音。次の瞬間――


バキッ!!!


 彼女の手の中の弓が、勢い良く砕け散った。


「……っひ!」


 恐怖で顔を歪める彼女を見下ろし、ノワは嗤って問う。


「焼き加減は、どれが好みだ?」

「……あ、あ」

「ふむ、迷うならば――」


ジュッ!!


 白い髪が、小さく焦げ付く。


「俺はよく焼けた方が、好みでな。

少々やりすぎるかもしれんが、そこは許せ」

「……ぁ」


 フェクダの周囲を、燃え盛る炎が取り囲む。


 不敵な笑みを浮かべ、ノワは右手を前に出し――


「さて、では――」


 炎が、じわりと頬へ近づく。


ジュッ!!


「っう……」


 熱い。


 触れてすらいないのに、皮膚が焼けるように痛む。


「っ――!

言うわ!!!言うから!!」


 彼女に触れる寸前で、炎は静止する。


「話せ、内容次第では処遇も考えてやるとしよう」

「……っ!

分かったわ」


 屈辱に顔を歪めながらも、フェクダは声を絞り出す。


「……私は、あなた達を足止めせよと指示を受けてここに来た。

この場所に留め置いて――魔国との国境付近に、近づけないためよ」

「ほう、何故だ。

国境付近になにかあるのか?」

「半魔王派の『月桂冠ローリエト』は、今代の勇者を支援している。

そして勇者は、魔国に進軍しては安全な壁の内側に戻り回復を繰り返しているの。だから国境付近でこちらの治癒術師を倒されると、困るのよ」


 それを聞いたハクは、驚いたように目を見開く。


「それは……!!

勇者は――壁を、行き来できるのですか!?」

「……以前の壁は、魔族と人間その両方を通さなかった。

だからこその平和が実現していた、とも言えるが」


 す、とノワの表情から笑みが消える。


「それを。

今代の勇者は、通ることができると?」

「……勇者の問題ではないわ、壁の方よ。

――今回の壁は、魔族のみを隔てている」


 そう呟くフェクダもまた、戸惑ったような表情をしていて。


「言っておくけど、理由を聞こうとしたって無駄よ。

私にだって、その変化の理由はわからない」

「……ふむ。

では、今回の勇者召喚に『月桂冠ローリエト』は関わっているのだな?」

「……ええ。

アリオトが、大英雄の代から失われていた方法を――」


 突然、言葉が途切れる。


 凍りついた彼女の瞳は、ただガラスのように景色を映すのみ。


(……何だ?)


 鳥の鳴き声も、雲の流れも――何もかもが、止まっていて。


 ノワですら――その場に縫い止められたように、一歩たりとも動けない。


「あはははっ!

それ以上話されると、色々と困るんだよね」


バサッ!!!


 静止した世界で、突然聞こえるマントの音。


「全く、この僕がいながら君たちは……」


 ため息混じりの、少年の声。


(……まさか)


 ゆっくりと見上げると、そこには。


「やあノワ、久しぶりだね。


魔王ごっこは――楽しいかい?」


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