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18.太陽の昇る地

「こ、これって……


しゅ……手裏剣!?」


カツッ


 驚くソータの手から落ちたそれ――『手裏剣』は、鋭い音を立て地に突き刺さる。


「ん?

ソータお前、その武器……みたいなやつを知ってるのか?」

「し、知ってるも何も!!

これを見て血が騒がない人――いや、生物はいないよ!!」

「そんなにすげえのか!?

魔道具の類い……魅惑系の魔法がかけられているのか?」

「た、多分それは無いけど……」


ヒュンッ!!


 実際に手裏剣を飛ばし、興奮した表情でリアムに説明するソータ。


 若干警戒しつつも、興味深そうにそれを見ていたリアムだが――


「す、すごいでしょ!

ぼ、僕がもともといた異世界――日本っていう国で、有名な武器なんだ!」

「――っ」

「『忍者』っていう人たちが――」

「っおい!!!」


 突然、荒々しい声でソータの話を遮るリアム。


「リ、リアムさん?

一体どうし――」

「ソータお前、今……なんつった?」

「な、何って――『忍者』って」

「違う!!

だから――」


――ニホン、って


 呟く彼の表情には、かすかな怯えの色が。


「……ソータ。俺は、そのシュリケンってやつもニンジャってのも知らねえ。

でもな――『ニホン』という単語は、この国にも存在するんだ」

「……え?

ど、どんな意味……なの?」

「神話だ。このフォルテ王国で、一番良く知られてる話でもある」


 真実かは、わからねえけどな。そう前置きをして、リアムは語り始める。


「……この世界は、2つの神が『天国』を真似て作ったとされている。

なんでも、そこは黄金で溢れていて――眩いばかりの金色に、光っているそうだ」

「金色、に?」

「ああ。

食べ物も、寝る場所も十分にある。とんでもなく――」


――『平和』な世界。


 リアムの顔に、暗い影が落ちる。


「……向こうが太陽ってんなら、こっちは月だ。

模倣して作られて――その光で、ようやく自分も輝ける」


 争いの絶えない世界で、人々は願い――祈った。


 模倣などではない、その本物の輝きを。


「こうして生まれたのが、もともとの女神信仰だよ。

女神ルナは、人々を導いてくれるって言われてんだ」


 その輝きへ。その『天国』――


「――太陽の昇る地、救いの地。

……日ノ本(ニホン)へ」


 床に突き刺さった手裏剣へ、そっと手を伸ばす。


 ぼんやりとした炎を受け、それは赤く――まるで太陽のように、不気味に輝いていた。


「……お前が言ってるニホンと、これが同じかはわかんねえ。

でも、どっちにしても――こっちよりは大分マシな世界なんだろうよ」

「そ、そんなこと――」

「お前から見りゃ馬鹿らしい、って思うだろ?

こんな神話を何百年、何千年と信じ続けて」


――でもな


 つん、とその刃に触れる。


「信じなきゃいけないほど、この世界は苦しかったんだよ。

ずっと――本当にずっと、魔族と人が争い続けて」


 誰かを切った刃は、他の誰かに折られて。


 そんなことを、ずっと繰り返してきた。


「……ご、ごめん。

僕、知らずにこんなこと」

「なーに謝ってんだ、これに関しては誰も悪くねえよ。

あ、強いて言うなら最初に作った神様かもな……っはは!」


 ソータに向け、快活に笑いかけるリアム。


「……そんな顔すんな」


 まるで、自分に言い聞かせるみたいに。


「実際、この王国の――女神の力による召喚でお前が来たんだ。

あながち、間違ってないかもしれねえぜ?」


 そんな彼に応えて、笑顔を作ろうと思っても。


 ソータには、それが出来なかった。


「……リアムさん」


 その笑顔に――『信じたい』という痛切な思いが、見えた気がしたから。


「ん、ちょっと長話しちまったな。これじゃブラン様に怒られちまう」


 よっこらせ。立ち上がったリアムは、手のうちの炎を古い扉に向ける。


「ソータ、さっきみたいになんか飛んでこねえか良く見とけよ」

「う、うんっ!」

「そんじゃ――

突入、と行こうぜ!」

「お、おうーーっ!」


 早鐘をうつ心臓。震える手で、リアムはその扉に手をかける。


……ギィィィィィ……


 暗い通路に、不気味な音が響き渡って。


 彼らの前に、ぽっかりと入り口が開かれる。


「……おい、先行けよソータ」

「そ、それって僕を犠牲にして……!?

せ、精霊術ってやつも使えないのに――本当に死んじゃうよ!!」

「おおお押すな、だから押すなって!!

……ッチ、わかったよ」


 舌打ちして、リアムは一歩を踏み出す。


 怯えながら後をついていくソータは、しかし不意に――


「な、懐かしい匂い……!」


 頬を紅潮させ、嬉しそうな表情に。


「ん?なんだソータ、前行く気になったか?」

「……ち、違うよ。

そうじゃなくて――」


 くんくん。目を瞑って、ソータはその香りを肺いっぱいに吸い込む。


「やっぱりそうだ……!

ここ、木で出来てる!」


 湿った木の香り。


 金属と宝石で埋め尽くされた王宮とは、まるで違う。


「ん?……ああ、この国じゃ確かに珍しいか」

「き、木は使わないの?」

「まあ、髪色差別の表れってやつだろ。

使わないことはねえが、その時もできる限り加工して塗装して――ってうぎゃあああ!!!!」


ドスンッ!!


 重い音とともに、急にソータの視界からリアムが消える。


「……っえ、リ、リアムさん!?

どどどどうしよう、これ精霊術……!?え、え……!?」

「おおおお落ち着けソータ、下だ下!!

助けてくれ!!!!」

「し、下……?」


 言われるまま、足元を見ると――


「……落とし穴!?」


 深さ3mほどの穴の中へ、リアムがすっぽりと落ちている。


「す、すごい……!

本物の忍者屋敷だ……!」


 興奮したソータが床板に手をかける。


「待てソータ!!

その扉閉める気だろ!?」

「ち、ちょっとだけ……」

「だめに決まってんだろ!!

オレは暗いところ苦手なんだよ!!」

「で、でも――」

「でもじゃねえ!

頼む、頼むから!!!」


 リアムに懇願され、渋々と言った様子で彼を助け出すソータ。


「っよいしょ、っと!」

「っぜぇ、ぜぇ……ありがとな、ソータ」


 なんとか這い出したリアムは、その穴を憎らしげに見つめた後――


パタンッ!!


 ソータの見つけた扉を閉じ、穴を塞ぐ。


「……全く、一体どうなってやがるんだ。

変な見た目に、変な仕掛け。おまけに――」


ボウッ!


 炎を前に出し、じっくり目をこらしてみても。


「……やっぱりそうだ、行き止まりになってやがる。

地図によると、このさきに禁書庫が――」

「っわ、これ見てよリアムさん!!」

「ソータ、だからオレは今急がし――」


ブオンッ!!!


 リアムの頭すれすれをかすめる、棍棒のような何か。


「バットに、いっぱいの釘……!!

これ、釘バット!?」

「……っあぶねえな、おいソータ!!

そのすげえ危なそうなやつなんなんだ、てかどっから持ってきた!?」

「え、えっと……ここ!」


 ソータが指差すのは、何枚もタイル状に木材が敷き詰められた床。


「……何いってんだ、他となんも変わらねえじゃ――」


 ソータが、おもむろにその中の一枚に指をかけると――


パカッ!!


「開いた……!?」

「か、『刀隠し』ってやつだと思う。

あ、でも『釘バット隠し』なのかな……?」

「ク、クギ……?……っじゃねえよ、ソータ!!

どうすんだ、このままだと禁書庫に入れねえ!」


 どこに炎をかざそうとも、外へ出られそうな場所は見つからない。


 焦る彼の横で、ソータは部屋を駆け回り嬉しそうに笑い声をあげている。


「本物だ……!!これ、本物の忍者屋敷だよ!!

すごい、この世界で出会えるなんて……!!」


 壁、床、天井に至るまでペタペタと触り尽くすソータ。しかし突然――


「……えいじ――居戸くんに、見せたら。

……喜んで、くれるかな」


 壁に手を当て、そっと呟く。


「オルテ?だれだそりゃ――」


 言いかけて、ソータの悲しげな表情に思わず言葉を失った。


「……すまん、言いたくないなら――」

「居戸英二。

……もう一人の――選ばれた方の、勇者なんだ」

「なっ……!!

ニホンでの知り合い、なのか?」

「……知り合い、っていうか」


 板の溝をたどり、そっと壁から手が離れる。


 小さく俯いたまま、ソータは呟いた。


「……友達。


だったんだ」

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